5話 ひなんくんれん
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
黒は、まだ止まらなかった。
さっきまで白かったゆかの線が、黒の中に入っていた。
「足!」
まるみのこえで、うっけは下を見た。
つまさきのすぐ前が、黒かった。
白いところは、くつ一つぶんしか残っていなかった。
「うしろ!」
うっけは、一歩下がった。
まるみも、下がった。
カサネは、黒を見たまま、足を引いた。
目だけが、黒のはしを追っていた。
三つの足音が、ばらばらに鳴った。
そのすぐあと。
さっきまで立っていたところが、黒くなった。
こわれる音は、しなかった。
なにかが近づいてくる音も、しなかった。
ただ、そこにあった白いゆかが、黒くなっていった。
白いところが、すうっと少なくなった。
うっけたちの立てる場所が、目で見てわかるくらい、せまくなった。
うっけは、もう一回、職員室のほうを見た。
「先生!」
こえだけが、職員室の中に入って、そこでなくなった。
となりで、まるみが、ぱっとかおをあげた。
「避難訓練」
その言葉だけ、うっけの体が知っていた。
「なに」
そう言ったのに、うっけの足は、もう校庭のほうを向いていた。
いつも、そうだった。
行くのは、校庭だった。
カサネも、遅れてかおをあげた。
「……校庭」
うっけは、走り出した。
たたた。
たた。
たたたた。
足音が、ろうかでばらばらにひびいた。
ろうかを曲がる。
うっけが先に走った。
まるみが、すぐよこに来た。
カサネは、すこしうしろだった。
「カサネ!」
返事はなかった。
でも、うしろの足音が、すこしはやくなった。
ろうかを走っているのに、だれも怒らなかった。
それが、走りやすいのに、こわかった。
三人の前に、ガラス戸が見えてきた。
その向こうに、校庭が見えた。
白いライン。
鉄棒。
砂の色。
空。
校庭は、あった。
ちゃんと、あった。
いつものものが、そこにあった。
うっけは、ほんのすこしだけ、ほっとした。
うっけの手が、とってにぶつかった。
そのまま、あけようとした。
「待って」
まるみが言った。
うっけの手が、止まった。
まるみは、校庭の向こうを見ていた。
フェンス。
その向こう。
あさ、うっけが入ってきたはずのところ。
そこが、黒かった。
道も、門も、空の下の明るいところも、見えなかった。
フェンスだけが、黒の前に立っていた。
「校庭、ある」
うっけが言った。
ある。
ちゃんと、ある。
でも、その向こうがなかった。
カサネは、フェンスのほうを見ていた。
「……向こう、見えない」
まるみは、ガラス戸に手をついた。
「校庭、だめじゃん」
うっけの手は、とってをにぎったままだった。
あけることも、はなすことも、できなかった。
校庭は、ある。
でも、校庭の外は黒かった。
出たらどこへ行けばいいのか、見えなかった。
校庭の外が黒いときのことは、習っていなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
6話は明日、5月5日 1:00に更新予定です!




