第3話 次の町は、どこですか?
今日もゆるっと冒険開始です。
勇者カンダと、ちょっとクセの強い三人娘の旅をお楽しみください!
「カンダ」
「何?」
「本当にこっちで合ってる?」
「合ってる」
「本当に?」
「合ってるって」
「絶対?」
「……たぶん」
「今たぶんって言ったわよね?」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
「言った」
「言ってな――」
「どっちでもよくない?」
アリスが二人の間から顔を出した。
「道って歩いてればどっか着くっしょ」
「お前は黙ってろ!」
王都を出発してから半日。
勇者カンダ一行は、順調に道に迷っていた。
目的地は次の町。
名前は知っている。
地図もある。
道もある。
にもかかわらず、迷った。
原因は明確だった。
「だから地図を上下逆に持つなって言ったでしょ」
ジュリアが呆れている。
「途中で直した!」
「間違った道に入ってからね」
「でも道は続いてるだろ?」
「そりゃ道だからね」
カンダは地図と街道を交互に見る。
「おかしいな……」
「貸して」
ジュリアが地図を奪った。
「最初から私に渡せばよかったのよ」
「読めるの?」
「盗賊を何だと思ってるの?」
「泥棒」
「間違ってないけど腹立つわね」
ジュリアは地図を眺めた。
しばらくして。
「あ」
「何?」
「これ」
地図の端を指差す。
小さな点。
本当に小さい。
その横に、小さな文字が書かれていた。
「村?」
リホが覗き込む。
「……たぶん」
ジュリアが顔を上げた。
「私たち、町じゃなくて村に向かってる」
沈黙。
三人の視線がカンダに集まった。
「…………」
「何?」
「カンダ」
リホが笑顔で言った。
「地図読めないなら、最初から言って?」
「読める!」
「じゃあなんで村に向かってるの?」
「地図が悪い!」
「地図のせいにした!」
アリスが笑う。
「いいじゃん。村行こうよ」
「次の町に行く予定だったんだぞ」
「村の次に町行けばいいじゃん」
「……まあ」
言われてみればそうだ。
急ぐ旅でもない。
そもそもカンダ自身、魔王討伐を急いでいない。
「じゃあ村で一泊するか」
「賛成」
アリスが手を挙げる。
リホも頷いた。
「宿が安ければ」
「そこかよ」
ジュリアが地図を畳む。
「決まりね」
こうして。
勇者一行は予定を変更した。
というより。
予定通りに進めなかった。
◇
道中。
何度か魔物に遭遇した。
王都周辺で戦った丸い魔物とは違い、少し大きい。
四本足で、全身を茶色い毛に覆われている。
「来るよ!」
ジュリアが叫ぶ。
魔物が突進する。
カンダは剣を構えた。
「うおっ!」
剣を横に振る。
手応え。
魔物がよろめく。
そこへジュリアが飛び込んだ。
短剣の柄を叩き込む。
魔物が倒れた。
「やった?」
リホが近づく。
「たぶん」
「じゃあ――」
リホの目が変わった。
「解体するわよ」
「え?」
「肉取れるでしょ」
カンダが倒れた魔物を見る。
「食うの?」
「売るの」
「これを?」
「何言ってるの? 魔物の肉は普通に食材になるものもあるし、毛皮も売れる。牙も加工できるかもしれない」
リホは荷物から小さなナイフを取り出した。
カンダが一歩下がる。
「……慣れてる?」
「商人だもの」
「商人ってすごいな」
「今頃気づいた?」
リホは手際よく作業を始めた。
ジュリアも手伝う。
「ここ?」
「そう。傷つけないで。価値下がるから」
「細かいなあ」
「商品よ!」
アリスは少し離れたところで見ている。
「リホ」
「何?」
「お肉、今日食べる分残して」
「売る」
「ケチ」
「商人!」
「ケチ商人」
「売らないわよ!?」
「何を?」
「お肉!」
「最初から売るって言ってたじゃん」
「……もう!」
リホの扱い方を一番早く覚えたのは、たぶんアリスだった。
◇
夕方。
ようやく村が見えた。
「……小さいな」
カンダが呟く。
木の柵。
畑。
十数軒の家。
遠くに家畜小屋らしきものが見える。
アリスが首を傾げた。
「町じゃないね」
「だから村だって言っただろ」
「町が痩せたのかと思った」
「町は痩せない」
四人が村へ入る。
そこでカンダは、少し違和感を覚えた。
静かだ。
夕方なら畑から戻ってくる人間や、外で遊ぶ子供がいてもよさそうなものだ。
だが、人が少ない。
店らしき建物も閉まっている。
「宿屋……ある?」
リホが周囲を見る。
「そこ?」
カンダが指差す。
小さな看板。
宿屋と書かれている。
「よかった〜」
アリスが伸びをする。
「ベッドある〜」
ところが。
宿屋へ向かおうとしたところで。
「お兄ちゃんたち、旅の人?」
声をかけられた。
見ると、十歳くらいの少年が立っている。
「そうだけど」
少年は四人の荷物を見る。
特にリホが背負っている袋をじっと見つめた。
「それ……食べ物?」
リホが足を止める。
「肉だけど」
少年の目が大きくなった。
その声を聞いたのか。
家から女性が出てきた。
さらに老人。
男。
気づけば数人の村人が集まってきた。
「肉だって?」
「本当か?」
「売り物なのか?」
リホが少し驚いたように周囲を見る。
「……売り物ですけど」
「いくらだ?」
「少しでいい。分けてもらえないか?」
「毛皮もあるのか?」
村人たちが集まってくる。
「ちょ、ちょっと待って!」
リホが両手を上げた。
そして――。
表情が変わった。
商人の顔になった。
「順番!」
村人たちが止まる。
「押さない! 商品は逃げません!」
カンダたちは少し離れた。
リホが袋を開く。
肉。
毛皮。
牙。
道中で集めた素材。
それを地面に並べていく。
「肉はこれ。毛皮はこっち。牙は……」
「リホ」
カンダが呼ぶ。
「何?」
「楽しそうだな」
「商売中だから邪魔しないで」
「はい」
完全に別人だった。
◇
しばらくして。
即席の露店が出来上がった。
「これを二つ」
「はい」
「肉、もう少し安くならないか?」
「うーん……」
リホが男を見る。
服は古い。
隣には小さな女の子がいる。
リホは肉を見る。
「……二つ買うなら、これも付けます」
少し小さな肉を追加した。
「いいのか?」
「形が悪くて売り物にならないから」
「ありがとう!」
男は頭を下げた。
カンダが肉を見る。
普通に売れそうだった。
何も言わなかった。
次は老婆。
「この毛皮、欲しいんだけどねえ」
「何に使うんです?」
「孫の寝床に敷いてやりたくて」
「じゃあこれ」
「でもお金が……」
「端が傷ついてるから半額」
「半額?」
「不良品です」
老婆は何度も礼を言って帰っていった。
カンダが毛皮を見る。
傷なんてどこにも見えなかった。
「リホ」
「何?」
「それ――」
「次のお客さん!」
遮られた。
「…………」
ジュリアが横で笑っている。
「商人なんでしょ?」
「……らしいな」
やがて。
肉はほとんど売れた。
毛皮も売れた。
素材もいくつか売れた。
リホは満足そうに硬貨を数えている。
「いい商売だった」
「儲かった?」
アリスが聞く。
「まあまあ」
「ほんと?」
「何よ」
「べつに〜」
アリスが笑う。
リホは少しだけ眉をひそめた。
「ちゃんと利益は出てます!」
「聞いてないよ?」
「うるさい!」
カンダは笑った。
本当に金が好きな奴だ。
◇
その夜。
四人は村の宿屋にいた。
夕食は質素だった。
硬いパン。
薄いスープ。
少量の野菜。
アリスがスープの中を覗く。
「具、三個」
「数えるな」
「カンダの四個ある」
「交換しないぞ」
「ケチ」
「お前今日俺の弁当も食っただろ」
「昔のことじゃん」
「昼だよ!」
そんなやり取りをしていると。
宿屋の主人が笑った。
「久しぶりだなあ」
「何がです?」
カンダが聞く。
「こんな賑やかなのは」
主人はテーブルを拭きながら言った。
「最近は旅人もほとんど来なくなってな」
ジュリアの手が止まる。
「どうして?」
主人の顔から笑みが消えた。
「……盗賊だよ」
「盗賊?」
カンダがジュリアを見る。
ジュリアが睨み返した。
「何で私を見るの?」
「いや」
「何?」
「同業――」
「違う」
「まだ言ってない」
「言おうとしたでしょ」
主人が苦笑した。
「村の北に森がある。その奥に、少し前から盗賊団が住み着いてな」
街道を通る商人を襲う。
荷物を奪う。
金を奪う。
それだけではない。
「最近じゃ、村にまで来るようになった」
「何しに?」
リホが聞く。
「食料だよ」
主人が答える。
「金も、家畜も。持っていける物は何でもだ」
カンダは今日の村を思い出した。
閉まった店。
少ない人。
肉に集まってきた村人たち。
「だから物がなかったのか」
「商人もこの道を避けるようになった。物が入ってこない。入ってきても高い」
リホは何も言わない。
ただ、手元の硬貨を見ていた。
そのとき。
宿屋の扉が開いた。
老人が入ってきた。
「旅の方々」
主人が立ち上がる。
「村長」
老人は四人の前まで来ると、深く頭を下げた。
「お願いがございます」
カンダは嫌な予感がした。
今日はよく嫌な予感が当たる。
「盗賊団を……退治していただけないでしょうか」
「…………」
カンダは三人を見る。
リホ。
ジュリア。
アリス。
三人ともカンダを見ていた。
「なんで俺を見るの?」
ジュリアが言った。
「勇者でしょ?」
「そういう時だけ勇者扱いするなよ」
村長が頭を下げたまま続ける。
「もちろん報酬は――」
言葉が止まる。
「……申し訳ありません。ほとんどお支払いできません」
カンダがリホを見る。
ジュリアもリホを見る。
アリスもリホを見る。
「何よ」
「いや」
「何?」
「報酬ないって」
「聞こえてる」
リホは少し考えた。
「じゃあ」
村長が顔を上げる。
「食事」
「……はい?」
「盗賊団をなんとかしたら、四人分のご飯を作ってください」
村長が目を丸くする。
「そ、それだけで?」
「宿代も」
「リホ?」
カンダが言う。
「何?」
「ちゃっかり増やしたな」
「四人分よ。必要経費」
「そこは商人なんだな」
「私は最初から商人です」
村長の目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます……!」
「まだ受けるって――」
カンダが言いかけた。
「やる」
ジュリアだった。
声が少し違った。
いつもの軽さがない。
カンダが見る。
「ジュリア?」
「やるわ」
「でも相手、盗賊団だぞ」
「だからよ」
ジュリアは立ち上がった。
「金持ちから盗むなら、まだわかる」
「わかるんだ」
「黙って」
「はい」
ジュリアは宿屋の主人を見る。
質素な食事。
村長。
そして窓の向こうにある、小さな村。
「持ってない奴から奪うのは――」
少しだけ笑った。
「ダサいでしょ」
アリスが手を挙げる。
「じゃ、あたしも行く」
「理由は?」
「面白そう」
「お前はブレないな」
リホも立ち上がった。
「決まりね」
カンダは三人を見る。
「……俺の意見は?」
三人が顔を見合わせた。
リホが言う。
「行かないの?」
ジュリアが言う。
「勇者なのに?」
アリスが言う。
「怖い?」
「行くよ!」
こうして。
道を間違えただけだった勇者一行は――。
なぜか盗賊団を討伐することになった。
◇
翌朝。
村の北。
森へ続く道。
カンダは剣を腰に差していた。
リホは荷物を背負っている。
アリスはいつも通り。
そしてジュリアだけが、少し違った。
短剣を確認する。
靴紐を締め直す。
周囲を見る目も鋭い。
「ジュリア」
「何?」
「なんか慣れてない?」
「盗賊だから」
「やっぱ同業――」
「一緒にしないで」
「はい」
ジュリアは森を見る。
そして短剣をくるりと回した。
「行きましょ」
「アジトの場所わかるの?」
カンダが聞く。
ジュリアが振り返る。
「昨日聞いた情報があるでしょ」
「森の奥ってだけだぞ?」
「十分」
「どうやって探すんだよ」
ジュリアが笑った。
「カンダ」
「ん?」
「私の職業、忘れた?」
「盗賊」
「正解」
ジュリアは森へ踏み込んだ。
「盗賊の探し方ってやつを――」
短剣を腰に戻す。
「ちょっと教えてあげる」
カンダはその背中を見た。
人の財布を盗む。
口も悪い。
態度も悪い。
手癖も悪い。
そんなジュリアを――。
カンダはこのとき初めて。
少しだけ頼もしいと思った。
――第3話 終
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
カンダ、リホ、ジュリア、アリス。
四人の珍道中を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。
それでは、また次の冒険で!




