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『勇者は間に合ってます』 ~歴代最高の勇者の息子、商人と盗賊と遊び人を連れて旅に出る~  作者: 凡夫 成


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第2話 勇者、実家から通う


旅立ったからといって、遠くへ行くとは限らない。


まずは無理せず、近場から。


勇者カンダ一行、本日もゆるく冒険開始です。後書き


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


魔王討伐の旅――のはずが、まさかの実家通い。


焦らず、無理せず、まずはレベル上げ。


そんな四人も、ようやく次の町へ向かうようです。


たぶん。


道さえ間違えなければ……。


魔王を倒す。


言葉にすれば簡単だ。


実際にやるとなると、たぶんものすごく大変なのだろう。


だからカンダは考えた。


まず何をすべきか。


強い武器を探す?


違う。


魔王の居場所を調べる?


まだ早い。


世界各地を巡って仲間を増やす?


三人で十分だ。


ならば――。


「レベル上げしよう」


王都を出て十分。


カンダはそう言った。


「地味ね」


リホが言った。


「勇者の冒険ってもっとこう……ないの?」


ジュリアが言った。


「伝説の剣を探すとか、ドラゴンと戦うとか」


「死ぬだろ」


「勇者でしょ?」


「昨日なったばっかりだぞ」


アリスが道端の花を摘みながら笑う。


「いいじゃん、レベル上げ。楽そう」


「お前はもう少し緊張感持てよ」


「持ってる持ってる」


「花で冠作りながら言うな」


アリスは鼻歌を歌いながら花を編み始めた。


まったく持っていない。


◇


草原を歩くこと、さらに十分。


最初の魔物が現れた。


青くて丸い。


ぷるぷるしている。


「…………」


四人で囲んだ。


魔物も四人を見ている。


「弱そう」


ジュリアが言った。


「油断するな」


カンダは剣を抜いた。


「魔物だぞ」


「かわいくない?」


アリスがしゃがみ込む。


「触っていい?」


「やめろ!」


次の瞬間。


丸い魔物が跳ねた。


べちん!


「いったぁ!」


アリスの額に直撃した。


「ほら!」


「こいつ……!」


アリスが立ち上がる。


「かわいい顔してやるじゃん!」


「怒るところそこなの?」


リホは少し離れた場所から魔物を観察していた。


「カンダ」


「何?」


「倒して」


「お前も戦え!」


「私、商人よ?」


「知ってるよ!」


ジュリアが短剣を抜いた。


「しょうがないわね」


素早く魔物の背後へ回る。


「こっち!」


魔物がジュリアへ向く。


その隙にカンダが剣を振り下ろした。


「うおりゃ!」


ぼよん。


妙な感触が手に返ってくる。


「うわ、気持ち悪っ!」


「感想言ってないで!」


ジュリアの短剣が横から入る。


ぷるん。


魔物が大きく震え――。


動かなくなった。


「…………」


四人が見つめる。


初勝利。


カンダは剣を握ったまま呟いた。


「倒した?」


ジュリアがつつく。


「たぶん」


「やったじゃん!」


アリスが両手を上げた。


「初勝利ー!」


「お前ほとんど何もしてないけどな」


「攻撃された」


「被害報告じゃねえか」


その横で。


リホだけが違うものを見ていた。


「待って」


魔物のそばにしゃがみ込む。


「これ」


小さな硬貨が落ちていた。


さらに小さな石のようなものもある。


リホの目が輝いた。


「お金!」


「そこ?」


「そこ以外に何があるの?」


初めて見る笑顔だった。


カンダは少し引いた。


「魔物倒すと金になるんだな」


「知らなかったの?」


ジュリアが呆れる。


「昨日勇者になったんだぞ」


「便利な言い訳ね、それ」


リホは落ちている物を一つ残らず袋へ入れた。


「これは売れそう」


「ただの石じゃない?」


「ただの石かどうかを決めるのは市場よ」


「商人っぽいこと言った」


「商人だから!」


こうして。


勇者一行の記念すべき初戦闘は――。


リホが一番喜んだ。


◇


二匹目。


三匹目。


四匹目。


戦ってみると、意外となんとかなった。


カンダが正面から剣を振る。


ジュリアが横や背後から攻撃する。


リホも最初こそ後ろにいたが、


「働かない奴に取り分はない」


とカンダに言われてからは、持っていた杖で魔物を殴るようになった。


「これ商品仕入れ用の杖なんだけど!」


「武器になるじゃん!」


「傷ついたら弁償してよ!」


「魔王討伐中に経費請求するな!」


そしてアリスは――。


「カンダー! 後ろ後ろ!」


「わかってる!」


「ジュリア頑張れー!」


「応援じゃなくて戦って!」


「リホ、右!」


「えっ!?」


「ごめん左だった!」


「アリスぅぅぅ!」


遊んでいた。


ただ、不思議なことに。


アリスの適当な声が、たまに役に立つ。


「カンダ、しゃがんで!」


「え?」


「いいから!」


反射的にしゃがむ。


頭上を魔物が飛び越えた。


そこへジュリアの短剣。


一撃。


「……見えてたのか?」


「なんとなく」


アリスは笑う。


「勘?」


「たぶん」


よくわからない。


だが、結果的に助かった。


カンダは深く考えないことにした。


◇


夕方。


四人は草原に座り込んでいた。


「疲れた」


カンダが仰向けになる。


「足痛い」


ジュリアも座り込む。


「お腹空いた〜」


アリスが寝転がる。


一人だけ元気なのがリホだった。


袋の中身を地面に並べている。


「今日の収穫がこれと、これと……」


硬貨。


魔物の落とした素材。


よくわからない欠片。


「ねえ、聞いてる?」


「聞いてない」


「聞きなさいよ!」


カンダは空を見た。


日が傾いている。


「今日は終わりにしよう」


ジュリアが顔を上げる。


「野宿?」


「なんで?」


「なんでって……旅でしょ?」


「王都そこじゃん」


振り返る。


遠くに城壁が見える。


歩いて帰れる。


カンダは立ち上がった。


「帰ろう」


三人が固まった。


「……どこに?」


リホが聞く。


「俺ん家」


「実家!?」


「近いし」


ジュリアが頭を抱える。


「勇者の旅って実家帰っていいの?」


「駄目って誰が決めた?」


「普通帰らないでしょ」


「宿代かからないぞ」


リホが立ち上がった。


「帰りましょう」


「早っ!」


「宿代がかからないなら帰るに決まってるでしょ!」


「お前は本当にブレないな」


アリスも立ち上がる。


「カンダん家、ご飯ある?」


「たぶん」


「帰ろ帰ろ」


「お前もか!」


こうして。


魔王討伐初日。


勇者一行は――。


実家に帰った。


◇


「おかえりなさい」


母は普通に迎えてくれた。


「ただいま」


「魔王は?」


「まだ」


「そう」


母はリホ、ジュリア、アリスを見る。


「お友達?」


「仲間」


「まあ!」


母の顔が明るくなった。


「女の子ばっかりじゃない!」


「そこ食いつかなくていいから」


「カンダにもついに――」


「違うから!」


三人が笑っている。


アリスがカンダの母に近づいた。


「お母さ〜ん、お腹空いた」


「ちょっとアリス!」


「あらあら。いっぱい作るわね」


「やった!」


馴染むのが早すぎる。


夕食。


アリスはおかわりを三回した。


ジュリアは二回。


リホは食事中も今日の収支を計算していた。


そして食べ終わると。


「じゃ、おやすみ」


「待て」


カンダが止める。


「お前らどこで寝る気?」


三人がカンダを見る。


「ここ」


「宿屋行けよ!」


リホが真顔になる。


「お金かかるじゃない」


「俺ん家は宿屋じゃない!」


結局。


三人とも泊まった。


◇


翌朝。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


四人はカンダの家を出た。


王都の門を抜ける。


昨日と同じ草原へ。


魔物を倒す。


金を拾う。


素材を拾う。


夕方になる。


「帰るか」


「帰ろ」


実家へ帰る。


◇


三日目。


魔物を倒す。


金を拾う。


素材を拾う。


実家へ帰る。


◇


四日目。


「これもう冒険じゃなくて仕事じゃない?」


ジュリアが言った。


「通勤だね」


アリスが答えた。


「魔王討伐に通勤ってあるの?」


「知らん」


カンダは剣を振った。


丸い魔物が吹っ飛んだ。


「……あれ?」


カンダは剣を見る。


「どうしたの?」


「いや」


気のせいか。


初日は両手でしっかり握らなければ振れなかった剣。


今は軽い。


かなり軽い。


試しに片手で振ってみる。


ブンッ!


鋭く風を切った。


「……俺、強くなってない?」


「レベル上がったんでしょ」


ジュリアが当然のように言う。


「そんなもんか」


「そんなもんじゃない?」


話は終わった。


――はずだった。


◇


その日の夕方。


「ちょっと」


リホが三人を呼び止めた。


地面に布を広げている。


その上には今日手に入れた硬貨と素材が並んでいた。


「どうした?」


「多い」


「何が?」


「全部」


リホが帳面を開いた。


初日。


二日目。


三日目。


四日目。


びっしり数字が書いてある。


「魔物を倒した数に対して、手に入るお金が多い気がするの」


ジュリアが覗き込む。


「いいことじゃない」


「ドロップ品も」


リホが素材を指差す。


「昨日なんて、倒した魔物のほとんどが何か落としてる」


「運がいいんじゃない?」


アリスが言った。


「私の日頃の行いかな?」


三人がアリスを見る。


「なんで?」


「いや」


カンダは自分の手を見る。


「俺もさ」


「何?」


「レベル上がるたびに、力とか体力がかなり上がってる気がする」


ジュリアが腕を回す。


「言われてみれば私も」


リホも荷物袋を持ち上げる。


初日は両手で抱えていた。


今は片手だ。


「……私も?」


三人がアリスを見る。


「アリスは?」


「ん?」


アリスは花冠を作っていた。


「知らな〜い」


「お前も自分の身体だろ!」


「元気だよ?」


「そうじゃない!」


カンダは考えた。


金が多い。


落とす物も多い。


成長も早い。


普通の冒険者がどうなのか、カンダは知らない。


なにしろ四日前までただの少年だった。


比較のしようがない。


「…………」


しばらく考えた末。


カンダは言った。


「まあ、いいか」


リホが頷く。


「お金増えるしね」


ジュリアも頷く。


「強くなるなら困らないし」


アリスも頷いた。


「じゃ帰ろ」


「お前何も考えてなかっただろ」


結局。


誰も深く考えなかった。


◇


それから数日。


四人はレベルを上げ続けた。


カンダの剣は速くなった。


ジュリアは魔物の攻撃を軽々とかわすようになった。


リホは大量の荷物を背負っても平気になった。


アリスは――。


相変わらず遊んでいた。


だが四人とも。


初日に苦戦した丸い魔物程度なら、もう敵ではなくなっていた。


ある朝。


いつものように家を出たカンダは、王都の門の前で立ち止まった。


いつもの草原。


いつもの道。


毎日ここで魔物を倒して。


夕方になったら帰る。


「…………」


カンダは三人を見る。


「なあ」


「何?」


「そろそろ行かない?」


リホが首を傾げる。


「どこへ?」


カンダは街道の先を指差した。


「次の町」


沈黙。


ジュリアが聞いた。


「……今日帰ってこないってこと?」


「たぶん」


アリスの顔が曇った。


「えー」


「なんだよ」


「カンダん家のご飯食べられないじゃん」


「そこ!?」


リホも難しい顔をしている。


「宿代が……」


「お前もか!」


ジュリアが笑った。


「やっと冒険らしくなってきたじゃない」


「だろ?」


カンダは少しだけ笑った。


すると後ろから声がした。


「カンダー!」


振り返る。


母が走ってきた。


大きな包みを抱えている。


「忘れ物!」


「何?」


「お弁当」


「…………」


三人の少女の目が輝いた。


「お母さん大好き!」


アリスが抱きついた。


「あらあら」


「俺の母親だからな?」


リホは包みの大きさを確認している。


「何食分あります?」


「多めに作ったわよ」


「最高です」


「お前まで!」


ジュリアが笑う。


「いいお母さんじゃない」


「……まあな」


カンダは母から弁当を受け取った。


「行ってくる」


「はい」


母は笑った。


「気をつけてね、勇者様」


カンダの眉が動く。


「それやめろよ」


「あら。いいじゃない」


「よくない」


カンダは三人と歩き出した。


勇者と呼ばれることには、まだ慣れない。


いや。


慣れるつもりもなかった。


商人リホ。


盗賊ジュリア。


遊び人アリス。


魔王を倒すという目的に対して、相変わらず頼りない四人。


それでも。


薬草三個だけで王都を出た初日よりは――。


ほんの少しだけ強くなった。


「ねえカンダ」


リホが言った。


「何?」


「次の町ってどっち?」


「…………」


カンダが立ち止まる。


ジュリアも立ち止まる。


アリスも立ち止まる。


四人で街道を見る。


道が二つに分かれていた。


「…………」


カンダは地図を出した。


上下逆だった。


ジュリアが覗き込む。


「カンダ」


「何?」


「地図読める?」


「…………」


アリスが笑った。


「実家戻る?」


「戻らねえよ!」


――本当の冒険は。

旅立ったからといって、遠くへ行くとは限らない。


まずは無理せず、近場から。


勇者カンダ一行、本日もゆるく冒険開始です。

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