嘘つき④
「本当に家まで来るの?」
「行くよ」
腹ごしらえを終えて何食わぬ顔で歩き出したけど、私の家まではまだ一時間は掛かるところにいた。
稲川の家が学校に近いなら、今はどんどん離れていっていることになる。明日から早速授業が始まるというのに、そんな長旅をしたら初回から居眠りでもしてしまいそうだ。
「私は別にいいけど……」
「ならいいね」
なんだか他人事みたいだけど、困るのは稲川だ。確かにバスはあるけど、これだけのために運賃を払うのもよく分からない。明日になれば、また話せるんだから。
遅めのお昼ご飯だった所為か、もう日は傾き始めて夕方と言っても違和感のない時間になってきていた。日が落ちる前には私の家に着くと思うけど、稲川が戻る頃にはもう真っ暗だろう。
「私、稲川の家まで送らないからね」
「えーん」
そんなことをしたら、日まで越してしまいそうだ。初日から補導は、流石にいただけないだろう。
「あと、家も入れないよ」
泊めないことは念押ししていたけど、入れないとまでは言ってなかったから、釘を刺しておいた。稲川に隙を与えると、すぐに付け込まれてしまうから。
「だめすか」
やっぱり企んでいたみたいで、稲川は分かりやすく肩を落としていた。先手を打っておいて、よかった。
「部屋、汚いし」
「わたし気にしないよ」
「私が気にするよ」
いくら同性でも、段ボールと服の散らばった部屋を見せるわけにはいかなかった。届いた教科書も整理していないし、ぬいぐるみもたくさんある。一言でまとめれば、恥ずかしい。
「お姉ちゃんだっているし」
稲川にとって理由になるかは分からないけど、姉に友達を紹介するのは少し気まずかった。思春期と言われればそれまでだけど、冷やかされそうで嫌だった。
「宇田って姉妹いたんだ」
「お姉ちゃんだけね」
五つ上で、絶賛大学生をしている。私が家を出るまで寝ているし、最近は朝帰りだって多い。そこまで人に自慢できる姉ではなかった。
「めっちゃ見てみたい」
「なんか、やだ」
「えぇん」
なんとなく、稲川には会わせたくなかった。
姉には、稲川に通ずるところがある。適当なところとか、意地悪なところとか。昨日だって、新しい制服を茶化されたばかりだった。だから、もし二人が結託してしまったら、私の体力は到底保ちそうにない。
「宇田はどこまでもけちだ」
「けちでけっこう」
今日という日を、無事に終えることはできるのだろうか。




