嘘つき②
空腹に耐え兼ねた私たちは、駅に着くまでにある和食のチェーン店でお腹を満たすことにした。高校生には少し値段は張るけど、入学式の日だからとか適当な理由をつけて席に座った。
稲川が徒歩なものだから、自転車だと十分も掛からないのに三十分も歩くことになってしまった。受験期にまともな運動なんてしていなかったから、もう足が悲鳴を上げている。お昼のピークが過ぎてすぐ座れたのは、不幸中の幸いではあるけど。
歩いている間、稲川と色々話した。受験期のこととか、中学のこととか。
稲川が一般受験だと言われたときは、少し驚いた。面接が苦手だから推薦は受験しなかったらしいけど、私からしたら得意そうに見えて仕方がない。人付き合いに躊躇いがないというか、自分で波を起こせるから。
「わたしこれ」
ブレザーを脱いでひとりでメニュー表を眺めていた稲川は、もう注文を決めたみたいだった。
私もメニュー表を開いて、ぼんやりと料理の写真を見つめる。
足の疲れと空腹もあって、もはやどれも美味しそうに見えた。蕎麦も好きだし、定食でお腹を満たすのも悪くない。鍋は流石に重いと思うけど、この際それでも構わなかった。
「稲川は、どれ?」
全然決められそうになかったから、とりあえず稲川に訊いてみた。
「これ。なんとか丼」
そう稲川が指を差していたのは、たくさんの具が乗った海鮮丼だった。端にはこの店の名物と書いてある。
「ふぅん……」
「宇田は?」
前屈みになって、稲川が目線を送る。まだ決まっていないとは、言いづらかった。稲川もお腹が空いていると言っていたし、私も早く食べたいし。
「じゃあ、一緒ので」
稲川の選んだなんとか丼を、私も指差した。
決して稲川に合わせたわけではない。たぶん、不本意だ。ひとりだったらもっと悩んで、きっと他の何かになっていた。鍋でもよかったし、他の丼ぶりでもよかった。
だから、「じゃあ」はいらなかったのかもしれない。それだと、稲川と同じだから選んだみたいになってしまう。
全く、そんなことはない。
「ほーん……。じゃあ頼んじゃうよ」
「あぇ……うん」
案外、稲川の反応は淡白だった。澄ました顔で、タブレットの注文を進めている。
今日の流れを汲んで身構えた私が杞憂だったのだろうか。てっきり、また煽るような顔をしてくるのかと思っていた。
狐に抓まれたように瞬きをしていたら、注文を終えた稲川が私の目を覗き込んできた。
「残念。分け合いっ子したかったのに」
「あぁ……」
稲川は、稲川だった。




