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秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第三章

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15 - 探索

「ここですか?」


 遥斗(はると)が、目の前の建物を見上げた。


 東棟の裏手、午後の陽の中で静かに立つ古い校舎。

 「旧校舎」と呼ばれるその一角は、将来的に建て替えが計画されているが、現在はまだ取り壊されることもなく、そのままの姿で残されていた。


「はい。ここの一部が、長らく倉庫代わりに使われています」


 (ひいらぎ)が、顔の前に鍵をぶら下げてみせる。


「文芸部はいくら本棚があっても足りないので、ここの一部を借りています。うちが借りているのは入口に近い一画だけですが、他にも部活動や委員会が使っているはずです」

「古い学園規則も、もしかしたらここにあるかもしれない、と」

「断言はできませんが、以前それらしきものを見かけた記憶があるんですよね……」


 京介と凛の言葉に、柊はムムムと腕を組む。

 まだ見ぬ本を求めて、旧校舎をさまよっていた時、確かに学園規則が書かれた束を見かけた……気がする。


 しかし、正確な場所が思い出せない。


「図書委員としては、こんなところに本が雑に保管されていることは悲しいな」


 京介の隣で、藍原(あいはら)がため息をつく。正式に図書館に保管される文書にはルールがある。しかし、もっと気軽に保管できる場所を整備していく必要があるかもしれない。


「でも、今回はそのおかげで、私たちが探しているものが見つかるかもしれないわ」


 リコール制度が載っている学園規則。制度がまだ有効であることを示すためにも、まずはそれを探す必要があった。


「量によっては人手が必要だと思うが、まずは下見だ」

「では、中に入りましょう」


 柊が鍵で扉を開けると、建物の中から埃の匂いが流れ出した。


 手前の一角には文芸部の段ボールが行儀よく積まれていたが、奥に進むにつれて、誰の物とも分からない紙の束、本の山、書類箱、古びた木箱が、雑多に積み上げられている。


「所属を明記しているものもありますが——開けてみないと分からないものも多いんですよね」

「教室ごとに調べていくしかないな」


 五人で手分けしつつ、二時間ほどかけて確認を続けていく。それでも、全体の半分あたりまでしか進めない。


「……今日はここまでだな」

「人手を増やしましょう。文芸部の部員にも声をかけます。もちろん、信用できる者だけを」

「図書委員会でも、何人か人を手配しよう」

「俺、頑張りますよ! 倉庫の整理、得意なんで!」

「お前、自分の机すら整理できてないだろうが」



 翌日からの数日間、旧校舎の倉庫はそれまでにない人の出入りを迎えていた。


 文芸部から数名、図書委員会から数名、そして新聞部の三人。曜日と時間をずらしながら、旧校舎の奥へ奥へと、紙の束を一つずつ確認していく。


 厄介だったのは、旧校舎にはもう電気が通っていないことだった。窓から差し込む光だけが頼りで、陽が傾いてくれば、奥の暗がりはもう何も見えなくなる。

 作業ができるのは、明るい時間に限られた。


「これで一階は全部見終わったと思うわ」


 凛は額の汗を拭いながら、手元のチェックリストに最後の印を入れる。

 旧校舎の一階の確認がひと通り終わった時点で、しかし、目当ての古い学園規則は見つかっていなかった。


「——目的のものは見つかりませんね」

「本当にここで見かけたのか? どこか別の場所ということは?」


 他の場所で作業していた柊が戻ると、京介も汗を拭いながら問いかけた。


「うーん。ここ以外に、私の見知らぬ本がある場所はないと思うんですよね」

「二階の一部も、倉庫として使われていた跡があるぞ」


 藍原は元気が有り余る遥斗を伴って、二階の教室を見てまわっていた。


「全部じゃないみたいですけど、半分くらいは使われていそうでした」

「どうだ柊、二階という可能性もありそうか?」

「そうでした、二階! 二階にも色々とありましたね!」


 柊は二階という言葉に反応する。

 二階には、本というよりは、資料的なものが多く、がっかりした記憶がある。


「よし、それなら、明日からはそっちを探してみよう」


 旧校舎を訪れる生徒は、普段ならほとんどいない。それが、ここ数日、決まった時間に複数の生徒が東棟の裏に消えていく。

 その光景は、注意して見ていれば必ず目に止まるものだった。


 京介自身、それを意識していなかったわけではない。


 だが、見つけなければならないものが、まだ見つかっていない。動きを止めるという選択は、今は取れなかった。



 風紀委員会の副委員長室。


 控えめなノックの後に、一人の男子生徒が部屋に入ってきた。その腕には図書委員の腕章がつけられている。


「失礼します」


 机に向かっていたこの部屋の主、風紀委員会の副委員長である紫藤(しどう)直哉(なおや)は、その声に書類から顔を上げた。


「——動きがあったか」

「はい。ご推察の通り、新聞部です。新聞部が中心になって、図書委員会と、それから文芸部が動いています」

「文芸部?」


 文芸部の部長は、たしか柊詩織という三年生。文芸部そのものが、こうした動きに名を連ねるのは珍しい。


「ここ数日、決まった時間に旧校舎へ出入りしています」

「ふむ——。何かを探しているのか」


 新聞部、図書委員会、文芸部。普段は接点の薄い三つの組織が連携している。しかも、旧校舎という場所で。


「この件、朱鷺沢(ときさわ)委員長にも知らせますか?」

「いや——」


 紫藤は、机の上で軽く指を弾いた。

 こんなことで朱鷺沢委員長の手を煩わせるわけにはいかない。何か企んでいるとしても、早めに片をつければ問題ないだろう。


「これはこちらで処理する。また何かあったら連絡してくれ」


 一礼して部屋を出ていく男子生徒を見送ると、紫藤は手元の書類に目を落としながらつぶやいた。


「風紀を乱すものは、この学園にあってはならない」


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