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『勇者は間に合ってます』 ~歴代最高の勇者の息子、商人と盗賊と遊び人を連れて旅に出る~  作者: 凡夫 成


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12/43

第12話 魔王、元勇者でした

勇者は間に合ってます。


でも冒険は、まだまだ間に合ってません。


今日もゆるっと行きます!


森の奥から。


咆哮が響いた。


――グオオオオオオオオオオ!!


木々が揺れる。


鳥たちが逃げるように飛び立っていく。


「……近いね」


ジュリアが呟く。


「ああ」


カンダは戦斧を担ぎ直した。


さっきまで戦っていた魔物とは。


明らかに違う。


「行く?」


アリスが聞く。


「そのために来たんだろ」


「珍しく勇者っぽい」


「珍しくは余計だ!」


四人は。


咆哮の聞こえた方へ歩き出した。


◇


しばらく進むと。


木々の向こうに。


巨大な石壁が見えてきた。


「砦」


リホが言う。


アルディア王から聞いた。


古い砦。


かつて国境を守るために使われていたが。


今では放棄されているという。


その周囲には。


魔物。


魔物。


魔物。


「……多くない?」


アリスが言った。


狼型。


鳥型。


虫型。


巨大な獣。


種類の違う魔物が。


砦を守るように集まっている。


「これ全部倒すの?」


ジュリアが聞く。


カンダは戦斧を構える。


「そうなるな」


「大変そう」


「他人事みたいに言うな」


「私は後ろだから」


「役割を盾にするな!」


その時。


砦の上から。


声が聞こえた。


「来たか」


四人が。


一斉に顔を上げる。


「…………」


「喋った?」


アリスが言う。


「喋ったな」


砦の上。


一人の男が立っていた。


いや。


男と呼んでいいのか。


頭には。


黒い角。


片腕は。


人間のものではない。


鋭い爪。


黒い鱗。


背中には。


折り畳まれた巨大な翼。


だが。


その顔には。


まだ人間の面影が残っていた。


「お前が」


カンダが聞く。


「魔王?」


男が笑う。


「人間どもは、そう呼んでいる」


「名前は?」


「ヴァルガ」


男は。


ゆっくり両手を広げた。


「操獣魔王ヴァルガ」


その瞬間。


周囲の魔物が。


一斉に。


カンダたちを見る。


「…………」


カンダは戦斧を握る。


「わかりやすい名前だな」


「なんだと?」


「いや」


ジュリアが小声で言う。


「魔物を操るから操獣魔王」


「わかりやすい」


リホも頷く。


「やかましい!」


魔王が怒った。


◇


ヴァルガが。


砦から飛び降りる。


ズンッ!


地面が揺れた。


魔物たちが。


道を開ける。


「勇者か」


ヴァルガがカンダを見る。


「ああ」


「名は?」


「カンダ」


「カンダ……」


ヴァルガは。


その名を確かめるように呟いた。


そして。


戦斧を見る。


「勇者が斧?」


「悪いか」


「いや」


ヴァルガは笑う。


「昔を思い出しただけだ」


「昔?」


「俺も」


ヴァルガが言った。


「勇者だった」


「…………」


カンダが固まる。


ジュリアも。


リホも。


アリスも。


「…………また?」


カンダが呟いた。


ヴァルガの眉が動く。


「また?」


「いや、こっちの話」


「何人目だっけ?」


アリスが指を折る。


「数えなくていい!」


ヴァルガが怪訝な顔をする。


「何の話をしている」


「勇者多すぎ問題」


「……?」


カンダはため息をついた。


「で」


ヴァルガを見る。


「元勇者が、なんで魔王になってんだよ」


ヴァルガの笑みが。


消えた。


◇


「俺も」


ヴァルガが静かに言う。


「王に選ばれた」


ある日突然。


城へ呼ばれた。


勇者に任命された。


剣を渡され。


金を渡され。


魔王を倒せと言われた。


「…………」


カンダは。


なんとも言えない顔になる。


「似たような話、最近よく聞くな」


「お前もか?」


「まあ」


「ならわかるだろう」


「何が?」


ヴァルガは。


周囲の魔物を見る。


「俺が授かった力は、《魔物使役》だった」


「魔物使役?」


「魔物を従わせる力だ」


最初は。


小さな魔物一匹。


次に二匹。


三匹。


力が増すにつれ。


より強い魔物を。


より多く。


従わせられるようになった。


「便利じゃん」


アリスが言う。


「最初はな」


ヴァルガが答える。


勇者として旅を続けた。


魔物を従え。


魔物と共に戦った。


だが。


人間たちは。


ヴァルガを恐れた。


魔物を連れて町へ入れば。


石を投げられた。


村を救っても。


魔物使いと罵られた。


「勇者と呼んだ翌日には」


ヴァルガが笑う。


「化け物と呼ぶ」


誰も。


自分を信じなかった。


だが。


魔物は違った。


「力を示せば従う」


「命令すれば戦う」


「裏切らない」


カンダが言う。


「いや」


「何だ?」


「お前が操ってるだけだろ」


「…………」


「それ、信頼じゃなくない?」


ヴァルガの顔が。


引きつった。


「黙れ」


「だって」


「黙れ!」


アリスがカンダの服を引っ張る。


「怒ったよ」


「俺が悪い?」


「ちょっと」


「なんで!?」


◇


ヴァルガは。


自分の異形の腕を見る。


「俺は人間を捨てた」


魔物を操り。


魔物の力を取り込み。


長い年月をかけ。


その身体まで変わった。


「今の俺は」


ヴァルガが笑う。


「完全な魔族だ」


「元勇者」


ジュリアが呟く。


ヴァルガが見る。


「なんだ?」


「元人間でもあるんだ」


ヴァルガは。


少しだけ黙った。


「ああ」


そして。


笑った。


「元人間でもある」


その瞬間。


カンダは。


ふと思い出した。


「…………あ」


「どうしたの?」


「こいつ」


カンダはヴァルガを指差した。


「カン兄と同じじゃん」


「カン兄?」


リホが聞く。


アリスが手を叩く。


「あー!」


「お前までカン兄って呼ぶな!」


ジュリアも気づく。


「魔物を操る勇者」


「そう!」


カンダがヴァルガを見る。


「カンラの上位互換じゃねえか!」


「誰だそれは!!」


ヴァルガが怒鳴った。


◇


「もういい」


ヴァルガが片手を上げる。


空気が。


変わる。


周囲の魔物が。


低く唸った。


「お前たちも」


ヴァルガが言う。


「人間の勇者ならば」


手を振り下ろす。


「ここで死ね」


魔物が。


一斉に襲いかかった。


「来るぞ!」


カンダが前へ。


「昨日決めた通り!」


「了解!」


ジュリアが。


最初に走る。


風。


狼型の魔物を抜き。


足を斬る。


次。


鳥型が飛び立つ前に。


翼を狙う。


「リホ!」


アリスが叫ぶ。


「右のでかいの!」


リホが見る。


《鑑定》。


「腹! 鱗が薄い!」


「カンダ!」


「おう!」


戦斧。


ズドンッ!


巨獣の腹へ。


だが。


倒れない。


「硬っ!」


「下がって!」


リホが小瓶を投げる。


油。


「ボア!」


炎が走る。


引火。


「グオオオ!」


「よし!」


カンダが拳を握る。


「ボアが!」


ジュリアが言う。


「喜んでる場合!?」


「最近やっと魔法として認められてきたんだよ!」


「前!」


アリス。


「おっと!」


戦斧。


魔物を吹き飛ばす。


ヴァルガは。


その様子を見ていた。


「なるほど」


そして。


片手を動かす。


魔物たちの動きが。


一斉に変わった。


「え?」


ジュリアが止まる。


魔物が。


左右へ。


さらに後方へ。


カンダを避ける。


「またか!」


狙いは。


リホとアリス。


「前衛を無視するな!」


カンダが追う。


だが。


ヴァルガが。


その前に降り立った。


「お前の相手は俺だ」


異形の腕。


カンダの戦斧とぶつかる。


ドォン!!


「ぐっ!」


カンダの足が。


地面を滑った。


「強っ……!」


「俺は」


ヴァルガが笑う。


「魔物を操るだけではない」


拳。


カンダが吹き飛ぶ。


「カンダ!」


「大丈夫!」


地面を転がりながら。


手を自分へ向ける。


「ヒル!」


光。


傷が塞がる。


ヴァルガの目が。


わずかに開いた。


「前衛でありながら回復術か」


「最近覚えた」


「勇者らしくなったな」


「それ言われるとなんか腹立つ!」


カンダが。


再び飛び込む。


◇


戦いは。


続いた。


倒しても。


倒しても。


魔物が来る。


「キリない!」


ジュリアが叫ぶ。


「周り全部こいつの手下かよ!」


カンダが戦斧を振る。


ヴァルガが笑う。


「ここは俺の領域だ」


指を動かす。


森から。


さらに魔物。


「何匹いるの!?」


リホが火薬を投げる。


ドォン!


「知らない!」


「カンダ左!」


アリス。


「おう!」


「ジュリア、そのまま奥!」


「了解!」


「リホ、煙!」


「はい!」


アリスの声が。


飛ぶ。


右。


左。


前。


下がれ。


今。


三人は。


もう理由を聞かない。


その声に従う。


「妙だな」


ヴァルガが。


アリスを見る。


「お前」


「私?」


「戦っていない」


「遊び人だから」


「……遊び人?」


ヴァルガが困惑した。


その隙。


「よそ見すんな!」


カンダの戦斧。


ヴァルガが腕で受ける。


ズドン!


「ぐっ!」


初めて。


ヴァルガが後退した。


「やるな」


「こっちは四人だからな」


「四人?」


ヴァルガが笑う。


「なら」


両腕を広げる。


「俺は百だ」


周囲の魔物たちが。


一斉に咆哮した。


◇


「面倒だな」


カンダが呟く。


「ならば」


ヴァルガが言う。


「もっと面倒なものを見せてやろう」


近くにいた魔物を。


異形の腕で掴む。


「え?」


魔物の身体が。


黒い光に包まれる。


そして。


ヴァルガへ。


吸い込まれた。


「…………」


リホの顔が変わる。


「何してるの?」


二匹目。


三匹目。


魔物たちが。


次々と。


ヴァルガの身体へ吸収されていく。


身体が膨らむ。


角が伸びる。


腕が巨大になる。


背中の翼が広がる。


脚が。


獣のものへ変わる。


「これが」


ヴァルガの声が。


低く響く。


「魔物を統べるということだ」


リホが。


《鑑定》を使う。


そして。


息を呑んだ。


「……人間じゃない」


「言っただろう」


ヴァルガが笑う。


「俺は」


翼を広げる。


「完全な魔族だ」


次の瞬間。


消えた。


「え?」


カンダの目の前。


拳。


「ぐあっ!」


吹き飛ぶ。


木を一本。


二本。


折る。


「カンダ!」


ジュリアが走る。


ヴァルガへ。


短剣。


だが。


「遅い」


腕で弾かれる。


「っ!」


ジュリアまで吹き飛ぶ。


「ジュリア!」


リホが火薬を投げる。


爆発。


煙。


その中から。


ヴァルガが歩いてくる。


「効いてない……」


「強すぎない?」


アリスが呟く。


◇


「ヒル……!」


カンダは。


自分を回復させながら立ち上がった。


「大丈夫?」


アリスが聞く。


「大丈夫じゃない」


「そっか」


「そこは励ませよ!」


「頑張れ」


「軽い!」


だが。


アリスは。


ヴァルガを見ていた。


じっと。


戦闘が始まってから。


ずっと。


「…………」


ヴァルガが。


腕を上げる。


周囲に残った魔物たちが。


動く。


カンダへ。


ジュリアへ。


リホへ。


それぞれが。


完璧に連携している。


「カンダ」


アリスが言った。


「何!」


「ちょっと待って」


「今!?」


「うん」


アリスは。


見ている。


ヴァルガが指を動かす。


魔物が動く。


ヴァルガが止まる。


魔物が攻撃する。


そして。


ヴァルガ自身が。


カンダへ飛び込む。


その瞬間。


「…………あ」


アリスが呟いた。


「わかった」


「何が!?」


「カンダ!」


アリスが叫ぶ。


「次」


「何!」


「全部無視して!」


「は!?」


「魔物も!」


「は!?」


「ヴァルガだけ見て!」


「死ぬだろ!」


「大丈夫!」


「根拠は!?」


アリスが笑った。


「なんとなく!」


「それ一番怖いやつ!!」


◇


ヴァルガが。


カンダへ向かう。


同時に。


魔物たちも動く。


「来るよ!」


アリスが叫ぶ。


「くそっ!」


カンダは。


魔物を見ない。


ヴァルガだけを見る。


狼型が。


横から迫る。


「カンダ!」


ジュリアが動こうとする。


「まだ!」


アリスが止める。


ヴァルガが。


カンダの目の前まで来る。


拳を振り上げる。


その瞬間。


魔物たちが。


止まった。


「今!」


アリスが叫ぶ。


「ジュリア!」


風。


ジュリアが走る。


ヴァルガの横。


短剣。


獣の脚へ。


「ぐっ!」


体勢が崩れる。


「リホ!」


「はい!」


火薬。


ヴァルガの背後へ。


ドォン!!


爆発。


逃げ道を塞ぐ。


「カンダ!」


「おおおおおお!!」


カンダは。


真正面。


戦斧を。


両手で握る。


ヴァルガが顔を上げる。


「貴様――!」


「俺は!」


戦斧を振り上げる。


「操られるのも!」


全力。


「操るのも!」


振り下ろす。


「嫌いなんだよ!!」


ズドォォォォォン!!


◇


静かになった。


魔物たちが。


動きを止めている。


やがて。


一匹。


また一匹と。


森へ逃げていく。


「…………」


カンダは。


肩で息をする。


「終わった?」


アリスが聞く。


「たぶん」


「たぶん多いね、私たち」


「誰のせいだよ」


ジュリアが。


倒れたヴァルガを見る。


まだ。


息がある。


「しぶとい」


「魔王だからな」


カンダが近づく。


ヴァルガは。


もう異形の姿を保てなくなっていた。


翼が消え。


巨大な腕も。


少しずつ。


元の形へ戻っていく。


「……負けたか」


「みたいだな」


「妙な勇者だ」


「よく言われる」


「斧を使い」


「悪いか」


「商人を連れ」


リホを見る。


「盗賊を連れ」


ジュリアを見る。


そして。


アリスを見る。


「……遊び人?」


「遊び人です」


「なぜだ……」


「最後までそこ気になる!?」


ヴァルガが。


小さく笑った。


そして。


カンダの顔を見る。


「しかし」


「何?」


「似ているな」


カンダが。


眉をひそめる。


「誰に?」


「ガルバス」


時間が。


止まった。


「…………」


カンダの表情が変わる。


「親父を」


一歩。


近づく。


「知ってるのか?」


ヴァルガは。


笑った。


「ああ」


「どこにいる」


「知らん」


「またそれかよ!」


「だが」


ヴァルガの身体が。


黒い光になり始める。


「待て!」


カンダが膝をつく。


「親父は何してた!」


「奴もまた」


ヴァルガが言う。


「魔王を追っていた」


「どの魔王だ!」


返事はない。


身体が。


少しずつ消えていく。


「おい!」


ヴァルガは。


最後に。


カンダを見る。


「お前は……」


笑った。


「何体目まで、辿り着けるかな」


「何体って何体だよ!」


ヴァルガの身体が。


完全に消えた。


「おい!」


静寂。


「そこ言ってから死ねぇぇぇぇ!!」


カンダの叫びが。


森に響いた。


◇


しばらくして。


四人は。


砦の前に座っていた。


「魔王」


リホが言う。


「倒したわね」


「ああ」


「初魔王」


アリスが言う。


「初魔王って言い方やめろ」


ジュリアは。


カンダを見る。


「ガルバス」


「…………」


「魔王を追ってたんだね」


「らしいな」


カンダは。


戦斧を見た。


親父。


何を追っていた。


どの魔王を。


なぜ。


そして。


今。


どこにいる。


何も。


わからない。


ただ。


一つだけ。


わかった。


「魔王を追えば」


カンダが呟く。


三人が見る。


「親父のことも、何かわかるかもしれない」


リホが頷く。


「可能性はあるわね」


「じゃあ」


アリスが立ち上がる。


「次の魔王探す?」


「軽いな!」


「だって何人かいるんでしょ?」


「そうだけど!」


ジュリアも立ち上がる。


「とりあえずアルディアに戻ろ」


「そうだな」


リホも。


荷物を持つ。


「報酬」


「そこだよな」


「大事よ」


「魔王倒した直後でもブレないな」


カンダも。


戦斧を肩に担ぐ。


初めての。


魔王討伐。


その先に。


父親の影が。


ほんの少しだけ。


見えた。


「よし」


カンダは。


アルディアの方角を見る。


「帰るか」


アリスが手を挙げる。


「帰ったらご飯!」


リホ。


「報酬」


ジュリア。


「お風呂」


カンダは。


三人を見る。


「魔王倒したんだから、もうちょっと余韻ない?」


「ない」


「ないわね」


「お腹すいた」


「…………」


カンダはため息をつく。


まあ。


これでいい。


たぶん。


四人は。


魔王を倒した森を。


いつも通り。


歩き出した。


――第12話 終

後書き

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

勇者なのに寄り道ばかり。 それでもカンダたちは、少しずつ前へ進んでいます。

次は何が起きるのか。 一緒に見届けていただけたら嬉しいです。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークで応援していただけると励みになります!

それでは、また次の冒険で!

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