10話 よっこらしょっと
このお話は全年齢向けの作品です。
気軽に読んでいただけたらうれしいです。
ひなたのにおいがした。
中庭のまんなかの木から、光がこぼれていた。
その光が、木の教室に入ってきて、三人の足もとをてらしていた。
「うっけ」
「なに」
「名前、呼べた」
「……まるみ」
「うん。まるみ!」
カサネは、となりで、ゆっくりまばたきした。
「名前、呼びあいごっこ」
「ごっこっていうな」
カサネは、すこし考えた。
「じゃあ、呼びかけあい。呼べるの、いいね」
「まあな。すごくいいとかは、いわないけど」
まるみが、あはっと笑った。
「え。すごくいいよ!」
まるみの目は、もう教室の中へいっていた。
木のゆか。
木のつくえ。
木のいす。
広いまど。
中庭。
「みたいものが多すぎる」
「その前に、これからどうするかだろ」
うっけは、カサネに向きなおった。
「ここ、なんなんだよ」
カサネは、木のゆかへ目を落とした。
「四年五組」
「それは、さっききいた」
カサネは、くつの下を見た。
「でも、ぼくたちはたっていられる」
うっけも、足もとをたしかめた。
くつの下に、木のゆかがあった。
黒ではなかった。
「……黒じゃない。それは、わかる」
うっけは、教室をぐるっと見た。
「で、ここでどうするんだよ」
カサネの目が、入口のほうへいった。
「待ってたら、センセイが来ると思う」
まるみが、ぱっとかおを上げた。
「先生、いるの?」
カサネは、すぐにはこたえなかった。
「うまく思い出せない。でも、ぼくがセンセイって呼んでるひとがいる気がする」
うっけは、まゆをよせた。
「あやふやだな」
「あやふやだね」
まるみは、つくえといすの前で止まった。
「じゃあ、すわる?」
「なんで」
「待つなら、立ってるより、いいよ」
まるみは、近くのいすに手をかけた。
「よっこらしょっと」
「おばあちゃんみたいにいうな」
ぎ。
木のいすが、ちいさく鳴った。
まるみは、そっとすわった。
「すわれた」
まるみは、すぐに、となりのつくえをゆびさした。
「……あっちにする」
「え、なに。どうしてそっち?」
まるみは、いすから立った。
ぎ。
ひとつとなりへ、いすをひいた。
「こっちのが、二人のかお、みえる」
うっけは、まるみの席をたしかめた。
たしかに、そこからなら、うっけもカサネも見えた。
カサネも、まるみのつくえのほうへ来た。
「ぼくも、そっちがいい。二人がみえるから」
「おまえもかよ」
「みえるほうがいい」
うっけだけが、まだ立っていた。
まるみが、うっけを手で呼んだ。
「うっけも、こっち」
「なんで決まってるんだよ」
「二人のかお、みえるよ」
「それ、理由になるのか?」
カサネが、つくえに手をおいた。
「理由になる」
うっけは、カサネに目をやった。
「そこは、はっきりいうんだな」
「うん。はっきりしてる」
うっけは、近くのいすをひいた。
ぎ。
すわる前に、つくえをすこしだけずらした。
まるみが、にこっとした。
「え。そこ、こだわるじゃん」
「ずれてたんだよ」
うっけは、すわった。
木のいすは、すこし固かった。
でも、ちゃんとすわれた。
まどの外には、中庭の木が見えた。
まるみは、つくえのはしを、そっとなでた。
「なんか、学校みたい」
「学校だけど、学校じゃないだろ」
「そうなんだけどね、いいなって思った」
カサネが、つくえに手をおいた。
「ここなら、話すときも、きくときも、二人がいる」
「こんなに近くなくても、いいだろ」
「でも、近いほうがうれしいよ」
うっけは、すこしだけだまった。
「……まあ、とおいよりは、ましだ」
カサネは、すこしだけ笑った。
三人は、すわっていた。
うっけの前には、まるみと、カサネがいた。
「それに、二人とも、目がはなせないからな」
しずかな、木の教室。
ここなら、呼べば、ちゃんととどきそうだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
11話は 5月18日1:00に更新します。




