雷環の幻影
『おい、おいどうした、返事をしろ!』
「………っ…」
事態が悪化の一途をたどっていることは理解している。
犯人の確保、その後何らかの方法で生み出された『穢れ』の存在。
戦場となっている館の一室は『代償契約』の力によって破壊は免れているものの、内部では更なる問題が発生したことも分かっているつもりだった。
だからこそ援護に向かわねばならない。
だというのにこの身体は一切の動きを否定し、全身に力を入れてなお指の一本を動かすことさえできていない。
『クソ…ッ、音も映像も繋がらんか…! アイリス、私もすぐに向かう。戦えないのならそこから離れていろ、分かったな!』
待機していたハイネも事態の重大さに気付いた。
けれど式神からの情報は満足に伝わっていないらしく、私も伝えられる状態にない。
「———っ」
「……ぅ、ぁ、ありが、とう……」
接続の切られた式神ウサギ、辺りを見渡すと動けなくなった私をこの場から離そうとしてくれているのか袖を引っ張ってくれている。
ですが小型の式神一体では人一人動かす力は持っていない。
心配そうにのぞき込んでくる式神ウサギに、何とか動かすことのできる瞳だけで感謝を伝えるものの、このままでは危険なことに変わりはない。
それは私たちだけでなくこの灯日という都市全体にかかわる問題だ。
窓から覗くことのできる漆黒の肢体。あれは間違いなく『穢れ』のものであり、あの体積では建物自体の容積を超えるのに時間はかからない。
(なぜ…、他の圏士……増援がこないのでしょうか——)
自身の肉体についてもそうだが、現状の疑問として優先度は劣る。
一階、式典の行われていた会場から洩れる光からしてまだ中には招待客がいるようだ。いくら二階で行われている戦いの衝撃から建物を護ることのできる能力が発動しているとはいえ、十全とは言えないはず。
その上、それが援護を行わない理由にはならないはず。
(すでにあの『穢れ』は一級相当の力を持っている…、灯日内での発生なら灯日内の圏士全員を集めても大げさとは言えない事態なのに…っ)
それこそが最も分からない。
どれほど弱い『穢れ』であろうとも、都市内部に一体でも侵入は許されないのに。討滅局の動きはあまりにも緩慢と言わざるを得ない。
むしろこの状況を見逃しているかのような——。
『あら? どうしたのかしらアイリス、真面目なアナタが敵を前にしながら寝転がっているなんて、珍しいこともあるのね。フフ』
それはあまりに可憐で、美しい少女の声だった。
声は真上から、私を見下すようにかけられている。このような態度で接する相手を、私は一人しか知らない。
「く——っ、やはり、貴女のせい、ですか…!」
色を失い、時間の流れが緩やかとなっていく。
地を這う高さを見上げた先には素足の少女の姿、私の契約する『代行者』。
周囲に敵がいない以上、私の身体を拘束することができるのは彼女しか存在しない。
『ワタシのせい? 酷いことを言うのね、アナタのことを心配したからこそ止めてあげているのに?』
しゃがみこみむと私の頬に手を添えて目線を持ち上げられる。
見ることが叶った彼女の顔はひどく楽し気でありながらつまらなさそうにも聞こえた。
「な…にを……いうのです……っ、手を貸さねば二人が危険に——」
『そんなこと今さらでしょう。あの連中がどれほど強くても弱くても、アナタたち圏士は馬鹿みたいに命を捧げているじゃない。勝つか負けるか、それだけのことでしょう?』
「彼等の戦いを…愚弄しないで下さい……!」
『そう? 怒らしちゃったならゴメンね、でもアイリスまでいたら過剰でしょう? いざとなって自己犠牲でもされたら興醒めだし、そうなったら色々と困るの』
「困る…?」
『そう、だって——、あら、もう抑えきれなさそうね』
既に興味は此方にない。
振り向いた先、そこではロストたちが戦っているはずの部屋の直上に存在する屋根が限界を迎えようとしていた。
『穢れ』の巨大化に対して部屋自体を護り切れなくなっているのだ。
『じゃあアイリス、苦しそうだけどそのままでいてちょうだい。アナタ一人いなくったって、隅っこでじっとしてれば全部終わっちゃってるでしょ』
「貴女は、一体何をしようと…」
『フフフ、しばらくすれば分かる時も来るんじゃない? その時のことを考えると楽しみね。ええとっても、待ちきれないくらい楽しみだわ——』
「………」
そうして彼女は姿を消した。『原型』の中へと戻っただけではあるものの、私の身体はいまだ動かないままでいる。
(契約しているとはいえ、まさかここまで干渉可能だったなんて……!)
予想外の状況に悔しさが先行する。
「…っ。なんとか、他の圏士に連絡を、しないと」
それでも先ほどよりはまだ身体が動くようになっており、『代行者』がこれまでよりも肉体への干渉を緩めているのが分かる。
(彼女の目的を考えている余裕はない。はやく移動を——)
彼女の言葉を真に受けるつもりは毛頭ないものの、この場にいて役に立てないのは事実でしょう。そして彼等の援護を行う圏士がいない、何らかの理由で気づいていないのなら私にも出来ることがある。
「———!!!」
「きゃ…っ、…あれは」
激しい破壊音と共に屋根を突き破り、音の無い咆哮を上げながら天へと昇る『穢れ』の姿は伝説にある龍そのもの。
大樹ほどに大きな体を波打たせながら、地上を睥睨している。しかし視線の先には己の敵である存在、その一点を見つめていた。
いまだ満足に動かせない身体を這わせながら見上げた先。そこにいたのは他の誰でもなく、戦い続けている一人の圏士。
目の前の悪意を打倒すべく、契約の力をその手にした彼が地上から飛び出していく。
空へ昇る黒い龍を追って地上より白雷が空へと立ち上って刃を振るう姿だった。
「——ぁ、っ、ロスト…」
その姿を、せめて最後まで見届けようとしながらも、しかし私の意識はそのまま闇へと落ちて行った。
□ □ □
「このッ、硬ぇ!」
追いすがるように身体を蹴り上げながら眉間を狙って刀を振るうが、小型であった時よりもさらに硬度が増している。弾かれた刃によって飛び散る白雷は火花のように瞬き、夜闇の中でおれの居場所を明確に知らしめていた。
「馬鹿真面目に相手してねえでもっと弱いとこ狙えよ。…略式ィ!」
『穢れ』を追いかけて跳び出していたサガが、巨大な身体の死角を縫って現れたのは『穢れ』よりも更に上、眉間の真上を宙返りしながら凄まじい速度で引き金を引いた。
これまでより強い神威の弾丸、軌道を描くのは4発だが銃声は一度だったようにしか聞こえなかった。
まったく別々の方向に撃ったように見えたが、そうでないことはすでに分かっている。
2発ずつ、それぞれ『穢れ』の両目に割り振られた弾丸は、おれが斬った他の部位とは違い生物と同様に柔らかい。
そこへ向けて、サガは早打ちでありながら精密な狙いを以て弾丸を打ち込んでいた。
「もうちょっとか」
「———!!」
だが角度が浅い。
眼球の表面を削ることには成功したものの、自然落下に移行しているサガへ向かって顎を開き、1本が人の頭ほどもある牙を覗かせる。
「やっぱ脳みそ詰まってねえと単純で助かるね」
サガはすでに大きく開かれた顎の中。そのまま口を閉じてしまえば圧死は免れないというのに不敵な笑みが崩れることはない。
「いいとこに弾けよ!」
「——ッ!!」
再びの射撃は正面の『穢れ』相手ではなく横へ向けたもの。
そこにいるのは敵ではなく、味方であるおれ一人のみ。
「またか、このォ!」
弾丸をおれへと向けた以上、初めから狙いは跳弾による曲芸射撃。
「ま、そこならいい」
略式契約によって単純な威力が跳ね上がった弾丸を力任せに弾いた先、全く予想できないであろうはずの弾丸に向けて、サガは弾倉に残された最後の一発を放った。
真上に跳ね上げた弾丸、サガの位置からは狙いである目の位置が見えるわけもなく、そこに向けて跳弾を起こすなど、神懸かり的な技術があっても不可能だと断言できる。だというのに、おれは一切の疑いを持たずに弾き上げ、サガは当然のごとく動きの読めないはずの弾丸へ狙いを合わせ、引き金を引いた。
「———!??」
小さな弾丸は直角の軌道を描き、一部の狂いもなく『穢れ』の右眼へと着弾。弾丸の勢いのままに頭が押し出され、閉じようとした顎はサガの真横で噛み合うこととなった。
「オ…ラァ!!」
この機を逃すわけにはいかない。
態勢を崩しながらも落下することない身体を蹴り飛ばし、傷を負った右眼へと刀を突き立てる。
「このまま…ッ!!」
神威を一気に放出、内部から白雷で『穢れ』を焼き切ろうと力を籠める。
「—————!?!!!」
「……ぐ、ぁ…!」
苦しんでいるのか、音無き咆哮で空気を震わせながら空中でのたうち頭を力任せに振るう。大きな音というよりも振動そのものが全身へと打ち付けられ、体が外と内から破裂してしまいそうになる。
「ち……、むり…か! ハアアア!!」
このままでは倒す前にこちらが死ぬ。
置き土産に突き立てた刀を、右目から身体に向かって走りながら『穢れ』を切り裂いていくが、鱗の強度によって動きが止まり切る前に飛び退いた。
落下しながら上空の『穢れ』を見ると、両目を失った痛みのせいか追撃を仕掛けることもせずその場で飛び回っている。
「ハハハ、見てみろロスト。アイツ、あの図体で治る怪我を痛がってやがる」
「アンタあのまま食われるとか考えないのか」
「オメエならとりあえず銃で撃たれて死ぬってことはねえだろ」
「そうかよ!」
討滅局内の適当な屋根に着地してもう一度飛び上がろうと助走をつけながら考える。
(おれとサガだけじゃ倒し切れないか…!)
そして、このまま二人で戦い続けたところで決着は目に見えている。
今付けた傷もそう時間を掛けることなく修復される以上ジリ貧となり、倒し切れず時間を掛ければ灯日への被害につながる。
(——そういえば、やけに静かだ)
地上に降りて気が付いた。
さっきまでいた館の一階にはまだ客がいたはずだし、いくら建物が強化されていたとしても破壊された以上は気づかないわけがない。
だっていうのに一切の騒ぎはないうえ、来客だけじゃなく圏士や瞳士、式神の一匹さえ辺りにいないときている。
(いくらなんでもおかしいだろ)
疑念は疑惑へと変わり、おれの知らないところで物事が動いているのではないかと思わされる。だが、その疑惑も考えている余裕がないのも事実だ。
「まず、アイツを始末しないと…!」
結局はあの『穢れ』をどうにかしなければ未来はない。
全力の略式では首を落すことは出来ないことは分かった。なら、残された手段は一つ。
(街中で使ったりしたら、下手すればもっとひどいことになっちまうかもしれない…っ)
おれの具象契約をぶち当てればヤツの鱗でさえ撃ち抜ける可能性は高い。
だけどあれはまだ使いこなせていない。投擲の余波で辺り一帯が吹き飛びかねない威力を有しているのはエイオスとの戦いで分かっていた。
「けど——」
使わなければ勝利もない、何とか威力を抑えながら——。
「おいロスト、具象使うってならアイツの上からにしろよ」
「は、上から? 馬鹿言うなそれだと灯日に落ちる」
「ああやっぱり、んなことで威力緩めようなんて考えてんじゃねえだろうな」
「……サガの具象契約では倒せないのか」
「そういうんじゃねえからな、オレのは」
サガの具象契約を見たことはない。もしかすれば気まぐれで使っていないだけかと思ったけど、どうやらそうでもないらしい。
「ったく察しが悪ぃな、流れ弾は何とかしてやるってんだよ」
「なんとかって、…出来るのか?」
「口にした以上はな」
「……分かった」
普段から問題を起こす男ではあるが、それでも圏士を続けていることに違いない。
己の実力を見誤るような力量でないことは今の戦闘で分かった。…そのサガ自身が出来るっていうならそう信じるしかない。
「あぁお前信じ切ってねえな?」
「出来るんだろ、ならやるぞ。出し惜しみは…しないからな」
「あいよ」
ニヤリと笑うサガを背に、『原型』へと神威を籠める。
為すべきことは定まった、不安が無いわけじゃないがそんなもの大小あるだけでいつものこと。仲間ができると言ったなら、おれもやれることをやり切らないと。
「——————!!」
傷を負い、空で身をくねらせていた『穢れ』は右眼とその周囲に傷痕を残しながらもほぼ修復され、地上にいるおれたちに向かって殺意を向けている。
「ハハっ、ずいぶんと熱い視線送ってくれんじゃないの」
「おかげで狙いが付けやすいけどな」
「所詮、元々は魚ってことだろ。脳みそこんなだぜ?」
「はっ、…って集中すんだからあんま邪魔すんな」
一か八かの状況でさえ軽口をたたいてくるせいで緊張感というものがどこかに行きそうになっている。というか、サガが一緒なら具象契約を使わずとも勝ててしまうんじゃないかと思ってしまっている自分がいた。
こんなんじゃ気が抜けてると言われても仕方がない。
「それくらい何とかしやがれってんだ。ああ一応先輩としてアドバイスしてやるよ、略式だろうが具象だろうが、力の使い方は変わらねえ。一瞬で決めたいならリラックスしろ。んで、ぶち抜くときだけ力籠めるこった。じゃ、オレはこっちだから」
言いたいことを言うとそのまま別の建物の屋根へと向かったかと思うとすぐに姿を見失った。人となりを知らなきゃ逃げたと思われても仕方のない動きだが、そこがサガにとって都合がいいなら、おれに言うべきことは何もない。
「…たく…分かったよ、…具象契約」
言われた通り、体の力を抜いて早くなりつつある鼓動を意識して抑えようと、神威の流れをゆっくり、そして言葉を紡ぐごとに段階的に加速していく。
「代償をここに。来れ雷霆、其は万象破壊する神雷の覇王…!」
『代行者』はいまだ代償の中身を教えてはくれないが、見えないものを恐れて立ち止まってはいられない。誰かを助けるために一々損得勘定をしていられるほどには落ち着いていないから。
ゆえに、この力を振るおう。
おれに許された不相応な力であろうとも。あの怪物を天から地へ叩き落すことができるのならば、この身を焼き尽くそうとも構わない。
「神器…具象! 形骸神骨、黄昏殺す神滅の刃……!!」
雷雲を思わせる霞に覆われた右腕に握られるのは神の骨格、柄を中心に両方向へと刃が伸びた独特な武具。
「お前が生きるために俺たちを殺そうっていうならそれはできない。生まれてきたことを許すことは、出来ないんだ」
以前とは違い武器としての形状を保ちつつも、今回も完全な具象には至っていない。刃は不規則な明滅を繰り返し、右手には灼ける様な痛みが発せられていた。
「終わらせるぞ。本当のところ、任務はお前の相手じゃない」
この戦いの発端、あの謎の『原型』を持ち、圏士を襲っていた少年がなぜ犯行に及び、その力を得るに至ったのか。知るべきことは山ほどある。
お前の存在もまた知らねばならない。だが、そのためにもまずは——。
「死んでもらうぞ」
「———??!」
身体が驚くほどに軽い。
具象契約によって強化された肉体は一跳びするだけで、空中にいたはずの『穢れ』よりも高い位置へと到達している。
明滅する刃から感じる力は不安定、一度間違えれば『穢れ』を貫くことなく弾かれかねない。
だが、サガの言葉は理解できた。
(——そうか、こういうことか)
意識は驚くほど透き通っていて、不安定ながらもヴァジュラの力が移り変わる様が手に取る様に分かった。
強大な力だとはいえ、常に制御しようとする必要はない。
暴れようとするのならある程度遊ばせておけばいい。ただ決死の一撃を見舞うその瞬間に全霊を籠め、不純物の一切を排除して放つのみということ。
「終いだ——ッ」
「————!!」
咆哮は空気を打ち震わせ、俺を内側から破壊しようとする。
だがもう遅い、お前の咆哮が届くよりも速く、この手を離れるヴァジュラの力は何物をも穿ち貫くのだから。
瞬間、この手にあったはずの雷撃は完全に姿を消し去る。今は何も必要ない、力は放つべき一撃にこそ籠めさえすれば構わない。
「———ッ」
限りない集中、狙うべき場所も打ち砕く命も、この手の内に収まっている感覚。
刹那、黒雲へと姿を消したヴァジュラはこれまでに見せたことのない輝きを以て、己が存在を夜空に知らしめ、『穢れ』へと叩き込まれた。
空気を裂き、振動を上書きし、漆黒の顎の中へと雷の光は消える。
しかし刹那の時を経て、内側より破壊されたのは『穢れ』の方だった。あれほどに強固であった刃の様な鱗も、ヴァジュラの余波を受ける度にガラスのように砕け、端から端まで跡形もなく消え去ろうとしている。
「————————————」
咆哮は残響となり、遠く、小さく消えていく。
それはまるで、死へ対する恐怖を抑えきれなかったかのように。
「じゃあな……」
集中は長く続かず、一撃に籠めた力は自分でも驚くほど消耗させていた。
次に命あるものとして生まれたならせめて言葉を交わせるよう、叶わないだろう妄想を覚えながら、おれは力なく落下を始めた。
眼下の街が、消え去っていないことだけはちゃんとこの目に捕らえながら。
□ □ □
「本当に一言教えてやっただけでコツをつかむかよ……?」
神域の森の破壊痕、アレを知っていた以上倒すことは出来ると思ってはいたが、まさかこれほどに簡単にやられてしまうとは。
もうちょっと苦戦するとかのドラマがあっても良かったんじゃねえかと思う。
「ヤダねぇ若者は前だけ見て突っ走りやがるから」
その顔は他の人間には見せることのない苦笑、普段から馬鹿げた態度を取って内心に踏み込まれたがらない彼にとっての仮面の一部が剥がれていた。
「こりゃあちょっと予想外だ」
想像していたよりも馬鹿げた威力による雷の一撃に、手間を食わされていたはずの『穢れ』がアッサリと、その身を朽ち果ててゆく様子を地上から見上げる男が一人。
夜空を切り裂く雷の光に目をやられないよう、握られた拳銃で影をつくっている。
「さぁて、一応約束しちまったからやってやりますかね」
とはいえここには既に彼以外の誰一人いないことは分かってる。
目的はどうあれ失敗が即灯日消滅につながるというのに手間のかかることをしたものだと舌を巻く。が、犯人を捕らえ、名付級の『穢れ』の討滅も上手くいった以上、問題は無いということかもしれない。
むしろこれこそが初めから狙いだったのか?
「下っ端はヤダネ、ホント」
必要以上に首を突っ込むつもりはないのだが——、まあいいさ。気が向いたらその時だ。
とりあえずすべきことはこなしておかないと怒られかねない。
「ハッ、具象契約——!」
紡がれる契約は雷撃の音によってかき消され、彼にしか分かりはしない。
だが、その後のことなら誰もが一目見れば理解し、同時に疑問を呈していただろう。
なぜならば土埃が晴れた時、数舜前まで存在していたはずの都市は消え去り、辺り一面は生命の気配一つない、この世界を覆う荒野と化していたのだから。
「やっぱりな、まあ文句も言われねえだろ」
天より地へと一つの命を奪い去ったままに落ちる雷は、次の瞬きが終わるころにはすでに、サガの手に残光を残して地上から姿を消していた。
「っと、あとはアイツか。余波でどっか吹っ飛んでると……。お、はっけーん……けど間に合っかなアレ?」
残された圏士は落下してくる後輩をどう受け止めたものかと首をひねり、とりあえず何も考えずに駆けだしていった。
□ □ □
「——い、おい。起きろ」
「ん……、あ?」
「あ? じゃねえ、とっとと起きろ」
肩を小突かれた衝撃で目を覚ますと、ゆっくり体を起こす。
そこは討滅局内の一室に似た部屋だったけれど、見覚えのない部屋で詳しい場所までは分からなかった。
「……ぅ…」
体を起こした瞬間、なんとなく頭がふらついた気がしたが、それも隣から欠けられた声で吹っ飛んでしまった。
「ロスト、ご無事でしたか?」
「うぉ、っとアイリス近いって、おれの方は大丈夫…だと思うからさ」
声に反応してみてみると、目の前にアイリスの顔が現われる。いきなりすぎて流石に驚いてしまった。ちょっと体引いても離れてくれないし。
「んだよロスト、見せつけてくれるじゃねえの」
「そういうんじゃねえ、…アイリス、ホント大丈夫だからちょっと離れてくれ」
「そうですか、具象契約を使ったと聞いていたので、ご無事でしたらよかったです…」
ほぅと胸をなでおろすアイリスとこっちをニヤニヤ見つめてくるサガ。二人の様子からしてあの『穢れ』は倒し切れたと見ていいのか。
「あれからどれくらい経ったんだ?」
「大して経ってねえよ、丁度日が変わるくらいだしな」
すると、壁に掛けられていた時計が音を立てて日が変わったことを教えてくれた。すると二、三時間くらい眠ってたのか。
「……あの犯人は?」
「彼であれば取り調べのため連れていかれました。我々が遭遇した時よりも老化がひどく進行しており、聞きだせるかどうかは怪しいとのことです」
「……そっか」
「ハイネもカルディアさんもそちらへ向かったので、またお会いした際にお聞きできるかと。サガさんからの報告にあった『原型』らしき武具と、『穢れ』を生み出した折り紙、その二つは非常に重要な情報ですから」
「そうだな、そうするよ。…それにしても会場の人たち大丈夫だったのか? 二階とか思いっきり吹っ飛んでたけど」
戦闘中の討滅局には人の気配が感じられなかった。
先に逃がしていたのかとも思ったけど、増援も無かったしあの時のことは良く分からないでいる。
「それが、私も……気を失ってしまっていたのですが、目が覚めた時には元通りになっていて…」
「あー、それなぁ」
「知ってるのか? って、それよりも気絶してたってアイリスの方こそ大丈夫なのか?」
「はい…大丈夫です、理由も分かっては、いますから…」
「そう、か。でも次に何かあれば呼んでくれよ。できることなら手伝うから」
「…はいっ」
「話さなくてもいいなら帰るぜオレ」
「待てって、聞くから」
頭を掻きながら嘆息するサガだったが、口を開こうとしてドアの向こうから近づいてくる足音に注意を向けた。
「いや、オレから話す必要はなさそうだ」
「「?」」
二人して疑問符を浮かべていると足音はドアの前で止まり、向こうから開かれる。そして、そこに立っていたのは——。
「こんばんは、ロストさん。今回の件は助かりました」
ここしばらく姿を消していた討滅局局長、リッカ・ルアックの姿だった。
「リッカさん? ……っ、っとと…」
立ち上がろうとした時にまたフラついてしまう。アイリスに支えてもらいなんとかコケるのは阻止できたが、やはり具象契約の消耗はそう簡単には消えたりしない。
「大丈夫そうなら場所を移そうと思っていたのですが、お疲れの様ですね」
「あ、いや、大丈夫です。立ち眩みみたいなもんですから」
「そうですか? であればこちらに」
着いて来るように言うとリッカさんは先を歩きだした。その移動中に聞くと、この屋敷はどうやらリッカさんの、というかルアック家ということで、討滅局に似てる内装もそれが原因らしい。
代々局長って職に就いていると、家と職場が似てくるのか。
「ではこの部屋にどうぞ。頼んでおいたのでお茶も用意してくれているはずです」
来客用の一室だろうか。
小さめながらに長机とソファが置かれていて、腰を下ろすだけで価値のある家具だということはおれでも分かった。
「それで、どういうことなんですか?」
座り心地がすこぶるいいという、慣れない感覚に少し戸惑いながらも問いかけると、リッカさんは気まずそうに頬に手を添えて話し始める。
「何と説明すればいいでしょうか。ロストさんとサガさんが戦っていた場所は討滅局ではないのですよ。アイリスさんについては…そうですね、別の場所の出来事を見ていた、といいますか」
「………」
「別の場所?」
「え? ……いやそれはちょっと良く分からないんですけど…」
「あはは…、そうですよね。それだけ言われても分からないですよね。今回の回帰事件のことですが、フォムドさんはロストさんたち三人に任せてはいましたが、出遅れながらも我々も動いていなかったわけではなくてですね」
「要点だけ言えよ局長殿、早く帰って寝たいんだ」
「おいサガ」
「構いません。サガさんにも大変助けられましたから、その前に一口だけ失礼します」
部屋に入った時には既に注がれていたカップを口に運び、息をつくと硬くなりすぎないよう改めて姿勢を正し、穏やかに話し始めた。
「我々がやっていたのは今日の式典、そこに犯人が現われた時に確実に拘束するための行動でした。それまでの被害者から、彼が式典を狙うことはほぼ間違いないと踏んでいましたし」
それは、そうだろう。
式典の警備に携わる圏士が書かれた機密資料、局長であるリッカさんであればすぐに確認できたはずなのだから。
「ですので、彼がエウリナさんを連れ込んだ一室を外側から強化し、絶対に抜け出せないようにした上でとらえようとしていました。…白状すると、ロストさんが間に合っていなければエウリナさんが危なかったのは本当ですが」
「……間に合ってよかったです」
「ええ本当に。感謝してもしきれません。おっと、脱線してしまいますね。ロストさんたちの疑問についてはこの後ですね。我々もロストさん達が犯人を倒した際、これで終わりだと思っていましたが、あの『穢れ』が現われました」
「はい」
「『穢れ』を灯日内にいれてしまった時点で我々の敗北に等しくはありましたが、まだ汚染はなく間に合う。そこで急遽、あの部屋ごと転移させ、都市の外へと飛ばすことで時間を稼ぐことにしました。増援が到達する前に倒していただいたわけですが」
「転移、させたんですか?」
「待ってください、私は建物の外から様子をうかがっていましたが、その時には間違いなく屋根を突き破る『穢れ』を目視しました。転移させたというのであれば、私はその様子を見ていないはずです」
「転移と同時に、僕は具象契約を発動しました。……言ってしまいますが僕の能力は“幻影を生み出す能力”のようなものでして、それなりに現実感のあるものを創り出せます。万が一、『穢れ』にバレないようにもあの場の全員を能力の対象としていたため、アイリスさんも巻き込まれてしまったんだと思います」
「え、えーっと、……つまり、おれとサガは『穢れ』が現われてからは灯日の外に移動させられてて、周りが討滅局なのに誰もいなかったのはリッカさんの能力で幻影を見てたから、って言ってます?」
「はい、その認識で構いませんよ」
「……だってよアイリス」
「にわかには信じられませんが…」
戦ってる最中に感じた違和感が人の有無だったが、言ってしまえばそれだけで建物の存在や灯日内の空気感みたいなものには一切疑ってはいなかった。
灯日を一歩外に出れば荒野特有の乾いた空気が広がっている。アレをごまかしていたといわれても簡単には信じられなかった。
「ですので、もし式神が繋がらなかったのならそれが原因かと思います。単純に距離が離れていましたし、そのせいで増援が遅れてしまったのは申し訳ありませんが……」
「倒せたんだから別にいいだろそれくらい。んで、客共にはバレてねえのか?」
「はい、事情を説明するとエウリナさんもすぐに落ち着きを取り戻してくれましたし、二階の戦闘音などは届きはしなかったのでバレてはいません」
もっと、初めから安全な環境で出来ればよかったんですけれど。
目を伏せ、少し悲し気に口にすると気持ちを切り替えるようにカップを口に運ぶ。
「ロストさん、アイリスさん、サガさん。今回の件、本当にありがとうございました。そしてすいません。僕がもっと早く対処できていればこのような事態にはならなかったかもしれないのに」
「謝らないでください。まあ…色々大変でしたけど、何とかなったんだしいいじゃないですか。そういえば、あの子…犯人はどうなるんですか?」
「すいませんロストさん、彼は今回の事件について重要な情報を多く持っています。彼の仲間が情報漏洩のために、何かしらの行動を起こさないとも限らないため、彼の居場所や処遇を伝えることは出来ません。ハイネさんから聞くのも控えてください」
「そう、ですか。分かりました…」
「心配、されているのですね」
「まぁ…、べつに許したわけでもないですけど、アイツの事情にもっと早く気付いてやれればもしかしたら、犯行止めたりする手助けくらいはできたんじゃないかって。…思い上がりかもしれないですけど」
「例え思い上がりでも、そのような意思を持つ人が仲間であることを嬉しく思います。これからも力を貸していただければ、僕も助かりますしね」
「は、はぁ」
真正面からそう言われると、自分で口にしてはいるものの何やら気恥ずかしい。
「んじゃ、話はこれで終いだな。疑問も解消したしオレは先に帰るぜー」
「あ、おいサガっ」
飽きたとばかりにさっさとでていってしまった。
なんとも気分屋というか、でも今のはなんとなく機嫌が悪そうにも見えた。
自由人気取ってるし、局長を前にするのはイヤだったりするのか。
「構いませんよ。引き留めていたのは僕の我儘みたいなものですから。今日は遅いですし、お二人も帰られた方がいいですね。ロストさんは、一度医者に診てもらった方がいいかもしれませんが」
「そうですロスト、以前は右腕の炭化が起こっていましたし、今回も異常がないとも限りません」
「いや、自分では全然何ともないつもりなんだけどな。疲れはあるけど」
目が覚めてから真っ先に右腕は確認していたけど、本当に何ともない。前にボロボロだったのが嘘みたいに外傷は全くなかった。
(二回目で慣れてきたのかな?)
改めて拳を握ったり開いたりしてみるけど、やっぱり自分では何ともないように感じるし、問題があったとしても逆に良く分からない。
「やっぱり何ともなさげだし、病院には気が付いた時にでも——」
「いけません、ロスト。そのような甘い認識が身体を壊す原因となるのです。…それに、その頬の傷は犯人につけられたものではないのですか?」
「え? ああそうだけど、掠り傷だしいまだに身体も縮んでないし」
指を顔に運ぶと薄いながらに血が渇いた後が残っている。
キリエの様に能力の直撃を受けたわけではないから子供に戻るって言うこともないけど、効果そのものが発揮される以前の傷だったということか。
「その傷の影響も調べた方がよいのではないのですか?」
「あー…。明日起きたら行きます」
「そうするべきかと。私も一緒に行きますので必ず検査は行ってください」
「はい…ちゃんと行くから。連行しないでいいから」
「ふふ、お二人が初めて会った時からずいぶんと仲良くやってくれているようでよかったです。アイリスさんも以前より柔らかな雰囲気になりましたし」
「そうでしょうか」
「ええ、そうですよ。それではあまり引き留めても休めませんね。良ければ泊まっていきますか?」
「ああいやそんないいですよ、こんな良いとこだと逆に落ち着かなさそうですし、おれはあの狭い部屋がちょうどいいですから」
「私も失礼させていただきます。今日はありがとうございました」
「あはは、そうでしたか。ですがお礼を言うのはこちらの方です。今回の件、本当にありがとうございました。明日は休みにしておきますのでちゃんと病院に行っていただいて、これからもよろしくお願いします」
「…はい、ちゃんと行きます」
「それでは局長、失礼します」
「失礼します」
「はい、ご苦労様でした。夜道に気を付けて」
柔和な笑みを浮かべたリッカさんに見送られ屋敷を出る。いつの間にか雲も消え、ほのかに差し込む光は星と月が控えめに主張していた。
「ん?」
外に出ると鼻をくすぐる匂いが風に運ばれてくる。
どうやら花の香りがすると思い、見上げていた視線を落とすと、そこには暗がりでも分かる手入れの行き届いた庭園だった。
(流石、こういうとこにも金がかかってるもんなんだな。っていうか職人技的なことか)
よく花壇を作りましょう、と言いながらもついぞ取り掛かることのしなかった同居人のことを考えると、ここまで綺麗に育て上げる忍耐というものの凄さを実感する。
「………」
ふと横を見ると、アイリスも興味深げに花を見ながら進んでいるのに気が付いた。正門の前まではそうかかりそうにもないし、少しくらいゆっくり歩いてもいいだろう。
「———、…?」
「やはり家までは一緒に向かった方がいいのでは?」
正門を超えて道路に出ると、リッカさんの家はちょうどおれとアイリスの住む家の中間地点だということが分かった。となると反対方向まで着いてきてもらうのも悪いし、ここで別れようと思ったんだが。
「いや大丈夫だって。流石のおれでも野たれ死んだりはしない」
「ですが今も頭を押さえていましたし…」
「それに反対方向ってもおれの家はそこまで離れてないし、心配しすぎだって」
「……そうですか? 本当に?」
それでも心配そうに見つめてくるアイリスの様子は、いつもの確認というよりも他に気になっていることがあるようにも見える。
おれの方で思い当たる節があるとすると『穢れ』との戦闘だけど、なんかそういうのとも違うような…?
「ほら、ここでたむろってても仕方ないだろ。アイリスも疲れてるだろうしここで別れよう。それにほら、明日の病院にはついてきてくれるんだろ?」
「はい、ロストの具象契約は非常に強力なものですから、全くの無傷で扱えるかといわれるとやはり心配ですし」
「そう言ってくれると嬉しいけどさ。寝てる間中傍で待機してもらうわけにもいかないし、どっちにしても一緒だろ」
「はい…、その通りです。では、何かあればすぐに連絡をくださいね。これが…寮共有で使っている電話の番号ですから、式神がいない場合はこちらにお願いします」
「ああ、もし会ったらキリエにも言っといてくれ。なんでこの番号知ってるんだってとこから説明しなきゃいけなくなる」
「分かりました。…それではロスト、気を付けてくださいね」
「分かったって」
懐から取り出した紙とペンでさらさらと書き上げられたのは電話番号。それを受け取ってようやく、アイリスも反対方向へと足を進めだした。
とはいっても度々振り返るくらいには心配してくれてたみたいだけど。
「さて、と、おれも帰んないと。寄り道してたらアイリスに怒られちまうな」
こんだけ言って帰ったのはあれからしばらくしてから、なんて言おうものならアイリスに口きいてもらえなくなる。エイオス倒した後の病室なんかは、自分の身体を囮に使った件で病室に二人っきりなのにしばらく黙り続けていたしな。
「でも、まあアレはおれが悪いな。今回のことも…」
今回も『穢れ』は何とかなったが、もっといえばおれがちゃんとあの子を拘束できていれば、大事にはならなかった。『穢れ』を生み出す道具の有無を知らなかった、ではすまされない。
「切り替えられるようにしないと…ダメなのかな」
皆を救いたい、その想いは変わらないし、けど難しいことだっていうのは分かってる。それでもどこまでならおれの手を伸ばすことができるのか。それを、まだおれ自身が分かっていない。
「はぁ…ダメだダメだ。疲れてるから気が滅入ってる。明日からちゃんと考えられるようにしないと」
これから先も、取捨選択を間違えてしまうかもしれない。
「……っ、くそ…まだふらつくな」
安物のアパート、ボロイなりに住み心地の悪くない家に着くころには、平地を歩いているのに真っ直ぐ歩けていない感覚だった。
階段を上がり、なんとかドアを開くとそのままベッドに向かって倒れ込む。
倒れ込むというよりもたれかかるといった方が正しかったけど、おれの身体はもうそんなことを気にする余裕もないくらいの倦怠感に包まれ、意識するまでもなく眠りに落ちて行った。
□ □ □
お高そうな廊下敷きやら絵やら壺やら、どこを見ても分かりやすい金持ちの家をあらかた見終わる頃、丁度いいタイミングで歩いてくる男の姿。
普通に歩いてるつもりかもしれないが慎重深い足取りのソイツの前へと、廊下の角から身を出してやる。
「よお、待ってたぜ? ずいぶん様子見してたみたいじゃねえか」
「……んだよサガか、さっさと帰ったって聞いてたけどな?」
「気が変わったのさ。局長様のご自宅に忍び込まなくても入れてもらえるなら、何か面白いものの一つでも見つけなきゃ損だろ。アンタもそう思わないか、フォムド一級殿?」
訝し気な目でこっちを見てくるがそんなことはどうでもいい。別にコイツの信用が欲しくて待ってたわけでもない。
「で、何の用だ? 飲みの誘いなら明日にしてくれや、いい感じに誘ってくれりゃ俺も面倒な仕事を抜け出す口実が出来るってもんだ」
口を開くとそれまでの表情は一変し、誰がも知るサボり魔のフォムド・クロードの姿を見せる。
「いやそういうのいいって。オレらキャラ被ってんだからさ、そらもっと普通に話して見せろよ」
「つってもこっちもテメエと話すことなんて何もないぜ? ああ、アレか、今日の戦闘の特別賞与でも貰いに来たのか」
「くれるってんなら貰うけどな。なぁにそう身構えるなって、聞きたいこと聞けたら帰ってやるから」
「…へえ? なら言ってみろよ。その聞きたいことってやつを」
「えぇ~、マジで言ってんの? あのフォムド一級ともあろうお方がずいぶん話が通るじゃないの。逆に怖くなっちまうぜ」
いつもなら適当にはぐらかして立ち去ろうとするってのに、やけに神妙な面持ちをしていやがる。これじゃあどう隠しててもきな臭さが強くなってくるというものだ。
「さっさと話せよサガ。テメエの悪ふざけに付き合ってやるほど暇でもねえんだ」
「はじめっからその態度で来りゃあ、オレも遊んだりはしないかもな」
「チっ、で?」
「アンタらさ、ロスト使って何やろうとしてんの?」
「んだよそんなことかよ。別にどうとも考えるもないだろ。今日の『穢れ』騒ぎを二人で処理させたのは悪かったけどよ。出来る限り灯日から飛ばしたかったから援軍送るにも位置が遠かったんだよ」
つまり、あの面倒な『穢れ』の相手を二人でさせた半分は事故。そりゃああのデカブツから時間を稼ごうと思えば、とりあえず成長しきる前にどっかに飛ばしちまうのが確実。
んで、急いでたから何も考えず、出来る限り遠くにやっちまったって言ってやがる。
「クク……」
んだよそんなことか。
なんて、気の利いた言葉でも言ってやれればよかったかもしれないが。それは流石に無理ときたもんだ。
「ずいぶんとスラスラ言葉が出てきやがるじゃねえか。オレがここにいるの分かってて準備してたろ」
「まさか、正真正銘本当のことだ。俺もロスト共に仕事を押し付けたが、裏では色々調べてたりしてたんだ。まあなんだ、囮みたいにしちまったから、次ハイネちゃんと会った時には殺されちまうかもだがな」
「あっそ。じゃあいいや。そういうことならそうしといてやる」
「…テメエが何を考えてるのかは知らねえが一応忠告しといてやる。知りもしねえことにあんまり首を突っ込まねえことだ」
「ハハ、んなもん分かってるよ。じゃあなフォムド、あんまりオレをがっかりさせたりしないでくれよ」
「……」
さて、しつこく聞いても答えそうにないし今日はここで退いておこうかね。
(首を突っ込むな? 馬鹿言うなよ、突っ込ませたのはアンタらの方なんだからな)
はてさて、これからどうにも騒がしくなりそうだ。
ここ最近ずっと退屈だったからな、いい刺激になってくれればそれ以上のことはねえ。
オレを甘く見てるようなら足元掬ってやるさ、逆にオレがやられるならその時はその時ってな。
屋敷の外に出るとフォムドと話していた場所に目をやる。
そこにはもうアイツの姿はなかったが、どっからか監視されてるのを感じた。どうにも怒らせちまったかもしれないが。
(関係ないね。オレにもオレの仕事ってのがあるのさ)
じゃあ帰るか。
仕事以外にやることも見つけたし、これから忙しくなりそうだ。
□ □ □
楽し気に立ち去るサガの姿が消えたのを見送ると、リッカのいる部屋に向かう。
「おや、どうかしましたか?」
アイツの相手をしたせいでちょっと乱暴にドアを開けてしまい、振り返ったリッカに少し驚かれた。
「いや、どうにもサガの野郎が嗅ぎ付けたらしくてな」
「彼は好奇心の強い人ですからね。仕方ありません」
「そんな軽く済ませちまっていいものかね」
「それくらいの気持ちで進めないと必要以上に疲れてしまいますから」
「…本当にうまくいくのか?」
「ずいぶん複雑な顔をしていますが、やはり乗り気にはなれないようですね」
「そりゃあそうだ、第一上手くいってもいかなくても問題が山積みだからな」
「それを何とかするのが僕たちの仕事ですよ。例えどれほどの苦難が待ち受けていたとしても、僕達は進まねばならない」
「……ああ、分かってるさ。でなきゃオメエに付いてきてねえ」
「ありがとうございます。そうだフォムドさん」
「…んだよ、そのイイ笑顔は」
「回帰事件、ロストさんたちにも手伝ってもらうとは聞いていましたが、丸投げとは聞いていませんでした」
「ぐ……っ」
リッカが灯日から離れている間のことだから、オレなりにいい感じにしたつもりだったがちょっとやり過ぎたか。
いつもの様な笑みを浮かべるリッカだが、アレは笑ってない。オレには分かる。
「これではまだ任務達成とは言えませんし、お休みを与えていいものかと考えてしまっているのですが。フォムドさんはどう思います?」
「…………ちょっと、残業してくるわ」
「本当ですか? いやぁ人手が足りなくて困っていたんです。どうぞよろしくお願いしますね。報告はいつも通り式神経由でお願いします」
「へいへい……」
「そうだフォムドさん、言い忘れるところでした」
「ん?」
部屋から出て行こうとすると呼び止められた。他に何かあっただろうか。
「これからもよろしくお願いしますね。頼りにしてますから」
「そりゃどーも。オメエもくたばる前に飯食って寝ろよ」
「あはは…善処します」
「んじゃいってくる」
「はい」
苦笑を浮かべながら見送るリッカの姿。
正直行きたきゃないが、ここで逆らうと後が怖いので大人しく従うしかない。
「まずはどうしたもんか」
するとハイネちゃんのところに行かないといけなくなるが、最初に殺されないようどうするかを考えておかねえとな。
□ □ □
「報告を」
そして、部屋に取り残された討滅局の局長はそれまで見せていた感情の色を消し、何者かに向けて声を上げる。
「——こちらに」
その場に他の人間がいれば驚いたことだろう。
頭からつま先まで黒装束の、顔を窺い知ることも出来ない男たち。彼等がそれほど広くもない部屋に現れていたのだから。
声を上げるのはリッカの前で膝をつく一人、この男が代表ということだろう。
音も空気の揺らぎ一つも起こさず、現れた黒装束は“影士”と呼ばれ、その存在を知る者はまずいない。局長であるリッカ自身、そして補佐官であるフォムドくらいのもの。
しかし、命令を可能とするのはリッカのみ。存在を知るフォムドでさえ、姿を見たことはほとんどない。いわば討滅局局長の懐刀とでもいうべき存在であった。
何らかの報告を求められた彼等の内一人が膝をつきながら伝える。
「回帰事件の主犯である少年が姿を消しました。どうやら、“偶然にも空いた”警備の隙をついて逃亡したものと思われます」
「あーそれは、ええ、非常に困りましたね。後のことはお任せします」
「は、それともう一つ報告が」
「聞きましょう」
「“彼”が目覚めました」
その言葉を耳にしたリッカはわずかに口角を引き上げ、単純な喜びとも読み取れない笑みのようなものを浮かべた。
「分かりました。引き続き任務にあたってください。それと僕は戻りますので、日環まで伝言をお願いしてもよろしいでしょうか」
「構いません」
「僕に伝えてくれた内容そのままに、彼が目覚めたと言ってくれれば状況は理解していただけると思いますから」
「——は」
返答の後、瞬きする間もなく姿を消した。明るい部屋の中だというのに、窓から覗く夜闇へと溶けてしまう。何一つの痕跡も残さずに。
「時間はかかりましたがようやく準備が整いましたね」
独り言をつぶやきながら向かった先は自身の仕事机。そこに立てられていた写真立てを持ち上げると、写っていたのは自身と姉であり先代局長を担っていた姉、トーカ・ルアックの姿。
「姉さんは、きっと怒るだろうな……」
この身が為そうとしていることは、彼女からすれば受け入れがたいものだろう。しかしこの身は彼女とは違う、凡人なのだ。ゆえに、手を選ぶつもりもない。
「彼は、今の世界をどう見るのでしょう」
決して返ってこない問いを、天へと向かって投げかける。少しの間夜空を見上げていたが、その答えは当然返ってこぬままに夜へ溶けて消えていく。
残された部屋には影士も、リッカ自身も消え、まるで幻影を見せられていたかの様に誰一人の姿もなくなっていた。
彼の机の上に、焼け焦げた黒い人型の折り紙を残して——。
□ □ □
眠りに落ちた直後、彼は目を覚ました。
「なんだ、これは」
彼はそれまでふらついていたのが嘘のように立ち上がると、窓から地上の通りを眺め、その後部屋を見回す。
「なるほどな」
それもすぐ、一人納得すると傍に倒れていた『原型』を拾い上げ、ベッドへ立てかける。
「出てくる。時間はなさそうだがまあいい、見て回るくらいは出来るだろう」
そういうと、そのままさっさと部屋を出て行く。
この部屋には誰もいないはずだったが、しかしたった一人、残された者は確かに存在した。
「お前なら無理矢理にでも使わせないと思っていたが、相も変わらず俺には甘いらしい」
『…………』
煤けたエプロンドレスを身に纏った女性。
くすみ一つ無い白い肌と掛けられた眼鏡、背まで伸ばされた濡れた黒髪。彼女こそ、ロスト・ヘリオールの所有する『原型』に宿る『代行者』。
彼女は厳かに佇み、その所作に一切の乱れはない。
窓から薄く月明りの差し込む部屋の中央、舞いあがった埃が月光に反射している光景はどこか幻想的にさえ思える。
『行ってらっしゃいませ』
ドアの締まる寸前、姿勢を正すと手を揃え、頭を下げて彼の出発を静かに見送る。
その姿もまた、空想染みた物語の一幕のように美しいものだったのだから。
□ □ □
「………」
既に時刻は日を跨ぎ、歓楽街でもないこの通りでは定期的に設置された街灯のみが寂しげに道を照らすばかりで、歩く人の姿もなかった。
「特に何が変わるわけでもないか」
彼は独り言をつぶやきながら、あてもなく適当に歩を進めているだけ。この暗がりでは傍からすれば一見浮浪者のようにも見えたかもしれないほど。
「用があるなら早くしろ。俺にそう時間はないぞ」
だが、ここにいるのは彼一人というわけではなかった。
街灯の照らす道の先、隠れもせず中央に立つのは一人の老人だった。
「おまえ…だけは……おま…え…だ——」
彼へと殺意を向けながら、うわごとの様に同じ言葉を繰り返す。
その手には真黒に染まったナイフが握られており、どこからともなく透明な水が滴り落ちていた。
「ふん……?」
彼は老人を視認すると背を向け、興味なさげに目覚めた家に向かって歩き始めた。
「おまえ…だけは……!」
しわがれた、余命幾ばくもないとしか思えない弱々しい怒り、足取りは緩慢としていてもつれそうにもなっている。
「ああ、この傷のか」
頬につけられていた切り傷の存在に今さら気が付いた。
何をどうすればこの程度の男に傷をつけられるのか甚だ疑問だが、受けている以上はそういうこととして認識するしかない。
「まったく、くだらんことばかりなのは変わらんな」
ため息ともつかぬ言葉を吐き捨てながら歩みを止めることはしない。
まったくの無防備、殺意を向ける相手に対し武器もなく背を向ける彼の姿は、命を狙う老人からすれば愚弄以外の何物でもない。
「………おまえだけは!!」
しかし老人であったはずの男は、背を向ける標的が自身の間合いに入る瞬間、急激に若返り始めた。
緩慢であった足取りはしっかりとしたものとなり、それまでの動きと比較できない速度での急襲と化す。
速度の差が大きければ大きいほど、人の目は誤魔化され実施よりも速く錯覚する。
これこそ襲撃者の常套手段であった。
例え肉体の強化が大したものでなくとも、道具と錯覚の力を利用して目的を達成してきたのだ。
正面からの戦いでは不覚を取ったものの、自ら隙をさらす男の背を切り裂くため、最後の灯を燃やし尽くす覚悟、決死の一撃。
圏士は襲撃者の速度の変化に振り返る間もなく、ナイフが背から心臓を貫かんと全力で突き出され——。
「が——…………?」
次に気が付いたときには通りに並んだ店の一軒、その壁に身体を沈めていた。
間違いなくナイフを突き出し、背中に切っ先を差し込んだはずだった。だが何が起きたのかは分からず、肉体は急激な若返りの反動のせいか更に老化し始める。
「ぅ……ぅぅ………」
圏士へ向かって、ボロボロの腕を、ささくれ立った指先を伸ばす。
だが、圏士は面倒くさそうに一瞥するだけでまた歩き出していく。さっきまで間違いなく、向けられていた全霊の怒りも悲しみも何もかも、欠片の価値も無いとでもいうかのように。
やはり圏士が誰かを護ると口にするのは嘘ばかりだ。
……その中で、あの青年は、もうやめろと口にしていた圏士はもしかしたら違ったのではないか。どれほど綺麗ごとを並べようとも、実際にその力が振るわれることはない。誰かが護られることはない。
何もかもお終いになってしまった今となって冷静になってしまう。
「ぁ、ぁぁ…—————」
けれど最後に見た圏士の背は、あの時少年であった老人に手を差し伸べようとしていた青年と同じはずであったのに、どうしても同じ存在には見えなかった。
□ □ □
壁に向かって殴り飛ばした男を一瞥すると、彼は自身の起こしたこととは裏腹にあまりにも間の抜けた表情をしていただろう。
「しまったな、手を出すつもりはなかったんだが」
反射的にとはいえ、つい手が出てしまった。
目立つつもりも、相手をするつもりも毛頭なかったというのに。肉体、というよりも魂に染みついた習慣というものはそうなくならないらしい。
「まあ構わんか。餌としてもその程度だっただけのことだ」
しかしそれすらどうでもいいと言いのけながら再度歩を進めようとして、今度は彼自身の意思でその足を止めた。
「止まりなさい」
薄暈けた街灯の下、遅れて掛けられる少女らしき声、進行方向から歩いてくる一人の圏士。
「……ほう」
彼はほんの少し、驚きとも感嘆ともつかない息をつくと、姿を現わした少女を無視することなく対峙する。
「名前は確か……、いやどうでもいいことか。見ない間に多少はマシになったらしいな」
「再会して第一声がそれ? ふざけてる」
彼の記憶にある、泣きじゃくっていただろう幼子と比べれば幾分か成長した圏士の姿。
肉体的な成長はともかくとして、彼を前にして一切の隙を見せない姿から戦うものとして及第点はあると判断されたらしい。
以前の己であれば試しに手を出すのも悪くはなかったと。
隙を見せない彼女と打って変わり、隙だらけの彼は暫し考えていたものの、やはり興味なさげに彼女を置いて歩き始めた。
「そっちの都合など知らん。第一、俺は俺の幕を下ろした。貴様らの誰一人、干渉する気もされる気も無い。さっさと帰るんだな」
「……そういうわけにもいかない。貴方にはいろいろと聞きたいことがある」
「そうか、それなら一つ機会をやってもいい。俺の質問に対する答え次第だが」
「……なに」
「聞きたいことがあると言ったな。それは何のためのものだ」
「……」
彼女の目を見据えながら歩みを止めることはしない。
通り過ぎるその時までがタイムリミットなのだと言外に表しながら、彼女にとって世話の焼ける弟分の姿をした男はもう一度声を上げた。
「誰のためのものだ」
目の前、手を伸ばせば届くその場所で、僅か歩を止め問いかける。
「……っ」
よく知る青年と同一人物とは思えないほどの威圧感、かつての戦いを目にしながら、完全には理解しきれていなかった力の差を目の前にして分かる。
だが、その程度で怯んでなどいられないと拳を強く握る。
彼にはどうしても聞かねばならないことがあったのだから。
「もちろん、この世界に生きる人たちのため。そして、私自身のため」
その瞳には揺るがぬ意志を宿し、決して退くことを認めるつもりなどない。誰もが彼女を前にすればその信念に呑み込まれてしまいかねないほどのもの。
「そうか。なら応える義理はないな」
だが彼はあまりにもあっさりと切って捨てる。
「な…っ」
急激に興味を失われたことを肌で感じながら驚きが漏れてしまう。
「どういうこと、初めから答えるつもりなかったとでもいうつもり」
「お前の聞きたいことなど大方予想がつく。どちらにせよソレについては答えるつもりもない。アリスに似たらしいな、何よりも我を貫きもせずに対価を得ようなど笑わせるな」
呆れかえった声からはがっかりしたという感想しか言い表せない。
今の返答のどこに問題があったのか模索するが、この男を前にして常識的な返答を求めていたのが間違いだったのかもしれない。
「ん…? ああなんだ、もうか」
「なに?」
立ち去ろうとした矢先、手を見つめ何度か握り直すと足も止める。一体どういうつもりなのか、次の行動が読めず『原型』へと手を伸ばす。
「さて、戻りたかったわけでもないが、どうにも人というのは成長もせず生きているらしい」
「……そんなことはない。誰もが生きるために、前に向かって歩いてる。そのことを貴方に否定されたくない」
「そう思いたいならそれでいいがな。さて、時間切れだ。貴様らが何をするつもりかは大体分かった。俺とアイツの残したものをどう使うか見せてもらう。あまりにも不甲斐ないようであれば、その時はその時だ」
「……アイツ…? …っ、ねぇ…ちょっと、ちょっと待って……っ」
彼の口にするその人が誰のことかは分からない。
けれど、誰かを示しているわけでもないその言葉は否応なく彼女の心を軋ませる。
考えようとすると脳が理解を拒否しようと凄まじい痛みに襲われて、まっすぐ立つことすら難しい。
でもきっと、その人こそ彼女が知るべき存在、知らねばならない欠落した心の一部なのだと直感が告げている。なのに、手を伸ばすことさえ世界に否定されている。
「憐れむべきか?」
苦しむ姿を前にして、対して興味もない様子で一応とでもいうように声を掛けられた。
「ッ…、いらない…そんなもの…!」
その言葉を正面から睨みつけて跳ね返す。どれほど無様な姿でもこの男に首を垂れるなど嫌だったからこその意地。
「ならば見せてもらう。お前が圏士であると、人間であるというのなら」
「……いわれ、なくても…っ」
「ならば、俺は舞台の裏から見せてもらう。足掻き叫んで勝利してみせろ、“コレ”をどうするかは今を生きる貴様らが決めることだ」
「な……っ?!」
そこまで話すと、糸の切れた人形のように彼が“コレ”と呼んだ青年が倒れ込んできた。
時間切れと口にしていた通り、彼がロストの肉体から離れたらしい。完全に気を失っている様子で、このままでは受け身一つ取れないであろうことは一目で分かる。
「——、………もう…、人騒がせなんだから…」
ほぼ無意識に手を伸ばして抱きとめると、体格差のせいもあって支えきれずにその場へ座り込む。
「……、はぁ」
何も考えていない様子で眠るロストは肩に頭をのせて、静かな寝息を立てている。こちらの苦労なんて何一つ考えもしていない子供みたいで、ついため息が漏れ出てしまった。
「これも、仕方ないことなのかな。……ふぅ、ほらちゃんと捕まりなさい。家に帰るわよ寝坊助」
一向に起きる気配のない青年を背負って歩き出す。
消えたはずの亡霊を呼び起こしてしまったことが正しい選択だったのかはまだ分からない。
「けど、私は…人間だもの。この世界に生きる一人の人間……」
だから、癪だけどあの男の口にした通りに足掻くしかない。この世界を生きる者として、世界を生かす者として、一度でも諦めるわけにはいかないのだから。
そして、もう一つ。どうしても知らねばならない、過去確かにそこにあったはずの記憶、決して失ってはならなかったはずの頭の中の空白。
「絶対に、……取り返して見せる」
寸前、脳裏に奔った光景の何もかもはもはや思い返すことは出来ない。道は険しく、その先に答えがあるのかどうかすら分からない。
「…だからアナタも、諦めちゃダメよ。仮にも私の弟分なんだから」
眠りの底にいるロストに掛けた言葉は届いてなどいない。それでも意味はあるのだと信じている。
そう考えている時だけ、圏士になってからの記憶にある中で絶え間なく続いていた、どうしようもない頭痛が消え去っていた。
『本編について』
・久しぶりのアイツ
続編物なので当然アイツも出てきます。
あと代行者についてはこの時点だと残念美人にしようとか思ってましたが、実際のところはもう少し先に分かると思います。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。(https://x.com/kuroyonosuke)
・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。




