11話 いまじゃん
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
ここなら、呼べば、ちゃんととどきそうだった。
うっけは、じーっと、カサネを見ていた。
まるみはふたりを見くらべた。
「なに、なに?」
「あとでおしえてねって、言ったじゃん」
「あ」
まるみの目が、まるくなった。
「わたしだ。言った」
「いまじゃん」
「え。いま?」
「いまだろ。もう、すわったし、あとでって言ったあとの、いまじゃん」
まるみは、ちょっと考えた。
「……そうかも」
カサネも、ちょっと考えた。
「あとっていまなんだ。あしたかとおもった」
「そんなに、待てないだろ」
うっけは、カサネに向きなおった。
「じゃあ、きくぞ」
「うん」
「黒って、なに?」
カサネは、すぐにこたえた。
「しらない」
「はやい!」
うっけのこえが、教室にひびいた。
まるみが、ぷっとふき出した。
「まだ、きいたばっかりだぞ!」
「ちょっとくらい考えろよ」
カサネは、考えた。
すこしだけ。
「しらない」
「同じじゃん!」
まるみが、また笑った。
「笑うところじゃないだろ」
「ごめん」
でも、まるみは、まだ笑いそうだった。
カサネは、まじめなかおでこたえた。
「わかるところだけなら、話せる」
「じゃあ、それ話して」
カサネは、うなずいた。
そして、窓を見た。
「おーい」
まるみの目も、窓へいった。
窓の外で、木の葉っぱが、ゆれていた。
床に、光がちらちらしていた。
「きれい」
「いま、そういう時間じゃない」
「でも、見ちゃう」
カサネも、見ていた。
うっけは、カサネをゆびさした。
「おまえは、話すほうだろ!」
「でも、見えるんだ」
「見えるけども!」
そのとき。
きし。
床が鳴った。
まるみの足が、ぴたっと止まった。
「いま、へんじした」
「してない」
カサネが、そっと足で床を押した。
きし。
「やるな!」
まるみは、床。
カサネは、窓。
「二人とも、こっち! いま、黒と五組の話してるんだぞ。まどとゆかに負けるな!」
うっけは、両手を上にあげた。
「はなし、とめんなーーー!!!」
まるみが、びくっとした。
それから、あわててうなずいた。
「え、きいてるよ」
「よそみしてただろ!」
「ううん。きいてた、きいてた」
「よそみしながら、きくな!」
カサネも、うっけのほうを向いた。
「ごめん」
「きかせて」
「うん」
うっけは、息をすった。
「じゃあ、五組のことは?」
カサネは、すぐにはこたえなかった。
さっきまで、きしきし鳴っていた教室が、しん、とした。
「ここに来ればいいと思った。でも、なんでか、わからない。あたまの中に、ないところがある」
うっけは、すこしだけ、だまった。
名前が出なかったときのことが、ぽんと浮かんだ。
名前は、あるはずだった。
でも、くちの中で、すぽっとなくなった。
「……それ、ちょっとわかる」
まるみが、うっけを見た。
「ちょっとだけだからな」
カサネは、床を見た。
「でも、ある」
「え。なにが、あるの」
「まるみが、笑ってたんだ」
「でも、うっけは、ずっと怒ってた」
「ずっとは怒ってない。ちゃんとしてたい、だけだ」
まるみが、あは、と笑った。
「え。怒ってたよ」
「二人で言うな」
そこで、カサネが、すこしだけ笑った。
うっけは、言い返そうとした。
でも、カサネが、先に言った。
「三人で走った」
うっけのくちが、止まった。
まるみも、カサネを見た。
「黒が来て、こわくて、足の音が、ばらばらで」
カサネは、そこで止まった。
でも、目はそらさなかった。
「でも、三人で走った」
まるみは、もう笑っていなかった。
うっけも、なにも言わなかった。
「それは、おぼえている」
きし。
教室のどこかで、床がちいさく鳴った。
まるみは、くちを開きかけた。
でも、なにも言わなかった。
うっけは、すぐにはなにも言わなかった。
「……なら、いい」
カサネは、うなずいた。
そのとき。
ろうかのほうで、
こつ。
ちいさな音がした。
三人は、いっせいに戸を見た。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
12話は 5月19日 1:00に更新します。




