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『勇者は間に合ってます』 ~歴代最高の勇者の息子、商人と盗賊と遊び人を連れて旅に出る~  作者: 凡夫 成


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第10話 王様には会いません

勇者は間に合ってます。


でも冒険は、まだまだ間に合ってません。


今日もゆるっと行きます!


山を越えて。


一日。


カンダたちは、大きな城壁の前に立っていた。


「でっか」


アリスが見上げる。


高い城壁。


巨大な門。


その向こうには無数の建物。


そして。


街の中心には、大きな城がそびえている。


アルディア城。


この一帯を治める、アルディア王国の中心地である。


「ようやく都会ね」


リホの目が輝く。


「店も多そう」


「そっち?」


カンダが聞く。


ジュリアは門の向こうを見る。


「人も多いね」


商人。


旅人。


冒険者。


騎士。


荷馬車。


これまで立ち寄った町や村とは、規模が違う。


アリスが城を指差した。


「ねえ」


「ん?」


「王様いるんでしょ?」


「いるだろうな」


「会いに行く?」


「行かない」


即答だった。


三人がカンダを見る。


「なんで?」


「面倒くさいから」


「理由それだけ?」


「十分だろ」


カンダには。


王様という存在に、あまりいい思い出がない。


突然城に呼ばれ。


勇者に任命され。


ほとんど金も渡されず。


魔王を倒してこいと言われた。


「王様に会うと仕事増えるんだよ」


ジュリアが首を傾げる。


「もう魔王倒す仕事してるじゃん」


「これ以上増やされたくない」


リホが城を見る。


「でも魔王の情報くらい持ってるんじゃない?」


「酒場でも聞ける」


「王様より酒場?」


「王様より酒場」


アリスが手を挙げる。


「賛成!」


「何で?」


「楽しそうだから」


こうして。


勇者一行は。


城のある街まで来て。


城を無視した。


◇


アルディアの城下町は。


賑やかだった。


武器屋。


防具屋。


道具屋。


宿屋。


露店。


食堂。


酒場。


リホは何度も立ち止まる。


「見て。あの店」


「後で」


「珍しい鉱石がある」


「後で」


「あっちは交易品」


「後で!」


「全部後じゃない」


「魔王の情報が先!」


「真面目だね」


アリスが言う。


「一応魔王倒す旅だからな!」


その時。


アリスが止まった。


「…………」


「今度は何?」


巨大な建物。


入口には。


派手な看板が掲げられている。


モンスター闘技場


「行きたい」


「ダメ」


「まだ何も言ってない」


「顔に出てる」


リホも看板を見る。


「賞金あり」


「行きましょう」


「お前まで!?」


ジュリアが建物を眺める。


「でも」


「何?」


「魔物を見るのも情報収集にはなるんじゃない?」


カンダが止まる。


「…………」


「この地方にどんな魔物がいるか、わかるかも」


「…………」


「行く?」


「……情報収集だからな」


アリスが笑う。


「行きたいんじゃん」


「違う!」


◇


闘技場。


中央には。


巨大な円形の舞台。


その周囲を。


大勢の観客が囲んでいた。


「いけぇぇぇ!」


「そこだ!」


「負けるなぁ!」


歓声が響く。


舞台では。


二匹の魔物が戦っている。


巨大な角を持つ獣。


対するは。


甲羅に覆われた四足の魔物。


「すご」


アリスが目を輝かせる。


「初めて見る魔物ね」


リホも興味深そうに見ている。


ジュリアは周囲を観察していた。


「結構種類いる」


檻の中には。


見たことのない魔物が何匹もいた。


カンダが腕を組む。


「こんなにいるのか」


「最近増えたんだよ」


隣にいた男が言った。


「増えた?」


「ああ」


男は舞台を見ながら答える。


「この辺じゃ見なかった魔物まで出るようになった」


「何で?」


「知らん」


男は肩をすくめる。


「縄張りがおかしくなってるって話だ」


「縄張り?」


「山の魔物が平地に出たり、森の魔物が街道に出たりな」


ジュリアがカンダを見る。


「変ね」


「ああ」


男は続ける。


「しかも最近は」


少し声を落とす。


「魔物同士で群れを作ってる」


「普通じゃないの?」


「種類の違う魔物が、だ」


カンダの眉が動いた。


狼型。


鳥型。


虫型。


本来なら別々に行動する魔物たちが。


まとまって。


村や旅人を襲う。


「誰かが操ってるって噂もある」


「誰か?」


男は笑う。


「そこまでは知らんよ」


舞台で。


一匹の魔物が倒れた。


大歓声。


アリスも手を叩く。


「おおー!」


「お前普通に楽しんでるだろ」


「情報収集だよ?」


「絶対違う」


リホが受付の方を見る。


「ちなみに賞金って――」


「帰るぞ」


「まだ聞いてない!」


「情報収集終わり!」


「横暴!」


カンダたちは。


闘技場を後にした。


◇


夕方。


四人は酒場にいた。


「結局ここなのね」


リホが言う。


「酒場には情報が集まる」


カンダは得意げに言った。


「誰から聞いたの?」


「なんとなく」


「根拠ないんだ」


「冒険ってそういうもんだろ!」


アリスは。


すでに料理を食べている。


「これ美味しい」


「お前は情報集めろ!」


「食べながら聞いてる」


「誰の話を?」


「みんな」


「便利だな天の加護!」


カンダたちは。


酒場の客に片っ端から聞いてみた。


魔王を知らないか。


魔王はどこにいるのか。


だが。


返ってくる答えは。


「知らんなぁ」


「魔王?」


「見たことない」


「そんなの本当にいるのか?」


「王都の方が詳しいんじゃない?」


役に立たない。


「……やっぱ城行った方がよかった?」


ジュリアが聞く。


「まだ諦めるな」


「王様嫌いすぎでしょ」


「嫌いじゃない。面倒なんだ」


その時。


「お前さん」


声がした。


カンダが振り返る。


一人の老人が座っていた。


白い髭。


少し曲がった背中。


質素な服。


テーブルには。


酒と豆。


「魔王を探しておるのか?」


「知ってる?」


カンダたちは。


すぐ老人の席へ移動した。


「近い近い」


老人が嫌そうな顔をする。


「情報欲しいんで」


「現金な奴らじゃ」


リホが聞く。


「情報料は?」


「いらん」


「いい人」


「判断早いな」


老人は酒を一口飲む。


そして。


カンダを見る。


「魔王を探していると言ったな」


「ああ」


「なぜじゃ?」


「倒せって言われたから」


「誰に?」


「王様」


老人が笑う。


「勇者か?」


「一応」


「ほう」


老人は。


カンダの戦斧を見る。


「勇者にしては物騒な武器じゃな」


「ほっとけ」


「剣は?」


「軽すぎる」


「……面白い」


老人の目が。


一瞬だけ鋭くなった。


だが。


すぐに元へ戻る。


「それで」


カンダが聞く。


「魔王はどこ?」


「知らん」


「帰るぞ」


「待て!」


老人が慌てて止める。


「最後まで聞け!」


「知らないんだろ!」


「場所は知らんが、教えられることはある!」


四人は座り直した。


「早く言って」


「最近の若者はせっかちじゃのう」


老人は酒を置いた。


「まず」


一本指を立てる。


「お前さんたちは、大きな勘違いをしておる」


「勘違い?」


「魔王は」


老人が言った。


「一人ではない」


「…………」


カンダが固まった。


「え?」


リホも。


「何人いるの?」


「知らん」


「そこは知らないの!?」


老人が咳払いする。


「正確な数を知る者などおらん」


世界には。


強大な力を持ち。


多くの魔物を従え。


土地を支配する存在がいる。


人々は。


それらをまとめて。


魔王。


そう呼んでいるのだという。


「ちょっと待て」


カンダが頭を抱える。


「俺、魔王倒せって言われたんだけど」


「うむ」


「どの魔王?」


「知らん」


「王様ぁぁぁぁ!!」


酒場中が振り返った。


「うるさい」


ジュリアが言う。


「いや大事だろ!」


カンダは頭を抱える。


「一人だと思ってた!」


アリスが料理を食べながら言う。


「何人か倒せば当たるんじゃない?」


「魔王で当たりくじするな!」


リホは老人を見る。


「この辺りにもいる?」


老人が。


少しだけ笑った。


「話が早いの」


「いるの?」


「ああ」


老人は。


静かに言った。


「このアルディア一帯にも、一体おる」


空気が変わった。


◇


「名は?」


ジュリアが聞く。


「わからん」


「また?」


「名乗ってくれんのでな」


「魔王ってそういうもの?」


アリスが聞く。


「知らん」


「爺さん知らないこと多くない?」


「お前さんたちよりは知っとる!」


老人が怒った。


そして。


少し声を落とす。


「そいつは魔物を操る」


カンダたちの顔が変わる。


闘技場で聞いた話。


縄張りを離れる魔物。


違う種類で群れを作る魔物。


「それって……」


「ああ」


老人が頷く。


「最近、この一帯で魔物の動きがおかしい原因は、そいつだと考えられておる」


「どこにいる?」


「北東」


老人はテーブルに指で簡単な地図を描く。


「森を抜けた先に、古い砦がある」


「砦?」


「そこを根城にしているらしい」


カンダが黙る。


魔王。


ようやく。


魔王の情報を手に入れた。


「…………」


三人が。


カンダを見る。


「何だよ」


リホが言う。


「行くんでしょ?」


「まあ」


ジュリアも。


「魔王探してたし」


「そうだけど」


アリスが笑う。


「やっと本編始まるね」


「何の話だよ!」


老人が笑った。


「では決まりじゃな」


「何が?」


「討伐してこい」


「なんで爺さんに命令されなきゃいけないんだよ!」


「嫌か?」


「嫌というか」


老人は。


酒を飲む。


「放っておけば、街道はさらに危険になる」


「…………」


「次は村かもしれん」


「…………」


「その次は、この街かもしれんな」


カンダは。


しばらく黙った。


そして。


ため息。


「……場所、もう一回教えて」


老人がニヤリと笑った。


「勇者じゃのう」


「違う」


「何が?」


「近くに魔王いるなら」


カンダは戦斧を担ぐ。


「探す手間が省けるだけ」


老人は。


何も言わず。


笑っていた。


◇


翌朝。


宿を出た四人は。


酒場の前で立ち止まっていた。


「食料よし」


リホ。


「地図よし」


ジュリア。


「おやつよし」


アリス。


「誰が買った?」


「私」


「成長したな」


「でしょ?」


「そこ褒めるんだ」


ジュリアが笑う。


カンダは地図を見る。


「北東の森を抜けて、古い砦」


「今度こそ」


リホが言う。


「魔王討伐ね」


「やっとだな」


その時。


街の向こうから。


騎士たちが走ってきた。


十人ほど。


全員。


こちらへ向かってくる。


「何?」


ジュリアが警戒する。


騎士たちは。


酒場の前で止まった。


そして。


一斉に頭を下げた。


「陛下!」


「…………」


カンダたちは振り返る。


酒場から。


昨日の老人が出てきた。


「朝から騒々しいのう」


「勝手に城を抜けられては困ります!」


「たまには街を見て回らんとな」


「護衛をお連れください!」


「邪魔じゃ」


カンダ。


リホ。


ジュリア。


アリス。


四人は。


老人を見る。


老人も。


四人を見る。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


アリスが指を差した。


「王様?」


老人が頷く。


「うむ」


リホも。


「王様ね」


ジュリアも。


「王様だね」


カンダだけが。


固まっている。


「…………」


老人――アルディア王が笑った。


「どうした、勇者カンダ」


「俺」


カンダの手が震える。


「王様に会うの面倒だから城に行かなかったんだけど」


「知っておる」


「なんで!?」


「門番から聞いた」


「情報回るの早っ!」


王は笑う。


「ゆえに」


カンダを見る。


「ワシから会いに来た」


「来るなよ!!」


街中に。


カンダの声が響いた。


◇


「では」


アルディア王は。


何事もなかったように言った。


「この一帯の魔物を操る魔王の討伐」


「待て」


「頼んだぞ」


「待てって!」


王は。


騎士たちと城へ戻ろうとする。


「勝手に依頼にするな!」


リホが王を呼び止めた。


「陛下」


「なんじゃ?」


「報酬は?」


王が止まる。


「…………」


リホが笑う。


「魔王討伐ですよね?」


「うむ」


「国からの正式な依頼ですよね?」


「……まあ」


「危険手当は?」


「…………」


「討伐報酬は?」


「…………」


「魔物から得た素材の所有権は?」


「…………」


アルディア王は。


カンダを見る。


「お主」


「何?」


「仲間選びを間違えておらんか?」


「俺も最近ちょっと思う」


「聞こえてるわよ」


リホが笑顔で言った。


王は咳払いする。


「報酬については、無事戻ってから話そう」


リホの笑顔が消える。


「先に決めましょう」


「……勇者より怖いの」


「商人ですから」


「関係ある?」


カンダが突っ込む。


アルディア王は笑いながら。


今度こそ城へ向かった。


カンダは。


その背中を見送る。


「結局」


戦斧を肩に担ぐ。


「王様に仕事増やされたじゃねえか」


アリスが笑う。


「会いに行かなくてもダメだったね」


「次から王様がいる街には入らない」


「無理でしょ」


「じゃあ酒場に行かない」


「それも無理そう」


「…………」


カンダはため息をついた。


そして。


北東を見る。


その先に。


魔王がいる。


たぶん。


今度こそ。


ちゃんと魔王討伐である。


たぶん。

後書き

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。

次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!

それでは、また次の冒険で!

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