3話 三人だけの学校
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
だれも、ふりむかなかった。
うっけのこえだけが、掲示板の前に残っていた。
さっきまで、そこには人がいた。
ランドセル。
くつの音。
名前を呼ぶこえ。
でも、いまはなかった。
まるみは、右の手と左の手を、よこへ広げた。
そのまま、くるっとまわった。
だれにも、ぶつからなかった。
「あは。いない」
うっけは、まるみの手を見た。
「手で?」
「手で」
まるみは、もう一回、まわった。
二回まわっても、だれにもぶつからなかった。
なんだか、かなしかった。
「みんなどこ行ったのかな」
「知らないよ」
まるみは、すぐ横の体育館を見た。
「体育館のなかかな」
うっけも、とびらを見た。
「みんなで?」
「うん。かも」
「……いるかもな」
カサネは、二人のうしろで、あくびをした。
「……いるといいね」
三人は、とびらへ近づいた。
まるみが、入口からなかをのぞいた。
うっけも、となりからのぞいた。
カサネも、遅れて、なかを見た。
体育館は、からっぽだった。
ステージがあった。
バスケットゴールもあった。
すみっこのマットもあった。
でも、人はいなかった。
まるみは、手を口のよこにあてた。
「みーんーなーーー」
こえは、体育館のなかにひびいた。
ひびいたこえが、てんじょうのほうで、うすくなった。
それきりだった。
まるみは、もう一回、口をあけた。
でも、こえが出なかった。
うっけも、口をあけた。
でも、なにも言わなかった。
カサネは、目を半分だけあけた。
「……軽い」
「は?」
うっけがふりむいた。
「音が、軽い」
「音が軽いって、なに」
「わかんない」
「わかんないのに言うなよ」
「うん」
「……先生」
まるみが言った。
うっけは、ろうかのほうを見た。
「そうだ。先生に聞こう」
「先生なら、いるよね」
「いるだろ」
三人は、校舎のなかへ入った。
ろうかは、ひんやりしていた。
こつ。
こつ。
こつ。
三つの足音だけがした。
三人は、同時に止まった。
音が、とまった。
まるみが、うっけのそでを、ちょんとつまんだ。
「三つだけだよね」
「……そうだよ」
「よかった」
「よくないだろ」
まるみは、うっけのそでをつまんだまま、ろうかの先を見た。
「うん。よくない」
三人は、また歩き出した。
こつ。
こつ。
こつ。
ほかの音は、しなかった。
「ねえ、うっけ」
「なに」
「今、学校にいるのって」
「言うな」
「まだ言ってない」
「わかるから言うな」
まるみは、口を閉じた。
「三人だけ、なのかな」
うっけは、返事をしなかった。
こつ。
こつ。
こつ。
カサネが、後ろから言った。
「足音は、三つある」
三つ。
三つある。
それだけは、ほんとうだった。
職員室が見えた。
三人は、そこで止まった。
音がなくなると、学校がひとまわり、大きくなった。
うっけは、職員室のドアをあけた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
4話は明日、5月3日 1:00に更新予定です。




