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『勇者は間に合ってます』 ~歴代最高の勇者の息子、商人と盗賊と遊び人を連れて旅に出る~  作者: 凡夫 成


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第9話 勇者は山を越えるらしい

勇者は間に合ってます。


でも冒険は、まだまだ間に合ってません。


今日もゆるっと行きます!


エミール村を出て。


しばらく歩いたころ。


四人は街道沿いの小さな休憩所に立ち寄っていた。


「魔王の情報?」


店主の男が首を傾げる。


「そんな大層な話は知らんなぁ」


「ですよね」


カンダはため息をついた。


ここ最近。


魔王を探しているはずなのに。


精霊女王に会ったり。


呪いを解いたり。


恋人同士の仲直りを手伝ったり。


なかなか本題に進まない。


「でも」


店主が言った。


「勇者なら北の山を越えるんじゃないか?」


カンダが顔を上げる。


「なんで?」


「昔からそうらしいぞ」


「そうらしい?」


「ちゃんとした勇者は、みんなあの山を越えてるって話だ」


「ちゃんとした勇者?」


アリスがすぐ反応した。


「カンダ、ちゃんとしてないもんね」


「うるさい」


ジュリアが地図を見る。


「北の山なら、ちょうどこの先ね」


リホも頷く。


「前例があるなら従うのが無難ね」


カンダは腕を組んだ。


「……前例に習うか」


「軽いなぁ」


アリスが笑う。


こうして。


勇者一行は。


魔王の居場所を知らないまま。


歴代勇者が越えたらしいという理由だけで。


山を越えることになった。


◇


翌朝。


山のふもと。


「よし」


カンダが山を見上げる。


「登るぞ」


「おやつ持った?」


アリスが聞く。


「遠足か」


「山登るんだよ?」


「だから?」


「おやついるじゃん」


リホが即答する。


「必要経費ではありません」


「冷たい!」


「食料はちゃんと買ってあるわ」


「おやつは?」


「ない」


「人の心もない!」


ジュリアが笑う。


「じゃ、行こ」


そう言って。


さっさと登り始める。


「速っ!」


カンダが叫ぶ。


ジュリアが振り返る。


「普通に歩いてるけど?」


「それで!?」


精霊女王から受けた。


風の精霊の加護。


早速効いているらしい。


「待てって!」


カンダたちは。


慌てて後を追った。


◇


山道は。


思ったより穏やかだった。


鳥が鳴き。


風が吹き。


景色もいい。


アリスは花を摘み。


リホは道端の草を見ている。


「それ何?」


カンダが聞く。


「薬草」


「わかるの?」


「なんとなく」


リホは葉を摘む。


「こっちは食用」


「へえ」


「これは売れる」


「最後それなんだ」


リホは満足そうだった。


知の精霊の加護。


こちらも。


少しずつ効果が出ているらしい。


「便利ね、これ」


「いいな」


カンダが言う。


「俺なんて何の加護かわからないのに」


アリスが笑う。


「力じゃない?」


「それはわかってる!」


「じゃあ筋肉の精霊」


「嫌だよ!」


「斧の精霊とか」


ジュリアも混ざる。


「もっと嫌だ!」


そんな話をしながら。


四人は登っていく。


途中。


アリスが突然立ち止まった。


「お腹すいた」


「まだ早い」


「山で食べるおにぎりって美味しいんだよ?」


「知らん」


「食べよ?」


「昼まで待て」


「えー」


しばらく歩く。


五分後。


「お腹すいた」


「さっき聞いた!」


「成長期だから」


「便利に使うな!」


ジュリアが笑う。


リホも。


少し笑っていた。


カンダは空を見る。


青い。


風も気持ちいい。


「…………」


「何?」


アリスが聞く。


「いや」


カンダは言った。


「ちょっと遠足っぽいなって」


「でしょ!」


「認めた!」


「でもおやつはない」


リホが言う。


「まだ言う!?」


◇


少し登ると。


魔物が現れた。


狼のような魔物が三匹。


カンダは戦斧を構える。


「よし」


手を前に出す。


「ボア!」


炎が飛ぶ。


一匹に当たる。


「おお!」


アリスが拍手する。


「効いてる!」


魔物は。


まだ立っている。


「…………」


カンダは無言で近づいた。


戦斧を振る。


ズドンッ!


一撃。


魔物が吹き飛ぶ。


ジュリアが言う。


「山でも斧ね」


「ボアも効いてたから!」


リホが残りの魔物を見る。


「右の方、足を痛めてる」


「わかるの?」


「多分」


知の加護。


さっそく使える。


ジュリアが動く。


風のように。


一気に距離を詰めた。


「速っ!」


一撃。


魔物が倒れる。


残り一匹が。


アリスに飛びかかった。


「危ない!」


カンダが叫ぶ。


アリスは。


足元の石につまずいた。


「わっ」


転ぶ。


その頭上を。


魔物が通り過ぎた。


そのまま木に激突する。


ゴンッ!


「…………」


全員。


アリスを見る。


「いたた……」


アリスが起き上がる。


カンダが聞く。


「今の」


「何?」


「天の加護?」


「たぶん」


「それでいいのか!?」


ジュリアが肩を震わせる。


「便利じゃない?」


リホも頷く。


「攻撃を避けたわね」


「避けてない! 転んだだけだ!」


アリスは笑った。


「でも当たらなかったよ?」


「……まあ」


カンダは言い返せなかった。


◇


昼。


山の中腹。


四人は少し開けた場所で休憩していた。


「いただきまーす!」


アリスが真っ先に弁当を開ける。


「やっとだな」


カンダも腰を下ろす。


「山で食べるご飯ってやっぱ美味しい」


「遠足じゃないぞ」


「まだ言ってる」


ジュリアも座る。


リホが荷物を開ける。


「一人二個ずつだから」


「少ない!」


アリスが抗議する。


「帰りじゃないんだから計算して」


「商人こわい」


カンダはおにぎりを食べながら。


遠くを見る。


「結構登ったな」


「あと半分くらい?」


ジュリアが言う。


「今日中には越えられそうね」


「ちゃんとした勇者に近づいてるね」


アリスが言った。


「山越えただけでちゃんとするのか?」


「前例でしょ?」


「……そうだった」


その時。


ガサッ。


木々の向こうで。


何かが動いた。


ジュリアが顔を上げる。


「誰かいる」


「魔物?」


「違う」


次の瞬間。


男たちが飛び出してきた。


剣。


槍。


斧。


六人。


「動くな!」


一人が叫ぶ。


「食料と金を置いていけ!」


四人は。


黙った。


アリスが。


おにぎりを胸に抱える。


「これはダメ」


カンダが見る。


「そこ?」


「大事」


ジュリアが立ち上がる。


「山賊ね」


すると。


先頭の男が怒鳴った。


「山賊じゃねえ!」


「じゃあ何?」


男は胸を張る。


「勇者だ!」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


カンダが。


ゆっくり顔を覆った。


「また?」


◇


「俺たちは全員!」


男が言う。


「王様から正式に勇者に任命された!」


カンダがため息をつく。


「やっぱり」


「何だその反応!」


「いや、慣れた」


「勇者に慣れるな!」


「多いんだよ!」


男たちは。


みな装備がボロボロだった。


一人は靴に穴が空き。


一人は剣が錆び。


一人は腰に鍋をぶら下げている。


「で」


カンダが聞く。


「勇者が何で山賊してんの?」


「山賊じゃねえ!」


「旅人から金と食料奪ってるだろ!」


「事情がある!」


男たちは顔を見合わせた。


やがて。


先頭の男が。


悔しそうに言った。


「……山を越えられなかった」


「は?」


「魔物は出る!」


「うん」


「道は険しい!」


「まあ」


「食料は尽きる!」


「ちゃんと準備しろよ」


「金も尽きる!」


「だから準備しろって!」


「下山するのは悔しい!」


「知らねえよ!」


男が叫ぶ。


「俺たちもちゃんとした勇者になりたかったんだ!」


「山越えれば?」


「だからできねえんだよ!」


カンダは。


山賊勇者たちを見る。


そして。


自分たちを見る。


弁当。


おにぎり。


ちょっとした遠足気分。


「俺たち」


カンダが言う。


「今ピクニックしてたぞ」


「うるせえ!」


「普通に登れてるぞ」


「うるせえ!」


「おにぎりもある」


アリスが言う。


「見せるな!」


男たちの目が。


おにぎりを追った。


「食べる?」


アリスが聞く。


カンダが止める。


「ダメ」


「なんで?」


「今襲われてるから!」


◇


「とにかく!」


山賊勇者の頭が剣を構える。


「食料と金を置いていけ!」


カンダが立ち上がる。


「嫌だよ」


「何!?」


「俺たちも勇者だ」


「なにぃ!?」


男たちがざわつく。


「お前も王様に!?」


「そう」


「仲間か!」


「一緒にすんな!」


アリスが手を挙げる。


「量産勇者被害者の会?」


「今作るな!」


カンダは戦斧を肩に担ぐ。


「勇者なら」


男たちを見る。


「山賊すんな」


「だから山賊じゃ――」


「してる!」


「…………」


「もういい」


男が叫ぶ。


「やれ!」


山賊勇者たちが一斉に飛びかかる。


◇


最初に動いたのは。


ジュリア。


「遅い」


一瞬だった。


風が抜ける。


男の手から剣が消える。


「え?」


次の瞬間。


ジュリアは。


後ろに立っていた。


「速っ!?」


「私もまだ慣れてない」


風の加護。


明らかに。


昨日までとは違う。


別の男がリホへ向かう。


「おらぁ!」


リホが男の剣を見る。


「その剣」


「何だ!」


「刃元に亀裂がある」


「は?」


「強く振ると折れるわよ」


「嘘つけ!」


男が剣を振る。


バキッ!


折れた。


「…………」


リホが胸を張る。


「鑑定」


「怖っ!」


カンダが叫ぶ。


別の男が。


アリスへ襲いかかる。


「くらえ!」


アリスは後ろへ下がる。


石を踏む。


「わっ」


滑る。


男の攻撃が外れる。


勢い余って。


仲間にぶつかる。


「ぐえっ!」


「ごめん!」


アリスが立ち上がる。


カンダが見る。


「また!?」


「天真爛漫!」


「技名みたいに言うな!」


そして。


山賊勇者の頭が。


カンダへ突っ込んでくる。


「俺だって勇者だぁぁ!」


「だから!」


カンダは戦斧を振る。


ズドォォォン!!


地面が揺れた。


男の剣が。


手から吹き飛ぶ。


「勇者なら山賊すんなぁぁ!!」


男は。


その場に尻もちをついた。


しばらく。


誰も動かなかった。


山賊勇者たちが。


カンダを見る。


「…………」


一人が呟く。


「その斧なんなんだよ」


「俺も知らねえよ!」


◇


十分後。


山賊勇者たちは。


全員正座していた。


「もう旅人襲うな」


「はい」


「食料奪うな」


「はい」


「金も」


「はい」


「あと」


アリスが手を挙げる。


「おにぎりも」


「襲ってねえよ!」


カンダはため息をつく。


「で」


山賊勇者の頭が聞く。


「俺たち、どうすりゃいい?」


「知らん」


「そこを何とか!」


「下山すれば?」


男たちは。


全員顔を伏せた。


「それだけは……」


「なんで?」


「恥ずかしい」


「どうでもいいだろ!」


「俺たち!」


頭が叫ぶ。


「勇者として山を越えたいんだ!」


カンダは。


しばらく黙った。


そして。


山頂を見る。


「…………」


「何?」


ジュリアが聞く。


カンダは。


山賊勇者たちを見た。


「じゃあ」


指を差す。


「一緒に来れば?」


「え?」


「山越え」


男たちの目が。


一斉に見開かれた。


「いいのか!?」


「ただし」


カンダが言う。


「俺たちの言うこと聞け」


「はい!」


「食料は分けるけど」


アリスが固まる。


「え」


「襲うなよ」


「はい!」


「あと」


リホが前へ出る。


「タダじゃないから」


「おい!」


「少額でいいわ」


「この状況で商売すんな!」


リホは真顔だった。


「食料には原価があるの」


「強い!」


◇


そこから。


一行は。


十人になった。


「列乱すな!」


カンダが先頭で叫ぶ。


「はい!」


「遅れるな!」


「はい!」


「ジュリア!」


「何?」


「速すぎる!」


「ごめん」


リホは。


道端の食べられる草を集める。


「これも使える」


山賊勇者たちが驚く。


「すげえ!」


「食える草がわかる!」


アリスは。


後ろから歩きながら歌っている。


「山〜♪」


「遠足〜♪」


カンダが振り返る。


「遠足じゃねえ!」


山賊勇者たちまで歌い始める。


「山〜♪」


「勇者〜♪」


「増えるな!」


そんなこんなで。


日が傾くころ。


ついに。


山頂を越えた。


反対側。


遠くに。


街が見える。


山賊勇者たちは。


立ち止まった。


「…………」


「どうした?」


カンダが聞く。


一人が。


泣き始める。


「越えた……」


「え?」


「俺たち……」


別の男も泣く。


「山を越えた……!」


全員。


その場に膝をつく。


「うおおおおお!」


「やったぁぁぁ!」


「俺たち勇者だぁぁ!」


カンダたちは。


呆然と見る。


「そんな感動する?」


アリスが笑う。


「ちゃんとした勇者になったね!」


「うおおおお!」


さらに泣く。


カンダが慌てる。


「いや!」


全員が見る。


「山賊した件は消えてないからな?」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


男たちは。


また正座した。


「はい」


ジュリアが笑う。


リホも笑う。


アリスは。


山の向こうに見える街を指差した。


「次、あそこ?」


カンダも見る。


「たぶんな」


「魔王いる?」


「知らん」


「また情報集め?」


「そうなるな」


カンダは。


戦斧を肩に担いだ。


そして。


山を下り始める。


「ま」


「前例通り」


「ちゃんと山は越えたしな」


こうして。


勇者一行は。


少しだけ。


ちゃんとした勇者に近づいた。


たぶん。


――第9話 終

後書き

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。

次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!

それでは、また次の冒険で!

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