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『勇者は間に合ってます』 ~歴代最高の勇者の息子、商人と盗賊と遊び人を連れて旅に出る~  作者: 凡夫 成


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17/42

第17話 アリス、賢者になれるらしい


翌朝。


「不潔」


「まだ言う!?」


ラハームの宿。


カンダは。


ちゃんと風呂に入った。


服も着替えた。


髪も洗った。


なのに。


ジュリアが言う。


「昨日は不潔だった」


「過去形でも嫌だよ!」


アリスが。


カンダの匂いを嗅ぐ。


「今日は大丈夫」


「確認すんな!」


リホは。


荷物を整理していた。


「そろそろ出るわよ」


「おう」


王家の墓。


墓王獣アヌガル。


王女ネフェラからの依頼も。


無事に終わった。


砂漠を越えるための。


水。


食料。


薬。


地図。


十分すぎるほど。


褒美ももらった。


「じゃあ」


カンダが。


《大地の戦斧》を担ぐ。


「今度こそ砂漠越えるか」


「ちゃんとした勇者になるために?」


アリスが聞く。


「違うからな?」


「でも砂漠越えるんでしょ?」


「越えるけど!」


「じゃあちゃんとするね」


「勇者の評価基準どうなってんだよ!」


◇


ラハームを出発。


砂漠。


再び。


「暑い」


アリス。


「知ってる」


「暑いね」


「知ってる」


「暑――」


「水飲め!」


「はーい」


砂漠の旅は。


決して。


楽ではなかった。


砂に潜る魔物。


毒を持つ魔物。


突然吹く。


強い風。


昼は暑く。


夜は寒い。


だが。


以前とは違う。


カンダには。


《大地の戦斧》。


そして。


《大地割り》。


リホには。


弓。


《鑑定》。


ジュリアには。


《アサシンダガー》。


《隠密》。


そして。


アリスには。


「右ー!」


ピカッ。


「カンダ前!」


ピカッ。


「ジュリア、後ろから来るよ!」


ピカッ。


「リホ今ー!」


ピカッ。


「…………」


戦いを終えたカンダが。


アリスを見る。


「何?」


「その光るスティック」


「うん」


「完全に指揮棒になってない?」


「便利だよ?」


ピカッ。


「まあいいか……」


アリス自身は。


ほとんど戦わない。


それでも。


なぜか。


彼女の声があると。


戦いやすい。


「なんとなく」


本人は。


相変わらず。


それしか言わなかった。


◇


数日後。


「…………!」


砂丘を越えた。


カンダが。


立ち止まる。


砂が。


終わっている。


その向こう。


緑。


街道。


そして。


遠くには。


山。


「抜けた……?」


リホが。


地図を見る。


「抜けたわ」


「おお!」


カンダが。


両手を上げる。


「砂漠越えたぞ!」


アリスも。


両手を上げる。


「ちゃんとした勇者!」


「だからそれは――」


カンダが。


止まる。


少し考える。


山を越えた。


魔王も倒した。


砂漠も越えた。


「…………」


ジュリアが聞く。


「どうしたの?」


「いや」


カンダは。


少しだけ笑う。


「前よりは、ちゃんとしたかもな」


三人が。


カンダを見る。


「…………何?」


リホが。


少し笑った。


「別に」


「なんだよ」


「行きましょう」


「おう」


◇


砂漠を抜け。


街道を進む。


しばらくして。


大きな建物が見えてきた。


町ではない。


城でもない。


巨大な。


白い神殿。


長い階段。


高い塔。


多くの人々が。


出入りしている。


「何あれ?」


カンダが聞く。


リホが。


地図を見る。


「《アルカ神殿》」


「神殿?」


近くを歩いていた。


戦士らしき男が。


答えた。


「知らないのか?」


「有名?」


「有名も何も」


男は。


神殿を見る。


「転職の聖地だ」


「…………」


四人が。


止まった。


「転職?」


「そうだ」


経験を積んだ者が。


新しい道を選ぶ場所。


戦士から。


別の職へ。


商人から。


別の職へ。


自らが積んだ経験を糧に。


新しい生き方を。


選ぶことができる。


「へえ」


カンダが。


神殿を見る。


「面白そう」


「寄る?」


アリスが聞く。


「寄ってみるか」


「転職するの?」


「俺はしないよ」


「なんで?」


「勇者やめたら王様に何言われるかわからん」


ジュリアが。


「勇者嫌だったんじゃないの?」


「…………」


カンダが止まる。


「そうなんだけど」


最近。


少しだけ。


以前とは。


違っていた。


「まあ」


戦斧を担ぎ直す。


「とりあえず見るだけ」


四人は。


アルカ神殿へ入った。


◇


「すごいな」


神殿の中には。


多くの冒険者。


戦士。


魔法使い。


僧侶。


商人。


見たことのない職業の者もいる。


「皆、転職しに来てるの?」


「そうみたいね」


リホが。


周囲を見る。


「でも、誰でも好きな職になれるわけではないみたい」


「そうなの?」


「今までの経験や能力によって、進める職が違うみたい」


その時。


リホが。


何かを思い出した。


「そういえば」


荷物を探る。


「何?」


「王女様からの褒美に」


一冊の本。


古い。


だが。


立派な装丁。


中央には。


見たことのない紋章。


「これが入ってた」


カンダが。


本を見る。


「本?」


「《鑑定》」


リホの。


目が止まった。


「…………」


「どうした?」


「これ」


リホが。


本を見る。


「《叡智の書》」


「何それ?」


「ちょっと待って」


鑑定を続ける。


「…………え?」


「だから何?」


リホが。


三人を見る。


「すごく珍しい物みたい」


「高い?」


カンダが聞く。


「ものすごく」


リホの。


目が変わる。


「売るなよ」


「まだ何も言ってないわ」


「顔が売る顔だった!」


リホは。


説明を続ける。


「これを使えば」


ページをめくる。


「本来、特別な素質を持つ者しか選べない職業に進める」


「何?」


「《賢者》」


「賢者?」


魔法。


知識。


回復。


攻撃。


様々な力を。


高い水準で扱う。


特別な職。


「すごいじゃん」


「ただし」


リホが。


本を閉じる。


「一度使えば、力を失うみたい」


「一人だけ?」


「そういうこと」


ジュリアが。


本を見る。


「誰が使う?」


「…………」


四人が。


顔を見合わせる。


カンダ。


勇者。


リホ。


商人。


ジュリア。


盗賊。


アリス。


遊び人。


「…………」


アリスが。


自分を指差す。


「私?」


「いや」


カンダが。


すぐ言う。


「まだ誰も言ってない」


「でもみんな見た」


「なんとなく!」


リホは。


《叡智の書》をしまった。


「今は使わない」


「いいの?」


「こんな貴重な物、よくわからないまま使えないわ」


「珍しく慎重」


「珍しくは余計よ」


「じゃあ」


カンダが。


神殿の奥を見る。


「まず俺たちが何になれるのか、調べてもらおうぜ」


◇


神殿の奥。


白い衣を着た神官が。


四人を迎えた。


「ようこそ、アルカ神殿へ」


「どうも」


「皆様の歩んできた道から」


神官が。


水晶へ手を置く。


「新たに進むことのできる道を、お示しいたします」


最初。


カンダ。


水晶が。


光る。


「勇者」


「知ってます」


「そして――」


神官が。


水晶を見る。


「現時点では、勇者の道を歩むべきでしょう」


「ですよね」


次。


リホ。


「商人」


「はい」


「いくつか新たな道も見え始めていますが、まだその時ではありません」


「そう」


リホは。


あまり興味がなさそうだった。


次。


ジュリア。


「盗賊」


「うん」


「あなたも、まだ今の道で学ぶことがあるでしょう」


「わかった」


そして。


最後。


「どうぞ」


アリスが。


水晶の前へ。


「はーい」


手を置く。


光。


「…………」


神官が。


止まった。


「?」


アリスが。


首を傾げる。


神官が。


水晶を見る。


「…………」


もう一度。


見る。


「どうしたの?」


カンダが聞く。


「少々お待ちを」


神官が。


水晶へ。


再び力を込める。


光。


「…………」


「壊れた?」


アリスが聞く。


「壊れておりません」


「じゃあ何?」


神官が。


ゆっくり。


アリスを見る。


「あなたには」


「うん」


「《賢者》への道が開かれています」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


四人が。


固まった。


カンダが。


アリスを見る。


「アリスが?」


リホも。


「賢者?」


ジュリアも。


「このアリスが?」


「このアリスって何?」


カンダが。


神官を見る。


「遊び人ですよ?」


「はい」


「戦闘中、だいたい後ろにいますよ?」


「はい」


「光るスティック振ってますよ?」


アリスが。


振る。


ピカッ。


「光るよ?」


「はい」


「賢者?」


「賢者です」


「なんで!?」


神官が。


少し困った。


「遊び人として多くの経験を積んだ者には、稀に賢者への道が開かれることがあります」


「遊んでたら賢くなるの!?」


「様々な経験をした、ということでしょう」


「便利な解釈だな!」


神官が。


ふと。


アリスの手元を見る。


「それは……」


「これ?」


アリスが。


スティックを掲げる。


「光るスティック」


「《星導の杖》ですね」


「光るスティック」


「非常に高い魔力伝導性を持つ、貴重な魔道具です」


「光るスティック」


「賢者となれば、その杖が持つ本来の力も――」


「光るスティック」


カンダが。


神官の肩に手を置いた。


「諦めてください」


「……はい」


◇


神官は。


アリスへ尋ねた。


「望むのであれば」


「うん」


「今日にでも、賢者への転職の儀を行うことができます」


「…………」


カンダは。


当然。


いつもの返事が来ると思った。


楽しそう。


やる。


そのくらいの。


軽い返事。


でも。


アリスは。


何も言わなかった。


「…………」


光るスティックを見る。


「アリス?」


ジュリアが呼ぶ。


「うーん」


「賢者、嫌?」


「嫌じゃないよ」


「じゃあ」


リホが聞く。


「なってみる?」


「…………」


アリスは。


少し考える。


「賢者になったら」


「うん」


「遊び人じゃなくなるんだよね?」


三人が。


黙った。


神官が。


頷く。


「はい」


「そっか」


アリスは。


スティックを。


くるくる回す。


「私」


少しだけ。


笑う。


「遊び人、けっこう好きなんだよね」


「そうなの?」


カンダが聞く。


「うん」


「何もしなくても怒られないし」


「それは違う」


「好きなところ行けるし」


「まあ」


「好きなことできるし」


アリスが。


三人を見る。


「みんなと旅してるのも楽しいし」


「…………」


いつもの。


笑顔。


でも。


少しだけ。


違う。


カンダには。


そう見えた。


「だから」


アリスが。


水晶を見る。


「賢者になるって言われても」


少し。


間。


「よくわかんない」


カンダは。


アリスを見る。


そして。


言った。


「じゃあ」


「ん?」


「今日決めなくていいだろ」


「いいの?」


「いいだろ」


カンダが。


肩をすくめる。


「俺なんか勝手に勇者にされたんだぞ」


「そうだったね」


「職業なんて」


少し考える。


「自分で決められるなら、自分で決めた方がいい」


アリスが。


カンダを見る。


「迷ってるなら」


「うん」


「まだ遊び人でいれば?」


「…………」


アリスが。


笑った。


今度は。


いつもの笑顔だった。


「じゃあ」


光るスティックを。


高く掲げる。


「まだ遊び人!」


ピカッ!


「嬉しそうに言う職業じゃねえ!」


◇


アルカ神殿を。


出る。


結局。


誰も転職しなかった。


《叡智の書》も。


リホの荷物の中。


そのまま。


アリスも。


遊び人のまま。


「さて」


カンダが。


街道を見る。


「行くか」


「どこに?」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


カンダが。


頭を抱える。


「また決めてなかった!」


「酒場?」


アリスが聞く。


「酒場だな……」


「いつものだね」


「言うな」


歩き始める。


その途中。


「ねえ、カンダ」


アリスが。


隣へ来た。


「ん?」


「賢者って」


光るスティックを。


見ながら聞く。


「強い?」


「たぶんな」


「魔法いっぱい使える?」


「たぶん」


「頭よくなる?」


「賢者だからな」


「そっか」


少し。


沈黙。


アリスが。


聞いた。


「…………楽しそう?」


カンダは。


アリスを見る。


「それは」


少し考える。


そして。


笑った。


「なってみないとわからん」


「そっか」


アリスも。


笑う。


ピカッ。


光るスティックが。


夕暮れの街道を照らした。


賢者になるのか。


遊び人のままでいるのか。


まだ。


答えは出ていない。


だから。


今は。


「酒場行こー!」


「結局それかよ!」


遊び人でいい。


――第17話 終

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