第14話 ちゃんとした勇者は砂漠を越えるらしい
勇者は間に合ってます。
でも冒険は、まだまだ間に合ってません。
今日もゆるっと行きます!
魔王を倒した。
褒美ももらった。
新しい武器も手に入れた。
城の宝箱も――
「その話はやめよう」
アルディアの酒場。
カンダは。
テーブルに地図を広げていた。
「どうしたの?」
アリスが聞く。
「なんでもない」
「宝箱?」
「やめろって!」
リホは。
飲み物を飲みながら地図を見る。
ジュリアは。
新しく手に入れたアサシンダガーを眺めている。
アリスは。
光るスティックを振っている。
ピカッ。
「それ消せないの?」
「消せるよ」
「じゃあ消して」
ピカッ。
色が変わった。
「違う!」
「で」
ジュリアが聞く。
「次どこ行く?」
「それなんだよ」
カンダが地図を見る。
魔王ヴァルガは。
最後に言った。
ガルバスも。
魔王を追っていた。
なら。
魔王を追えば。
父親の手掛かりも見つかるかもしれない。
問題は。
「次の魔王がどこにいるかわからん」
「また?」
アリスが言う。
「まただよ」
「魔王って探すの大変だね」
「向こうから来てくれれば楽なんだけどな」
「それ国が滅びるやつじゃない?」
「確かに」
四人は。
地図を見る。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
何もわからない。
カンダが。
地図を畳んだ。
「情報収集するか」
「酒場で?」
「ああ」
「前もそれだったね」
「酒場には情報が集まるんだよ」
少し離れた席にいた男が。
こちらを見た。
「勇者か?」
「え?」
「お前さん」
男は。
カンダの戦斧を見る。
「勇者だろ」
「なんで斧でわかるんだよ」
「いや」
「じゃあなんで?」
「なんとなく」
「最近なんとなくで話進むな……」
男は酒を飲んだ。
「次の目的地を探してるのか?」
「ああ」
「なら」
男が。
地図の南を指差した。
「南だな」
「何がある?」
「砂漠」
「…………」
カンダが聞く。
「なんで砂漠?」
男は。
当然のように言った。
「ちゃんとした勇者は、一度は砂漠を越えるもんだ」
「…………」
カンダが。
固まった。
「また?」
「何が?」
以前。
似たようなことを言われた。
ちゃんとした勇者は。
山を越える。
だから。
山を越えた。
「カンダ」
アリスが言う。
「山越えたから、ちょっとちゃんとした勇者になったもんね」
「そういう仕組みなの?」
「じゃあ砂漠も越えたら」
「越えたら?」
「もっとちゃんとする」
「勇者ってスタンプカードなの!?」
男は。
酒を飲みながら頷いた。
「砂漠の向こうには、いくつもの国がある」
「国?」
「ああ。ここらとは違う文化、違う魔物、違う噂も集まる」
カンダたちが。
顔を見合わせる。
魔王の情報。
ガルバスの情報。
どちらも。
ここで探し続けるより。
新しい土地へ行った方がいい。
「行くか」
カンダが言った。
「砂漠?」
「ああ」
アリスが。
光るスティックを掲げた。
「砂漠!」
ピカッ。
「それやめろ!」
◇
翌朝。
四人は。
アルディアを出発した。
南へ。
街道を歩く。
カンダの肩には。
《大地の戦斧》。
リホの背中には。
新しい弓。
ジュリアの腰には。
《アサシンダガー》。
アリスの手には。
光るスティック。
「…………」
カンダが。
三人を見る。
「何?」
アリスが聞く。
「いや」
「何?」
「俺たち」
カンダは。
もう一度見る。
「装備だけ見れば、かなり冒険者っぽくなったな」
「そう?」
「一人除いて」
アリスが。
光るスティックを振る。
ピカッ。
「私?」
「お前以外誰がいる!」
しばらく進む。
リホが。
荷物を見る。
「水、もう少し欲しいわね」
「次の町で買えば?」
「せっかくだから」
リホが。
立ち止まった。
カンダに。
嫌な予感。
「何?」
「新しい技能を試す」
「ここで?」
リホは。
大きく息を吸った。
「《大声》!」
そして。
「行商人さーーーーーーーーん!!」
「うるさぁぁぁぁい!!」
声が。
街道中に響く。
鳥が。
飛び立つ。
アリスが。
耳を塞ぐ。
「すごいね」
「これ技能じゃなくて本当に大声なだけじゃない!?」
「待って」
リホが言う。
「何を?」
「行商人」
「本当に来るの?」
「そういう技能だから」
「どんな仕組みだよ!」
しばらくして。
ガラガラ。
「…………」
カンダが。
街道の先を見る。
ガラガラガラ。
馬車。
「嘘だろ」
馬車が。
四人の前で止まった。
「お呼びですかー?」
「来たぁぁぁ!?」
行商人が。
普通に降りてきた。
「何をお求めで?」
リホは。
すぐに商品を見る。
「水と保存食。それから砂漠で使える物は?」
「砂漠?」
行商人が。
南を見る。
「サハルへ?」
「その先まで」
「なら水は多めに」
水。
頭を覆う布。
日差しを防ぐ外套。
毒消し。
「毒消し?」
カンダが聞く。
「砂漠には毒を持つ魔物が多いですからね」
「へえ」
「それと」
行商人が言う。
「夜は冷えますよ」
「砂漠なのに?」
「砂漠だからです」
アリスが。
カンダを見る。
「砂漠、面倒くさそう」
「まだ行ってもないだろ!」
必要な物を買う。
行商人は。
馬車へ戻った。
「ではー」
ガラガラガラ。
去っていく。
「…………」
カンダは。
リホを見る。
「便利だな」
「でしょう?」
「仕組みは全然わからんけど」
「技能だから」
「それで全部済ませる気か」
◇
さらに。
南へ。
途中。
ジュリアが。
手を上げた。
「止まって」
「魔物?」
「うん」
街道の先。
大型の魔物が。
数匹。
うろついている。
カンダが。
《大地の戦斧》を構える。
「ちょうどいい」
「何が?」
「新しい斧、試したかった」
一歩。
前へ。
「待って」
ジュリアが止める。
「何?」
「戦わなくてもよくない?」
「え?」
ジュリアが。
静かに息を吐く。
「《隠密》」
空気が。
変わる。
「…………」
四人は。
そのまま歩く。
魔物の横。
すぐ近く。
「…………」
魔物は。
気づかない。
カンダが。
小声で言う。
「すげえ」
ジュリアが。
口元に指を当てる。
「静かに」
「ごめん」
リホが。
魔物を見る。
「戦わなければ、道具も消費しない」
アリスも頷く。
「疲れない」
ジュリア。
「怪我もしない」
三人が。
顔を見合わせる。
「最高」
「最高ね」
「最高だね」
カンダは。
《大地の戦斧》を見る。
「…………」
使いたかった。
「お前ら」
三人を見る。
「冒険する気ある?」
「あるよ」
「安全にね」
「効率よく」
「俺だけ方向性違わない?」
◇
数日の旅を経て。
景色が。
変わった。
草が減る。
木々も。
少なくなる。
地面が乾いていく。
そして。
その先。
「おお……」
カンダが。
足を止めた。
遠くまで。
続く砂。
その手前に。
一つの町がある。
高い石壁。
平たい屋根。
色鮮やかな布。
荷物を積んだ大きな獣。
多くの商人。
旅人。
「ここが」
リホが地図を見る。
「サハル」
砂漠の入口。
交易の町。
四人は。
町へ入った。
「暑い」
アリスが言った。
「まだ砂漠じゃないぞ」
「帰る?」
「早い!」
町の中には。
アルディアでは見ない物が。
たくさんあった。
香辛料。
果物。
色鮮やかな布。
奇妙な装飾品。
そして。
至るところで売られている。
水。
「水売ってる」
アリスが言う。
「砂漠じゃ一番大事なんだろ」
リホは。
値段を見る。
「高いわね」
「そこ気にする?」
「大事よ」
「命の方が大事だからな?」
「値段も大事」
「商人怖い」
◇
酒場。
四人は。
砂漠について。
情報を集めていた。
「砂漠を越えたい?」
店主が。
カンダを見る。
「ああ」
「やめとけ」
「早いな」
「砂嵐」
指を一本。
「毒を持つ魔物」
二本。
「砂に潜る魔物」
三本。
「昼は暑い」
四本。
「夜は寒い」
五本。
「…………」
カンダが聞く。
「良いところは?」
店主が。
考える。
「景色?」
「弱い!」
近くにいた冒険者が。
笑った。
「お前ら、その装備で砂漠へ入るのか?」
「ダメ?」
「装備は悪くない」
男は。
カンダたちを見る。
「腕は?」
カンダが胸を張る。
「魔王倒した」
酒場が。
少し静かになった。
「…………」
男が。
カンダを見る。
「本当に?」
「本当」
「すごいじゃないか」
「だろ?」
「でも」
男は。
酒を飲んだ。
「砂漠じゃそんな肩書き、何の役にも立たんぞ」
「…………」
カンダの胸が。
少し萎んだ。
「そうなの?」
「砂漠の魔物は、こっちの魔物とは違う」
砂に潜る。
毒を使う。
熱に強い。
夜になると。
さらに強い魔物も現れる。
「そのまま入れば」
男は。
笑った。
「死ぬかもな」
「…………」
四人が。
顔を見合わせる。
カンダは。
少し考えた。
そして。
《大地の戦斧》を担ぐ。
「じゃあ」
三人を見る。
「久しぶりにやるか」
ジュリアが。
笑う。
「レベル上げ?」
「ああ」
リホも立つ。
「装備の試運転もしたいわね」
そして。
三人が。
アリスを見る。
「…………」
「…………」
アリスが。
自分を指差す。
「私?」
カンダが頷く。
「頼む」
アリスは。
笑った。
「はーい」
◇
町から。
少し離れた場所。
目の前には。
砂漠。
「ここならいいか」
カンダが。
戦斧を構える。
ジュリアも。
アサシンダガーを抜く。
リホは。
弓に矢をつがえた。
「準備いい?」
アリスが聞く。
「おう」
「いつでも」
「いいわよ」
アリスは。
息を吸う。
「《口笛》」
ピィィィィィ――!
乾いた音が。
砂漠へ響いた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
何も来ない。
カンダが。
アリスを見る。
「いない?」
「いると思う」
「どこ?」
「わかんない」
その時。
カンダの足元。
モコッ。
「…………ん?」
少し離れた場所。
モコッ。
さらに。
モコッ。
モコッ。
モコモコモコモコ。
「…………」
カンダが。
砂を見る。
「待て」
砂の中から。
次々と。
魔物が飛び出した。
巨大なサソリ。
砂色のトカゲ。
牙を持つ獣。
「多い多い多い!」
「いっぱい来たね」
「呼びすぎだぁぁぁ!!」
◇
巨大なサソリが。
カンダへ迫る。
「ちょうどいい!」
《大地の戦斧》。
初めて。
本気で振る。
「おらぁ!」
地面へ。
ズドォン!!
砂が。
大きく跳ねた。
「うわっ!」
アリスが。
光るスティックを上げる。
地面に潜っていた魔物が。
衝撃で。
次々と飛び出した。
「おお!」
カンダが笑う。
「これ便利!」
「カンダ!」
アリスが。
光るスティックを振る。
ピカッ。
「右から三匹!」
「おう!」
「ジュリア左!」
「了解!」
ピカッ。
ジュリアが。
走る。
風。
砂の上を。
駆け抜ける。
アサシンダガー。
一撃。
二撃。
急所。
「いいね、これ」
ジュリアが笑う。
「リホ!」
「わかってる!」
弓。
矢を放つ。
ヒュッ!
砂トカゲへ。
命中。
「おお!」
カンダが言う。
「普通に弓使ってる!」
「どういう意味?」
「いや」
リホが。
次の矢を取り出す。
その先端に。
小さな袋を付ける。
「…………」
カンダが。
嫌な予感。
「それ何?」
「火薬」
「やっぱりやるの!?」
ヒュッ!
矢が。
魔物の群れへ。
「カンダ!」
「はいはい!」
「ボア!」
炎。
ドォン!!
「うおおお!」
カンダが。
拳を握る。
「ボア強え!」
「火薬でしょ」
ジュリアが言う。
「ボアも強い!」
アリスは。
後ろで。
光るスティックを振る。
「カンダ前ー!」
ピカッ。
「ジュリア右ー!」
ピカッ。
「リホ、後ろから来るよー!」
ピカッ。
カンダが。
戦斧を振りながら叫ぶ。
「その棒いる!?」
「指示しやすい!」
「そうなの!?」
「たぶん!」
「またたぶんかよ!」
◇
しばらくして。
最後の魔物が。
倒れた。
「…………」
カンダは。
砂の上に座り込んだ。
「疲れた」
ジュリアも。
隣に座る。
「強いね」
「アルディアの周りとは違うな」
リホは。
倒した魔物を《鑑定》している。
「素材も違う」
「売れる?」
「売れる」
「元気になったな」
アリスが。
光るスティックを掲げる。
「もう一回?」
「待て」
カンダが止める。
「ちょっと休ませて」
「じゃあ休憩したら?」
「もう一回」
「おう」
リホが。
顔を上げる。
「効率いいわね」
「だろ?」
ジュリアも立つ。
「やろう」
カンダは。
三人を見る。
「なんかみんなやる気だな」
リホ。
「素材が売れる」
ジュリア。
「新しい武器楽しい」
アリス。
「口笛吹くだけ」
「最後だけ楽すぎる!」
再び。
ピィィィィィ――!
「来た!」
「多い!」
「カンダ前!」
「おう!」
こうして。
四人の。
久しぶりのレベル上げが始まった。
◇
夕方。
「…………もう無理」
カンダが。
砂の上に倒れていた。
「ヒル」
自分を回復。
「ヒル」
ジュリアを回復。
「ヒル」
リホを回復。
「私も」
アリスが手を挙げる。
「お前ずっと後ろにいただろ!」
「疲れた」
「ヒルは疲労回復じゃない!」
夕日に。
砂漠が赤く染まっている。
カンダは。
身体を起こした。
朝より。
確実に強くなった。
新しい武器にも。
慣れてきた。
「よし」
《大地の戦斧》を担ぐ。
「これなら」
目の前に広がる。
巨大な砂漠。
「明日、行けるだろ」
その時。
「兄ちゃんたち」
声。
振り返る。
町から来たらしい老人が。
立っていた。
「砂漠を越えるのか?」
「ああ」
老人は。
空を見る。
夕日が。
沈み始めている。
「なら」
老人が言った。
「明日の朝にしな」
「なんで?」
「夜の砂漠は――」
老人は。
暗くなり始めた砂漠を見る。
「昼とは別物だ」
「…………」
風が吹く。
砂が。
静かに舞った。
カンダたちは。
まだ知らない。
砂漠の夜に。
何がいるのかを。
「じゃ」
アリスが立ち上がる。
「今日はご飯だね!」
「余韻!」
「お腹すいた」
「さっきまでの雰囲気返せ!」
明日。
四人は。
砂漠へ入る。
ちゃんとした勇者に。
なるために。
「いや、それ目的じゃねえからな?」
たぶん。
――第14話 終
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。
次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!
それでは、また次の冒険で!




