21話 つかれはてて
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
うっけは、目をこすった。
月は、木の葉っぱのあいだから、白く見えていた。
まるみは、うっけのとなりで、まだすこしだけ目をはらしていた。
カサネも、だまって月を見ていた。
うっけは、つないでいた手を見た。
まるみの手と、カサネの手。
それから、そっと立った。
手が、はなれた。
でも、手の中は、まだすこしあったかかった。
うっけは、自分の手を、ぎゅっとにぎった。
まるみはすぐに、うっけの服をつかんだ。
うっけは、ちらっと見た。
「そこは、つかむのかよ」
まるみは、目をこすった。
「まだ、ちょっとだけ」
カサネも、すぐそばに立った。
うっけは、ろうかのほうを見た。
「……もどるぞ」
まるみが聞いた。
「どこに?」
うっけは、すこしだけだまった。
「四年五組」
「うん」
「そこしかないだろ」
三人は、中庭の広場を歩いた。
広場の板は、月の光で白かった。
夜の空気は、すこし冷たかった。
足が、すこしだけおもかった。
まるみの歩くはやさも、いつもよりゆっくりだった。
カサネも、だまって歩いていた。
広場のはしに、白いカーテンが見えた。
風で、すこしだけゆれていた。
まるみが、足を止めた。
「あれ」
暗い中で、そこだけ、ふわっと白かった。
カサネが、上を見た。
「保健室」
うっけは、まるみのかおを見た。
目が赤かった。
ほっぺたも、ぬれていた。
カサネのかおも、ぬれていた。
たぶん、自分もそうだった。
「……かお、ふけるかもな」
まるみは、自分のほっぺたをさわった。
それから、うっけを見た。
「うっけも」
「ぼくはいいんだよ」
「よくないよ」
うっけは、保健室の戸に手をかけた。
きい。
中は、カーテンのすきまから、月の光が入って、あかるかった。
水道。
たたまれたタオル。
白いカーテン。
暗いのに、こわいへやではなかった。
まるみは、小さく息をすった。
「しずか、だね」
うっけは、タオルを一まい取った。
「ほら」
まるみにわたした。
まるみは、タオルで目をおさえた。
カサネも、タオルをほっぺたにあてた。
うっけも、かおをふいた。
目のまわり。
ほっぺた。
鼻の下。
まるみは、タオルをかおにあてたまま、はあ、と息を出した。
「目、あつい」
カサネも、タオルで目をおさえた。
「ぼくも、あつい」
うっけは、タオルを見た。
ぬれていた。
でも、ほっぺたは、さっきよりすこしすっきりした。
カーテンが、すこしだけゆれた。
まどの外は、まだ夜だった。
三人は、向かい合わせのベッドのはしに、ちょこんとすわった。
シーツは、ひんやりしていた。
まるみは、足をぶらんとさせた。
でも、すぐに止まった。
「足、つかれた」
カサネは、まくらに手を置いた。
「ここにいると、ねむくなるね」
「保健室だからな」
まるみが、ふわあ、と口をあけた。
「あ」
まるみは、あわてて口をとじた。
「あくびじゃないよ」
うっけは、すこしだけ口をゆるめた。
「いまのは、あくびだろ」
「ちがう。くちが、あいた」
「それをあくびっていうんだよ」
まるみは、すこしだけ笑った。
うっけは、ベッドの白いシーツを見た。
それから、まどの外を見た。
月の光が、カーテンのはしにのっていた。
「……ちょっとだけ、休むか」
まるみが聞いた。
「ねるの?」
「休むだけだ」
カサネが、まくらに手を置いたまま言った。
「うん。休むだけ」
「おまえが言うと、ねるみたいなんだよ」
まるみは、くすっと笑った。
それから、ベッドに横になった。
カサネも、ほかのベッドに横になった。
うっけは、すこしはなれたベッドに横になった。
シーツは、つめたかった。
でも、すぐに、体の下だけ、すこしあたたかくなった。
まるみが、小さいこえで言った。
「おやすみ」
カサネも、言った。
「おやすみ」
うっけは、てんじょうを見ていた。
月の光が、カーテンのはしにのっていた。
夜は、まだそこにあった。
でも、保健室は、しずかだった。
まぶたが、だんだんおもくなった。
うっけは、目をとじた。
「……おやすみ」
もう、返事はなかった。
返事のかわりに、三人の息だけが、ゆっくり、ならんでいた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
22話は 5月29日 1:00に更新します。




