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異世界バトル倶楽部「1分間最強伝説」〜俺を殺したエンタメで、死ぬまで稼いでやる〜  作者: あとりえむ


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14/15

第14話 メインイベント、因縁の決着

ジジのジャイアントキリングがもたらした熱狂は、闘技場を完全に「異界」へと変えていた。

数千人の観客の息遣いが一つになり、闘技場全体が巨大な生き物のように脈打っている。誰もが、次に提供される極上の暴力を渇望していた。


俺はリングの中央に立ち、一つ大きく深呼吸をした。

プロデューサーとしての俺の脳内には、このメインイベントにおける完璧な「台本」が組み上がっていた。


圧倒的な強者であるユリウスに対し、元騎士のレオンが誇りを胸に立ち向かう。だが、実力差は歴然。レオンは無様に殴られながらも、決して膝を突かずに耐え抜き、最後は時間切れか、あるいはスタンディングダウンで敗北する。


客はユリウスの理不尽な強さに絶望しつつ、レオンの「負けても折れない気高き魂」に涙を流す。それが、次回の興行へと繋がる最高の結末だ。



「さぁ、王都の歴史に刻まれる1分間だ!メインイベント、入場ッ!!」


俺の合図と共に、重厚な鐘の音が鳴り響く。

青のコーナー。先ほどのザックとの闘いで純白の鎧を汚されたユリウスが、静かな怒りを纏ってリングに上がった。その美貌は屈辱と殺意に歪み、観客のヤジすらも凍りつかせるほどの冷たいプレッシャーを放っている。


「対するは……すべてを失い、スラムの底に落ちた男!だが、その眼の光はまだ死んじゃいねぇッ!元・王属騎士団、レオン!!」


赤のコーナーから、レオンが現れた。

ボロボロだった服は脱ぎ捨て、上半身裸の引き締まった肉体を晒している。手には分厚いバンテージ。武器を持たないその姿に、スラムの観客たちから祈るような歓声が上がった。


「レオン!頼む、あいつをぶっ飛ばしてくれ!!」


「俺たちの意地を見せてやれ!!」


リングの中央で、二人が向かい合う。


「……まさか、貴様のような敗北者と、泥にまみれて殴り合う日が来るとはな」


ユリウスが、心底見下したような声で吐き捨てた。


「騎士の剣を捨て、スラムの猿山で大将気取りか。ここで貴様を完全に壊し、そのつまらない命を終わらせてやる」


「……剣なら、とっくに捨てたさ」


レオンは静かに両拳を顔の前に構え、深く腰を落とした。


「だが、俺が『生きている』ことだけは、この1分間で証明してやる」



俺はリングから降り、場外から手を高く挙げた。


「ゴングを鳴らせ!!」



カーーーーーンッ!!



開始の合図が鳴った瞬間、ユリウスの姿が掻き消えた。

いや、圧倒的な身体強化魔法による超高速の踏み込みだ。ユリウスの放った必殺の右ストレートが、レオンの顔面を捉える──はずだった。


パシィッ!!


乾いた音が響く。

レオンは紙一重で首をずらし、ユリウスの右腕を外側から弾き落としていたのだ。

剣術における「パリィ」の技術を、素手での防御に完全に応用した動き。


「なっ……!?」


「遅いな、冒険者。魔物を相手にする大振りな癖が抜けていないぞ」


ユリウスの体勢が崩れたその隙を突き、レオンの鋭い左ジャブがユリウスの顎を跳ね上げた。

ガキンッ、とユリウスの歯が鳴り、美しい金髪が乱れる。


「おおおおおっ!!」


レオンが先制の一撃を入れた瞬間、観客席が爆発した。


「貴様ぁぁッ!!」


激昂したユリウスが、魔法で強化された脚力から繰り出される怒涛の連撃を放つ。蹴り、肘、拳。その一つ一つが岩を砕く威力だ。


だが、レオンは一歩も引かない。

強固なガードと、急所を外すスウェーを駆使し、ユリウスの猛攻をすべて捌いていく。それどころか、防御の合間に的確なカウンターを打ち込み、ユリウスの顔面を赤く腫れ上がらせていった。


リングサイドで見ていた俺は、背筋にゾクッとした悪寒を感じた。


(……おいおい、嘘だろ)


レオンの動きがおかしい。

俺の描いた台本では、レオンはユリウスの圧倒的な暴力の前に防戦一方になり、「耐え忍ぶ姿」で客の同情を引くはずだった。

だが今のレオンからは、「耐える」気配など微塵も感じられない。


踏み込みの鋭さ。躊躇のない拳。獲物の喉笛を食い破ろうとする猛獣の目。

レオンは、マジでユリウスを「喰い」にいっているのだ。


(台本破りか……ッ!)


格闘技興行において、決められた演出を無視してガチの勝負に出ることは絶対のタブーだ。下手をすれば興行全体のストーリーが崩壊する。俺がゴングを鳴らして試合を止めるべき場面だ。


だが──俺の右手は、ゴングのハンマーを握ったまま、ピクリとも動かなかった。


『すごい……ショウ、これ凄いよ……!』


通信石から、リリの震える声が聞こえてきた。


『二人とも、魂が燃えてる。スクリーンから熱が溢れ出して、客が……客が全員、泣きながら叫んでる!』


観客席を見上げる。

スラムのチンピラも、高慢な貴族も、警備の聖騎士団でさえも。誰もが立ち上がり、拳を握りしめ、顔をくしゃくしゃにしてリングの上の二人に叫んでいた。


剣も魔法も関係ない。

これは、己の尊厳と存在証明を懸けた、純度百パーセントの「男と男の殺し合い」だった。

プロデューサーである俺が仕掛けた薄っぺらい「因縁」など、リングの上で交差する彼らの熱量に比べれば、ゴミに等しかった。


「いけぇぇぇぇっ!レオン!!」


「ユリウス!負けるな!お前の意地を見せろぉっ!!」


残り二十秒……

ユリウスも完全に「見下す」余裕を失っていた。彼は一人の戦士として、目の前の強敵を打ち倒すことだけに全神経を集中させていた。


「ハァッ……ハァッ……!なぜだ……すべてを失った貴様が、なぜそこまで戦えるッ!!」


ユリウスの拳がレオンの脇腹に深々と突き刺さる。アバラが折れる鈍い音が響いた。


「がはッ……!」


口から血を吐きながらも、レオンは笑った。


「失ったからさ……ッ!すべてを失って、どん底を這いずり回って……最後に残ったのが、この拳一つだったからだッ!!」


残り十秒……

二人はガードを捨て、リングの中央で額を突き合わせるほどの超至近距離で、互いの顔面を殴り合い始めた。


ドゴォッ!バキィッ!


肉が弾け、血飛沫が舞う。もはやどちらが勝っているのか、誰にもわからない。ただ、生きようとする執念だけが両者を立たせていた。


残り五秒……

ユリウスが渾身の魔力を右拳に込め、最後の一撃を振りかぶる。

レオンもまた、残されたすべての命の炎を右拳に宿し、踏み込んだ。



「ウォォォォォォォォッ!!」

「アァァァァァァァァッ!!」



両者の右ストレートが、互いの顔面を同時に捉えた。



カーーーーーンッ!!

カーーーーーンッ!!

カーーーーーンッ!!



1分経過のゴングが、闘技場に激しく鳴り響いた。


直後。

ズンッ……!!と、地響きを立てて二つの肉体がリングの砂に崩れ落ちた。




──静寂


数千人が息を呑む中、待機していた医療チームが一斉にリングに飛び込み、血まみれで倒れ伏した二人に回復魔法をかけ始める。


「……両者、ダウン」


俺はリングに上がり、マイクを握って静かに宣言した。


「1分経過……時間切れ、引き分けだ!!」



その瞬間だった。


「うわあああああああああああああっ!!」


「レオーーーーーン!!」


「ユリウーーーース!!」


勝者も敗者もいない。だが、闘技場は爆発的な、そしてどこか祈りのような大歓声に包まれた。

スラムの底辺も、王都のエリートも関係ない。ただ、1分間という極限の時間を生き抜いた二人の戦士に、万雷の拍手と涙が降り注いでいた。


俺はリングの砂の上で、回復魔法を受けながら静かに目を閉じるレオンを見下ろした。


(……最高の台本破りだったぜ、レオン)


俺が作り出したのは、ただの金儲けのシステムだった。

だが彼らは、そのシステムを利用して、前世で俺が最も愛し、最も焦がれた「本物のエンターテインメント」を、この異世界で完璧に体現してみせたのだ。


鳴り止まない大歓声のシャワーを浴びながら、俺は血と汗の匂いが立ち込める闘技場の天井を見上げた。

第一回バトル倶楽部は、誰一人死者を出すことなく、異世界の常識を根底からぶち壊す大成功を収めた。

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