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秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第四章

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17 - 共闘

 教室の扉に張り付き、京介は廊下の様子を窺っていた。


 風紀委員たちの足音が、隠れている教室の前を通り過ぎていき、やがて紫藤(しどう)の声が廊下の向こうから聞こえてくる。


「よし、今だ」


 京介は(りん)遥斗(はると)に合図すると、戸を細く開け、廊下に滑り出る。三人は風紀委員たちとは逆方向、二階の奥側にある階段へと駆け出した。


藍原(あいはら)さんたち、うまくやってくれてますね」


 藍原と柊たちが風紀委員を引きつけ、その隙に旧校舎を抜ける——風紀委員が来ると図書委員から報せを受けた時、咄嗟に決めた役割分担だった。


「藍原さんたち大丈夫かしら」

「証拠がなけりゃ、風紀委員会といえど何もできないだろ」


 京介たちはファイルを一冊ずつ抱えている。先ほど発見した、初めてリコール制度が記載された学園規則と、それに続く二冊。

 削除された時期までは調べきれていないが、今ここから持ち出せるのはこれがすべてだった。


「その階段だ。そこを下りれば裏口にいけるはずだ」


 だが、三人が階段を下りようとしたその時、京介の目に思いもよらぬ光景が飛び込んできた。


「止まれ!」


 階段の下、一階の廊下に、見上げるような体格の生徒たちが何人も立っている。幅広い肩、太い首、見覚えのあるユニフォーム。


「……ラグビー部か?」

「まじっすか」

「なんでラグビー部がここに?」


 引き返すべきか、京介が迷っている間に、ラグビー部員の一人が、階段の上にいる京介たちに気づいた。


「新聞部だな? 本当にこっちに来るとは」


 ラグビー部員は、にやりと笑い、他の部員を手招きする。


「ラグビー部が旧校舎に何の用だ」

「俺たちは指示を受けているだけだ」

「指示だと?」

「そうだ。ここから逃げ出そうとする奴がいたら捕まえろ、ってな」


 うまく紫藤たちの裏をかいたつもりだったが、相手の方が一枚上手だった。別の出口にも人を配置していた。


 京介は一瞬で腹を決めた。

 自分の抱えていたファイルを、遥斗の腕に押し付ける。


「持ってけ。二人とも、バラバラに逃げろ」

「え?」

「京介っ」

「時間を稼ぐ、急げ!」


 遥斗がファイルを抱え直すのを確認する間もなく、京介はラグビー部員の正面に立った。


「お前たち、これがどういうことか分かってるのか。誰の指示だか知らないが、正式な手続きもなく他の部活の生徒を拘束する権限が……」

「そんなこと知ったことか。責任を取るのは俺たちじゃない」


 京介の後ろで、凛と遥斗が別々の方向に走り出す気配がする。ラグビー部員の視線がそちらに向くが、追おうとはしなかった。


「逃げるだけ無駄だ。お前はどうする気だ? 大人しくしてれば、痛い思いはしないぜ」

「どかないと言ったら?」

「だったらこうするまでだ」


 身構える暇もなかった。


 先頭のラグビー部員があっという間に階段を駆け上がると、気づいた時には、京介の体は壁際まで押し込まれていた。


 腕を掴まれ、肩を抑えられ、身動きが取れない。新聞部の部長と、鍛え上げたラグビー部員との体格差は、理屈でどうにかなるものではなかった。


「おい、こいつを縛り上げておけ」


 後ろの仲間に呼びかけるが、返事の代わりに聞こえたのは、廊下の奥のざわめきだった。


「早くしろ! 何やってる……」


 ラグビー部員が後ろを振り向き、声を上げた瞬間、その体が横に弾き飛ばされた。


 壁から解放された京介が見たのは、空手着姿の一団だった。その先頭に立つのは、ポニーテールを揺らす小柄な少女。


「——小熊(こぐま)?」

「槙野先輩、怪我ないですか」


 空手部一年、小熊ひなた。その後ろに空手部員が数人続いている。


「何だ、お前ら! 空手部が何の用だ!」

「最近、治安が乱れ気味なんで、うちも巡回を強化してるんですよ」

「はあ? 余計なお世話だ。引っ込んでろ」


 先頭のラグビー部員が、ひなたに掴みかかる。


 だが、伸ばした腕はひなたの回し受けに弾かれ、流れるように突き出された正拳が放たれる。

 ひと言も発さぬまま、ラグビー部員の巨体が崩れ落ちた。


「……マジか」


 残りのラグビー部員たちの顔色が変わった。

 ひなたの後ろから、空手部員たちが一斉に前に出る。



 遥斗と別れた後、凛はあえて遠回りし、ようやく旧校舎の外に出ていた。


「向こうから裏庭に出られるはず……」


 走り出そうとした凛だったが、その足はすぐに止まった。

 曲がり角から、三人のラグビー部員の姿が見える。


「おっと。こっちに来たか」


 一人が腕を広げ、凛の退路を塞ぐ。残りの二人が、左右から距離を詰めてくる。


「大人しくしろ」

「あなたたち、こんなことをして恥ずかしくないの?」


 時間を稼ぐか、逃げ道を探すか。

 京介と遥斗、そして藍原たちはどうなったのか。


 凛は思考を巡らせるが、この状況を脱する方法は出てこない。


「俺たちは言われた通りにしてるだけだ。別に——」


「待てぇぇぇぇい!」


 ラグビー部員たちの背後、茂みの中から叫び声があがり、三人の男子生徒が飛び出してきた。


「藤枝さんに手を出すな!」


 体中に葉っぱをつけ、息を切らしながら、中央の生徒がラグビー部員を指差す。


 自分の名前を呼ばれたことに、凛は目を見開いた。見たことのない顔だった。


「な、何だお前ら」


「文化研究会代表、椎名(しいな)!」

「同じく文化研究会、桐山(きりやま)!」

「映像研究会、梅田(うめだ)!」


 ラグビー部員たちは、一瞬きょとんとした顔で、目の前の三人を見た。

 椎名は中肉中背、桐山は痩せ型、梅田に至っては椎名より頭一つ小さい。どう見ても、ラグビー部員の相手にはならない。


「訳あって、助太刀する!」

「待って、あなたたち! 無茶よ!」


 凛の制止も聞かず、椎名が真っ先に飛びかかったが、片手で襟首を掴まれ、あっさりと地面に叩きつけられた。


 続いて桐山が横から殴りかかるが、肩で弾き返されて地面に転がり、梅田は足にしがみつこうとして、そのまま引きずられていく有様だった。


「何だこいつら……」


 ラグビー部員が呆れた声を漏らした。


「……まだだ」

「は?」

「まだ、終わってない」


 口の端が切れ血を流しながら、椎名が立ち上がる。


「藤枝さんには、指一本触れさせない」


 桐山が梅田に肩を貸し、二人もよろめきながら起き上がった。


「おい、そいつらに構うな。早く連れて行け!」


 ラグビー部員が凛に向かって手を伸ばした瞬間、椎名がその腕に噛み付いた。


「いて! てめえ、噛みやがったな!」


 ラグビー部員が腕を振り回すと、椎名の体が宙に浮いて放り投げられた。だが、桐山と梅田が、すかさず倒れた椎名の前に立ちはだかる。


「いい加減にしろ!」


 ラグビー部員が低く身を沈めたかと思うと、その巨体が桐山と梅田をまとめて押し潰すように突進した。二人の体は軽々と弾き飛ばされ、壁に叩きつけられてずり落ちていく。


 倒れた三人になおも詰め寄ろうとするラグビー部員に、背後から声がかかる。


「おいおい。それくらいにしておけ」


 ジャージ姿に、木刀を肩に担いだ長身の影。

 いつの間に近づいたのか、そこに立っていたのは、居合道研究会の榊原(さかきばら)だった。



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