24 - 手掛
「あいつらが隠したかったのは、リコール制度のことじゃないのか?」
せっかく掴みかけた対抗手段が遠のいた。しかも、自分たちは何か勘違いをしていたかもしれない。
そのことに、京介は落胆の色を隠せなかった。
「……議事録もバックナンバーも、狙われたのは十年前のものばかりだったわ。でも、リコール制度がもう残っていないなら、あそこまでする必要はなかったはず」
「じゃあ、何が狙いなんだ」
リコール制度は廃止されている。それなのに、十年前の資料を執拗に消そうとした。
「——もしかして、リコール制度が作られた経緯じゃないかしら?」
「経緯って、暴走した生徒会に対して、学園内で反乱が起きたってやつですか?」
「反乱はさすがに……」
言い過ぎだろう、京介はそう言いかけて、だが、その瞬間に凛の言葉の意味を理解した。
「そうか……。過去に反生徒会運動がこの学園で起きた。そして、実際に当時の生徒会長は退陣に追い込まれている」
「ええ、そう。この過去を知った生徒たちが、今の生徒会への不満を募らせたらどう考えるかしら」
「そ、それって、つまりーー」
自分たちも同じように行動を起こそう、もう一度生徒会を打倒しよう、そう考える生徒たちが出てきてもおかしくない。
「かつてこの学園で、権力構造がひっくり返った前例がある。白銀たちが消したかったのは、その歴史そのものということか」
「まさか、歴史を改竄しようと企むとは……白銀会長恐るべしですね」
それまで黙って聞いていた藍原や柊も、白銀の本当の狙いを知って驚きを隠せないでいた。
「白銀は自分のやり方に反発する生徒が出ることくらいお見通しなんだろう。その上で、火種になりそうなものは先に潰す」
この考えに確たる証拠があるわけではない。しかし、ここまで白銀のやり口を見てきた京介たちにとっては、十分に納得できるものだった。
「でも、俺たちはもうこのことを知りましたし、その証拠もあります。先にこの歴史を新聞にーー」
「いや、遥斗、それは違うぞ」
過去の出来事を伝えていくことは大事かもしれない。だが、学園の生徒を煽るような真似は、新聞部がやるべきことじゃない。
「そうですよね。すみません……」
「やっぱり、みんなに信を問える仕組みが必要だわ。正当な手段で、生徒たちの意思を伝える方法が」
その方法こそが、リコール制度だったが、制度はすでに廃止されてしまっていた。
十年前に起きた反生徒会運動。それは、正規のルールに則ったものではなかったが、そこには当時の生徒たちの意思があり、結果に対しての意義もあったはず。
しかし、今また同じ手段を取ることが正しいのか。
「やはり、私たちは、十年前の出来事をもっと知る必要があるのではないでしょうか」
重苦しい空気を破ったのは柊のひと言だった。
「何かヒントがあるかもしれない、そういうことか?」
「はい。例えばここです」
そこには、リコール制度の廃止に反対した、当時の空手部部長の発言が詳細に記録されている。
「制度が成立した時の話だな」
「リコール制度は、新たに就任した執行部が、反生徒会運動を率いた五つの部活動と協力して作った、とありますね」
「五つの部活動?」
「部活動連合を立ち上げ、反生徒会運動に協力した主要な部活動があったようです」
「五つというと、どこかしら?」
「えっと、空手部、剣道部、美術部——」
柊のページをめくる手元に全員の視線が集まる。
「それから、文芸部と新聞部です」
「新聞部も入っているのか!」
「そのようですね。うちの文芸部も入っているとは驚きです」
「空手部が今も治安維持の役を任されているのは、この時の名残なのかしら」
鷹野が率いる空手部は、学園の治安維持について、風紀委員会と共にその役割を分け合っている。
普段は当たり前のように感じていたが、こうしたことにも、歴史的な経緯がありそうだった。
「確かに俺たちはもっと学園の歴史を知る必要があるのかもしれないな」
「新聞部は円卓に座る権利があったらしいけれど、思った以上に騒動の中心にいたのね」
「あ! ほら、ここ見てください」
遥斗が見つけたのは、議事録に補足として書いてある生徒の名前だった。
「リコール制度成立時の生徒会長、風紀委員長、それから五つの部活動の部長たちですね」
生徒会長 碧山修
風紀委員長 紫苑恭一
空手部部長 鶴見一真
剣道部部長 馬場征四郎
美術部部長 楠木煌
文芸部部長 葛城文乃
新聞部部長 菫川千鶴
「あれ? 葛城? そういえば、この名前が書かれた本があったような……」
名前を読み上げた柊は、文芸部長の名を繰り返した。
確かに、以前この名前を見かけたことがあった。
「えっと、たしか、部室を整理している時に見かけたんです……」
バタン!
「ど、どうした、柊!」
「……私、すっかり勘違いしていたかもしれません」
突然手元の議事録を閉じ、机に手をついた柊の声がかすかに震えていた。
「勘違いって、なんの話ですか?」
「当時の部長、この葛城さんが書いた本が文芸部に残っています。……私は以前それを読んでいて……読んだ時はよく意味が分からなかったんです」
「どんな内容だったんだ?」
「——とある学園の権力争い、その内幕を描いたような内容です。てっきり創作小説か何かかと思っていました。でも——」
文芸部は十年前、騒動の中心にいた。そして、その当事者である部長が残した記録。
「つまり、フィクションではなく、当時の騒動についての手記のようなものか」
「はい、その可能性は高いと思います」




