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秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第四章

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17/41

16 - 包囲

 旧校舎二階の東側、突き当たりの教室。


「ここ、見覚えがあります」


 扉に手をかけた(ひいらぎ)が、ふと指を止めた。


 京介たちの後ろから、他の教室を調べていた文芸部員と図書委員たちも集まってくる。


 柊が扉を開けると、教室の中は他の部屋とは違う気配を漂わせていた。

 壁際にずらりと並んだスチールラック。書類箱が、上から下まできっちり同じ向きに揃えて積まれている。


「ここ、《《当たり》》じゃないか?」

「間違いなさそう。生徒会の資料だわ」


 凛が手に取ったファイルの背表紙には『生徒会中央総会・予算案控え』という文字が書かれていた。


「なんか、キチっとしすぎていて、棚から生徒会オーラが漂ってますね」


 藍原(あいはら)や柊たちも、ここ数日の作業で遥斗(はると)のテンションに慣れてきたのか、いちいち突っ込むこともなかった。


 藍原の指先が、棚の端をなぞって、年代の入った背表紙の上を順に滑っていく。


「……あったぞ。過去の学園規則」

「この辺は全部そうみたいね」


 ファイルの背表紙には、タイトルとファイリングされている期間が記されていた。


「このファイルだわ。柊さん、お願いできる?」

「はい、お任せを」


 凛からファイルを手渡された柊は、得意の速読で学園規則の内容を読み取っていく。


「ありました!」

「見せてくれ」


 柊が示した箇所には「生徒会長の解職」「生徒会の解散」といった項目が並んでいた。


「本当にあったわ」

「規定も細かく定められているな」

「そうですね。全校生徒の三分の一以上の署名があれば、選挙管理委員会に請求することができる。その後の全校生徒による解職投票で、過半数の賛成により、生徒会長は失職する」


 新聞の記事のとおり、リコール制度は成立し、正式に学園規則に定められていた。

 しかし、まだ手放しで喜ぶわけにはいかない。


「これだけだと、過去にこの規則が存在したことが分かるだけだわ」


 凛の指摘は正しかった。重要なのは、この規則が「現在も有効であるか」ということだ。


「もう一つ確かめるべきなのは、学園規則から消えたのはいつからか、ということだな」

「そちらは少々時間がかかりそうですね」


 成立した時期は分かっていたが、いつから消えたのかについてはヒントすらない。


「仕方ない。また手分けして確認していこう」

「必要なファイルを文芸部の部室に移動させて、そこで作業しましょうか」


 柊の提案で、持ち出すべきファイルを整理し始めようとした、その時。


 階下から、複数の足音が聞こえてきた。

 さらに、足音だけではなく、話し声も聞こえてくる。


「……誰だ?」

「他の部活動でしょうか?」


 京介たちがここで作業を始めてから、他にこの旧校舎を訪れる生徒の姿は見かけていなかった。

 倉庫として利用されている状況から、他の部活動が入ってくること自体はおかしくない。

 しかし、今この状況を見られるのは少々まずい。


「……勝手に他所の場所を漁っているところを見られるのはまずいな」

「ファイルの場所は分かりましたし、いったん引き上げましょう——」

「藍原さん! 風紀委員会です!」


 ファイルを片付けようとしていたところに、図書委員の一人が駆け込んできた。


「風紀委員?」

「はい、副委員長と風紀委員が数人、こっちに向かってきています」



「——ここで何をしている」


 風紀委員会副委員長、紫藤(しどう)直哉(なおや)は、二階の一角に集まっている生徒の姿を確認すると、誰何の声をかけた。


「紫藤副委員長、こんなところに何かご用でも?」


 生徒たちの中から小柄な女子生徒が進み出る。女子生徒は大判のファイルを数冊抱えていた。


「文芸部部長の柊だな。旧校舎は許可なく立ち入ることは禁止されているぞ」

「俺が文芸部に頼んで連れてきてもらったんだ」


 そう言って進み出たのは、図書委員の腕章をつけた男子生徒だ。


「藍原図書委員長か……事情を聞かせてもらおう」


 白々しい小芝居だ、紫藤はそう思いつつも、まだ自らの手の内を晒すわけにはいかない。


「この旧校舎が本や資料の保管場所に使われていると聞いて、現状を調査している」

「文芸部は部室に収まりきらない本をここに保管していまして。私はここの出入りについて、ちゃんと許可をもらっていますよ」


 藍原の言葉を受けた柊が、ポケットから鍵を取り出し、紫藤にも見えるようにかかげる。


「現状の調査だと?」

「この場所は紙を保管するには向いていない。もし保管場所が不足しているのなら、図書委員会として何か協力できることはないかと考えていてな」


 それらしい言葉を並べているが、紫藤はその言葉を信じてはいなかった。


「それにしては大所帯じゃないか。そんなに人手が必要なのか?」


 藍原と柊の後ろには、文芸部と図書委員たち数人の姿がある。


「ついでに文芸部が倉庫の片付けをするというので、うちからも手伝いを連れてきた」


 紫藤の鋭い視線を浴びても、藍原と柊は飄々とした態度を崩さない。


「その手に持っているものはなんだ? 何か勝手に持ち出そうとしているんじゃあるまいな?」


 紫藤が指差したのは、柊が抱えているファイルだった。


「これはうちの部のものです。なんですか? 証拠もないのに文句でもあるんですか?」

「え? どういうこと? 横暴じゃない?」

「こいつら急に来てなんのつもりだ?」


 柊の言葉をきっかけに、その場にいた生徒たちがザワザワと騒ぎ始めた。


「紫藤副委員長。先ほど言ったように、ここには許可をもらって入っている。他に用事がなければ行っていいか?」


 だが、藍原たちの前に、風紀委員たちが立ちはだかる。


「いいや、そのファイルはこちらで預かろう」



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