第42話 闘神の加護
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
魔王ヴァルザス討伐。
その知らせが城塞都市グランザへ届いたのは、夕方だった。
町の門が開く。
戻ってきた勇者たちを、大勢の人が待っていた。
「帰ってきたぞ!」
「ヴァルザスを倒した!」
「勝ったぞぉぉぉ!」
歓声が上がる。
その中を歩きながら、カンダは少し居心地悪そうにしていた。
「……すごいな」
リホが笑う。
「あなたを待ってるんじゃない?」
「やめて」
その願いも虚しく。
誰かがカンダを見つけた。
「斧の勇者だ!」
「うおおおおお!!」
一気に人が集まる。
「ヴァルザスを倒したんだろ!?」
「すげえ!」
「やっぱり斧の勇者だ!」
カンダは両手を上げた。
「いや!」
「俺だけじゃないから!」
隣のレオンを指す。
「こいつもいた!」
レオン。
「最後に倒したのはカンダですよ」
「余計なこと言うな!」
歓声がさらに大きくなった。
◇
その夜。
町では盛大な宴が開かれた。
酒。
料理。
音楽。
あちこちで勇者たちが騒いでいる。
カンラも珍しく酒を飲んでいた。
その周りでは、使役している魔物たちまで肉をもらっている。
「お前らも宴会するんだな」
「戦ったんだから食わせる」
「待遇いいな」
「仲間だからな」
少し離れたところでは、レオンとフィーネも町の人たちに囲まれている。
アリスは料理に囲まれていた。
ジュリアは酒。
リホはなぜか商人たちと話している。
カンダ。
「……宴会くらい仕事忘れろよ」
リホ。
「情報交換よ」
「やっぱ商人だな」
その時。
若い勇者がカンダへ酒杯を向けた。
「いやあ!」
「さすが斧の勇者!」
「大戦が始まってすぐ、本陣を狙ったんだろ?」
カンダ。
「…………」
レオンが笑顔で頷く。
「ええ」
「カンダは最初からヴァルザスを直接狙って――」
ジュリア。
「逃げただけだけどね」
「ジュリアァァァ!!」
辺り。
静かになる。
レオン。
「…………」
若い勇者。
「逃げた?」
カンダ。
「違う!」
「適材適所!」
ジュリア。
「静かな方に逃げた」
「言い方!」
レオンがカンダを見る。
「本当に?」
「…………」
カンダ。
酒を飲む。
「大戦」
「向いてないから」
カンラ。
「逃げたんだな」
「お前まで!」
アリス。
「でも逃げた先にヴァルザスいた」
リホ。
「結果的には最短だったわね」
しばらく。
沈黙。
そして。
レオンが吹き出した。
「はははっ!」
「笑うなよ!」
「すみません」
「でも」
レオンは笑いながら酒杯を上げた。
「それで魔王を引き当てるのが」
「カンダらしいです」
カンダ。
「褒めてる?」
「かなり」
「ならいい!」
宴会は、そのまま続いた。
◇
夜も遅くなった頃。
カンダは町の外壁に座っていた。
隣にはレオン。
少し遅れて、リホたちもやってくる。
レオンが先に口を開いた。
「カンダ」
「ん?」
「ヴァルザスと戦っていた時のこと」
カンダ。
少し考える。
「あれ?」
「はい」
リホが反応する。
「やっぱり何かあったの?」
レオンは頷いた。
「途中から」
「カンダの魔力が変わりました」
「外へ出るんじゃなくて」
「身体と斧の中に集まっていった」
リホの表情が変わる。
「……やっぱり」
カンダ。
「やっぱり?」
「ゴーストの村でも」
「同じことが起き始めてた」
リホは説明した。
身体能力。
魔力。
両方が異常な速度で伸びていること。
そして、魔力が無意識に斧へ流れ始めていたこと。
アリス。
「あと」
「カンダ笑ってた」
カンダ。
「そこ重要?」
レオン。
「重要だと思います」
「ヴァルザスに一撃を止められてから」
「急に変わった」
カンダ。
少し黙る。
思い出す。
全力の一撃。
止められた。
悔しいより先に。
楽しい。
そう思った。
「…………」
ジュリア。
「加護じゃない?」
カンダ。
顔を上げる。
「あ」
全員。
同じことを思い出した。
精霊女王。
カンダにすでに宿っていた。
名前を教えてくれなかった。
謎の加護。
カンダ。
立ち上がる。
「行くぞ」
リホ。
「今から?」
「明日」
「酔ってるから」
「そこは冷静なのね」
◇
翌朝。
《ラルー》。
光が消えると、そこは見慣れた森だった。
精霊女王の前。
カンダ。
腕を組む。
「今日は」
「絶対教えてもらいます」
女王。
「何をでしょう」
「とぼけるな!」
リホたちも並ぶ。
レオンも一緒だった。
女王はレオンを見る。
「あなたまで」
レオン。
「俺も見ました」
「カンダの力を」
女王。
少し。
黙る。
カンダ。
「身体も魔力も変に伸びる」
「斧に魔力も乗る」
「戦ってたら」
「急にもっと変になった」
「イフリートには」
「またお前かって言われた」
一歩。
近づく。
「もういいだろ?」
「俺の加護」
「何なんだよ」
精霊女王は、しばらくカンダを見つめていた。
やがて。
小さく息を吐く。
「……目覚めましたか」
カンダ。
「何が?」
女王。
静かに答える。
「《闘神の加護》です」
「…………」
カンダ。
「闘神?」
アリス。
「強そう」
ジュリア。
「カンダっぽい」
リホ。
「どういう加護なんです?」
精霊女王はカンダを見る。
「戦うための加護」
「極めて稀なものです」
「戦闘を重ねるほど」
「その者に必要な力を育てていく」
カンダ。
「必要な力?」
「あなたは長く」
「斧を中心に戦ってきました」
「ゆえに」
「筋力」
「耐久力」
「身体能力が大きく成長した」
リホ。
「それで……」
「最近は」
女王。
続ける。
「魔法を使うようになった」
「ボア」
「ヒル」
「ライ」
「ラル」
「魔力を戦いに使う機会が増えたことで」
「今度は魔力まで成長を始めた」
カンダ。
「…………」
「便利じゃん」
リホ。
「まだ最後まで聞いて」
女王。
「そして」
「身体と魔力」
「双方が一定の段階へ達した時」
「二つは一つになる」
「魔力を」
「身体へ」
「武器へ」
「自然に流し」
「すべてを戦う力へ変える」
レオン。
「あれが……」
女王。
「《闘神化》」
カンダ。
「…………」
「俺」
「変身してたの?」
「見た目はほとんど変わってません」
「じゃあ変身感ないな」
「そこですか?」
レオンが笑う。
◇
カンダ。
「でも」
「なんで今まで教えてくれなかった?」
女王の表情が少しだけ変わる。
「《闘神の加護》は」
「善でも」
「悪でもありません」
「ただ」
「戦いに応える」
風が吹く。
「守るために戦えば」
「守る力となる」
「奪うために戦えば」
「奪う力にもなる」
カンダ。
黙る。
「過去」
「この加護を持つ者が」
「大きな争いに関わったことがあります」
リホ。
「だから隠していた?」
「はい」
女王はカンダをまっすぐ見る。
「自分が《闘神》だと知れば」
「力を求め」
「戦いそのものを求める可能性がある」
「私は」
「あなたが何のために戦うのか」
「見たかった」
カンダ。
「…………」
少し。
考える。
「ヴァルザス戦」
「楽しかったけど」
「はい」
「それで目覚めた?」
女王。
「正確には」
「戦いを楽しんだことで」
「あなた自身が」
「戦う力を拒まなくなった」
「その瞬間」
「身体と魔力が完全に噛み合ったのでしょう」
カンダ。
「…………」
リホ。
「つまり」
「戦えば戦うほど強くなる?」
女王。
「単純ではありません」
カンダ。
「つまり殴れば強くなる?」
女王。
少し。
黙る。
「……かなり雑に言えば」
「はい」
カンダ。
「わかりやすい!」
リホ。
「絶対そこしか聞いてないでしょ!」
◇
アリス。
「あ」
「じゃあ」
「イフリートの」
「またお前か、は?」
女王。
アリスを見る。
「イフリートは」
「《闘神の加護》を知っていました」
カンダ。
「俺を親父と間違えたんじゃない?」
「違います」
即答。
カンダ。
「違うんだ」
「かつて」
「同じ加護を宿した者がいました」
「イフリートは」
「その力を知っていた」
カンダ。
「誰?」
女王。
「それは」
少し。
間。
「まだ」
「私から話すことではありません」
カンダ。
「またそれぇぇぇ!?」
森。
響く。
ジュリア。
「一個教えたら」
「一個隠すね」
リホ。
「精霊だから」
「精霊ってそういう決まりなの!?」
レオン。
苦笑する。
◇
カンダ。
頭。
掻く。
「じゃあ」
「まとめると」
指。
一本。
「俺の加護は《闘神》」
二本。
「戦うほど身体も魔力も伸びる」
三本。
「魔力まで斧に乗る」
四本。
「楽しくなると強くなる」
女王。
「最後は少し違います」
カンダ。
「大体合ってる?」
「大体は」
カンダ。
頷く。
「よし」
魔神の斧。
担ぐ。
リホ。
「何がよしなの?」
「よくわかんない加護じゃなくなった」
少しだけ。
笑う。
「それで十分」
女王は、そんなカンダを静かに見ていた。
勇者。
魔王。
そして。
闘神。
山を越えてから。
わからないことは増えた。
それでも。
一つだけ。
ようやく。
自分の力に。
名前がついた。
――第42話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!
それでは、また次の冒険で!




