25 - 遺志
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嵐のような数週間が過ぎて、学園にはようやく静けさが戻りつつあった。
先日の選挙で新たに生徒会長に就任したばかりの碧山修は、集まった顔ぶれを見渡す。
ここ、秀烽学園の第一会議室には、七人の生徒が集まっていた。
「それでは始めましょうか」
碧山は、隣に座る紫苑恭一に頷きかける。
紫苑は旧生徒会の風紀委員長でありながら、反生徒会運動の旗印となった男だ。
その顔には、まだ疲労の色が濃く残っていたが、目には精力的な輝きが宿っている。
紫苑は立ち上がると、ひとつ咳払いをしてから話し出した。
「まず、この場に集まってくれた五人に感謝したい。部活動連合の中核として、君たちがいなければ、この学園は変わらなかった」
その言葉に、腕を組んだまま軽く頷いたのは、空手部部長の鶴見一真。無愛想で無骨に見えるが、学園内に広まる生徒たちの不満を受け、真っ先に部活動連合を立ち上げた。
その鶴見のひと声に即座に応じ、最後まで共に戦い続けた男、剣道部部長の馬場征四郎は、静かに背筋を正している。
文化系の部活動を取りまとめた立役者、文芸部部長の葛城文乃は、紫苑が話し始めても、手元のノートに何やらメモを書き込んでいた。
隣に座る美術部部長の楠木煌に肘を突かれると、葛城は慌てて顔を上げる。
楠木はその中性的な顔立ちと持ち前の人懐っこさで、学園生徒から人気があり、部活動連合の勢力拡大に貢献した。
「紫苑君。感謝はいいから、本題に入りましょう。今日集まったのは、これからの話をするためでしょう?」
そして、新聞部部長である菫川千鶴。
彼女の参加無しに、旧生徒会の打倒はなし得なかった。それは、ここにいる誰もが認めるところだった。
「ああ、その通りだな」
紫苑は菫川の言葉に苦笑する。彼女の知略には何度も驚かされたが、もう少し感傷に浸る余裕があってもよさそうなものだ。
「では本題に入ろう。——旧生徒会を退陣させることはできた。だが、これで終わりじゃない。同じことが将来また起きたとき、この学園にはそれを止める仕組みがない」
「仕組み? 罰則を設けるってこと?」
いや、と、葛城の疑問に首を振る。
紫苑が碧山と相談を重ねて出した答えは、いざという時の救済措置を残すこと。
「解職請求制度、つまり、生徒会長の解職を、生徒の意思で請求できる仕組み。これを、学園規則に組み込みたい」
今回のような不規則な形ではなく、生徒たちの正当な権利として、執行部にノーを突きつけられる手段。それを学園の正式な規則に組み込むことが必要だと考えた。
「なるほど。いわゆるリコール制度というやつだな」
鶴見が納得した様子で頷く横で、馬場が静かに手を挙げる。
「そのルールを学園規則に追加することに何か問題でも? それだけなら、こうして皆を集める理由としては薄い気がしますが」
紫苑が続けようとした時、碧山がそれを手で制して立ち上がった。
「鶴見さんの言う通り、学園規則に盛り込むことには問題はありません。問題は、学園規則に追加できるということは、削ることもできるということです」
「どういうこと?」
楠木は助けを求めるように隣を見るが、葛城も肩をすくめて首を傾げる。
「よからぬことを企んだ輩が、解職請求制度を学園規則から外してしまうかもしれない——そういうことでしょう」
碧山は頷いて菫川の言葉を肯定した。
「うーん、なるほどね。そう言われればそうだよね」
「でも、じゃあどうするの?」
「そのために『抜け道』を準備しようと考えている」
学園の正式なルールとして存在する。しかし、それは通常の手段では見つけられない。
「——必要な時が来たら、きっと誰かが気づき、そしてそれを有効に使ってくれるような、いわば特別ルールを用意しておきたい」
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「考えたのは、ここにいる五つの部活動、その部長全員が賛成した場合に、署名の手続きを省略できる、というものだ」
全校生徒の三分の一以上の署名が集まれば、解職選挙の実施を請求でき、その後の投票で過半数の賛成があれば、生徒会長は失職する。
この正規の決まり以外に、解職選挙の実施を請求できる方法を作っておく。
それが紫苑たちが考えた「抜け道」だった。
「ただし、投票そのものは省略しない。最終的に判断するのは、あくまで全校生徒の意思に任せる」
先ほど菫川が指摘したように、仮に学園規則が変更されたとしても、この特別ルールが活きている限り、リコールを請求できる道は閉ざされない。
「この五つの部活動に、それだけの権限を持たせることに問題はないか?」
「いずれにしても、選ばなければならない。それならば、ここの五つの部活動がいいと思う」
鶴見の指摘はもっともだった。
確かに、公平とはいえない。しかし、公にできないルールを設ける以上、その管理者を選ばなければならない。
それならば、この五人が率いる部活動に、学園の未来を託したとしてもいいのではないか。
「全員の賛成が必要なんだよね? まあ、毛色もバラバラだし、案外バランス良いかもよ?」
楠木はそう言って周りを見渡す。個性的な面々だが、皆この学園を愛していて、将来の後輩のことまで考えようとしている。
「このことは、どこに定めておくの? 学園規則には載せられないのよね?」
「口約束では、何年か先に有名無実になりかねんぞ」
紫苑たちは、そのこともあらかじめ考えていた。
「形に残るものを作ろうと思う。この合意の証として……例えば、レリーフのようなものを。表向きは美術作品として飾り、裏面に成立条件と全員の署名を彫り込む」
「それだったら、僕がデザインするよ。任せて」
まだ見ぬ後輩に向けて、自分たちの思いを込めたレリーフ作り。
皆の役に立てそうなことを見つけて、楠木の口元には自然と笑みが浮かぶ。
「でも、もし、誰も気づかなかったらどうするの? それでは意味がないわ」
簡単に見つけられては意味がない。しかし、気づかないままでもあっても意味がない。
確かに菫川の言うとおりだった。
だが——
「俺は信じているよ。この学園には、いつの時代にも、君らのような生徒がいることを。それに——」
紫苑の視線は、菫川に向けられた。
旧生徒会との抗争で、決定的な役割を果たした彼女の鮮やかな知略。
学園中の生徒が、学園新聞の重要さを痛感した瞬間を、昨日のように思い出す。
「菫川、君のように優秀な人間だってきっといるさ。もしかしたら、それは君の後輩かもしれないな」
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