第40話 静かな方に逃げました
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
翌朝。
城塞都市グランザの門が開いた。
外には、すでに何十組もの勇者一行と兵士たちが並んでいる。
遠くには黒い城。
《魔王ヴァルザス》の居城。
そして、その間を埋めるように。
「……多くない?」
カンダは遠くを見ながら呟いた。
魔物。
魔物。
魔物。
平原を埋め尽くすほどの魔物が、こちらを待ち構えている。
リホが地図と実際の戦場を見比べる。
「聞いてた数より多そうね」
「帰っていい?」
「ダメ」
即答だった。
アリスが杖を持ったまま辺りを見回す。
「勇者もいっぱい」
「魔物もいっぱい」
「いっぱい対いっぱいだね」
「雑にまとめるな」
ジュリアは腰の短剣を確かめながら笑った。
「カンダが一番苦手なやつ」
「そうだよ!」
カンダは《魔神の斧》を持ち上げた。
「これ見ろよ!」
「振ったら周り全部飛ぶんだぞ!」
リホ。
「味方のいないところで振って」
「そんな都合よく場所空く!?」
その時。
大きな角笛が鳴った。
ブォォォォォ――!!
空気が震える。
前方で指揮官が剣を掲げた。
「全軍!」
「進めぇぇぇ!!」
「おおおおおお!!」
勇者。
兵士。
一斉に走り出す。
向こうからも、魔物の大群が押し寄せてきた。
カンダは斧を構えた。
「本当に始まったぁぁぁ!!」
◇
最初にぶつかったのはカンラだった。
いや。
正確には、カンラの魔物たちだった。
「左右から回れ!」
狼型の魔物が左右へ散る。
鳥型が上空へ。
ゴーレムたちは正面に並び、敵の突進を受け止めた。
ドォン!
ぶつかる。
だが崩れない。
その隙に甲虫型が横から突っ込み、敵陣をかき乱す。
「今だ!」
カンラの声で、狼たちが一斉に飛び込んだ。
敵の前列が崩れる。
カンダは少し離れた場所から見ていた。
「…………」
ジュリア。
「どうしたの?」
「あいつ」
カンラを見る。
魔物一匹一匹の位置を見ながら、次々と指示を飛ばしている。
「集団戦になると普通に強いな」
「得意って言ってたでしょ」
「俺より勇者っぽくない?」
「カンラも勇者の息子だしね」
「そこなんだよなぁ……」
◇
反対側。
レオンも強かった。
剣で一匹を斬る。
すぐに別の敵へ炎を放つ。
背後から来た魔物をかわし、そのまま剣で受け流す。
止まらない。
攻撃。
防御。
魔法。
判断。
全部が速い。
そして安定している。
「やっぱ普通に強え」
カンダが呟く。
リホが横を見る。
「普通?」
「普通に強い」
「褒めてる?」
「めちゃくちゃ褒めてる」
レオンは派手な一撃で戦場を吹き飛ばしたりはしない。
その代わり。
崩れない。
どんな状況でも、ちゃんと戦える。
正統派。
まさに。
勇者。
「……俺と全然違うな」
アリス。
「カンダは一撃」
「わかってる!」
◇
カンダにも魔物が押し寄せる。
一匹。
二匹。
五匹。
「そこ!」
カンダは味方がいないことを確認する。
《魔神の斧》を横に構えた。
「――《豪薙ぎ》!」
ブオォォォォン!!
五匹。
まとめて吹き飛ぶ。
さらに後ろにいた二匹まで巻き込まれた。
「よし!」
しかし。
「カンダ!」
リホの声。
「何!?」
「右!」
見る。
兵士。
いる。
「左!」
勇者一行。
いる。
「後ろ!」
アリス。
いる。
カンダ。
斧。
持ったまま。
止まる。
「…………」
魔物。
正面から。
来る。
「振れない!!」
ジュリアが飛び出す。
一匹の足を斬る。
「だから言ったでしょ!」
「俺、大戦向いてない!」
「今気づいたの!?」
「前から知ってた!」
◇
戦場。
広い。
だが。
人も。
魔物も。
多すぎる。
カンダは小さく斧を振って一匹ずつ殴る。
ドゴン。
一匹。
ドゴン。
一匹。
「…………」
また。
一匹。
ドゴン。
「…………」
カンダ。
顔。
曇る。
アリス。
「つまんなそう」
「俺の斧」
「こういう使い方じゃないんだよ」
リホ。
「武器に娯楽性求めないで」
「一気にドーンってやりたい!」
「味方もドーンってなるわよ」
「だよな!」
カンダ。
戦場を見る。
正面ではレオン。
左ではカンラ。
勇者たちも。
思った以上に戦えている。
「…………」
カンダ。
何かを。
考える。
ジュリア。
すぐ気づく。
「その顔」
「何?」
「逃げる顔」
「違う」
「昨日と同じ」
「違うって!」
カンダ。
魔王城を見る。
そして。
戦場を見る。
もう一度。
魔王城。
「…………」
突然。
斧を肩に担いだ。
「よし!」
リホ。
「何がよしなの?」
カンダ。
大きく息を吸う。
そして。
近くの勇者たちにも聞こえるように叫んだ。
「ここは任せた!!」
「え?」
レオンが遠くで振り向く。
カンラも見る。
カンダ。
魔王城を指す。
「大戦はお前らに任せる!」
「俺は――」
一拍。
「単独でヴァルザスを討つ!!」
「…………」
一瞬。
戦場が静かになった。
そして。
「おおおおおお!!」
勇者たち。
盛り上がる。
「さすが斧の勇者!」
「敵将を直接狙うのか!」
「俺たちが道を作るぞ!」
「ヴァルザスを頼んだ!」
カンダ。
拳。
上げる。
「任せろ!」
リホ。
「…………」
ジュリア。
「…………」
アリス。
「格好いい」
リホ。
「信じちゃダメよ」
「え?」
◇
カンダはジュリアへ近づいた。
小声。
「ジュリア」
「何?」
「《隠密》」
「…………」
「俺に」
ジュリア。
じっと。
見る。
「本当にヴァルザスを狙うの?」
「もちろん」
「目見て言って」
カンダ。
目。
逸らす。
「もちろん」
「逸らした」
「早く!」
ジュリアはため息をつく。
「……後で怒られても知らないからね」
《隠密》。
気配。
薄れる。
カンダ。
笑う。
「ありがとう!」
そのまま走る。
魔王城へ。
向かって。
途中まで。
そして。
「…………」
右。
大戦。
左。
静かな森。
カンダ。
左へ。
曲がった。
ジュリア。
遠くから見る。
「やっぱり逃げた」
リホ。
「でしょうね」
アリス。
「ヴァルザスは?」
「たぶん探してない」
◇
カンダは森の中を走る。
戦場の音が、少しずつ遠くなっていく。
「よし」
さらに。
進む。
「静か」
爆発音。
遠い。
「最高」
魔物。
いない。
兵士。
いない。
勇者。
いない。
カンダは大きく息を吐いた。
「大戦は」
「集団戦得意なカンラ」
「普通に強いレオン」
「勇者いっぱい」
指。
折る。
「俺」
「いらなくない?」
一人で頷く。
「適材適所」
少し。
間。
「逃げたんじゃない」
「適材適所」
自分に。
言い聞かせる。
◇
森を進むと、古い石道が現れた。
「…………」
カンダ。
止まる。
道。
魔王城とは。
少し違う方向。
だが。
山へ。
続いている。
「こんな道あったっけ?」
地図。
出す。
「…………」
載ってない。
普通なら。
戻る。
だが。
戦場へ戻れば。
また。
人。
いっぱい。
「…………」
「ちょっとだけ」
進む。
道の先。
小さな。
石門。
その奥。
崖の中へ続く通路。
「…………」
カンダ。
考える。
「たぶん」
「ハズレ」
だから。
入る。
◇
中は。
妙に静かだった。
魔物の姿もない。
警備兵すら。
いない。
「ほら」
カンダ。
安心。
「ハズレだ」
奥へ。
歩く。
《隠密》も。
まだ効いている。
階段。
上る。
長い。
廊下。
進む。
そして。
大きな扉。
「…………」
カンダ。
見る。
「絶対」
「何かある扉だな」
開けない方がいい。
そう思う。
だが。
少しだけ。
気になる。
「…………」
そっと。
開ける。
ギィィィ……。
広い。
部屋。
赤い。
絨毯。
高い。
天井。
一番奥。
玉座。
そして。
一人。
男。
座っている。
「…………」
カンダ。
止まる。
男も。
見る。
「…………」
カンダ。
ゆっくり。
扉。
閉める。
「すみません」
「間違えました」
『待て』
止まる。
カンダ。
「…………」
振り返る。
男。
立ち上がる。
大きい。
人間に近い。
だが。
角。
黒い。
皮膚。
身体から。
漏れる。
魔力。
空気。
重くなる。
カンダ。
嫌な。
予感。
「……お名前」
男。
ゆっくり。
階段を下りる。
『我が名は』
『ヴァルザス』
カンダ。
「…………」
扉。
見る。
ヴァルザス。
見る。
もう一度。
扉。
「なんで静かな方に魔王いるの!?」
ヴァルザス。
『…………』
カンダ。
「何?」
『いや』
『我も聞きたい』
『なぜ』
『勇者どもが正面から攻めている中』
『貴様だけが』
『ここにいる?』
「…………」
カンダ。
考える。
格好よく。
斧。
担ぐ。
「決まってる」
『ほう』
「大戦は仲間に任せ」
「俺は単独で」
「お前を討ちに来た」
ヴァルザス。
じっと。
見る。
『嘘をつけ』
「なんでわかる!?」
◇
ヴァルザス。
笑う。
『面白い』
魔力。
膨れる。
床。
震える。
『だが』
『ここまで来た以上』
『帰すつもりはない』
カンダ。
「…………」
魔神の斧。
構える。
「だよな」
逃げ道。
後ろ。
扉。
ヴァルザス。
前。
「…………」
カンダ。
小さく。
呟く。
「静かなところ」
「探しただけなのに」
『何か言ったか?』
「何でもない!」
ヴァルザス。
腕。
上げる。
黒い。
炎。
生まれる。
カンダ。
腰。
落とす。
その時。
ドォォン!!
後ろの扉。
開く。
「カンダ!」
「!?」
振り向く。
剣。
持った。
レオン。
立っている。
「レオン!?」
「やっぱりここでしたか!」
「どうして!?」
レオン。
カンダの隣へ。
来る。
ヴァルザスを見る。
剣。
構える。
そして。
少し。
笑った。
「抜け駆けですか?」
カンダ。
「…………」
「一人で魔王を討とうなんて」
レオン。
前へ。
一歩。
「助太刀しますよ」
カンダ。
「…………」
逃げた。
とは。
言えない。
「お」
少し。
声。
裏返る。
「おー!」
ヴァルザス。
二人を見る。
『なるほど』
カンダ。
「何だよ」
『随分と』
『志の高い勇者なのだな』
カンダ。
「黙れ!!」
レオン。
「?」
「何でもない!」
王道勇者。
レオン。
一撃の勇者。
カンダ。
二人。
並ぶ。
その前。
魔王ヴァルザス。
黒い炎。
広がる。
レオン。
剣。
構える。
「行きますよ」
カンダ。
魔神の斧。
握る。
「おう」
逃げた先で。
なぜか。
本当に。
魔王戦が。
始まった。
――第40話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!
それでは、また次の冒険で!




