第19話 勇者は転職できないらしい
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
「お前も勇者か?」
アルカ神殿へ。
戻る途中。
突然。
そんなことを言われた。
「……『も』?」
カンダが。
振り返る。
そこには。
四人組。
剣を背負った男。
大きな盾を持つ戦士。
杖を持つ魔法使い。
そして。
僧侶。
いかにも。
冒険者。
いや。
「俺も勇者だ」
剣の男が。
胸を張った。
「…………」
カンダが。
少しだけ。
嫌な顔をする。
「また?」
「またって何だよ!」
「いや、こっちの話」
もう。
驚かない。
王様に任命された勇者。
山賊になった勇者。
魔王になった勇者。
最近。
勇者が多い。
「そっちは?」
男が。
カンダの後ろを見る。
「商人」
リホ。
「盗賊」
ジュリア。
「遊び人!」
アリス。
「…………」
男が。
カンダを見る。
「お前」
「何?」
「それで冒険してんの?」
「してる」
「大丈夫なの?」
「魔王倒した」
「なんで!?」
「俺も知りたいよ!」
アリスが。
光るスティックを掲げる。
ピカッ。
「私、もうすぐ賢者になるかもしれないよ」
「遊び人が!?」
「たぶん」
「どういうパーティーなんだよ……」
カンダも。
最近。
そう思う。
◇
「そういや」
カンダが。
向こうの勇者を見る。
「お前らもアルカ神殿に?」
「ああ」
勇者の男が。
ため息をついた。
「俺、転職しようと思ってさ」
「勇者なのに?」
「勇者向いてねえんだよ」
「…………!」
カンダの。
目が変わった。
「わかる」
「わかるか!」
「めちゃくちゃわかる!」
二人が。
固く握手する。
「王様に勝手に任命された?」
「された!」
「俺も!」
「断った?」
「断った!」
「俺も!」
「聞いてもらえた?」
「もらえなかった!」
「俺もだ!!」
謎の。
友情が生まれた。
ジュリアが。
少し離れる。
「なんか始まった」
リホも。
「放っておきましょう」
アリスだけ。
楽しそうに見ている。
「それでさ」
勇者の男が。
ため息をつく。
「俺、戦士になろうと思ったんだ」
「いいじゃん」
「剣好きだし、魔法苦手だし」
「向いてそう」
「だろ?」
「転職したの?」
「それが」
男が。
カンダの肩を掴んだ。
「勇者って」
「うん」
「転職できねーってよ!」
「…………」
カンダが。
止まった。
「え?」
「勇者は勇者」
「…………」
「他の職にはなれない」
「…………」
「職業選択の自由ってないんだな」
「…………」
カンダが。
自分を指差す。
「俺も?」
「勇者なんだろ?」
「うん」
「じゃあ無理」
「…………」
カンダが。
アルカ神殿を見る。
「聞いてねえぞ」
「俺も聞いてなかった」
「…………」
次の瞬間。
カンダは。
走った。
「聞いてねえぞぉぉぉぉ!!」
「あ、行った」
アリスも。
追いかける。
「待ってー!」
リホが。
ため息をつく。
「私たちも行きましょう」
「うん」
ジュリアが。
向こうの勇者を見る。
「頑張って」
「お互いにな……」
◇
バァン!!
アルカ神殿。
「勇者って転職できないんですか!?」
昨日と。
同じ神官。
「はい」
「即答!」
「勇者ですので」
「理由になってない!」
「勇者は特殊な職です」
「俺、商人とかになれない?」
「なれません」
「盗賊は?」
「なれません」
「戦士!」
「なれません」
アリスが。
手を上げる。
「遊び人は?」
「なれません」
「なんでお前ちょっと嬉しそうなの!?」
リホが。
昨日のことを思い出す。
「そういえば」
「何?」
「昨日、言われてたじゃない」
「何を?」
「現時点では勇者の道を歩むべきでしょう、って」
「言われた」
「そういう意味だったんじゃない?」
「違うだろ!」
カンダが。
神官を見る。
「『歩むべき』じゃなくて!」
神官。
「はい」
「『それしかない』だったの!?」
「そうとも言えます」
「言い方ぁ!!」
神殿に。
勇者の叫びが。
響いた。
◇
「まあ」
リホが言う。
「今日の主役はカンダじゃないから」
「そうなの?」
「アリスでしょ」
「そうだった……」
カンダが。
肩を落とす。
「俺の人生の重大な事実が発覚したんだけど」
「あとにして」
「冷たい!」
アリスが。
昨日と同じ。
水晶の前へ。
神官も。
表情を改める。
「戻られたのですね」
「うん」
「答えは出ましたか?」
「…………」
アリスは。
すぐには。
答えなかった。
水晶を見る。
そして。
自分の。
光るスティック。
《星導の杖》。
「私ね」
「はい」
「遊び人、好きなんだ」
カンダたちは。
黙って聞く。
「好きなところ行って」
「好きなことして」
「楽しかったら笑って」
「嫌だったら逃げて」
アリスが。
笑う。
「けっこう楽しいよ?」
カンダが。
小さく言う。
「だろうな」
「だから」
アリスは。
少しだけ。
杖を握る。
「遊び人じゃなくなるの」
「ちょっと嫌」
神官は。
急かさない。
ただ。
待っている。
「でも昨日」
迷宮グラナ。
魔物。
戦い。
カンダの腕。
ジュリアの肩。
リホの脚。
「みんなが危ないの」
「いっぱい見えた」
次に。
何が来るのか。
どこが。
危ないのか。
わかった。
「でも」
アリスが。
三人を見る。
「私、言うだけだった」
「アリス」
カンダが。
口を開こうとする。
「わかってるよ」
アリスが。
先に笑った。
「役に立ってるのも」
「みんなが私の言うこと信じてくれてるのも」
「わかってる」
だから。
否定したいわけではない。
「でもね」
アリスが。
杖を見る。
「できること」
「もうちょっと増やしたい」
「危ないって言うだけじゃなくて」
少し。
間。
「危なかったら」
アリスは。
笑った。
「私も助けたい」
「…………」
カンダ。
リホ。
ジュリア。
誰も。
何も言わなかった。
神官が。
静かに尋ねる。
「では」
「はい」
「あなたが選ぶ道を」
「教えてください」
アリスは。
一度だけ。
目を閉じた。
遊び人。
楽しかった。
今でも。
好き。
でも。
これは。
誰かに。
決められたことじゃない。
自分で。
決める。
目を開く。
「私」
光るスティックを。
胸の前で握る。
「賢者になる」
◇
神官が。
頷いた。
「承知しました」
アリスが。
水晶へ。
手を置く。
静かに。
光が灯る。
「おお……」
カンダが。
見つめる。
光は。
徐々に。
強くなる。
白。
青。
金。
様々な光が。
アリスを包む。
そして。
《星導の杖》。
ピカッ。
「…………!」
いつもの。
光とは違う。
強い。
優しい光。
神殿全体に。
風が流れる。
アリスの。
天の精霊の加護。
それに。
応えるように。
水晶が。
輝く。
神官が。
告げる。
「これまで歩んだ道を糧とし」
「新たなる道を」
「あなた自身の意思で」
光。
「遊び人アリス」
そして。
「これより」
「《賢者》として、新たな道を歩みなさい」
光が。
弾けた。
◇
「…………」
カンダ。
リホ。
ジュリア。
三人が。
アリスを見る。
服装が。
少し変わっている。
旅装の上から。
魔法使いを思わせる。
軽いローブ。
手には。
《星導の杖》。
先ほどまでとは。
明らかに。
雰囲気が違う。
「…………」
アリスが。
ゆっくり。
目を開ける。
「…………」
カンダが。
息を呑む。
「アリス……?」
「うん」
「どう?」
アリスは。
少し考えた。
そして。
「お腹すいた」
「賢くなってねえ!!」
神秘的な空気が。
一瞬で消えた。
ジュリアが。
少し笑う。
「アリスだ」
リホも。
「安心したわ」
「どういう意味ー?」
神官が。
咳払い。
「賢者となったことで」
「はい」
「あなたには、いくつかの基礎魔法が扱えるようになっているはずです」
アリスの。
目が輝く。
「ヒル使える!?」
カンダが。
アリスを見る。
「最初にそれなんだな」
「うん」
神官が。
頷く。
「使えるはずです」
「やった!」
「ボアも?」
「はい」
「やった!」
「他にも?」
「これから経験を積めば、多くの魔法を――」
「いっぱい使える!」
「話最後まで聞こうな?」
アリスは。
《星導の杖》を。
カンダへ向けた。
「ヒル!」
光。
ふわり。
カンダを。
包む。
「…………」
アリスが。
期待した顔で見る。
「どう?」
「どうって」
カンダが。
自分の身体を見る。
「俺、怪我してないぞ」
「元気になった?」
「元から元気!」
「じゃあ成功!」
「判定雑だな!」
ジュリアが。
アサシンダガーへ。
手を伸ばす。
「怪我、作る?」
「やめろ!!」
アリスが。
杖を振る。
「次、ボアやっていい?」
「神殿の中ではやめろ!!」
神官が。
強く頷いた。
「お願いします」
「神官が一番必死!」
◇
神殿を。
出る。
遊び人だった。
アリス。
今は。
「賢者アリス!」
ピカッ!
杖を。
高く掲げる。
「なんか強そう!」
「実際強くなってるんじゃない?」
リホが言う。
ジュリアも。
アリスを見る。
「似合ってる」
「ほんと?」
「意外と」
「意外とは余計!」
アリスが。
くるっと回る。
「カンダも転職する?」
「できねえんだよ!」
「何になる?」
「だからできねえって!」
「遊び人?」
「…………」
カンダが。
少し考える。
「なれるなら」
「うん」
「ちょっとなってみてえよ」
「勇者より?」
「責任なさそうだし」
「楽しいよ?」
「経験者みたいに言うな」
「経験者だよ」
「そうだった」
四人が。
歩き始める。
アリスが。
カンダの隣へ。
「じゃあ」
「ん?」
「カンダは」
アリスが。
笑う。
「ずっと勇者だね」
「…………」
カンダが。
止まった。
勇者。
昔なら。
聞くだけで。
嫌だった。
父親が。
勇者だったから。
その息子だから。
勝手に。
押しつけられた職業。
「…………まあ」
三人が。
カンダを見る。
カンダは。
《大地の戦斧》を。
肩へ担いだ。
「今のところはな」
「…………」
リホが。
少し笑う。
ジュリアも。
何も言わない。
アリスが。
ニッと笑った。
「でも転職できないけどね」
「それは納得してねえ!!」
勇者は。
転職できない。
遊び人は。
賢者になった。
そして。
四人の旅は。
少しだけ。
新しくなった。
――第19話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
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それでは、また次の冒険で!




