22話 明けない夜はない
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
うっけは、まぶしくて目をあけた。
まどのむこうが、明るかった。
「……朝じゃん」
こえは、小さく出た。
まるみも、ふとんの中で目をこすった。
「ほんとだ」
カサネは、まどのそばに立っていた。
「朝のにおいがする」
「なにそれ」
カサネは、まどを少しだけ開けた。
冷たい空気が、すうっと入ってきた。
「ねむくないにおい」
まるみが、小さく笑った。
「ちょっとわかる」
うっけは、ベッドから足を下ろした。
ゆかは、ひんやりしていた。
でも、きのうみたいに、こわくなかった。
まどの外には、中庭の木が見えた。
草も、まども、ちゃんと見えた。
見えなくなっていくものは、なかった。
うっけは、息をはいた。
「五組にもどるぞ」
三人は、保健室を出た。
ろうかには、朝の光が入っていた。
こつ、こつ。
足音が、先までひびいた。
四年五組に戻ると、教室もあかるかった。
うっけは、まっ先に黒板を見た。
右下に、名前があった。
うっけ。
まるみ。
カサネ。
あった。
まだ、あった。
「……まだある」
まるみも、となりに来た。
「あるね」
カサネも、うなずいた。
三人の席も、そこにあった。
まるみは、自分の席に手を置いた。
「あーーー」
こえが、教室にのびた。
まるみは、ぱっと顔を上げた。
「こえでた」
「出るだろ」
「でも、出た」
うっけは、少しだけ笑った。
まるみは、席をさわったまま、まどの外を見た。
「朝だね」
「そうだな」
うっけは言った。
それから、少しだけだまった。
「家じゃないけどな」
まるみは、すぐには返事をしなかった。
「でも、三人で朝になったね」
うっけは、少しだけ目をそらした。
「……まあな」
カサネが、まどの外を見たまま言った。
「三人とも、いる」
うっけは、黒板を見た。
三人の名前があった。
三人の席も、あった。
きのうの夜は、急だった。
夕焼けになるひまもなかった。
まるみが言った。
「黒かと思った」
カサネは、首を横にふった。
「黒じゃない」
「なんで」
カサネは、まどの外を見た。
それから、黒板を見た。
「見えてるから」
うっけは、何も言えなかった。
たしかに、木も、草も、名前も見えていた。
まるみが、小さく言った。
「でも、夕焼けになる、ひまがなかった」
その言葉だけが、教室に少し残った。
三人は、少しだけ、だまった。
そのとき、まるみが、まどの外を見た。
「あれ」
うっけは、目を細めた。
中庭のむこうに、見なれない木の校舎があった。
そこへ、屋根つきの木の渡りろうかが続いていた。
きのうは、なかった。
うっけは、まどに近づいた。
まるみも、カサネも、となりに来た。
古い木の柱。
屋根の下のかげ。
そのはしを、朝の光が白くしていた。
「きのう、あんなのあった?」
「ない」
うっけは言った。
「ないよな」
カサネは、渡りろうかの先を見ていた。
「きのうは、あそこまで見えなかった」
うっけは、渡りろうかを見た。
中庭へ下りる道ではない。
保健室へ行く道でもない。
どこか、まだ知らないほうへ続いている。
まるみが言った。
「見に行けるかな」
うっけは、すぐには答えなかった。
胸の中が、ざわっとした。
こわい。
でも、見たい。
「行けるかどうか、見ないとわかんないだろ」
まるみが、うっけを見た。
「それ、行くってこと?」
「まだ言ってない」
「でも、行くでしょ」
カサネが言った。
「ぼく、あっち、見たい」
うっけは、カサネを見た。
カサネは、もう、ねむそうではなかった。
ただ、渡りろうかの先を見ていた。
うっけは、もう一度、まどの外を見た。
木の渡りろうか、むこうの校舎。
「……行く」
まるみが、にこっとした。
朝の中に、まだ知らない道が、ひとつ増えていた。
三人は、しばらく、それを見ていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第二章は、ここでおしまいです。
第三章は、あらためて。




