第14話 ボイスセーブは一応するけど活用できたことはない
「ふぅ……」
先月買っていたエロゲの最終パートまでプレイ。クリアした俺は一人ため息をつく。
……とても良かった。
異世界転生してきた主人公が、あらゆる主人公の能力を引き出し手助けしてくれる可愛い神様(cv.雛坂日奈子)を引き連れて無双し、旅先でヒロインを助けて嫁にしていくシナリオ。
最後は神様含む嫁一同総出で魔王と戦い、一人の犠牲もなく討伐して大団円を迎えるエンディングだ。
ハーレムものとして王道過ぎるが、最近ではこのくらい分かりやすい作品が多い。それに掛け合いが面白くて読んでいて楽しいのだ。
エロゲーと言うと多くの人間が「ヒロインとエロいことをする」のがメインのゲームだと頭に思い浮かべることが多いだろう。
確かにそれがメインである作品群もあるのだが一概ではない。
感動的なシナリオだったり、掛け合いが楽しいコメディだったり、学園ラブコメだったり。
多種多様な種類があるが、その多くはシーンではなくシナリオがメインなのである。
その上にキャラクターとの密事があり、関係を深めていくシーンもある。というだけだ。エロゲなのだから当然だ。
今回の作品も、ガワは王道だがキャラクターが可愛く(特に神様)、掛け合いが楽しい作品だった。
つるきちはこの作品をプレイできないなんて、なんともったいないのだろう。
「……」
このあいだ、「鶴山さんとつるきちは姉弟である」という衝撃的な事実が判明した。
おまけに二人揃ってエロゲオタクであり、つるきちに至ってはエロゲ声優の姉を持っていることになる。
だが、つるきちは姉がエロゲ声優であることを知らないようだ。
というより思いもよらないというところか。
まぁ気持ちはわかる。
よっぽど特別な声をしていて、かつ普段聞く声と同じならばやっと判別できる。というのが一般論。
余程でないと声だけで人を判別できない。
俺が判別できたのは、ラジオや配信で普段の声を聴き込んでいることと、俺自身がその声に惚れ込んで細部まで聴いているから。
……それほどにキモいオタクであるということは置いといて。
普段の姉の声しか知らないつるきちは演技している姉の声など生で聞いたことはないはずだ。
だから繋がらない。
身内がエロゲ声優だなどと発想もないだろうし、おそらく雛坂日奈子は「姉に似た声でキャラを演じるキモい奴」となって生理的に無理なのだ。
……大体推測なのだが、そんなところだろう。
と、保存したキャラクターボイスを聴きながら思う。
『あなたのエッロエロな願望を叶える為にわざわざ降臨してあげたのよ! この世界を救う為に、さあその力を覚醒させていくわー!』
それにしてもテンションが高くて良い声だなぁ。
この後もう一人のメインヒロインである元奴隷美少女も出てくるが、なかなか流行りそうな感じでキャラ人気凄そうだなと思う。
声も結構かわいい。物静かでネガティブな雰囲気が出ている。
声優の名前は「てるもとふみ」……か。マークしておこう。
「ん……?」
何かが引っかかった。
最近どこかで聞かなかったか?
ふみ……ふみちゃん……。
「あっ」
思い出した……鶴山さんの横にいた人がそう呼ばれていた……。
なんてこった。あの人声優だったのか!
しかしバレた理由が……鶴山さんが呼んだからって……。
「しっかりしてくれよ……鶴山さん」
自分の名前をNGと言ってたのに、他人の名前は暴露してどうする。
まああの場だと俺はエロゲを知らないことになっているし、弟も声優に興味がないから大丈夫と判断したんだろうけど……。
あ、そもそもあれか。あの場で自分が雛坂日奈子だとバレていないなら、名前を読んでバレることはないのか。
「……別にしっかりしてないわけではないの、か」
状況が特殊なだけか。
であれば、残る問題は……。
「やっぱアレか……」
俺はスマホに目を向けた。
遊園地デート以降、俺は鶴山さんに次のデートの予定を話せていない。
というか、そう頻繁にデートするものではないのかもしれないが、そもそもこのデートの目的は何だったか。
お互いを通して結婚について考えることだ。
それはすなわち、自分が結婚したいと思えるのかと、相手は結婚相手として見られるようになるのか。ということである。
「…………」
今のところ自分はどうなのか?
雛坂日奈子は推しだ。それはエロゲをプレイして変わらないことがわかった。
では鶴山さんとしてはどうだ?
例えば「交際を中止しましょう」と言われたら?
「……嫌ではあるな」
そう。嫌ではある。だが、向こうの意志を尊重したいとも思う自分がいる。
一方で向こうはどう考えているのかわからない。
——遊園地のナイトパレードを二人で見るって、それ告白みたいなものじゃない?
「……………………」
この前、妹に言われた言葉を思い出して思わず机に突っ伏す俺。
鶴山さんに次のデートの連絡ができない理由の一つだ。どう顔合わせればいいのかわからないのだ。
「……でも多分、鶴山さんも同じなんだろうな」
エロゲショップの前で出くわした時のことを思い出す。あのテンパりようはデートの時のことを考えた可能性も十分考えられる。
だが、ああやってオフの日に顔を合わせてしまったのだ。もうごまかすことはできない。
「……となれば。だ」
『たすけてつるえもーん』
ボイスチャットツールを開いてポコっとチャットにメッセージ。
『なにを?』
『相談がある。今いい?』
かかってきた。いいらしい。
「相談ってなに。嫌な予感がするんだけど」
「そうか、お前超能力者になれるぞ」
「え゛なに……どういう無茶振りするつもりなの」
「今度鶴山さんと会う時お前も来てほしいっていう無茶振り」
「は? やだよ」
せやろなー。
「いやそこをなんとか」
「嫌に決まってんだろー! なんでそんなさーダチと姉貴がイチャつくとこ見なきゃなんねーんだよー」
「いや、誤解だってそれ。まずイチャつくような関係ではないんだ」
俺は現状どうなっているのかを話した。
「……なんでそんな亀みたいな進展なの? 1ヶ月以上経ってない?」
「俺が恋愛をよく知らんからだよ」
「呆れるわー」
お前も変わらんだろ。協力してもらえなくなると困るから黙ってるけど。
「で、そんななのに、こないだ遊園地に行ってさ」
「遊園地?」
「ナイトパレードを一緒に見た」
「告白じゃん」
やっぱそうなんの!?!?
「学園モノのエロゲでその後告白しますよ的シチュエーションじゃん。もう落としにかかってるじゃん。くらさん主人公ムーブしててヤバい」
「ヤバいかーやっぱ」
ナイトパレードにそこまでの効果があると思ってなかったんだよ。俺がやったエロゲじゃ見たことなかったからー!
「なので、誤解を解かないといけないわけです」
なるほど。と嘆息するつるきち。みんなにそこまで呆れられるとかトラウマになりそう。
「結論から言って、多分大丈夫だよ」
「……はい?」
ものすごくサラッと言うつるきち。
「姉貴もくらさんとそんな変わらんから」
「え? あんなに……いやなんでもない」
綺麗なのに? と言おうとした口を噤む。弟相手に何を言おうとしているんだ。
「姉貴は今でこそ垢抜けてる感じだけど、学生時代は文学部だったんだよ」
「マジで?」
「うん。オタクだったから」
「そこ関係なくね?」
「あるんだよ。腐女子でなんか男の絵ばっか描いてた」
衝撃。
「それで乙女ゲーばっかやってて、でも気がついたらエロゲやり始めてた。俺はそのエロゲを勝手に借りたのが姉貴にバレて死ぬほどキレられたのがトラウマ。今でも怖いよ」
なんというエピソード。てか鶴山さんもキレることあるんだ……?
ああ、だからこいつ会った時に「ゲッ」って言ってたのね。
「そんなだから学生時代は浮いた話も聞いたことない。家には男どころか女友達きたところも見たことないから」
なんか親近感湧いてきたな……。
「まぁだから、多分くらさんとそんな変わんないと思う。認識とか」
同レベルかー。
「それとは別に思うところはあったと思うけど……」
「ん?」
「や、なんでもないわ。聞き流して」
「お、おう」
「だから、俺は行かなくてもいいはずだ。多分大丈夫だ」
「なるほど」
まぁ弟として見てきたわけだから、信ぴょう性はあるかもしれん。
「だがそれはお前の推測でしかない。可能性は否定できないからやっぱり来てくれ」
「嫌だっつってんだろー!!」
仕方ないだろ。不安なんだよ。
なんとか説得や買収までして、その日に遅れて合流することを約束させたのであった。




