25話 丸いベンチのとこ
門の外には、細い道があった。
うっけのくつが、土を踏んだ。
ざり。
さっきの校庭より、やわらかかった。
まるみのくつも、すこししずんだ。
カサネは、顔を上げた。
さらさら。
ころころ。
水の音が、前から来ていた。
うっけは、道のよこを見た。
「どこだ?」
音はするのに、見えなかった。
草が、道のよこでゆれていた。
まるみが、しゃがんだ。
草のあいだを、のぞきこんだ。
「あ、光ってる」
うっけも、しゃがんだ。
草の下で、きらっと光るものがあった。
カサネが、耳をすました。
「草の下。水が流れてる」
細い水が、石にあたった。
ころころ。
「小川じゃん」
うっけが言った。
まるみは、口を小さくゆるめた。
「この音、やっぱりすき」
まるみは、草の下を流れる水を見た。
「見えないのに、ちゃんといるみたい」
うっけは、草の下をのぞいた。
細い水が、石にあたって、ころころ鳴った。
「……いるって、水が?」
「水も。音も」
カサネが、耳をすました。
「うん。すきになっちゃうね」
まるみが、ぱっと顔を上げた。
「うん」
水は、草の下から出たり、かくれたりしながら、道の先へ流れていた。
「このさき、行くぞ」
三人は、小川にそって歩き出した。
道は、ゆるく下っていて、草が、くつのよこをかすった。
さらさら。
ころころ。
水の音が、少し大きくなった。
まるみが、顔を上げた。
「外のにおい、する。水と、草と、土」
うっけも、息をすった。
学校のにおいではなかった。
さらさら。
ころころ。
水の音が、もっと近くなった。
木のかげが、ふっと切れた。
前が、ぱっと明るくなった。
うっけは、足を止めた。
まるみと、カサネも、止まった。
風が、前から来た。
三人とも、しばらく何も言わなかった。
まるみが、ぽつりと言った。
「屋根がある」
木のむこうに、ひくい屋根が見えた。
ひとつ。
ふたつ。
三つ。
うっけは、屋根のあいだを見た。
細い道が、屋根と屋根のあいだを通っていた。
さらさら。
ころころ。
水も、そのほうへ行っていた。
そのむこうで、きらっと光った。
まるみが、指をさした。
「橋」
うっけも、そこを見た。
屋根。
道。
水。
橋。
ばらばらだったものが、急に、ひとつに見えた。
まるみが、小さく息をすった。
「……町?」
「でも、人いないよな」
屋根も、道も、橋も、そこにあった。
さらさら。
ころころ。
水の音だけが、先でしていた。
カサネが、小さく言った。
「でも、ある」
うっけは、もう一回、前を見た。
「うん。町だ」
その言葉が出たとたん、そこにあるものが、ぜんぶ町に見えた。
水は流れていた。
道は続いていた。
どこかの家のかげで、草だけがゆれていた。
カサネは、町を見ていた。
「だれもいないのに、だれかがいたにおいがする」
うっけは、カサネを見た。
「それ、人がいるってことか?」
カサネは、首を小さくふった。
「わからない。でも、からっぽじゃない」
まるみも、町を見た。
「でも、わたしたちの町じゃないよね」
「だな」
うっけは、屋根のあいだを見た。
「でも、何か知ってるものがあったら、すぐわかるだろ」
まるみが、ぱっと顔を上げた。
「丸いベンチのとこ?」
「そう、それ。あわせ公園だな」
「うん。どっちが前かわかんないベンチ」
「あるだろ。すわったほうが前じゃん」
「じゃあ、すわる人がかわったら、前もかわるの?」
うっけは、すこしだけだまった。
「……それは、まあ、そうかも」
まるみが、ちょっと笑った。
うっけは、町を見た。
「じゃあ、探すぞ」
「なんで?」
「丸いベンチなら、見たらわかるだろ。おれたち、知ってるんだから」
カサネが、うっけとまるみを見た。
「そのベンチ、見たい」
うっけは、道の先を見た。
「まずは、丸いベンチのとこだ」
さらさら。
ころころ。
まるみが、耳をすました。
「音、まだそっちにいる」
三人の足は、もう止まらなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は
6月7日 1:00に更新します。




