第23話 賢者って忙しい
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
三つの頭。
一つの胴体。
地底湖から。
巨大な魔王が。
カンダたちを見下ろしている。
『物理』
『魔法』
『覚えたぞ』
「…………」
カンダが。
《大地の戦斧》を握る。
「よし」
一歩。
前へ。
「もう一回――」
「ダメ!」
アリスが叫んだ。
「え?」
「倒しちゃダメ!」
「…………」
カンダが。
振り返る。
「魔王戦で初めて聞いたぞ、その指示!」
「だって!」
アリスが。
三つ首を指差す。
「また増える!」
「…………」
カンダが。
止まった。
「確かに」
ジュリアも。
短剣を構えながら頷く。
「次は五個?」
「なんで二個ずつ増える前提なんだよ」
「じゃあ六個?」
「もっと嫌だよ!」
リホが。
魔王を見る。
《鑑定》。
「……たぶん」
「何かわかった?」
「こいつ、ただ再生してるんじゃない」
三つの頭。
物理。
魔法。
それぞれ。
先ほど倒した方法を。
口にした。
「一度死んで」
リホが。
目を細める。
「その死因に適応してる」
カンダ。
「適応?」
「最初は斧で倒した」
「うん」
「次に出てきた時は、傷が完全に治ってた」
「それで魔法で倒した」
「そして今」
三つ首。
巨大になった身体。
明らかに。
さっきまでとは違う。
「物理と魔法」
リホが言う。
「両方を覚えた」
「…………」
カンダ。
戦斧を見る。
「じゃあ」
アリス。
「殺さない!」
「魔王相手にすごい作戦だな!」
「死なないくらいに弱らせる!」
ジュリア。
「最後は?」
アリスが。
カンダを見る。
「一回だけ」
「…………」
「絶対に倒せる時に」
カンダが。
戦斧を担ぐ。
「なるほど」
大蛇が。
三つの口を開く。
『相談は』
『終わったか』
『勇者』
「待ってくれるんだ」
アリスが言う。
「意外と優しいね」
「今から食おうとしてる奴に言うな!」
三つの首が。
同時に。
動いた。
◇
右の首。
大きく。
口を開く。
「来る!」
アリスが。
真っ先に叫ぶ。
「カンダ!」
「おう!」
「クルスト!」
光。
カンダの身体を。
包む。
直後。
右の口から。
炎。
ゴォォォォ!!
「うぉぉぉぉ!?」
カンダが。
戦斧を盾に。
受ける。
炎が。
全身を包む。
「カンダ!」
リホが叫ぶ。
炎が。
消える。
「…………」
カンダ。
立っている。
「おお」
アリス。
「効いた!」
「熱い!!」
「でも無事!」
「効いてても熱いもんは熱いんだよ!」
中央の首。
動く。
「次!」
アリスが。
杖を振る。
「アクセ!」
光。
カンダの身体が。
軽くなる。
「お?」
直後。
巨大な牙。
ガチン!!
「うぉぉぉぉ!?」
カンダ。
一気に。
横へ。
飛び退いた。
「速っ!?」
自分でも。
驚く。
「カンダ速い!」
「急に速くすんな! 身体がついていかねえ!」
「避けられたからいいじゃん!」
「そうだけど!」
左の首が。
ジュリアへ。
「ジュリア!」
アリス。
大蛇を見る。
一瞬。
「右!」
ジュリアは。
迷わない。
右へ。
跳ぶ。
直後。
さっきまでいた場所を。
牙が。
噛み砕いた。
ガァン!!
「…………」
ジュリアが。
着地。
「やっぱり当たるね」
「何が?」
「アリスの指示」
アリス。
胸を張る。
「なんとなく!」
カンダ。
「そろそろ『なんとなく』卒業しろ!」
◇
三つの首。
同時に。
動く。
「右!」
「中央!」
「次、左!」
アリスの声。
カンダが。
避ける。
ジュリアが。
走る。
リホが。
距離を取る。
攻撃が。
来る前に。
アリスには。
なんとなく。
わかる。
「リホ!」
「何!?」
「そこ危ない!」
リホが。
横へ。
直後。
尻尾。
ブォン!!
「……助かった」
「次、ジュリア!」
「うん」
「上!」
ジュリアが。
しゃがむ。
牙。
頭上を。
通過。
カンダが。
戦斧を構える。
「俺は!?」
「待って!」
「ずっと待ってる!」
「まだ!」
「俺、勇者なのに待てしか言われてない!」
アリスが。
三つの首を見る。
「今!」
「やっと!?」
「でも斧はダメ!」
「何すんだよ!?」
「押して!」
「押す!?」
大蛇の頭。
カンダが。
戦斧の腹で。
殴る。
ドガァン!!
『ぐっ……!』
首が。
横へ。
逸れる。
「それでいい!」
「戦斧の使い方じゃねえ!」
「殺しちゃダメだから!」
「難しい注文だな!」
◇
『小賢しい』
右の首が。
炎を溜める。
アリス。
「火はダメ」
「じゃあ?」
「冷たいの」
杖。
向ける。
「キラ!」
冷気。
バキバキバキッ!
右の首。
表面に。
氷。
『ぐ……!』
動きが。
鈍る。
「効いた!」
「でも止めるだけ!」
アリスが。
すぐに。
杖を振る。
中央の首。
カンダへ。
「フュラ!」
風。
ドンッ!!
首の軌道が。
わずかに。
逸れる。
牙が。
カンダの横を。
通過。
「おお!」
カンダが。
振り返る。
「便利!」
「でしょ!」
左。
中央。
右。
三つが。
同時に。
口を開く。
アリスが。
目を細める。
「…………」
一瞬。
全部を見る。
「ルミ!」
強烈な。
光。
ピカァァァァン!!
『ぐぉっ!?』
『目が!』
『見えぬ!』
三つの頭が。
暴れる。
「よし!」
アリスが。
拳を握る。
その後ろ。
「目がぁぁぁぁ!!」
カンダ。
両目を。
押さえている。
リホも。
「アリス!」
ジュリアも。
目を細める。
「眩しい」
「今回は目つぶってって言った!」
「言うのが一秒遅えんだよ!!」
「次は早く言う!」
「次もやる気!?」
◇
大蛇が。
暴れる。
だが。
明らかに。
動きは鈍っている。
「リホ!」
アリスが叫ぶ。
「真ん中!」
「わかった!」
《鑑定》。
リホの目が。
中央の首を。
追う。
鱗。
筋肉。
傷。
「喉の下!」
リホが。
指差す。
「そこだけ鱗が薄い!」
アリス。
「ジュリア!」
「了解」
風の加護。
ジュリアが。
走る。
速い。
大蛇の視界。
まだ。
戻りきっていない。
首の下。
一瞬。
潜り込む。
《アサシンダガー》。
ザシュッ!
『ぐぉぉっ!!』
血。
「ジュリア!」
アリスが。
すぐに叫ぶ。
「それ以上ダメ!」
「わかってる」
ジュリア。
離脱。
カンダ。
「難しいな!」
「何が?」
「いつもなら倒せって言うのに!」
右の首。
氷。
中央の首。
傷。
左の首。
まだ。
元気。
「左!」
アリス。
杖を向ける。
「ボア!」
ドンッ!!
『ぐっ!』
一発。
「もう一発!」
「ボア!」
ドンッ!!
炎。
だが。
アリスは。
止める。
カンダ。
「重ねないの?」
「死んじゃうかも」
「魔王の心配してるみたいになってるぞ!」
「増える方が嫌!」
「それはそう!」
◇
戦いは。
続く。
「クルスト!」
「アクセ!」
「キラ!」
「フュラ!」
「右!」
「左!」
「リホ!」
「ジュリア!」
「カンダ待って!」
「また待つの!?」
アリスは。
ずっと。
動いていた。
いや。
自分が。
走り回っているわけではない。
見て。
考えて。
魔法を使って。
仲間を。
動かす。
「カンダ!」
「おう!」
「アクセ切れる!」
「わかるの!?」
「なんとなく!」
「そこはちゃんと覚えろ!」
「ジュリア!」
「うん!」
「下がって!」
ジュリア。
跳ぶ。
「リホ!」
「見てる!」
「右の首!」
「もう限界近い!」
「じゃあ攻撃やめて!」
「わかった!」
次。
次。
次。
アリスの額に。
汗。
杖を握る手が。
震える。
「…………」
魔力。
使いすぎた。
息も。
少し。
荒い。
それでも。
見る。
三つの頭。
仲間。
傷。
動き。
次に。
何が来るか。
「アリス!」
カンダが。
叫ぶ。
中央の首。
アリスへ。
牙。
「…………!」
カンダが。
走る。
だが。
アリス。
杖を。
自分へ。
「アクセ!」
身体。
軽くなる。
「わっ!」
横へ。
飛ぶ。
ガァン!!
牙が。
地面へ。
「避けた!」
カンダ。
「自分にも使えるじゃん!」
アリス。
「今思いついた!」
「今!?」
転がりながら。
立ち上がる。
「ヒル!」
光。
自分の。
擦り傷。
塞がる。
「…………」
アリスが。
笑う。
「便利」
「今さら!?」
◇
カンダが。
アリスを見る。
少し前。
迷宮グラナ。
あの時も。
アリスは。
全部見えていた。
危ない場所。
攻撃。
隙。
でも。
言うことしか。
できなかった。
――危ないって言うしかできなかった。
今は。
違う。
危なければ。
《クルスト》。
間に合わなければ。
《アクセ》。
動きを止めるなら。
《キラ》。
逸らすなら。
《フュラ》。
傷つけば。
《ヒル》。
見えたものに。
自分で。
手を伸ばせる。
「…………」
カンダが。
少し笑う。
「アリス」
「なに!?」
「賢者になってよかったな」
「え!?」
「なんでもねえ!」
「聞こえなかった!」
「戦え!」
「カンダが話しかけたんじゃん!」
「そうだった!」
◇
やがて。
三つの首が。
下がった。
『ぐ……』
右。
氷と。
火傷。
中央。
喉に。
傷。
左。
鱗が。
何枚も剥がれている。
巨体も。
傷だらけ。
呼吸。
荒い。
それでも。
生きている。
リホが。
《鑑定》。
「…………」
「どう?」
アリスが聞く。
「限界」
「死ぬ?」
「まだ」
ジュリアが。
大蛇を見る。
「もうまともに動けない」
カンダが。
戦斧を。
握る。
「じゃあ」
アリスが。
魔王を見る。
次に。
カンダを見る。
「…………」
笑う。
「今」
「今?」
「うん」
《星導の杖》を。
カンダへ。
向ける。
「今なら」
光。
最後の。
魔法。
「アクセ!」
カンダの身体が。
軽くなる。
アリスが。
叫ぶ。
「倒していいよ!」
「待ってました!!」
カンダ。
踏み込む。
ドンッ!!
地面が。
沈む。
速い。
自分でも。
驚くほど。
一瞬で。
魔王の懐。
三つの首が。
最後の力で。
動く。
『勇者ァァァ!!』
「リホ!」
アリス。
「どこ!?」
リホ。
《鑑定》。
「首じゃない!」
「ジュリア!」
「胴体!」
アリスが。
見る。
三つの首。
一つの身体。
その中心。
「カンダ!」
「おう!」
「そこ!!」
カンダが。
《大地の戦斧》を。
両手で。
握る。
振りかぶる。
「これで――」
全力。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
戦斧。
一閃。
ズバァァァァン!!
巨大な。
胴体。
三つの首ごと。
一刀。
両断。
『――――』
声すら。
出ない。
大蛇の身体が。
左右へ。
崩れる。
バッシャァァァァン!!
地底湖へ。
沈んだ。
◇
静か。
誰も。
喋らない。
「…………」
湖。
静か。
「…………」
アリス。
じっと。
見る。
「…………」
カンダも。
見る。
「…………増えないね」
「言うな」
「でも」
「言うな!」
ゴポッ。
「!!」
四人。
一斉に。
構える。
ゴポゴポ……。
カンダ。
戦斧。
リホ。
弓。
ジュリア。
短剣。
アリス。
杖。
水面。
何かが。
飛び出した。
ぴょん。
魚。
「…………」
全員。
「…………」
魚が。
水へ戻る。
ぽちゃん。
カンダが。
叫んだ。
「ビビらせんなぁぁぁぁ!!」
声が。
洞窟中に。
響いた。
アリスが。
その場に。
座り込む。
「疲れたぁ」
「お前」
カンダが。
戦斧を。
肩へ。
「今日めちゃくちゃ働いたな」
「賢者だから」
「便利な言葉だな、それ」
リホが。
湖の向こうを見る。
「さて」
ジュリアも。
見る。
「うん」
二人の。
視線の先。
山のような。
財宝。
「…………」
カンダ。
嫌な予感。
「お前ら」
リホ。
「魔王は倒した」
ジュリア。
「大蛇もいない」
「だから?」
二人が。
同時に。
歩き出す。
「財宝」
「お宝」
「結局それかよ!!」
アリスも。
立ち上がる。
「私も行く!」
「お前まで!?」
魔王を。
倒した。
次に待つのは。
山のような。
財宝。
そして。
その中に。
何が眠っているのか。
四人は。
まだ知らない。
――第23話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!
それでは、また次の冒険で!




