4話 かくれんぼ
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
きい、と小さい音がした。
職員室の中は、しずかだった。
赤いペンが見えた。
開いたノートが見えた。
すこし引かれたいすが見えた。
でも、先生はいなかった。
まるみが、うしろからのぞいた。
つくえの下。
いすのうしろ。
ロッカーのすきま。
まるみは、そこをじっと見た。
「かくれんぼみたい」
「ちがうだろ」
「でも、だれもいないよ」
「だから、へんなんだろ」
「みんな、すごくかくれるのうまいのかも」
うっけは、なにも言えなかった。
言い返したかった。
でも、職員室は、ほんとうにかくれんぼの途中みたいだった。
どこからも、くすくす笑うこえはしなかった。
まるみが、赤いペンを見た。
「赤ペン先生がいる!」
「ペンは先生じゃない」
「じゃあ、赤ペン校長先生?」
「えらくするな」
まるみは、つくえの上を見た。
「でも、さっきまでいたんだよね」
うっけは、うなずいた。
「いた」
「じゃあ、どこ行ったんだろ」
うっけは、答えられなかった。
つくえのはしに、赤いペンがあった。
いすは、すこしだけ引かれていた。
さっき、だれかが立ったみたいだった。
でも、だれも立っていなかった。
「先生!」
うっけは、もう一回呼んだ。
うっけは、すぐに返事がくると思った。
返事はなかった。
まるみが、手を口のよこにあてた。
「もーう、いーかい!」
こえは、職員室の中をぬけて、ろうかの先へ行った。
まーだだよ、も。
もういいよ、も。
なにも返ってこなかった。
まるみは、手を下ろした。
「……言わなきゃよかった」
それから、もうなにも言わなかった。
足音まで、かくれたみたいだった。
そのとき、まるみの手が、うっけのそでをつかんだ。
ぎゅっと、つかんだ。
「うっけ」
うっけは、ふりむいた。
まるみは、職員室の中ではなく、ろうかを見ていた。
カサネの目も、もう、そっちを向いていた。
その先も、まだ、つづいているはずだった。
まるみが、小さく言った。
「まど、あったよね」
うっけは、ろうかの先を見た。
さっきまでは、先のまどが見えていた。
白いゆかも、まだつづいていた。
でも、いまは見えなかった。
そこから先は、黒かった。
かべも、ゆかも、まども、見えなかった。
白いゆかが、一枚ぶん、黒になった。
うっけがまばたきすると、もう一枚ぶん、黒になった。
さっきまで見えていたはずのろうかの先が、もう見えなかった。
「……これ。かくれんぼじゃない」
まるみが言った。
うっけは、目をそらせなかった。
こえが、ちゃんと出なかった。
カサネは、黒の手前の、白いところを見ていた。
赤いペンは、つくえのはしにころがっていた。
先生は、いなかった。
ろうかの先は、なかった。
うっけは、もう一回、先生と呼べなかった。
カサネは、すこしだけ、足を引いた。
「……近い」
ろうかの白いところが、またすこし、短くなった。
黒は、絵の具の黒みたいだった。
でも、紙の上の黒じゃなかった。
ろうかの先にあったものを、音もなく、見えなくしていった。
四年五組のあたらしい第一話です。
https://kakuyomu.jp/works/2912051604055593695/episodes/2912051604055721181




