第20話 エピローグにはまだ早い
「――というわけで、リスナーの皆さん。説明が遅れてしまいましたこと、大変申し訳ございませんでした」
六本木の公園で話した次の日、ひなたんこと雛坂日奈子は、謝罪及び説明の動画を出した。
現在、交際中の男性がいること。
その男性とは婚活で知り合い、今も継続中であること。
その男性と、結婚を前提にお付き合いを始めたこと。
それらの説明をしていなかったこと、 今まで隠していたことを謝罪した。
その上で、今後も応援よろしくお願いします。と伝えていた。
その動画のコメントには、温かい言葉が添えられていた。
婚活応援しています。
ひなたんが幸せになるなら俺も嬉しい。
これからもファンであり続けるよ!
人妻声優も結構いるしな。
等々。
まぁ中には「うらやまけしからん」とか「そいつを◯して俺が取って代わりたい」とか抜かしてる奴いるけど。こえーよ。
まあでも、顔出ししてるわけじゃないから、簡単に特定はされないだろう。
俺だけが例外だっただけさ。
サポーターの人数が減ったのは避けられなかった。
あれほどの炎上だったし、本気で好きだった人や裏切られたと感じた人は相当多かったのだろう。しばらくはその余波の影響はあると思う。
まぁその時は俺が雛坂日奈子を配信で、鶴山美鳥をデートで支えればいい。
それが、俺だけができる唯一無二の仕事ってわけだ。
「ただなぁ……やっぱり言えてないんだよな」
オタクであることは言えた。エロゲーマーであることも言えた。
ただ、雛坂日奈子のファンで、鶴山さんがその本人であると気づいている……ということはどうしても言えなかった。
だってさ……やっぱり嫌じゃない?
交際相手が自分の声のキャラクターで致してるとか、考えたくないだろ。
まぁエロゲしてる時点で、それを払拭するのは無理かもしれないけど。
これまで俺が知らないふりをしていたことは無かったことにはできない。
というわけで、その秘密だけは未だに継続中というわけだ。
まぁ、鶴山さんもエロゲ声優であることは結局打ち明けてこないわけだし、お互い様ということで……。
え? 結局変わってない?
そうかもしれない。
それでも俺たちはさ。
確実に前より一歩進んだんだよ。
「お兄ちゃーん、なんかおつまみ作ってー。買ってきたあたりめなくなっちった」
おおっと。リビングで居座ってテレビ見ながら酒飲んでた妹様からの呼び出しだ。
俺の家に勝手に上がり込むのはそのままなのだけど、別に部屋には入ってこないので、案外実家と変わらないもんだ。
冷蔵庫と戸棚を漁り、適当に素材を見繕う。
「素麺でいいか?」
「はー? おもっきり主食じゃん。まあ別にあったら食べるけど」
「いや、茹でるんじゃない」
「?」
「揚げるんだ」
「なにそれうまそう」
これが案外つまみになるんだ。皿うどんみたいにしたり、チーズと一緒に揚げたり。
「ああ、そうだ。ゆき」
「うん?」
「俺、正式に美鳥さんと付き合うことになったから」
「ブッ!! ごほっごほっ」
ビール噴き出しやがったコイツ。
「汚ねえな。ちゃんと拭いとけ」
「えほ、ごほ……びっくりさせないでよちょっと! お兄ちゃんのせいだからお兄ちゃんが拭いてよ」
「勝手にびっくりした方が悪いに決まってんだろ。ほら、これ使え」
布巾を投げてテーブルに着地させる。こいつに掴ませるようなことはしない。
「いきなり急接近過ぎない? やっぱナイトパレードが決め手で告白したの?」
「いやそういうわけじゃねえけど」
まああらゆることが遠因にはなった。
「へー……下の名前で呼んでるし、ガチなんだねえ」
「……まぁ、意識改革だな」
へぇーへぇーと馬鹿にするような顔でこちらを見てくる妹。揚げた素麺突き刺すぞこの野郎。
「まぁ順調なら良かったよ。たまにはお兄ちゃんからお母さんに伝えなよ。近況聞きたがってんだから」
「なにが嬉しくて自分の恋愛事情を親に話さにゃならんの?」
「早く孫の顔が見たいんだとさ」
「んな早く孫ができるかよ」
「そういうことやってんの?」
「そもそもやってねえわ」
「プラトニックラブとか今時流行らないよ」
「むしろ今時なんじゃね?」
昔のドラマの方が性に奔放なイメージ強いけどな。
揚げた素麺の皿うどん風と、チーズのハサミ揚げを出して、俺も夜食用に皿に盛る。
「んじゃ部屋に戻るから。あー洗い物とかー……やってくれてるととっっっても助かるなぁー」
「んー。気が向いたらやっとくわ」
向かなくてもやれよ半居候がよ。
結局やらないだろうし。まぁいつものことだ。
部屋に戻り、俺はスマホを手に取る。
美鳥さんに電話する為に。
「あ、もしもしお疲れ様です美鳥さん」
「陽彦さんお疲れ様です。すいません仕事が長引いちゃって」
美鳥さんの仕事は夜遅くまでやってることも多いらしい。それが何なのかは教えてもらっていないが、概ね見当がつく。
ASMR作品とか同人作品の出演の場合、意外と夜遅くに打ち合わせをすることが多いらしいのだ。
本業だけでなく、そういう仕事にも精力的であるということだ。
「次の休みは分かりましたか?」
「あ、はい。分かりました! えっと……」
こうして、俺たちは俺たちなりの速度で、デートを続けている。
きっとこの先……難しい問題だったり、大きな壁にぶつかるかもしれない。
その度に悩んで、できることを探して、解決を目指す……前に進んだからには、そういう物語もあり得るだろう。
だから。
エピローグにはまだ早い。
俺はまだ、経験を積み重ねている最中なのだ。
まあ差し当たって今、考えることは一つだ。
——次のデートは、どこに行こうか?
これにてこの作品は一区切りとなります。ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。




