第41話 一撃だけでいい
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
魔王ヴァルザス。
その男を前に、カンダとレオンが並んだ。
城の外では、今も大戦が続いている。
遠くから響く爆発音。
魔物の咆哮。
兵士たちの声。
だが、この広間だけは妙に静かだった。
ヴァルザスがゆっくりと立ち上がる。
その身体から漏れ出した魔力だけで、床が軋んだ。
『二人か』
レオンが剣を構える。
「十分でしょう」
カンダも《魔神の斧》を肩から下ろした。
『勇者とは、いつの時代も傲慢だ』
「俺は別に勇者だから来たわけじゃ――」
レオンが横を見る。
「え?」
「……何でもない」
危ない。
逃げてきたことを忘れるところだった。
ヴァルザスが片手を上げる。
黒い炎が生まれた。
『ならば試してやろう』
次の瞬間。
炎が弾けた。
◇
「散って!」
レオンの声と同時に、二人が左右へ飛ぶ。
ドォォォン!!
さっきまで立っていた床が吹き飛んだ。
「威力おかしくない!?」
「魔王ですよ!」
「知ってる!」
ヴァルザスが次の黒炎を放つ。
レオンが前へ出た。
「《フレイ》!」
炎同士がぶつかり、広間いっぱいに爆風が広がる。
その煙の中へ、レオンは迷わず踏み込んだ。
剣。
一閃。
ヴァルザスの腕と激突する。
ギィン!
レオンは止まらない。
二撃。
三撃。
剣を受けられれば魔法。
魔法をかわされれば、また剣。
カンダは少し離れたところから、その動きを見ていた。
「……やっぱ普通に強え」
「感心してないで来てください!」
「今行く!」
魔神の斧を握る。
距離。
およそ七十メートル。
「《ラル》!」
カンダの姿が消えた。
次の瞬間。
ヴァルザスの横。
「もらった!」
全力で斧を振り抜く。
ヴァルザスの目が見開かれた。
両腕。
交差。
ドゴォォォン!!
空気が震えた。
床に亀裂が走る。
ヴァルザスの巨体が何メートルも押し戻された。
それでも。
立っている。
「…………」
カンダの動きが止まった。
レオンも目を見開く。
「止めた……」
ヴァルザスの両腕から血が流れている。
腕は震えていた。
だが。
《魔神の斧》を。
真正面から。
受け止めた。
カンダは自分の斧を見る。
そして。
ヴァルザスを見る。
「…………」
口元が。
上がった。
「すげえ」
レオンがカンダを見る。
「カンダ?」
「俺の一撃」
もう一度。
斧を構える。
「止めた」
なぜか。
胸が高鳴った。
今までなら。
当てれば終わった。
ゴーレムも。
魔物も。
魔王でさえ。
力いっぱい殴れば、大抵それで終わった。
なのに。
目の前の男は。
止めた。
カンダは笑った。
「……なんか」
斧を握る手に力が入る。
「楽しくなってきた」
レオン。
「…………」
ヴァルザスも。
僅かに表情を変えた。
◇
ドクン。
カンダの身体。
奥。
何かが脈打った。
「……ん?」
魔力が溢れる。
だが。
外へは広がらない。
腕へ。
脚へ。
胸へ。
身体の中へ戻っていく。
そして。
右手。
柄。
《魔神の斧》へ。
淡い光が刃を覆った。
レオンが息を呑む。
「魔力が……」
普通なら。
外へ放つ。
魔法へ変える。
だがカンダの魔力は。
すべて。
身体へ。
武器へ。
戦うための力へ。
変わっていく。
「カンダ」
「何?」
「それ……何ですか?」
カンダ。
自分を見る。
「知らん」
「知らないんですか!?」
「俺も今なった!」
ヴァルザス。
カンダを見つめる。
『……その力』
「だから知らん!」
床を蹴る。
速い。
カンダ自身が驚く。
「お?」
ヴァルザスの拳。
見える。
今までより。
はっきり。
身体をずらす。
拳が頬の横を抜けた。
「見える」
そのまま。
斧。
振る。
ヴァルザスが飛び退く。
刃は届かない。
だが。
斧にまとった魔力が床を削った。
レオン。
「さっきより強くなってません!?」
「俺に聞くな!」
◇
ヴァルザスが吠えた。
『あの斧を止めろ!』
黒炎。
一斉にカンダへ向く。
「完全に俺狙い!?」
一発。
《ラル》。
消える。
爆発。
別の場所へ。
また黒炎。
《ラル》。
さらに移動。
「待て待て!」
もう一度。
《ラル》。
今まで。
少しずつズレていた距離。
それが。
狙った場所へ。
正確に出る。
「……あれ?」
カンダ。
一瞬。
止まる。
ヴァルザス。
黒炎。
放つ。
「危なっ!」
《ラル》。
また。
ぴたり。
狙った位置。
レオンがヴァルザスへ斬りかかりながら叫ぶ。
「カンダ!」
「何!?」
「今の状態!」
剣。
爪。
ぶつかる。
「かなり危ない力に見えます!」
「なんで!?」
「笑ってます!」
「え?」
カンダ。
自分の顔。
触る。
「…………」
本当に。
笑っている。
「俺」
「戦うの嫌いなんだけど」
「説得力ないですよ!」
「ほんとなんだって!」
ヴァルザス。
『戯れるな!!』
魔力が爆発した。
◇
黒い炎がヴァルザスの全身を覆う。
身体が膨れ上がり、角がさらに長く伸びる。
広間の柱が次々と砕けた。
『人間どもは』
低い声が響く。
『いつもそうだ』
『我らを魔物と呼び』
『恐れ』
『狩り』
『住処を奪う』
カンダの笑みが消える。
ヴァルザスは両腕を広げた。
『ならば我らが』
『人間を退けて何が悪い!』
炎。
天井まで燃え上がる。
『我は作る!』
『魔物が人間に怯えず』
『誰にも虐げられず』
『生きられる世界を!』
カンダは黙って聞いていた。
そして。
「それで」
ヴァルザスを見る。
「村を襲うの?」
『必要な犠牲だ』
「じゃあダメだ」
『何?』
カンダは斧を構える。
「弱い奴を助けたいって話なら」
「わかる」
「でも」
少しだけ。
眉を寄せる。
「そのために」
「別の弱い奴を踏んだら」
「同じだろ」
ヴァルザスの顔が歪む。
『黙れぇぇぇ!!』
黒炎。
一斉に襲う。
◇
レオンが前へ出た。
剣で炎を切り裂く。
「カンダ!」
「何!?」
「一発」
「は?」
次の炎を受け流す。
レオンはヴァルザスから目を離さない。
「一発だけ」
「当てられますか?」
カンダ。
魔神の斧を握る。
身体。
魔力。
斧。
全部が。
一つになっている。
口元が。
また。
上がった。
「今なら」
「絶対当てる」
レオンも笑った。
「なら」
「俺が作ります」
レオン。
正面。
突っ込む。
◇
ヴァルザスの黒炎。
レオンがかわす。
剣。
振る。
爪。
受ける。
また剣。
魔法。
剣。
ヴァルザスが徐々に押される。
『貴様では我は倒せぬ!』
「知ってます!」
『何!?』
「俺が倒す必要はない!」
レオンが剣を滑らせる。
ヴァルザスの腕を外へ弾いた。
一瞬。
胴。
開く。
「カンダ!」
「おう!」
距離。
九十メートル。
カンダは狙う。
今までなら。
大体。
あの辺。
だった。
今は違う。
ここ。
それだけ。
「《ラル》」
シュン。
◇
ヴァルザスの背後。
寸分。
違わず。
現れる。
『――!』
ヴァルザスが振り向く。
レオンが腕を掴む。
「行かせません!」
『離せ!』
カンダ。
魔神の斧。
振りかぶる。
魔力。
身体から。
腕へ。
腕から。
斧へ。
刃。
眩しいほど。
光る。
ヴァルザスが。
それを見る。
その力を。
感じる。
表情。
変わる。
『まさか――』
カンダ。
踏み込む。
「うおおおおお!!」
全力。
ただ。
一撃。
ドゴォォォォォォン!!
斧が。
ヴァルザスを。
叩き抜いた。
床。
割れる。
壁。
崩れる。
城全体が。
揺れる。
そして。
静かになった。
◇
瓦礫の中。
ヴァルザス。
倒れている。
カンダは斧を下ろした。
先ほどまで身体を覆っていた魔力も、少しずつ消えていく。
「…………」
カンダ。
自分の手を見る。
「戻った?」
レオン。
息を整えながら近づく。
「今の」
「本当に何だったんです?」
「知らない」
「またそれですか」
「本当に知らないんだって」
その時。
ヴァルザスの腕が動いた。
二人。
武器。
構える。
だが。
もう。
立ち上がらない。
『……まだ』
弱い。
声。
『まだ……』
カンダ。
見る。
『魔物たちの……』
『世界を……』
『人間に怯えず……』
『狩られず……』
『生きられる……』
『世界を……』
ヴァルザスの目が。
カンダへ向いた。
「…………」
じっと。
見る。
『貴様……』
カンダ。
「何だよ」
ヴァルザスの目。
先ほどとは違う。
敵を見る目では。
ない。
カンダの顔。
身体。
そして。
僅かに残る。
魔力。
見る。
『その力……』
「?」
『まさか……』
ヴァルザス。
息を呑む。
そして。
震える声で。
『ガルバス様の――』
そこで。
途切れた。
腕。
落ちる。
静かになる。
◇
カンダは動かなかった。
レオンも。
何も言わない。
しばらくして。
カンダが口を開く。
「……今」
「親父の名前」
「呼んだよな」
「はい」
レオンもヴァルザスを見る。
「しかも」
カンダ。
少し。
間。
「ガルバス様って」
村では。
《魔王ガルバス》。
ここでは。
《ガルバス様》。
同じ名前なのに。
まるで意味が違う。
「…………」
カンダは頭を掻いた。
「もう」
「親父が何なのか」
「全然わかんねえ」
レオンは少し考える。
「でも」
「ガルバスさんが」
「この土地と深く関わっているのは」
「間違いなさそうですね」
「……だな」
そして。
レオンはカンダを見る。
じっと。
見る。
「何?」
「いえ」
「さっきの」
「カンダの力です」
「…………」
レオン。
真面目な顔。
「あれ」
「精霊女王様に確認した方がいいと思います」
カンダ。
嫌そうな。
顔。
「あの女王に?」
「知ってそうです」
「…………」
カンダ。
ため息。
「今度こそ」
「絶対教えてもらう」
レオン。
「そうしましょう」
カンダ。
ヴァルザスを見る。
父の謎。
自分の謎。
二つ。
増えた。
「…………」
「魔王倒したのに」
「問題増えてない?」
レオン。
「増えましたね」
「だよなぁ……」
――第41話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!
それでは、また次の冒険で!




