14 - 発見
「藍原、最新の学園規則を見せてもらえるか」
「ああ、持ってこよう」
学園規則は毎年改訂版が発行されている。
京介は、手渡された最新版をめくっていくが、それらしき条項はなかなか見当たらない。
「……やはり、無さそうだ」
ページを最後までめくっても、解任請求に関する条項はもちろん、それを連想させる仕組みについての記述も見当たらない。
「となると、考えられることは二つね」
「そうだな。一つは、どこかのタイミングで正式に破棄され、現在は残っていない」
当時の状況下で生まれた規則だったが、その後必要性を失い破棄された。考えられる可能性だったが、それを否定する材料もある。
「でも、そうだとしたら、今の生徒会がこの記録を隠そうとしている理由が分からなくなるわ」
「生徒会の狙いがリコール制度以外だという可能性もあるが——」
断定はできないが、それ以外の可能性は低いことは分かっていた。
「もう一つの可能性は、正式に破棄はされていないが、何か理由があって記載されていない、ということか?」
「学園規則は、毎年改訂版が作られているわ。長い歴史の中で、優先度が低い項目は記載を削られた」
有り得そうな話ではあった。誰かが指摘しなければ、そのまま埋もれていってしまうことはあり得ただろう。
「意図的に《《引き継がない歴史》》を作った人がいた、という可能性のほうが高そうですけど」
話を聞いていた柊が、音を立てて手元のファイルを閉じた。その表情は、先ほどまでとは違う厳しいものだった。
「人の思いを蔑ろにし、勝手に文章を改ざんした人がいたとしたら、それは許されない行為です」
「いずれにしても、リコール制度がもう破棄されているのなら、今になって過去の記録を隠そうとする理由がない」
「そうね。リコール制度はまだ残っている。残っているからこそ、誰かが必死で隠そうとしている」
そして、残っている、ということは、使えるかもしれない、ということだ。
「もし、リコール制度が残っていたとしたら——俺たちの役目は、その事実を学園の生徒たちに伝えることだ」
制度を使うのか、それを決めるのは自分たちではない。だが、意図的にその事実を隠そうとしているのなら、それは許されることではなかった。
「残る問題は、リコール制度は現在でも有効だ、ということをどうやって証明するかよね」
「この新聞の記事じゃ証拠にならないんですか?」
「過去にリコール制度が成立していた証拠にはなるが、今も有効だという証拠にはならないだろう」
図書館に残された学園新聞のバックナンバー。これは当時の状況を示すものとして貴重な資料だ。
しかし、規則について、何かを保証できるものではなかった。
「やはり、学園規則を遡って、どの時点まで記載があったかを調べる必要があるか」
「それなんだが……学園規則は新しいものが発行されると、古い版はほとんど破棄されてしまう」
「図書館に保管されていないのか?」
「学園規則は図書館での保管が義務付けられていない」
藍原の顔には、それが不満であることが現れている。
生徒会発行の印刷物は、図書委員会の管轄から外れるものが多い。
正式に発行された印刷物については、資料として保管しておくべき。このことは、図書委員会から何度も申し入れをしている。
だが、その意見が聞き入れられることはなかった。
「印刷物は無かったとしても、データは残ってるんじゃないですか?」
「あったとしても、それこそ生徒会の手元にあるわけよね」
「印刷物も、さすがにすべてを破棄はしていないんじゃないか? 一部が生徒会の資料として保管されている可能性もある」
当時のデータ、あるいは印刷された出版物。しかし、そのいずれもが、生徒会管轄の範囲にある。
「デジタルデータは、それが改竄されていない証拠も必要になってくるわ。できれば紙の印刷物を手に入れたいところね」
「——作戦を練る必要がありそうだ」
*
図書館からの帰り道、新聞部の三人が中央広場を通りかかると、そこには大勢の生徒たちが集まっていた。
「今度は何だ?」
「新しい規則の発表があったみたいね」
人混みをかき分けて掲示板の前に進み出ると、そこには生徒会からの新しい規則が貼り出されていた。
**『学業成績による新クラス区分の導入』**
「新クラス区分……?」
全生徒を学業成績に応じてA、B、C、Dの四クラスに再編する。
Aクラスには特別講師による課外講義、優先的な施設利用、寮の個室割り当てなどの「さらなる高待遇」を与える。
一方でDクラスは、夏季休暇を返上し、補習合宿への強制参加が課せられる。
「さらに、Dクラスの生徒は部活動への参加を全面禁止する、だと?」
「ええ! まじですか!」
その他、クラス分けは毎月のテストで見直しが行われること、Aクラスに与えられる詳しい待遇など、細かな内容も書かれていた。
「ちなみになんだけど、二人は成績どうなのよ?」
凛の問いかけに、京介と遥斗は同時に顔を見合わせる。
「俺はちょうど真ん中辺りだな。このルールが運用されたとして、BかCだと思うぞ」
京介と凛の視線が、今度は遥斗一人に向けられた。
「俺は……たぶん、Cじゃないですかね。中の下、ってのが正直なところで……いや、待ってください、これ大丈夫ですよね? 俺Dじゃないですよね?」
「……なんだか不安ね」
遥斗は直前の定期試験の点数を思い出し、嫌な汗が滲むのを感じていた。
「凛は問題ないだろう?」
「そうね。私は、今も上位クラスよ」
「は?」
「ええ?」
二人の視線が、自然と凛の左襟あたりに引き寄せられる。
「え、でも、藤枝先輩、バッジ付けてないじゃないですか?」
上位クラスの生徒はそれを示すバッジを付けているはずなのに、凛はそれをつけていなかった。
「付けられるというだけで、付けなければいけない、という決まりではないわ」
「そうなんですか?」
「そんなものをつけて新聞部の活動なんてできないでしょう」
上位クラスの生徒は、あるいはそのことを誇るために、あるいは施設を利用するために、通常は皆バッジをつけている。
「……まあ、お前らしいな」
凛は自分から望んで手に入れたものでもない限り、そのことを誇示したりする性格ではない。そのことは付き合いの長い京介にはよく分かった。
「学業だけじゃなく、何かに秀でた生徒が集まって、それぞれの分野で活躍している。それがこの学園の良さだったはずなのに……」
Dクラスの生徒が部活動に参加できなくなる、ということは、学園のあちこちの部活が、いきなり部員を失うということでもある。
「それがあいつらの狙いだ」




