24話 スバラシイことなのです!
青、みどり、赤、きいろ。
ガラスの絵が、木のゆかに落ちていた。
三人は、お弁当を持って、大きな木の戸の前にいた。
ガラスのむこうに、土の校庭が見えた。
うっけは、戸に手をかけた。
がら。
木の戸が開いた。
ゆかの上で、色のついた光が、すこしゆれた。
それから、外の光が、どっと入ってきた。
青も、みどりも、赤も、きいろも、まぶしさの中にまざった。
三人は、土の校庭に出た。
くつの下で、土がざりっと鳴った。
うっけは、まぶしくて、目をほそめた。
まるみの髪が、風でふわっとゆれた。
カサネは、空を見上げた。
すこし向こうで、ブランコが、きい、と鳴った。
そのむこうに、ひくい門があった。
門のよこに、木の表札が立っていた。
まるみが、先に気づいた。
三人は、門のほうへ歩いた。
うっけは、まるみの見ている先を見て、足を止めた。
「え。なんで」
阿波瀬小学校。
うっけは、まばたきをした。
「……あわ小?」
まるみも、表札を見た。
「わたしたちの、あわ小じゃないよね」
「でも名前は同じ、か」
まるみは、校庭を見て、それから、木の校舎を見た。
「同じ名前なのに、ぜんぜんちがう」
カサネは表札を、じっと見ていた。
「あわ小」
うっけが、カサネを見た。
「阿波瀬小学校のこと」
カサネは、もう一回、表札を見た。
「……あわ小」
まるみが、小さく首をかしげた。
「カサネ、あわ小って、あんまり言わない?」
カサネは、表札を見たまま、すこしだけ考えた。
「うん。なんか、はじめて聞いたみたい」
うっけは、表札を見た。
「なんでだよ」
そのとき、カサネが、先に顔を上げた。
「センセイ」
うっけとまるみも、ふりかえった。
門のそばに、センセイが立っていた。
いつからそこにいたのか、わからなかった。
センセイは、三人を見て、すこしだけうなずいた。
「出てきましたね」
うっけは、センセイを見た。
「ここ、阿波瀬小学校なのかよ」
「はい。ここも、阿波瀬小学校です」
「ここも、ってなんだよ」
「ふしぎですね」
「ふしぎですね、じゃないだろ。知ってるなら教えろよ」
センセイは、うれしそうに笑った。
それから、耳に手をあてた。
三人も、つられて耳をすました。
さらさら。
ころころ。
見えない先から、音だけが来ていた。
うっけは、門の外を見た。
「……外から、聞こえる」
センセイは、うなずいた。
「ええ」
まるみが、小さく言った。
「この音、すき」
「音に、すきとかあるのかよ」
まるみは、耳をすませたまま答えた。
「すこしこわい音。やさしい音」
うっけは、もう一回、耳をすました。
さらさら。
ころころ。
カサネが、ぽつんと言った。
「近くに、水がありそう」
「どこに?」
「門の、むこうかな」
音は、まだ続いていた。
うっけは、お弁当を持ちなおした。
門の外を見た。
「行ってみるか」
まるみが、うなずいた。
カサネも、もう門の外を向いていた。
「うん」
門を出る前に、うっけは一度だけふりかえった。
センセイは、まだそこに立っていた。
「……もどったら、ちゃんときくからな」
センセイは、にこっとうなずいた。
うっけは、前をむいた。
「よし、行こう!」
三人は、門を出た。
くつの下で、土がざりっと鳴った。
さらさら。
ころころ。
音は、まだ先にあった。
センセイは、門のそばで、遠くなっていく三人の背中を見ていた。
「知らない場所を、見て」
「見えない音を、聞いて」
センセイは、ひとりで、うれしそうにうなずいた。
「それでも、行ってみる」
センセイは、両手を、きゅっと胸の前でにぎった。
「それは、スバラシイことなのです!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は
6月6日 1:00に更新します。




