6話 おおきなやね
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
「黒いの、なに?」
まるみが言った。
うっけは、答えられなかった。
黒いのは、そこにあるのに、なんなのかは、わからなかった。
「わからない」
「わからないの、やだ」
「ぼくだって、やだよ」
カサネは、だまっていた。
うっけは、校庭の外から目をそらした。
黒くないものを、さがした。
まだ見えるもの。
体育館が見えた。
黒くなかった。
屋根とかべが、見えた。
とびらも、見えた。
「体育館なら、行けるかも」
うっけが言った。
「黒くない、ね!」
まるみも、体育館を見て言った。
その白いかべを見ていると、まだ、まにあう気がした。
「行こう」
「うん」
カサネは、うっけとまるみを見た。
「……うん」
うっけは、カサネを見た。
「なに。こわいのか」
「足おそいの、ごめん」
「だいじょうぶ。ひっぱってくよ」
三人は、ろうかを走った。
たたたた。
たた。
たたた。
もうすぐ、ろうかの先。
広いところに出た。
体育館は、すぐそこに見えた。
大きな屋根は、学校の上にのっているみたいだった。
あそこまで行けたら。
うっけは、そう思った。
そのとき、まるみは、空を見ていた。
「きれい」
「なにが」
うっけも、空を見た。
空が、半分、黒かった。
青いところが、黒に押されて、せまくなっていた。
青と黒のあいだは、にじんでいた。
見てはいけないくらい、きれいだった。
うっけは、息をするのを忘れていた。
でも、カサネは、空ではなく、二人を見ていた。
二人のかおが、まだ見えているか、たしかめるみたいに。
黒は、おりてきた。
空の上の黒が、すこしずつ、下のものを見えなくしていった。
「……やだ」
まるみが、体育館をゆびさした。
大きな屋根に、黒がかかった。
屋根のはしが、見えなくなった。
次に、上のほうのかべが見えなくなった。
かげじゃなかった。
ただ、黒すぎて、見えなかった。
まるみの目が、赤くなった。
「泣くなよ」
うっけは言った。
でも、うっけのこえも、すこしふるえていた。
カサネは、二人のかおを、ひとりずつ見た。
「ここに、いる?」
「いるよ」
うっけは、そう言って、まるみを見た。
まるみのかおは、ちゃんとあった。
なきそうな目で、うっけを見ていた。
何か言いかけて、うっけは口をとじた。
「……変なこと言うなよな」
カサネは、二人を見たまま、すこしうなずいた。
でも、大きな屋根も、かべも、すこしずつ黒の中に入っていった。
まるみが、うっけの手をさがした。
うっけは、黒から目をはなせないまま、その手をにぎった。
こわれた音はしなかった。
落ちた音もしなかった。
体育館は、おおきいまま、黒に飲まれていった。
四年五組のあたらしい第一話です。
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