16話 だいけっさく
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
うっけは、牛乳をもう一口だけ飲んだ。
「……ほんものだ」
まるみは、うっけを見た。
「ほんもの、出たね」
「出た。カサネのおかげだ」
カサネが、うっけを見た。
「うん。牛乳のこと、いっぱい考えた」
「そしたら、出たの? すごい」
まるみは、あは、と笑った。
「じゃあ、カレーも出せるってことだろ」
「どうやって出すの?」
「うーん。かいてみる」
カサネが、まばたきした。
「かいてみる?」
「カレーの絵だよ。かけば、出る気がする」
「ほんとに?」
「まあ、みてなって!」
うっけは、給食室の棚から白い紙と、短い色えんぴつを手に取った。
ごしごし。
きこきこ。
「うん、よし」
茶色くて。
おべんとうばこくらいの大きさの、四角。
うっけは、紙を配膳台に置いた。
「できた」
まるみが、のぞきこんだ。
「……これ?」
「カレーだろ」
カサネも、近づいた。
「箱」
「カレーだって。でかいやつ」
「ごはんは?」
うっけは、すみをゆびさした。
「ここ」
「そこ?」
「そこ」
しん。
何も起きなかった。
配膳台は、しずかなままだった。
「出ないね」
「なんでだよ」
「カレーじゃないからじゃない?」
「カレーだろ」
カサネが言った。
「においが、しない」
うっけは、だまった。
それから、ポケットをおさえた。
「……こいつも、そんな感じだったのか」
「こいつ?」
「ポケットのやつ。まだ、カレーのにおいだけする」
カサネが言った。
「においだけ」
まるみは、うっけの絵をもう一回見た。
「ちゃんとカレーじゃないと、だめなのかも」
うっけは、口をへの字にした。
まるみは、白い紙を、もう一まい取った。
「わたし、かいてみる」
「かけるのか?」
「もう少し、カレーにする」
まるみは、紙に、まるいおさらを描いた。
白いところ。
茶色いところ。
まるいおさらに、ごはんとカレーがのっているように見えた。
うっけが、紙に顔を近づけた。
「……それ、カレーだ」
まるみは、えへと笑った。
「まだたりない、よね?」
カサネが、じっと紙を見た。
「湯気」
「湯気?」
「近づくと、あったかいやつ」
「それ。ふうふうするやつ」
まるみは、細い線を描いた。
ゆらゆら。
湯気みたいな線。
カサネが、小さく息をすった。
「近くなった」
「なにが?」
「カレー」
うっけのおなかが、また鳴った。
きゅる。
「じゃがいも」
うっけが言った。
「にんじん」
まるみが、紙に小さな形を足した。
「肉」
「肉?」
「ちょっと大きいやつ。スプーンにのったら、うれしいやつ」
まるみは、もう少しこい茶色で、大きめの肉を描き足した。
うっけは、となりから言った。
「おさらのはしまでじゃなくて、でも、ちょっと多めで」
「ちょっと多め」
まるみは、うなずいた。
カサネが、鼻の前で手を少し動かした。
「においが、上にくる」
「上?」
「こっちに」
まるみは、湯気の線を、もう少し長くした。
三人は、紙を見た。
おさら。
ごはん。
カレー。
じゃがいも。
にんじん。
肉。
湯気。
見ているだけで、おなかがすく絵だった。
うっけは、まるみを見て言った。
「こんなおいしそうなカレー、見たことない」
「じゃあ、出るかな」
三人は、配膳台を見た。
しん。
うっけは、息を止めた。
ことん。
三人の目が、いっせいに開いた。
そこに、おさらがあった。
白いごはん。
茶色いカレー。
じゃがいも。
にんじん。
肉。
湯気。
絵と同じカレーが、そこにあった。
うっけは、息をするのを忘れていた。
「……出た」
まるみが、ぱちっとまばたきした。
「ほんもの?」
カサネが、うなずいた。
「ほんものだね」
うっけは、おさらに目をくぎづけにしたまま、言った。
「……できたよ」
おなかが、もう一回、小さく鳴った。
今度は、だれも笑わなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
17話は 5月24日 1:00に更新します。




