14話 だいこうぶつ
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
ろうかのむこうから、においは来ていた。
うっけは、先に歩いた。
まるみは、そのすぐうしろ。
カサネは、すこしだけ鼻を上げて、においのほうを向いていた。
「こっち」
「なんでわかるんだよ」
「においが、こっち」
「それは、ぼくも、わかってた」
うっけは、ろうかを曲がった。
においが、さっきより強くなった。
おいしそう。
おなかに、ぐぅーっとくる。
まるみが、首をかしげた。
「なんのにおい?」
カサネが言った。
「おなかすいたときの、におい」
「それ、ぜんぜんわかんない」
まるみが言った。
うっけは、ぴたっと止まった。
「え。まだ、わかんないのか?」
「わかんない」
「おいしそう、は、わかる」
うっけは、息をすーっと、吸ってから言った。
「カレーだな」
「カレー?」
「これは、カレーのにおいだ。だいこうぶつのにおいは、まちがえない」
カサネは、ろうかの先を見た。
「そこから、におう」
木の引き戸があった。
ほかの教室の引き戸より、すこしだけ広い。
上の札には、ちいさく字があった。
給食室。
まるみの目が、ぱっと開いた。
「給食室!」
「ほらな!」
うっけは、むねをはった。
「まだ、ほらな、じゃないよ」
「ここから、カレーのにおいがしてるんだぞ。もう、ほらなだろ」
カサネが、引き戸に手をかけた。
「開ける?」
うっけは、すぐに言った。
「うん。しんちょうにな」
「わかった」
がら。
引き戸が開いた。
中は、しんとしていた。
人はいなかった。
なべの音も、火の音もしなかった。
でも、カレーのにおいだけは、あった。
さっきより、ずっと強かった。
「うわ」
うっけは、一歩入った。
「これ、ぜったい、ある」
「なにが?」
「おれの、だいこうぶつ」
まるみは、給食室の中を見回した。
大きな台があった。
銀色のものがならんでいた。
おたま。
大きななべ。
大きなお皿と、その上の、大きな銀のドーム型ふた。
まるみは、配膳台の上、大きなお皿をゆびさした。
「これ?」
うっけも、見た。
カレーのにおいは、そこから来ていた。
「これだ」
「わ。カレーのにおい」
カサネも、近づいた。
「はやく、なかみたい」
うっけは、ふたに手をかけた。
「ふうん」
三人は、いっせいに、ふたを見た。
うっけが、そっと持ち上げた。
かちゃん。
三人は、のぞきこんだ。
ふたの下に、あった。
大きなおさらに。
ぽつん。
四角くて、茶色いものが、ひとつぶ。
「け、けしゴム?」
まるみが、目をぱちぱちさせた。
カサネも、鼻を近づけた。
「ほんものみたいな、カレーのにおい」
「……なんだよ」
うっけは、四角いものを見た。
消しゴムみたいだった。
でも、カレーのにおいだけは、ものすごくおいしそうだった。
まるみが、そっと言った。
「……ニセカレー消しゴム?」
「名前つけるな」
「だって、消しゴムだよ」
うっけは、ニセカレー消しゴムをにらんだ。
「ずるい」
「ずるい?」
「においだけ、カレーだ」
うっけは、そっと手をのばした。
つまんで、すこしだけ口元へ近づけた。
まるみが、すぐに止めた。
「だめ!」
「まだ、なにもしてないだろ」
「今、食べようとした!」
「してない。たしかめようとしただけだ」
「口でたしかめようとしてた!」
カサネが、ニセカレー消しゴムを見たまま言った。
「これ、食べものじゃない」
うっけの手が、止まった。
「においは?」
「においは、おいしそう」
「じゃあ」
「でも、食べものじゃない」
まるみは、うっけの手を、もうすこしだけ引っぱった。
「こういうの、口に入れちゃだめ」
「うん。……わかってる」
「ほんと?」
においは、おなかに、ずんとくる。
でも、ニセカレー消しゴムだった。
「なんでだよ」
うっけのおなかが、また小さく鳴った。
きゅる。
まるみが、笑いそうになって、口をおさえた。
「カレーのにおいだけ、ほんものなのに」
「ずるいだろ」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
15話は 5月22日 1:00に更新します。




