第39話 斧の勇者が来たぞ
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
呪われた村――いや、村だった廃墟を離れて数時間。
街道を歩きながら、カンダはずっと難しい顔をしていた。
「親父が魔王って言われた」
指を一本立てる。
「村が全部幻だった」
二本。
「村人が全員ゴーストだった」
三本。
「俺がゴーストを斧で殴れるようになった」
四本。
ジュリアが横から言う。
「最後だけカンダの問題ね」
「全部問題だよ!」
アリスはのんびり歩きながら笑った。
「山を越えてから、いろいろあるね」
「まだ二日くらいだぞ!?」
カンダは頭を抱える。
「もっと普通に親父の情報を集める旅だと思ってた!」
リホが首を傾げた。
「今まで普通だったことある?」
「…………」
少し考える。
「ないな」
「ないでしょ」
「納得したくない!」
◇
街道を進んでいると、やがて行き交う人の数が増えてきた。
冒険者。
兵士。
商人。
そして。
「……勇者だ」
カンダが前を歩く一行を見る。
先頭の男の胸には、見覚えのある勇者の証。
その先にも、また別の勇者一行。
さらに向こうにも。
「多くない?」
「多いわね」
リホも周囲を見回す。
ジュリアが前方を指した。
「みんな、あそこに向かってるみたい」
街道の先に、大きな城壁が見えてきた。
何本もの旗が風にはためき、人や荷馬車が次々と門へ吸い込まれていく。
城塞都市。
カンダは嫌そうな顔をした。
「勇者がこんなに一か所に集まってる時って、ろくなことないんだよな」
アリスが言う。
「カンダも勇者だよ」
「だから嫌なんだよ!」
◇
門の前には長い列ができていた。
カンダたちの前にいた勇者一行へ、兵士が声をかける。
「ヴァルザス討伐に?」
「ああ。そのために来た」
カンダの眉が動いた。
「ヴァルザス?」
「魔王っぽい名前ね」
ジュリアの言葉に、カンダはため息をつく。
「もう嫌だ」
「まだ名前しか聞いてないわよ」
「絶対魔王じゃん」
そして自分たちの番。
兵士がカンダを見る。
次に背負った巨大な《魔神の斧》を見る。
もう一度、顔を見る。
「…………」
カンダにも嫌な予感がした。
「どうも」
兵士の目が大きくなる。
「まさか……」
「違います」
「まだ何も言ってない!」
「先に否定しておこうと思って」
兵士は斧を指さした。
「《斧の勇者》……?」
「違――」
兵士が町の中へ振り返る。
「《斧の勇者》が来たぞぉぉぉぉ!!」
「最後まで言わせろぉぉぉ!!」
一瞬で辺りがざわついた。
「斧の勇者!?」
「魔王を真っ二つにしたっていう!」
「山も割ったらしいぞ!」
「クラーケンも一撃だ!」
「話が混ざってる!!」
さらに誰かが叫ぶ。
「これでヴァルザスに勝てるぞ!」
「おおおおお!!」
歓声が上がった。
「待って待って!」
カンダは両手を振る。
「俺、まだ何も引き受けてないから!」
アリスが嬉しそうに言う。
「人気者」
「嬉しくない!」
少し間を置く。
「……ちょっと嬉しいけど」
ジュリアが笑う。
「嬉しいんじゃん」
「ちょっとだけ!」
◇
町の中は、完全に戦の準備に入っていた。
武器を整える兵士。
荷物を運ぶ商人。
傷薬を並べる治療所。
そして、そこら中に勇者一行がいる。
広場には巨大な地図まで張り出されていた。
中央に描かれた黒い城。
その上に大きく、
《魔王ヴァルザス討伐作戦》
と書かれている。
「やっぱ魔王じゃん……」
カンダが項垂れる。
話を聞けば、ヴァルザスはこの一帯の魔物を束ねる強大な魔王らしい。
何度も勇者が討伐へ向かったが失敗。
しかも厄介なのは本人だけではなく、配下の数が圧倒的に多いことだった。
「だから勇者を集めたのね」
リホが地図を見ながら言う。
カンダはそこに描かれた大量の魔物の印を見る。
「……俺、大人数の戦い嫌いなんだよな」
ジュリアが即答する。
「知ってる」
「斧で薙いだら味方まで飛ぶだろ?」
アリスが頷く。
「勇者もいっぱい飛ぶね」
「だから嫌なんだよ!」
ジュリアがじっとカンダを見る。
「何?」
「逃げ方考えてる?」
「考えてない!」
リホ。
「今、一瞬遅かったわね」
「考えてないって!」
◇
広場へ向かっていると、聞き覚えのある声が飛んできた。
「カンダ!」
振り向く。
「レオン!?」
レオンがこちらへ走ってくる。
その横にはフィーネ。
「久しぶり!」
「いやいやいや」
カンダは二人を見比べる。
「なんでいるの!?」
さらに後ろから。
狼。
甲虫。
鳥。
ゴーレム。
蜥蜴。
大量の魔物がぞろぞろと現れた。
その中央にいる男を見て、カンダはさらに声を上げる。
「カンラ!?」
「よう」
「なんでお前までいるんだよ!」
「来た」
「それは見ればわかる!」
リホが首を傾げた。
「でも、本当にどうやって?」
「そうだよ!」
カンダがレオンへ詰め寄る。
「あの山どうした!?」
レオンは不思議そうな顔で答えた。
「精霊女王が《ラルー》で送ってくれたけど」
「…………」
カンダの動きが止まった。
ゆっくり。
空を見る。
「あの女王ぉぉぉぉぉ!!」
町中に響いた。
「俺たちフェルニア呼ぶのに一か月待ったんだぞ!」
「う、うん」
「それに乗って!」
「山越えて!」
「空で死ぬほど怖い思いして!」
「お前らラルー!?」
レオンが少し困る。
「女王は、フェルニアにはもっと先へ行くための役目があるって――」
「…………」
カンダが止まる。
「もっと先?」
「ああ。この地方よりさらに向こうには、普通の移動魔法だけじゃ行けない場所があるらしい」
「…………」
少し考えて。
「じゃあ無駄じゃない?」
「無駄じゃない」
「なら許す」
ジュリア。
「早い」
「無駄だったら一時間説教してた」
アリス。
「女王に?」
「女王に」
◇
カンダは改めてカンラの後ろを見る。
「しかし、お前のモンスター……また増えてない?」
「増えた」
「何匹いるの?」
「数えてない」
「数えろよ!」
カンラは魔物たちを見ながら笑った。
「ヴァルザスは大軍を使うんだろ?」
「らしいな」
「なら得意分野だ」
魔物たちが低く唸る。
「軍勢は俺が崩す」
カンダは少し笑った。
「頼もしくなったじゃん」
「お前は?」
「俺?」
カンダは《魔神の斧》を見る。
「……一撃」
レオンが頷く。
「一撃ですね」
カンラ。
「一撃だな」
リホ。
「一撃ね」
ジュリア。
「一撃」
アリス。
「一撃」
「もうわかったよ!!」
◇
夕方。
広場で、翌日の討伐作戦が説明された。
ヴァルザス城の正面には大量の魔物。
勇者たちを複数の部隊に分けて突入する。
カンラは使役モンスターを率いる遊撃部隊。
レオンは中央の主力。
そして。
「《斧の勇者》カンダ殿には、中央突破の最重要戦力として――」
カンダの顔が引きつる。
「やっぱりぃぃぃ!!」
全員の視線が集まった。
「……何か?」
「何でもないです!」
隣でリホが小声で言う。
「逃げられなくなったわね」
「まだわからない」
「何が?」
カンダは地図を見る。
正面。
大軍。
その左右。
静かな森。
「方法はある」
ジュリアがカンダを見る。
「…………」
カンダは目を逸らした。
◇
夜。
城壁の上から、遠くにヴァルザス城が見えた。
その周囲には無数の魔物の灯り。
明日。
あそこが戦場になる。
隣にレオンが立つ。
「いよいよですね」
「そうだな」
「緊張してます?」
「してない」
「本当に?」
「……ちょっと」
レオンが笑う。
「俺もですよ」
カンダは意外そうに見る。
「お前も?」
「勇者だからって、怖くないわけじゃないです」
「ちゃんとした勇者でも?」
「カンダも勇者でしょう」
「俺は違う」
「斧の勇者」
「それやめろ」
二人で少し笑う。
レオンは遠くの城を見た。
「明日は、一緒にヴァルザスを倒しましょう」
「…………」
カンダも城を見る。
「まあ」
魔神の斧を肩に担ぐ。
「やるだけやるよ」
「頼りにしてます」
レオンが去っていく。
一人になったカンダは、もう一度戦場になる平原を見た。
勇者が何十人。
兵士が何百人。
魔物は、それ以上。
「…………」
カンダは魔神の斧を見る。
「人、多いな」
少し考える。
「大戦って」
「得意な奴に任せた方がいいよな」
後ろから声。
「何する気?」
「うわっ!」
振り向くと、ジュリアがいた。
「いつからいた!?」
「今」
「嘘つけ!」
ジュリアは笑う。
「明日、変なことしないでね」
「しない」
「本当に?」
「…………」
「たぶん」
「絶対するね」
「しないって!」
遠く。
ヴァルザス城の上に黒い雲が集まり始める。
明朝。
魔王ヴァルザス討伐戦が始まる。
――第39話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
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それでは、また次の冒険で!




