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秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第五章

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22/41

21 - 嚆矢

 新聞部の部室。京介と(りん)の前には、刷り上がったばかりの学園新聞が積み上がっていた。


廉正裁定(れんせいさいてい)、開催決定! 居合道 対 剣道』


 告知された開催日時と会場、対戦者の名前。さらに、この廉正裁定が開かれるに至った経緯が記事にまとめられている。


「旧校舎での件は、ラグビー部のことは曖昧にするしかないわね」

「そうだな、風紀委員会の仕業だという証拠がない。それに、俺たちの本当の狙いについても、今はまだ書くわけにはいかない」


 そしてもうひとつ。紙面の下段には、京介が書き上げるまで最も時間をかけた記事が並んでいた。


 学業の成果がすべてに優先される空気が、学園を覆い始めていること。成績の結果ひとつで、生徒の扱いに明確な差が生まれていること。その陰で、部活動が軽んじられ、居場所を失いつつある生徒たちがいること。


「俺たちが今できることは、この学園で何が起きているか伝えることだ」

「この学園の未来は、私たち生徒自身が決める。現状を知った上でどうするか、みんながそれぞれ考えなければいけないわ」


 原稿を書いている間、何度も感情的な言葉が筆先に乗りかけた。風紀委員会の横暴、成績至上主義の歪み——書きたいことは山ほどある。だが、そのたびに筆を止め、書き直した。


 先輩たちが残してくれた宣言。あの言葉が、京介の中で何度も響いていた。


「部長、配り終わりました! 部数足りないくらいでした!」


 部室の扉が勢いよく開き、遥斗(はると)が飛び込んでくる。額から顎にかけて汗が滴り、制服の襟元もぐしゃぐしゃだったが、その目は興奮で爛々としていた。


「そんなに反応があったか?」

「廉正裁定に興味がある人たちが多かったですけど、部長の書いた学園の現状も、みんな読んでくれてましたよ!」


 念願の号外を配るため、学園中を走り回ってきた遥斗は、その興奮が冷めやらぬまま、矢継ぎ早にまくしたてる。


「——伝わり始めているわね」


 (りん)の声に京介は深く頷いた。自分たちの活動に、静かな手応えがある。


 白銀(しろがね)の方針を支持する声が、すぐに消えるわけではない。成績上位の生徒にとっては、今の制度こそが自分たちの努力を正当に評価するものだ。反発の声だけでなく、賛同の声も含めて、すべてはこの号外から始まる。


「あとは、廉正裁定の結果を待つしかない」



 一週間後、廉正裁定の当日。会場となった第一武道場には多くの生徒たちが集まっていた。

 第一武道場は、学園にある武道場の中で最も広い。普段は複数の部活動が共有する道場だが、今日はその姿を一変させている。


 道場の中央に試合場が設けられ、周囲には観戦用の席が何列にも並んでいた。

 開場の時刻を待ちきれない生徒たちが列をなし、席が埋まっていくにつれて、武道場の中の温度そのものが上がっていくようだった。


 学園中の目が、今この場に集まっている。


「部長、こっちです」


 遥斗に続いて、試合場脇のセコンド席に腰を下ろす。新聞部の三人に加えて、藍原(あいはら)(ひいらぎ)がすでに席についていた。


「すごい人ですね。新聞部の宣伝も効果があったんじゃないですか?」


 柊は眼鏡の位置を直しながら、観客席を見渡している。いつもの飄々とした調子が、今日はわずかに固い。


榊原(さかきばら)はどうしてる」

「さっきまでそのへんで素振りしてたが、奥に引っ込んでいった」


 藍原が顎で試合場の裏を示す。


「まったく緊張した様子もなかった。あいつは放っておいても大丈夫だろう」

「相手はあの龍崎だってのに、大したやつだな」


 この状況で緊張しないとは、あの男らしいというべきか、それとも呆れるべきか。


「今日はいつになく、警備が厳重ね」


 試合場のあちらこちらに、風紀委員会と空手部の腕章をつけた生徒たちが警備に立っていた。

 普段は睨み合うことの方が多い両者が、同じ持ち場で背筋を伸ばしている。その光景だけで、ここが日常の延長ではないことが伝わってくるようだ。


「鷹野も出張っているのか」


 警備の中には、鷹野(たかの)千紘(ちひろ)の姿があった。試合場のすぐ脇、腕を組み、静かに正面を見据えている。


 試合開始の時間が近づく中、膨らんでいた場内のざわめきが、ふっと収束した。


 試合場の正面奥、一段高く設えられた特別席。そこに続く階段を、ゆっくりと上がっていく人影がある。

 会場にいる全員の意識が同じ方向を向いた。


「生徒会長のお出ましだ」


 先頭に立つのは、白銀沙耶(さや)。長い髪が一歩ごとにさらりと揺れる。その後ろを丹羽(にわ)太一郎(たいちろう)灰島(はいじま)(かおる)、そして朱鷺沢(ときさわ)鈴音(すずね)が続いた。


 白銀が特別席の中央に立ち、軽く手を上げた。


 それだけで、拍手と歓声が、武道場の天井を突き上げるように弾けた。足を踏み鳴らす音が重なり、板張りの床がびりびりと震えている。


 改革への不満がどれだけ広がろうと、この生徒会長の持つ力は健在だった。


「——自信満々だな」


 特別席から見下ろす穏やかな微笑み。あの総会の時も、取材の時も、そして今も、何ひとつ変わらない。


 白銀がもう一度片手を上げると、歓声が嘘のように引いていく。


「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます」


 声を張っているわけではない。それでも一語一語が、武道場の隅にまで染み渡るように届いていく。


「ここに、廉正裁定の開催を宣言します」



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