第16話 王女様に夜呼ばれました
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
巨大な石扉が。
ゆっくりと開く。
ゴゴゴゴゴ……。
「…………」
カンダは。
右手を前へ出していた。
「最初からボアでいく」
「斧は?」
ジュリアが聞く。
「一応持っとく」
「私は?」
アリスが。
光るスティックを掲げる。
「とりあえず光ってろ」
「はーい」
ピカッ。
「軽いな……」
扉が。
完全に開いた。
◇
その先は。
巨大な空間だった。
中央には。
大きな石棺。
周囲には。
歴代の王族らしき石像。
そして。
その奥。
「…………いる」
ジュリアが。
アサシンダガーを構えた。
暗闇。
二つの目が。
光る。
グルルルル……。
低い唸り声。
ゆっくりと。
姿を現した。
「でか……」
カンダが。
思わず呟く。
巨大な獣。
黒い体毛。
鋭い牙。
頭には。
二本の角。
背中には。
石のような甲殻。
四本の脚。
その周囲には。
黒い魔力のようなものが。
まとわりついている。
リホが。
目を細めた。
「《鑑定》」
「何?」
「待って」
リホが。
巨大な魔物を見る。
「名前は――」
少し間。
「《墓王獣アヌガル》」
「墓王獣」
カンダが。
戦斧を構える。
「強そうだな」
「強い」
「どのくらい?」
リホの。
表情が変わる。
「それより」
「何?」
「この魔物」
リホが。
アヌガルを見る。
「周囲の魔力を吸収してる」
「魔力?」
「たぶん、ずっとここにいた」
王家の墓。
長い年月。
ここに溜まった魔力。
それを。
アヌガルは。
吸収し続けている。
「それだけじゃない」
リホが続ける。
「他の魔物を従える性質も出始めてる」
カンダが。
眉をひそめた。
「それって」
思い出す。
操獣魔王ヴァルガ。
大量の魔物を。
従えていた存在。
「魔王みたいじゃない?」
アリスが言った。
リホが。
頷く。
「まだそこまではいってない」
「まだ?」
「このまま成長したら」
リホが。
静かに言う。
「いずれ魔王と呼ばれる存在になるかもしれない」
「…………」
四人が。
アヌガルを見る。
グルルルル……。
カンダは。
少し考えた。
「じゃあ」
《大地の戦斧》を。
肩へ担ぐ。
「今倒した方が楽じゃん」
「そうね」
ジュリアも。
アサシンダガーを構える。
「魔王になるまで待つ理由ないし」
アリスが。
光るスティックを掲げた。
「早期発見」
ピカッ。
「早期討伐!」
「病気みたいに言うな!」
アヌガルが。
吠えた。
「来るぞ!」
◇
ドンッ!
巨体が。
床を蹴る。
「速っ!」
カンダが。
前へ。
アヌガルの爪。
《大地の戦斧》。
ガァン!!
「ぐっ!」
カンダの足が。
後ろへ滑る。
「重い!」
「右!」
アリスが叫ぶ。
カンダが。
身体をずらす。
牙。
ギリギリで。
かわす。
「ジュリア!」
「うん」
風。
ジュリアが。
アヌガルの横へ。
アサシンダガー。
甲殻の隙間へ。
ザシュッ!
「入った」
アヌガルが。
大きく身体を振る。
「うわっ!」
ジュリアが。
後方へ飛ぶ。
「ヒル!」
カンダが。
すぐに回復。
「ありがとう」
「まだいける?」
「余裕」
リホが。
アヌガルを観察している。
「カンダ!」
「何!?」
「魔力が身体を覆ってる!」
「つまり!?」
「まだわからない!」
「鑑定頑張って!」
◇
カンダは。
右手を前へ出した。
「だったら!」
前回。
ファントムには。
これが効いた。
「ボア!」
炎。
ドォン!!
アヌガルを。
直撃。
「よし!」
煙。
「…………」
晴れる。
アヌガル。
無傷。
「…………」
カンダが。
固まる。
アリスが。
光るスティックを下げた。
「ボアの時代終わった?」
「一話しかもたなかった!!」
アヌガルが。
吠える。
「なんで効かない!?」
リホが。
もう一度。
《鑑定》。
「ちょっと待って!」
「早く!」
「魔法耐性……高い」
「え?」
「かなり高い」
「じゃあどうすんの!?」
リホが。
アヌガルを見る。
「…………」
「…………」
「…………あ」
「何!?」
リホが。
カンダを見る。
「これ」
「うん」
「普通に殴れるわよ」
「…………」
カンダが。
固まる。
《大地の戦斧》を見る。
アヌガルを見る。
リホを見る。
「先に言って!!」
「鑑定に時間かかったの!」
「前回物理効かなかったから魔法からいったんだよ!」
「学習した結果ね」
「学習が裏目に出た!」
◇
「じゃあ」
カンダが。
《大地の戦斧》を。
両手で握る。
「話は早い」
アヌガルが。
突進。
「アリス!」
「左!」
カンダが。
左へ飛ぶ。
「ジュリア!」
「もう行ってる!」
風。
ジュリアが。
アヌガルの脚へ。
斬撃。
体勢が。
崩れる。
「リホ!」
「甲殻の薄い場所は首の下!」
「了解!」
カンダが。
踏み込む。
戦斧。
横薙ぎ。
ドガァン!!
「グォォォォ!!」
「効いた!」
アリスが。
光るスティックを振る。
ピカッ。
「斧の時代戻ってきた!」
「早かったな!」
アヌガルが。
怒り狂う。
黒い魔力が。
身体から噴き出した。
「カンダ!」
リホが叫ぶ。
「魔力が集中してる!」
アヌガルの。
角。
黒い光。
「何か来る!」
「全員離れろ!」
黒い衝撃。
ドォォォン!!
石床が。
吹き飛ぶ。
「危なっ!」
「カンダ!」
アリスが叫ぶ。
「今!」
「なんとなく!?」
「なんとなく!」
「信じる!」
カンダが。
走る。
アヌガルは。
大技を放った直後。
動けない。
「首の下!」
リホ。
「右から!」
アリス。
「開ける!」
ジュリア。
風。
ジュリアの刃が。
アヌガルの前脚を切る。
巨体が。
沈む。
カンダが。
《大地の戦斧》を。
握り締めた。
「…………」
その瞬間。
ふと。
思った。
普通に殴るだけじゃない。
この斧。
大地の戦斧。
なら。
「これだ」
「何?」
カンダが。
腰を落とす。
力を。
脚へ。
腰へ。
肩へ。
戦斧へ。
一気に。
流す。
「いくぞ!」
踏み込む。
戦斧を。
地面すれすれから。
振り上げる。
「《大地割り》!!」
ズガァァァァァン!!
戦斧が。
アヌガルへ。
叩き込まれる。
同時に。
地面。
バキバキバキッ!!
大地を伝った衝撃が。
下から。
巨体を突き上げる。
「グォォォォォォ――!!」
アヌガルが。
宙へ浮いた。
そして。
ズズゥン……。
倒れた。
「…………」
静寂。
カンダは。
戦斧を肩へ担いだ。
「…………」
アリスが。
カンダを見る。
「技名ついた」
「そこ?」
ジュリアも。
「今考えた?」
「うるさい」
リホが。
割れた床を見る。
「王家の墓よ、ここ」
「…………」
カンダが。
床を見る。
かなり。
割れていた。
「怒られる?」
「たぶん」
「魔物倒したから許してくれるだろ」
アリスが。
首を傾げる。
「筋肉割りでもよかったね」
「何その技!」
「カンダっぽい」
「大地割りでお願いします!!」
◇
ラハーム王宮。
「見事であった」
ネフェラが。
微笑んでいる。
「墓王獣アヌガルは討伐された」
「はい」
「王家の墓も、再び我らの手に戻った」
「はい」
カンダは。
少しだけ目を逸らす。
「何か?」
「いや」
床。
割った。
かなり。
「なんでもないです」
リホが。
横から言う。
「墓の床を――」
「言わなくていい!」
ネフェラが。
笑った。
「多少の損傷は聞いている」
「聞いてた!」
「魔物を討つためだ。構わぬ」
「よかった……」
「そして」
ネフェラが。
手を上げる。
兵士たちが。
箱を運んでくる。
金貨。
砂漠を越えるための水。
保存食。
薬。
詳細な地図。
「これを褒美として受け取ってほしい」
リホの。
目が輝いた。
「ありがとうございます」
「一番嬉しそうだな」
「当然よ」
ネフェラは。
カンダを見る。
「それから」
「はい?」
王女が。
微笑む。
「カンダ」
「はい」
「そなたには」
少し。
間。
「今夜」
カンダが。
止まった。
「…………はい」
「一人で」
「…………はい」
「私の部屋へ来てもらいたい」
「…………」
「…………」
「…………」
後ろから。
三つの視線。
カンダは。
振り返らない。
「わかりました」
ジュリア。
「へぇ」
リホ。
「ふーん」
アリス。
「夜だって」
カンダが。
勢いよく振り返る。
「違うからな!?」
ジュリアが。
首を傾げる。
「何が?」
「…………」
「まだ何も言ってないけど」
「…………」
リホが。
少し笑う。
「何を想像したのかしら?」
「何も想像してねえよ!」
アリスが。
光るスティックを振った。
ピカッ。
「カンダ頑張ってね」
「何を!?」
◇
夜。
「…………」
カンダは。
鏡を見ていた。
髪。
整えた。
服。
着替えた。
「…………」
もう一度。
髪を直す。
「別に」
誰もいないのに。
呟く。
「王女に呼ばれただけだからな」
コンコン。
「カンダです」
「入れ」
扉を開く。
ネフェラが。
一人。
待っていた。
「来てくれたか」
「はい」
「急に呼び出してすまない」
「いえ」
ネフェラが。
カンダを見る。
「実は」
「はい」
「私には――」
「はい」
「強い兵士が欲しい」
「…………はい?」
カンダが。
瞬きをする。
「我が国の兵は砂漠での戦いには慣れている」
「はい」
「だが」
ネフェラが。
真剣な表情になる。
「魔王級の敵と戦った経験はない」
「…………」
「そなたは魔王を討った」
「はい」
「アヌガルも討った」
「はい」
「その戦い方を」
ネフェラが。
微笑んだ。
「我が兵たちに教えてほしい」
「…………」
カンダが。
聞く。
「今から?」
「今夜なら皆の任務が終わっている」
「…………」
窓の外を見る。
夜。
もう一度。
ネフェラを見る。
「そういう夜!?」
「どういう夜だ?」
「なんでもないです!!」
◇
訓練場。
兵士。
三十人。
「…………」
カンダが。
立っている。
さっきまで。
少しだけ。
期待していた自分を。
殴りたい。
「勇者殿!」
兵士たちが。
一斉に頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「…………よろしく」
「まず何をすれば!?」
「えーっと」
カンダは。
考える。
自分は。
誰かに戦い方を教わったわけではない。
旅をして。
魔物と戦って。
仲間と失敗して。
覚えた。
「じゃあ」
カンダは。
訓練用の武器を持つ。
「全員」
「はい!」
「俺に攻撃してみて」
「…………」
兵士たちが。
固まる。
「全員で、ですか?」
「ああ」
「三十人で?」
「ああ」
「勇者殿一人に?」
「そう」
兵士たちが。
顔を見合わせる。
カンダが。
笑った。
「魔物は順番に来てくれないぞ」
「…………!」
「来い!」
「はい!!」
◇
一時間後。
「立て!」
「はい!」
二時間後。
「周り見ろ! 一人で戦うな!」
「はい!」
三時間後。
「前だけ見るな! 後ろにも仲間がいる!」
「はい!」
四時間後。
「もう一回!」
「はいぃぃぃ!!」
兵士たちが。
汗だく。
カンダも。
汗だく。
「勇者殿!」
「何!?」
「休憩を!」
「さっきしただろ!」
「あれ三時間前です!」
「…………」
カンダが。
空を見る。
「本当だ」
「休ませてください!!」
「休憩!」
「ありがとうございます!!」
全員が。
倒れた。
◇
深夜。
宿。
「…………疲れた」
カンダが。
部屋へ戻った。
汗だく。
服も。
身体も。
砂と汗で。
べたべた。
「風呂……」
入りたい。
でも。
ベッドが。
目の前。
「…………」
少しだけ。
横になる。
「五分……」
そのまま。
カンダは。
眠った。
◇
翌朝。
「…………」
リホが。
目を覚ました。
「…………?」
何か。
臭う。
「…………」
ジュリアも。
起きる。
鼻を動かす。
「…………臭い」
「ん……?」
カンダが。
目を覚ます。
アリスも。
布団から顔を出す。
クンクン。
「汗くさーい」
「…………あ」
カンダが。
自分を見る。
昨日の服。
そのまま。
「カンダ」
リホが。
冷たい目で見る。
「まさか」
「…………」
「そのまま寝たの?」
「疲れてたんだよ!」
ジュリアが。
一言。
「不潔」
「待て!」
リホも。
「不潔ね」
「訓練してたんだよ!」
「夜中まで?」
ジュリアが聞く。
「ああ!」
リホが。
腕を組む。
「王女様に呼ばれて?」
「ああ!」
「二人きりで?」
「最初だけな!」
「へぇ」
「なんだその目!」
リホが。
少し笑う。
「何の訓練かしら?」
「兵士だよ!!」
ジュリアも。
カンダを見る。
「汗だくになる訓練」
「三十人相手にしてたんだよ!」
「三十人」
「兵士が!!」
「聞いてない」
「今言っただろ!」
アリスが。
カンダを見る。
「私は別に気にしないよ?」
「アリス……!」
救い。
初めて。
味方がいた。
「酒場でそのまま寝る人とかいるし」
「比較対象おかしいけどありがとう!」
アリスが。
ニッと笑う。
カンダを指差した。
「でも」
「ん?」
「不潔、不潔ー!」
「お前もかぁぁぁぁ!!」
砂漠の朝。
勇者カンダの叫びが。
ラハームの町に響いた。
――第16話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!
それでは、また次の冒険で!




