39話 ささえあう岩
四人は、図工室を出た。
床いっぱいに広がった絵は、そのままだった。
うっけは、手ぶらのまま歩き出した。
まるみが、りっかのとなりに並んだ。
カサネは、図工室の戸を、そっと閉めた。
白い画用紙は、もう見えない。
でも、りっかには、石が見えていた。
木の屋根も。
細い階段も。
二つの岩も。
りっかは、前を向いた。
「児童館の横へ行こう」
四人は、町へ入った。
役場の横をぬけて、児童館の前へ出る。
児童館の横には、空き地があった。
大きな木の下。
枝の間に、山が見えた。
山の中ほどに、二つの岩が立っていた。
うっけは、そこを指さした。
「あそこだ」
りっかも、同じ場所を見た。
絵の中より、遠い。
でも、知らない場所ではなかった。
空き地の奥に、細い道があった。
うっけが先に入る。
まるみは、りっかの半歩うしろにいた。
カサネは、最後を歩いた。
土は、さっきよりやわらかかった。
草が、くつの先に触れた。
りっかは、足もとを見た。
こつ。
こつ。
自分の音が、道に残った。
「このくつ、歩きやすい」
まるみは、すぐに笑った。
「でしょ」
「まるみが作ったから?」
「うん。そこは、ちょっとある」
うっけが、前から言った。
「ちょっとじゃないだろ。かなりある」
まるみは、うっけの背中に向かって言った。
「わかってるなら、もっとほめていいよ」
りっかの口もとが、すこしゆるんだ。
道は、畑の横で細くなった。
低い石の垣が、左に続いている。
その切れ目から、坂が上へ伸びていた。
りっかは、坂を見た。
「たぶん、こっち」
うっけは、もう半歩前へ出ていた。
「よし、上る」
「半歩だけだよ」
まるみが言った。
「わかってる。一歩は出てない」
「それ、ほとんど一歩」
カサネが、坂の上を見た。
「でも、道は続いてる」
四人は、坂へ入った。
坂は、まっすぐではなかった。
木の根をよける。
石をまたぐ。
低い枝の下をくぐる。
うっけは、枝を手で上げた。
「りっか、通れるぞ」
りっかが通る。
まるみが続く。
カサネは、後ろで枝をそっと戻した。
木の中は、学校より暗かった。
でも、音があった。
葉がこすれる音。
くつの下で、小さな石が動く音。
どこかで、水が細く流れる音。
りっかは、顔を上げた。
「お湯じゃない。水の音」
「わかるの?」
まるみが聞いた。
りっかは、少し目を閉じた。
「佐々江温泉は、もっと、あたたかい感じがする」
うっけは、鼻を動かした。
「まだ、まんじゅうのにおいはしない」
まるみは、すぐに笑った。
「まんじゅうから離れて」
「温泉なら、まんじゅうも近いだろ」
「まだ山だよ」
りっかは、小さく笑った。
坂の先で、木が切れた。
四人は、町の裏をぬけた。
まるみが、りっかのとなりで息を吐いた。
「あわ小じゃない」
うっけも、肩の力を抜いた。
「戻ってない」
カサネは、細い水路を見た。
「横へ出たんだ」
りっかは、町の奥へ一歩進んだ。
「でも、山に近い」
まるみは、ぱっと笑った。
「じゃあ、進んでる」
町の裏をぬけると、石の階段が始まった。
階段の横に、細い木の柱が立っていた。
柱には、古い字が残っていた。
りっかは、柱の前で足を止めた。
「佐々江温泉」
うっけは、一段目に足をかけた。
「じゃあ、上る」
りっかは、柱の字をもう一度見た。
それから、うっけの横へ来た。
こつ。
音が、石に当たって返ってきた。
もう、止まらなかった。
階段は、長くはなかった。
でも、一段上るたびに、空気が変わった。
木のにおいに、湯気のにおいがまじった。
白いものが、岩の下から上がっていた。
二つの岩は、近くで見ると、思っていたより大きかった。
くっついていない。
でも、倒れない。
間の下に、木の屋根があった。
りっかは、足を止めた。
「ここ」
うっけも、息を止めた。
湯気が、入口の前で、ゆらゆらしている。
まるみは、両手を胸の前で握った。
「ほんとに、あった」
カサネは、岩の下で息を吸った。
「来られた」
りっかは、二つの岩を見た。
くっついていない。
でも、倒れない。
その下に、入口がある。
りっかは、自分の足もとを見た。
くつは、石の階段の上にあった。
「わたし、来たんだ」
まるみは、りっかの横に立った。
うっけは、入口を見たまま、にっとした。
カサネは、湯気の向こうを見ていた。
山の中に、佐々江温泉があった。
その入口で、湯気が、ゆっくり上がっていた。
りっかは、小さく息を吸った。
「入って、いいのかな」
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次回は
6月20日 1:00に更新します。




