15話 カンパイ!
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
うっけの手に、ニセカレー消しゴムは、あった。
においは、まだしていた。
でも、食べものじゃない。
「それ、どうするの」
まるみが、聞いた。
「食べられないんだよ」
「……そうだよな」
うっけは、ニセカレー消しゴムを、そっとポケットにしまった。
それから、ポケットを、ぽんとおさえた。
カサネは、それを見た。
「……におい、だけだったね」
まるみはふたりを見て言った。
「でも、なんでカレーだったのかな」
「だいこうぶつ、だったから」
「だれかが、いじわるしたんだ」
うっけは言った。
カサネは、すこし考えた。
「わからない。でも、なにかあると思う」
「うん。なにかある気がする」
うっけのおなかが、また小さく鳴った。
きゅ。
まるみが、笑いそうになって、口をおさえた。
「笑うな」
「笑わないようにしてる」
「ほぼ笑ってるだろ」
カサネは、自分ののどをさわった。
「おなかすいたけど、のどもかわいた」
「あ。わたしも」
カサネは、配膳台のすみを見た。
「のみもの」
「うん」
「白くて」
カサネは、目をとじた。
「手で持つと、すこしつめたくて」
まるみは、息をのんだ。
「口に入れると、のどをすうっと通る」
「それ、なに」
カサネは、こたえた。
「牛乳」
まるみの目が、まるくなった。
「牛乳!」
うっけは、身を乗り出した。
「カレーに、あう。牛乳なら、出るのか?」
「わからない。でも、牛乳は、わかる」
「白くて、冷たい」
しん。
給食室が、少しだけ、しずかになった。
そのあと。
ことん。
小さな音がした。
三人は、いっせいに配膳台のすみを見た。
そこに、紙のパックがあった。
小さな牛乳だった。
まるみが、そっと近づいた。
「出た」
うっけも、近づいた。
「ほんものか?」
カサネが、手をのばした。
「のんで、いい?」
「ちょっと待て。さっきの消しゴムみたいな、やつかも」
うっけが、あわてて止めた。
まるみが、指先で、ちょんとさわった。
「つめたい」
カサネが、そっと手に取った。
すこしだけふった。
ちゃぷ。
まるみが、ぱっと笑った。
「ある!」
うっけは、牛乳を見た。
カサネは、牛乳を口に近づけた。
まるみが、両手をぎゅっとにぎった。
うっけも、だまった。
カサネは、ほんの少しだけ飲んだ。
ごく。
カサネののどが、小さく動いた。
「飲めた」
まるみが、ぱっと笑った。
「ほんもの?」
カサネは、うなずいた。
「ほんもの。つめたい」
うっけも、まるみも、少しずつ飲んだ。
ちゃんと、つめたかった。
ちゃんと、飲めた。
「出たんだ」
まるみが、小さく言った。
「出た」
カサネも言った。
うっけは、牛乳を見たまま、すこしだけ口のはしを上げた。
「出せるんだ」
そのとき。
ことん。
また、小さな音がした。
配膳台の上に、もう一つ。
それから、もう一つ。
あらたな牛乳が、二つ、出た。
まるみが、あはと笑った。
「三人ぶんになった!」
カサネも、うっけと、まるみも、一つずつ持った。
三人は、かおを見あわせた。
「えっと」
まるみが、牛乳を少し上げた。
「こういうとき、なんて言うんだっけ」
うっけは、すこし考えた。
「いただきます、じゃないのか?」
「うーん、と」
カサネが、牛乳を少し上げた。
「カンパイ?」
まるみのかおが、ぱっと明るくなった。
「それ!」
うっけは、ちょっとだけ笑った。
「牛乳で、カンパイするの?」
「うん。いまはしたい」
まるみが言った。
カサネも、うなずいた。
うっけは、牛乳を持ち上げた。
三人は、牛乳を近づけた。
こつん。
小さな音がした。
「カンパイ!」
今度は、ちゃんと。
身体が、喜ぶものだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
16話は 5月23日 1:00に更新します。




