幕間 若きバリキャリOLの憂鬱
大倉由貴美。
大手化粧品メーカー営業部門部長。
それが私の肩書き。
一応学歴も年収も兄より良いことが私の取り柄。
27歳で部長なわけだから、相当期待されてると思っていい。
あるいは使い潰されるか。
——ふんっ、簡単に潰れてやるか。
私はFIREして酒呑んで暮らすって決めてんの。だから私は実家を離れてないのよ。それが一番金が貯まるんだから。
……酒代だけは別枠ね。
「高木ー。あそこの営業資料出してくれたー?」
「すいませんまだです! もう少しかかります」
「もたもたしないでよ。あんたのところで止まってんだからね、この案件」
「申し訳ございません!」
「謝らなくていいから早くやって」
めちゃくちゃテンパってるなー高木。
私より歳上なんだから堂々としててよ。なに歳下の私にへこへこしてんだか。
……部長だからよねー。
元々サバサバした性格だから、その……言い方がね。気をつけてはいるつもりなんだけど、忙しくなるとストレスが溜まって……あー酒飲みたい。
「新堂ー? 銀座のやつのサンプル取ってきて」
「ずっとそこに置いてますー」
「あ、ほんと。ありがと」
逆に新堂は若いのに有能。ただ聡い子過ぎて一足飛びで物事を進めてしまう。いったいいつから置いてたのよこのサンプル……。
ん? なんか紙が敷いてある。
——ここの企業さんから新しいサンプルができたので一度お伺いして欲しいそうです。
「早く言えよ!!」
思わず机をぶっ叩いた。社員が驚いて全員が静止してこちらを見ている。
いや新堂だけ見てないじゃん。こんにゃろう。
「んんっ……ごめんなさい。森部ー手空きそう?」
軽く咳払いして、手が空きそうに見える社員に声をかける。
「これの次は赤坂のとこに出す資料作りだったんですが」
「その辺に振り分けといてもらえる? であたしについてきて。誰かさんがホウレンソウ怠ったせいで行くのが遅れた銀座にすぐ向かわないといけないから」
「もうある程度まとめちゃってるんで、その誰かさんを連れて行った方がいいんじゃないですか?」
森部は犯人を見ている。よく分かってるね。
「新堂、あんたの仕事は高木に引き継ぎなさい。おはなししながら出張にいくわ」
「はーい」
軽い返事。舐め腐ってるなあ。
銀座のショップに電話してアポを取る。先方の都合で結構ギリギリになりそうだ。全くもう。
新堂をきっちり叱ったあと、出張の案件も終了。帰る頃には夕方になっていた。
あーもう……今日中に終わらせなきゃいけない案件が残ってるのに。また残業じゃないの。
「部長っていつもぴりぴりしてますよね」
「あー?」
雑談のつもりだろうか? それにしては話題が剣呑な。
「そりゃピリピリさせる奴がいるからね」
「ご愁傷様です」
お前や。
「彼氏と上手くいってないんすね」
「彼氏なんかいねーよ!」
なるほど、喧嘩売ってただけか。
「えー。でも部長ってたまに家に帰ってないとか彼氏の家に入り浸ってるとか聞いてますよ」
「意味がわからん。そんな事実ないわ」
その予定もない。
「てかどこでそんな噂が」
「さあー? 私は聞いただけですしー」
喋り方も鼻につくのよねコイツ……。
「事実無根だからそんな噂。簡単に信じないで——」
急にスマホが鳴る。誰よこんな時に……兄?
「もしもし。どしたの」
『あのさ。女性をデートに誘うのってどうすればいいんだ?』
ブチッ!
頭の中の何かがキレた。
「そんなこと私に聞いてくるなこの甲斐性無し!」
言い捨てて通話を即切り——したところで生々しい視線を感じた。
「……部長やっぱ彼氏いるんじゃないですかぁ、なんで嘘つくんですかー恥ずかしいんですかー?」
げっ……こいつがいたの忘れてた。
「違うのよ! これはそういうんじゃなくて」
「なんかデートとか聞こえましたよー? 彼女にどこに行きたいって聞いてきたから怒ったんでしょう? 甲斐性無しー! ですもんねー」
うぐ……微妙に辻褄あってんのなんなのよ。
「あのね、そういう痴話喧嘩じゃなくて」
「痴話喧嘩ですか! やっぱりお付き合いしてるんですね」
「だからー! 話聞けやー!」
その後なんとか誤解を解けたものの、残業中にまた兄から電話が来て、新堂含む残った社員(新堂が広めた)全員になまぬるい目で見られるのだった。




