29話 ぐるっと地図作り
三人は、学校の中へ戻った。
うっけは、ろうかを早足で進みながら言った。
「紙と色えんぴつ、探すぞ。頭の中のやつ、出さないとわけわかんなくなる」
まるみが、うしろからついてきた。
「それなら、図工室にありそう」
「図工室」
うっけは、すぐに顔を上げた。
「そこだ」
木のろうかを曲がると、広い戸のついた体育館があった。
うっけたちの学校のより、すこし小さく見えた。
「ここじゃない」
三人はそこを通りすぎて、まどの多いほうへ進んだ。
その先に、図工室があった。
がら、と扉を開けると、木と、紙と、すこしだけ絵の具のにおいがした。
うっけは、たなから白い画用紙を見つけて、大きな机に広げた。
「よし。かくぞ」
まるみが、色えんぴつをならべた。
「まず、学校?」
「おう。まず、学校だ」
まるみは、紙のまん中に、小さな四角をかいた。
「阿波瀬小学校」
そこからは、楽しかった。
「そのまわりに、小川」
カサネが言った。
まるみは、青い色えんぴつで、くねくねした線を引いた。
「こっちに行くと、お米屋さん」
「八百屋さんも」
まるみの手が、さらさら動いた。
米袋。
赤いトマト。
緑のきゅうり。
白い紙に、三人が歩いた町が、すこしずつできていった。
うっけは、それを見て笑った。
「うま」
まるみは、すこしだけ口をむすんだ。
「……地図だから、ちゃんとかかないと」
「いや、うまいって。八百屋のトマト、そのままだ」
「うん」
まるみは、ちょっとだけうれしそうに笑った。
カサネは、紙の上をのぞきこんだ。
「お弁当のところも、かこう」
まるみの手が止まった。
「空き地だな」
うっけが言った。
「そこもかこう。おにぎり食べたところ」
まるみは、児童館のそばに、空き地をかいた。
木のかげを、まるくかいた。
その下に、小さな丸を三つならべた。
「これ、おれたち?」
「うん」
カサネが、丸をのぞきこんだ。
「三つとも、同じ大きさだ」
「だめ?」
「いいと思う。三人で食べたところだから」
うっけが、丸を見た。
「おれ、もうちょっと大きくてもいいけどな」
「地図だから」
まるみが言った。
カサネもうなずいた。
「地図だから、うっけも小さい」
「そこ、二人で言うな」
まるみは、あはっと笑った。
そこまでは、本当に楽しかった。
白い紙の上に、さっきの町がすこしだけ戻ってくるみたいだった。
うっけは、紙の上を指でたどった。
「で、ここからさらに進んだら、学校に戻ったんだ」
まるみの手が、ぴた、と止まった。
「学校? でも、学校はまん中にあるよ」
「そこにつなげるんだよ」
まるみは、空き地の先から、まん中の学校へ線を引こうとした。
でも、その線は、お米屋さんや八百屋さんの上を通りそうになった。
まるみは、あわてて手を止めた。
「これ、へん。線が、ほかのお店をこわしちゃう」
「じゃあ、こっちからまわすか?」
うっけは、紙のはしを指さした。
でも、そこにはもう道がなかった。
カサネが、紙の右のはしと左のはしを見くらべた。
「足りない。紙」
うっけは、紙の上の学校をにらんだ。
「なんでだよ。かけば、見えると思ったのに」
まるみは、色えんぴつを置いた。
「見えてるよ」
「どこが」
「へんなところ」
まるみは、紙のあちこちを指さした。
「ここも学校。こっちも学校。遠くへ行っても学校。だから、この町がへんだってことが見えてる」
カサネが、うなずいた。
「平らな紙だと、学校がふえる。おさまらない」
うっけは、顔を上げた。
「平らな紙だと?」
「うん」
まるみは、机の上の色えんぴつを、ころころと転がした。
色えんぴつは、紙のはしで止まった。
まるみは、それを見た。
「じゃあ、紙を、ぐるっとしたら?」
うっけは、まるみを見た。
「紙を?」
「うん」
まるみは、紙の右のはしを、そっと持ち上げた。
白い紙が、ふわっと曲がった。
「こう」
「まるめるのか?」
「まるめるっていうか」
まるみは、紙の右のはしと、左のはしを近づけた。
学校のそばから出た青い小川が、くるっと曲がって、また学校の近くへ来た。
うっけが、身を乗り出した。
「お」
カサネも、顔を近づけた。
「つながりそう」
「でも、手を離したら、戻っちゃう」
まるみが言った。
うっけは、たなの上を見た。
「テープある?」
カサネが、図工室のすみにある箱を指さした。
「あそこにあるよ。たぶん、テープ」
うっけは、箱の中から透明のテープを見つけた。
「これだ」
まるみは、紙をくるっと曲げたまま、息を止めていた。
うっけが、テープを切った。
ぺた。
紙のはしと、はしが、くっついた。
まるみが、そっと手を離した。
紙は、平らには戻らなかった。
つつになって、机の上に立っていた。
「立った」
まるみが言った。
うっけは、つつを横から見た。
「すげえ。地図が、立ってる」
まるみは、青い小川の線を指でなぞった。
「ここから流れて」
つつをすこし回す。
「ここを通って」
また、すこし回す。
「ここで、学校のそばに戻る」
うっけは、目を丸くした。
「戻った」
カサネも、つつを見た。
「でも、学校は一つ」
三人は、つつになった地図を見た。
平らな紙の上では、けんかしていた線が、つつの上では、ぐるっとつながっていた。
「できた」
まるみが言った。
うっけは、すぐには言い返さなかった。
つつの地図を見た。
それから、ゆっくりうなずいた。
「できたな」
カサネも、うなずいた。
「ぐるっとしてる」
まるみは、小さく笑った。
「ぐるっと地図」
うっけは、もう一回、つつを回した。
「よし。ぐるっと地図だ」
平らな紙では、けんかしていた線が、つつの上では、ぐるっとつながっていた。
ぐるっと地図が、完成したのだ。
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次回は
6月11日 1:00に更新します。




