第5話 ようやく町に着きました
今日もゆるっと冒険開始です。
勇者カンダと、ちょっとクセの強い三人娘の旅をお楽しみください!
「…………」
カンダは目の前に広がる光景を見ていた。
高い石壁。
大きな門。
行き交う人々。
荷馬車。
商人。
冒険者。
店。
そして何より――。
「町だ」
「町ね」
「町だね〜」
「間違いなく町ね」
カンダ。
リホ。
アリス。
ジュリア。
四人は確認するように頷いた。
「やっと着いたぁぁぁ!」
カンダが両手を上げる。
目的地。
交易の町――ベルナード。
本来なら、とっくに到着していたはずだった。
道を間違えなければ。
辺境の村に迷い込まなければ。
盗賊団と戦わなければ。
盗賊団の頭が腹違いの兄でなければ。
「長かった……」
「普通に来れば一日くらいだったけどね」
ジュリアが言った。
「言うな」
「カンダが地図を読めてればね」
「言うな!」
アリスがカンダの肩を叩く。
「でも楽しかったじゃん」
「お前はな!」
「お兄ちゃんもできたし」
「それが一番いらなかった!」
カンダはため息をついた。
「とにかく!」
町を指差す。
「ベルナード到着!」
「おー」
アリスが拍手する。
「じゃ、ご飯?」
「違う」
リホが言った。
「装備を整えるわよ」
「え?」
「私たち、いつまで初期装備で旅するつもり?」
カンダは自分の剣を見る。
王都を出る時に持ってきた、ごく普通の剣。
「まだ使えるけど」
リホがため息をついた。
「カンダ」
「何?」
「使えると、戦えるは違うの」
「なんか商人っぽい」
「商人だから!」
◇
ベルナードは、王都ほどではないが活気のある町だった。
特に多いのが商人だ。
街道がいくつも交わっているため、各地から商品が集まってくるらしい。
「いい町ね」
リホの目が輝いている。
「目が怖い」
「何が?」
「金の匂い嗅いでない?」
「失礼ね」
そう言いながら、リホは露店の商品を片っ端から見ている。
「これ安い」
「買うの?」
「王都ならもう少し高く売れる」
「旅の途中だぞ」
「だから?」
「魔王倒しに行くんだぞ」
「だから?」
カンダは諦めた。
こいつにとって世界は、たぶん巨大な市場なのだ。
「ねえ」
ジュリアが突然立ち止まった。
「今度は何?」
「……ある」
「何が?」
ジュリアが路地の先を見る。
「お宝」
カンダが固まる。
「お前、町に入って早々盗む気か?」
「違う!」
「盗賊だろ」
「盗賊だけど!」
ジュリアは少し考えるように目を閉じた。
「最近覚えたのよ。《お宝サーチ》」
「何それ」
「近くにあるお宝の気配が、なんとなくわかる」
「便利だな盗賊!」
「だから今頃気づくな!」
ジュリアは路地を指差す。
「この先」
「行かないぞ」
「なんで?」
「人ん家だったらどうする!」
「見るだけ」
「それを泥棒って言うんだよ!」
「盗まないわよ!」
「本当に?」
「……たぶん」
「帰ってこい!」
ジュリアの首根っこを掴んだ。
「ちょっと! 離して!」
「町に着いて十分で犯罪者になるな!」
アリスが楽しそうについてくる。
「私もお宝見た〜い」
「増えるな!」
勇者一行。
町に着いて十分。
早くも問題を起こしかけた。
◇
ようやく武器屋に到着した。
扉を開ける。
剣。
槍。
斧。
弓。
盾。
鎧。
壁一面に武器や防具が並んでいる。
「おお……」
カンダの目が輝く。
さすがに男として、こういう場所は少し興奮する。
「いらっしゃい!」
奥から大柄な店主が出てきた。
「冒険者か?」
「勇者です」
リホが答えた。
「言わなくていい!」
「勇者?」
店主がカンダを見る。
「兄ちゃんが?」
「一応」
「最近多いからなあ」
「ですよね」
カンダは悲しくなった。
勇者。
もはや珍しくもなんともない。
「四人分の装備を探してるの」
リホが言う。
店主の顔が明るくなる。
「四人分! そいつはありがたい!」
「まず見せてもらいます」
「もちろんだ!」
リホが武器を手に取った。
じっと見る。
「…………」
「どうした?」
カンダが聞く。
「《鑑定》」
「鑑定?」
「これも最近覚えたの」
リホは剣を眺める。
「材質……鉄。品質は普通。刃に若干の歪みあり」
店主の眉が動いた。
「…………」
リホは値札を見る。
「高い」
「お嬢ちゃん?」
「この品質でこの値段は高い」
「ちょっと待とうか」
別の剣。
「こっちは品質良好。でも値段がさっきの一・五倍」
「いい剣だからな!」
「性能差はそこまでない」
「お嬢ちゃん!?」
次。
「これはダメ」
「なんで!?」
「見た目だけ」
「人気商品だぞ!」
「初心者相手なら?」
店主が黙った。
リホが笑う。
店主も笑う。
二人の間に見えない火花が散った。
カンダがジュリアに聞く。
「止めた方がいい?」
「放っときなさい」
「なんで?」
「商人同士の戦いよ」
「怖い世界だな」
◇
その頃。
アリスは兜を被っていた。
「見て〜」
「何してんの?」
「似合う?」
兜が大きすぎて顔がほとんど見えない。
「前見えてる?」
「見えない」
「戻せ」
「じゃあこれ」
今度は胸当て。
妙に装飾が多い。
「かわいくない?」
「防御力は?」
「知らない」
「装備だぞ!」
「可愛さも防御力だよ?」
「どういう理屈だよ!」
「テンション上がるじゃん」
「心を守ってんの!?」
「そう!」
「身体を守れ!」
結局アリスは、動きやすくて見た目も気に入った軽装を選んだ。
ジュリアは迷わなかった。
軽い革鎧。
新しい短剣。
動きやすい靴。
「重い装備は?」
カンダが聞く。
「いらない」
「防御力高いぞ」
「当たらなきゃいいのよ」
「それ言う奴、一回は当たるぞ」
「その時はカンダが助けて」
「俺頼み!?」
ジュリアは笑った。
「勇者でしょ?」
「そういう時だけ勇者使うな!」
◇
最後はカンダだった。
「兄ちゃんは剣か?」
店主が聞く。
「今まで剣だったんで」
「なら、この辺だな」
一本目。
カンダが握る。
振ってみる。
「……軽い」
「初心者には扱いやすいぞ」
二本目。
少し大きい。
「これも軽い」
三本目。
太い刀身。
「……なんか違う」
店主が首を傾げた。
「兄ちゃん、力どれくらいある?」
「普通だと思うけど」
リホとジュリアが同時に言った。
「普通じゃない」
「なんで!?」
「ゴーレム吹っ飛ばしたでしょ」
「あれは……」
言い返せない。
カンダ自身も感じていた。
王都を出た頃と比べて。
明らかに力が強くなっている。
しかも――。
かなり。
「じゃあ」
店主が店の奥へ向かった。
「これはどうだ?」
持ってきたのは――。
斧だった。
「斧?」
長い柄。
分厚い刃。
今までの剣とは比べものにならない重量。
「戦斧だ。初心者には勧めねえけどな」
カンダが握る。
「…………」
重い。
でも。
嫌な重さじゃない。
両手で構える。
一度振る。
ブォン!
店内に風が起こった。
「おい!」
店主が慌てる。
「店ん中で振るな!」
「す、すみません!」
カンダは斧を見る。
「これ」
もう一度握り直す。
「しっくりくる」
店主がカンダの腕を見る。
「兄ちゃん、本当に駆け出しか?」
「たぶん」
「自分の経歴にたぶん付けるなよ」
リホが値札を見る。
「高い」
「始まった」
店主の顔が引きつった。
◇
そこからが長かった。
「四人分まとめて買います」
「だからこの値段まで引いてる!」
「この毛皮も付けます」
「……質は?」
「《鑑定》します?」
「やめろ!」
「じゃあ、この値段」
「無理だ!」
「なら短剣の研ぎ直し無料」
「鬼か!」
「商人です」
「商人怖え!」
カンダたちは店の隅で待っていた。
アリスがあくびする。
「まだ?」
「長いな」
「ご飯行きたい」
「俺も」
ジュリアが壁にもたれている。
「……ねえ」
「何?」
「この壁の向こう、お宝ある」
店主が振り返った。
「倉庫だ! 探るな!」
ジュリアが肩をすくめる。
「当たった」
「試すな!」
カンダは頭を抱えた。
商人。
盗賊。
遊び人。
本当に勇者の仲間なのだろうか。
◇
結局。
リホは勝った。
「毎度……」
店主が疲れ切っている。
四人は新しい装備を身につけていた。
カンダは戦斧。
リホは軽い防具と新しい杖。
ジュリアは革装備と短剣。
アリスは動きやすさ重視の軽装。
「おお」
カンダが三人を見る。
「なんか俺たち――」
「冒険者っぽい?」
アリスが言う。
「そう!」
リホが腕を組む。
「見た目だけはね」
「余計な一言!」
店を出る。
アリスがカンダの斧を見る。
「ねえ」
「何?」
「それ強いの?」
「試してない」
「じゃあ試そうよ」
「どうやって?」
アリスが笑った。
「最近、私も新しいの覚えたんだ」
嫌な予感がした。
「何を?」
アリスは指を口元へ持っていく。
「《口笛》」
ピィィィィィ――!
綺麗な音が響いた。
「…………」
「…………」
「…………」
カンダは周囲を見る。
「何の技能?」
「魔物を呼ぶ」
「…………」
「…………」
「…………」
「先に言えぇぇぇぇ!!」
◇
町の外。
草むらが揺れた。
一匹。
二匹。
三匹。
さらに奥から。
四匹。
五匹。
「多くない!?」
リホが叫ぶ。
「いっぱい来たね〜」
アリスは楽しそうだ。
「止められないの!?」
「口笛だから無理」
「口笛怖え!」
魔物が飛び出した。
「カンダ!」
「わかってる!」
カンダは戦斧を構える。
だが。
せっかく新しいものを覚えた。
使ってみたい。
「よし」
カンダが片手を前に出す。
「何するの?」
ジュリアが聞く。
「俺も最近覚えた」
意識を集中する。
手のひらが熱くなる。
小さな炎が集まり――。
「《ボア》!」
火球が飛んだ。
ボンッ!
魔物に直撃。
「おお!」
カンダの顔が明るくなる。
「魔法!」
アリスが拍手する。
「勇者っぽい!」
「だろ!?」
魔物は炎に包まれながらも突っ込んでくる。
「カンダ」
リホが言った。
「倒れてない」
「…………」
「来るよ」
「…………」
カンダは戦斧を握った。
「うおりゃあ!」
ズドンッ!!
魔物が吹っ飛んだ。
一撃だった。
「…………」
沈黙。
カンダは戦斧を見る。
次に自分の手を見る。
リホが言った。
「斧の方が強いわね」
ジュリアも頷く。
「圧倒的に」
アリスが言った。
「魔法いらなくない?」
「言うな!」
次の魔物が迫る。
「ボア!」
ボンッ!
「うおりゃ!」
ズドンッ!
また一撃。
「…………」
アリスが首を傾げる。
「火起こし用?」
「勇者の魔法をキャンプ用品にするな!」
「でも便利そう」
「戦闘でも使う!」
「斧の方が強いよ?」
「わかってるよ!」
魔物がさらに来る。
「アリス!」
「なに〜?」
「二度と町の近くで口笛吹くな!」
「はーい」
「軽い!」
カンダは斧を振り上げた。
◇
しばらくして。
草原には倒れた魔物たち。
カンダたちは息を整えていた。
「新装備……」
カンダが戦斧を肩に担ぐ。
「かなりいいな」
「でしょう?」
リホが答える。
「私が値切ったんだから大事に使ってよ」
「そこ?」
ジュリアは周囲を見回した。
「……あっち」
「何?」
「《お宝サーチ》」
倒した魔物の向こうへ行く。
草むらを探り――。
「これ」
小さな素材を拾い上げた。
「ドロップ品」
リホが受け取る。
「《鑑定》」
じっと見る。
「結構いい素材」
「売れる?」
「売れる」
二人が笑う。
カンダはその様子を見る。
そして。
アリスを見る。
「もう一回呼ぶ?」
「やめろ」
「でもお金になるよ?」
リホが動きを止めた。
「…………」
「リホ?」
「…………効率いいわね」
「おい」
ジュリアも考える。
「私が取りこぼし探せるし」
「おい!」
アリスが笑顔になる。
「じゃあもう一回――」
「やめろぉぉぉ!」
カンダの声が草原に響いた。
◇
その夜。
宿屋。
新しい装備を部屋に置き、四人は食堂に集まっていた。
「で」
カンダが言う。
「装備は整った」
「うん」
「ベルナードにも着いた」
「うん」
「次は?」
沈黙。
四人が顔を見合わせる。
「…………」
カンダがリホを見る。
リホは首を振る。
ジュリアを見る。
「知らない」
アリスを見る。
「ご飯?」
「それは今から!」
カンダは頭を抱えた。
「俺たち魔王倒しに行くんだよな?」
リホが頷く。
「そうね」
「魔王どこにいるの?」
「知らない」
ジュリアも頷く。
「私も」
アリスも笑う。
「私も〜」
「…………」
カンダはしばらく黙った。
そして。
「明日、情報集めよう」
「賛成」
「その前にご飯!」
「今食うよ!」
勇者。
商人。
盗賊。
遊び人。
装備は整った。
新しい技能も覚えた。
火の魔法まで使えるようになった。
見た目だけなら――。
少しは勇者一行らしくなった。
ただし。
魔王がどこにいるのか。
誰も知らなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
カンダ、リホ、ジュリア、アリス。
四人の珍道中を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。
それでは、また次の冒険で!




