第6話 みんなが笑っている村
今日もゆるっと冒険開始です。
勇者カンダと、ちょっとクセの強い三人娘の旅をお楽しみください!
「アリス」
「なに〜?」
「まだ吹くなよ」
「うん」
「絶対だぞ」
「わかってるって」
カンダは戦斧を肩に担いだ。
ベルナードの町から少し離れた草原。
今日は朝からレベル上げである。
新しい装備にも慣れておきたい。
覚えた技能も使ってみたい。
そして何より――。
「昨日は呼びすぎたからな」
「五匹くらいじゃん」
「一気に五匹だ!」
「倒せたじゃん」
「そういう問題じゃない!」
カンダが念を押す。
「まず一匹ずつ――」
ピィィィィィ――♪
「吹いたぁぁぁぁ!」
アリスが指を口から離す。
「だって待ってても来ないし」
「だからって呼ぶな!」
ガサッ。
草むらが揺れた。
ガサガサッ。
別の場所も揺れた。
さらに。
ガサガサガサッ。
「…………」
カンダは戦斧を構えた。
「何匹?」
ジュリアが周囲を見る。
「三……四……」
「昨日より少ないな」
「後ろから二匹」
「増えた!」
魔物たちが一斉に飛び出した。
「来たよ〜」
「お前のせいだよ!」
カンダは片手を突き出す。
せっかく覚えた勇者の魔法。
使わなければもったいない。
「《ボア》!」
火球が飛ぶ。
ボンッ!
一匹の魔物に命中した。
「ギャッ!」
魔物がよろめく。
「おっ!」
カンダが喜ぶ。
「昨日より効いてない?」
リホが冷静に答える。
「気のせいじゃない?」
「そんなことない!」
炎の中から魔物が飛び出してきた。
「来てるわよ」
「わかってる!」
カンダが戦斧を振る。
ズドンッ!!
魔物が吹っ飛んだ。
一撃だった。
「…………」
「…………」
「…………」
アリスが首を傾げる。
「やっぱ斧じゃん」
「うるさい!」
ジュリアも短剣を構えながら言う。
「ボアいる?」
「いる!」
「何に?」
「遠くの敵とか!」
リホが杖で魔物を殴る。
「火起こしとか?」
「お前まで言うな!」
「料理にも使えそう」
「勇者の魔法だぞ!」
アリスが嬉しそうに手を叩く。
「便利じゃん!」
「戦闘で活躍させてやるからな!」
「斧でよくない?」
「黙ってろ!」
また一匹。
カンダの斧が振り下ろされた。
ドゴンッ!
「ほら!」
「何が?」
「……なんでもない!」
カンダは泣きたくなった。
◇
しばらくして。
戦闘終了。
倒れた魔物たちを前に、リホが腕を組んだ。
「さて」
目が変わる。
商人の目だ。
「回収するわよ」
「魔王討伐中だよな、俺たち」
「何言ってるの。旅にはお金が必要なのよ」
「そうだけど」
ジュリアが目を閉じる。
「《お宝サーチ》」
少しして、草むらを指差した。
「あっち」
探してみると、小さな牙が落ちていた。
「こっちにも」
今度は毛皮。
さらに魔物が落とした小さな石。
ジュリアが拾い、リホに渡す。
「《鑑定》」
リホが一つずつ確認していく。
「牙はそこそこ。毛皮は状態良し。この石は……安い」
「捨てる?」
「持ってく」
「安いんでしょ?」
「一ゴールドでもお金はお金よ」
「さすが商人」
アリスが感心している。
そして。
「じゃあ次いこっか」
アリスが指を口元へ。
「待て」
カンダがその手を掴んだ。
「えー」
「休憩!」
「まだいけるよ?」
「俺が無理!」
リホが素材を袋へ入れながら呟く。
「でも……」
「何?」
「効率いいのよね」
カンダが嫌な顔をする。
「何が?」
「アリスが魔物を呼ぶ」
「うん」
「私たちが倒す」
「うん」
「ジュリアがお宝を探す」
「うん」
「私が鑑定する」
「…………」
「売る」
「…………」
リホが笑った。
「儲かる」
「俺たち何しに旅してるんだっけ?」
ジュリアが答える。
「魔王討伐」
アリスも答える。
「レベル上げ」
リホも答える。
「金策」
「目的バラバラじゃねえか!」
三人が笑った。
◇
それから数日。
四人はベルナードを拠点にレベル上げを続けた。
朝、町を出る。
アリスが口笛を吹く。
魔物が来る。
倒す。
ジュリアが探す。
リホが鑑定する。
売る。
宿に戻る。
翌朝。
またアリスが吹く。
「ちょっと待てって!」
ピィィィィ――♪
「待たない!」
「楽しんでるだろ!」
魔物が来る。
倒す。
探す。
鑑定する。
売る。
気づけば――。
「また上がった」
カンダは自分の手を見る。
戦斧を持ち上げる。
以前より軽い。
明らかに軽い。
「…………」
「どうしたの?」
リホが聞く。
「いや」
カンダは戦斧を片手で持ってみる。
持てる。
「やっぱ俺、力上がるの早くない?」
リホも自分の能力を確認する。
「私も」
ジュリアが軽く跳ぶ。
「私も速くなってる」
三人の視線がアリスへ向く。
「ん?」
「アリスは?」
「私?」
アリスは自分の腕を見る。
少し考えた。
そして笑った。
「成長期じゃない?」
「またそれか!」
結局。
原因はわからない。
ただ強くなるのなら困らない。
四人はそう考えることにした。
◇
その日の夜。
ベルナードの酒場。
「で」
カンダはテーブルに肘をついていた。
「そろそろ情報集めよう」
リホが食事をしながら聞く。
「何の?」
「魔王!」
「忘れてなかったのね」
「忘れるか!」
ジュリアが酒場を見回す。
「でも、ここ数日聞いてるけど大した情報ないわよ」
「そうなんだよな……」
魔王がいる。
それは誰でも知っている。
だが。
どこにいる。
どうやって行く。
何が必要。
そこまで知っている人間となると、なかなかいない。
「親父はどうやって行ったんだよ……」
カンダが呟く。
ガルバス。
歴代最高と呼ばれた勇者。
魔王討伐へ向かい、そのまま消息を絶った父。
そして旅に出て早々。
知らない兄まで出てきた。
「…………」
考えると頭が痛くなる。
「ねえ」
アリスが隣のテーブルを見た。
旅人らしい男たちが話している。
「聞いたか? あの村」
「またその話か?」
「本当なんだって」
カンダたちも何となく耳を傾けた。
「何の話です?」
アリスが普通に会話へ入った。
「お前、距離近いな!」
カンダが慌てて引き戻す。
旅人は笑った。
「いやな。ここから東に、小さな村があるんだ」
「村?」
「エミール村っていうんだが」
「何があるの?」
「何もねえよ」
アリスが首を傾げる。
「じゃあなんで話してるの?」
「変わった村なんだ」
「変わった?」
旅人は酒を飲んだ。
「みんな笑ってる」
「…………?」
カンダが聞き返す。
「みんな?」
「ああ」
旅人は頷いた。
「いつ行っても、村人全員が笑ってるんだ」
アリスの目が輝く。
「楽しそう!」
「喧嘩してるところも見たことねえ」
「いい村じゃん」
「怒ってる奴もいねえ」
「平和ね」
リホが言った。
「泣いてる奴もいねえ」
ジュリアが少しだけ眉を動かした。
「……一人も?」
「ああ」
旅人は笑った。
「だから『笑顔の村』なんて呼ぶ奴もいる」
アリスがカンダを見る。
「行こう!」
「早いな!」
「楽しそうじゃん!」
「俺たちは観光してるんじゃないぞ!」
「旅人も来る村なら、魔王の情報持ってる人いるかもよ?」
「…………」
カンダが止まる。
「それは……」
リホが頷く。
「なくはないわね」
ジュリアも。
「ベルナードで同じ人に聞き続けても仕方ないし」
「…………」
三対一。
カンダはため息をついた。
「わかったよ」
アリスが両手を上げた。
「笑顔の村へ出発〜!」
「明日な!」
「今からでも」
「夜だ!」
こうして。
次の目的地が決まった。
◇
翌朝。
ベルナードを出発。
今回はジュリアが地図を持っている。
「東ね」
「頼むぞ」
カンダが言う。
「誰かさんと違って読めるから」
「まだ言う?」
「一生言う」
「勘弁してくれよ……」
道中。
魔物が現れた。
カンダが戦斧を構える。
「ボア!」
ボンッ!
「まだ生きてる」
「わかってる!」
ズドンッ!
「やっぱ斧」
「うるさい!」
そんな調子で進み。
夕方。
丘を越えた。
「あ」
アリスが指差した。
小さな村が見える。
畑。
家。
小さな広場。
ごく普通の村だ。
「エミール村……かな?」
ジュリアが地図を見る。
「間違いない」
カンダは安堵した。
「よし」
「何?」
「一発で着いた」
「普通なのよ」
「最近その普通が嬉しいんだよ!」
四人は村へ向かった。
◇
「ようこそ!」
村へ入った瞬間。
一人の男が声をかけてきた。
笑顔だった。
「旅の方ですね!」
「はい」
「ようこそエミール村へ!」
別の女性が来た。
笑顔。
「ゆっくりしていってくださいね!」
老人も。
「珍しいのう! 旅人さんじゃ!」
笑顔。
子供たちが走ってくる。
「旅人だー!」
「お姉ちゃんたちだー!」
笑顔。
「すご」
アリスが笑う。
「本当にみんな笑ってる」
カンダも周囲を見る。
畑仕事をしている男。
笑顔。
洗濯物を干す女性。
笑顔。
荷物を運ぶ老人。
笑顔。
子供。
笑顔。
「いい村じゃん」
カンダが言った。
「雰囲気明るいし」
リホも頷く。
「商売もしやすそうね」
「お前はそればっかだな」
ジュリアは周囲を見ていた。
「…………」
「どうした?」
「いや」
ジュリアは首を振る。
「なんでもない」
四人は村の中を歩く。
「宿探そっか」
アリスが言う。
その時だった。
「あっ!」
走っていた小さな男の子が転んだ。
膝を地面に打つ。
擦りむいた。
血が滲む。
カンダが振り返る。
「大丈夫か?」
男の子が顔を上げる。
「…………」
目に涙が浮かんでいた。
そして。
「アハハハハ!」
笑った。
「…………え?」
「アハハハ! 痛い! アハハハハ!」
カンダが固まる。
母親らしい女性が走ってくる。
「大丈夫!?」
笑っている。
「血が出てるじゃない! アハハハハ!」
「お母さん、痛いよぉ! アハハハ!」
「すぐ洗いましょうね! アハハハ!」
二人とも。
笑っていた。
なのに。
男の子の目からは涙が流れている。
「…………」
リホの表情が変わった。
ジュリアも黙っている。
カンダは何も言えなかった。
アリスだけが。
男の子をじっと見ていた。
さっきまでの笑顔が消えている。
「アリス?」
カンダが呼ぶ。
返事がない。
「おい」
アリスは村を見回した。
笑っている男。
笑っている女。
笑っている老人。
笑っている子供。
笑い声。
笑い声。
笑い声。
そして。
小さく言った。
「……違う」
「何が?」
「この人たち」
アリスは笑っていなかった。
「笑ってないよ」
カンダが眉を寄せる。
「いや、笑って――」
「顔だけ」
アリスが言った。
「顔が笑ってるだけ」
「…………」
「楽しくて笑ってるんじゃない」
アリスは泣きながら笑う男の子を見る。
「笑わされてる」
カンダの背筋に冷たいものが走った。
◇
それから四人は村人に話を聞いた。
「何か困ってることは?」
「ありませんよ! アハハハ!」
「最近、変わったことは?」
「何もありません! 毎日楽しいです! アハハハ!」
「ずっと笑ってるの?」
「もちろんです! アハハハハ!」
「……本当に?」
一瞬。
村人の目が揺れた。
だが。
口元は笑っている。
「もちろんです! アハハハ!」
カンダは黙った。
別の家。
別の村人。
誰に聞いても同じだった。
「楽しい」
「幸せ」
「何も困っていない」
笑いながら。
ずっと。
笑いながら。
村の外れまで来たところで、カンダは足を止めた。
「……何なんだ、この村」
リホが腕を組む。
「普通じゃないわね」
「病気?」
ジュリアが言う。
「村全員が?」
「じゃあ何?」
誰も答えられない。
カンダはアリスを見る。
「お前、なんでわかったんだ?」
「ん?」
いつものアリスだった。
「こいつらが笑ってないって」
「なんとなく」
「なんとなくって」
「わかるもん」
「何が?」
アリスは少しだけ黙った。
そして。
いつものように笑った。
「笑ってる人と、笑ってるふりしてる人」
「…………」
それ以上は言わなかった。
カンダも。
なぜか聞けなかった。
◇
「……待って」
ジュリアが突然足を止めた。
「今度は何?」
「何かある」
カンダが身構える。
「魔物?」
「違う」
ジュリアは目を閉じた。
集中する。
「《お宝サーチ》」
「お宝?」
「……わからない」
ジュリアが眉を寄せる。
「いつもとちょっと違う」
「どういうこと?」
「何か……引っかかる」
ジュリアが村の外を見る。
森がある。
「こっち」
「行ってみるか」
四人は村を出た。
◇
森の中。
しばらく進むと。
「道?」
リホが気づいた。
草に覆われている。
ほとんど消えかけているが、確かに人が通っていた跡がある。
「昔の道みたいね」
ジュリアが先頭を歩く。
「こっち」
さらに奥へ。
木々が深くなる。
陽の光が届かなくなっていく。
そして。
「……あった」
ジュリアが止まった。
四人の前。
木々に隠れるように――。
小さな石造りの建物があった。
「祠?」
カンダが呟く。
古い。
苔だらけ。
壁には蔦が絡んでいる。
長い間、誰も使っていないように見える。
だが。
一つだけ。
妙に目につくものがあった。
入口の上。
石で彫られた――。
笑った顔。
不自然なほど口を大きく開き。
歯を見せ。
笑っている。
「…………」
リホが顔をしかめる。
「趣味悪いわね」
ジュリアも警戒している。
「お宝サーチが反応してるの、たぶんここ」
カンダは戦斧を握った。
「村の近くにこんなもんがあるってことは……」
アリスは何も言わない。
ただ。
笑った顔の彫刻を見上げている。
その時。
――アハ。
「…………!」
四人が動きを止めた。
カンダが祠を見る。
「今……」
――アハハ。
中から。
聞こえた。
――アハハハハ……。
笑い声。
カンダが戦斧を構える。
リホが杖を握る。
ジュリアが短剣を抜く。
アリスだけは。
笑っていなかった。
祠の奥を見つめる。
「……ここ」
いつもの軽い声ではなかった。
「絶対、なんかいるよ」
森の奥。
古びた祠から。
もう一度。
笑い声が響いた。
――第6話 終
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
カンダ、リホ、ジュリア、アリス。
四人の珍道中を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。
それでは、また次の冒険で!




