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異世界バトル倶楽部「1分間最強伝説」〜俺を殺したエンタメで、死ぬまで稼いでやる〜  作者: あとりえむ


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13/15

第13話 1分の奇跡

ザックの玉砕特攻が残した「熱」は、闘技場に重く、そして甘く立ち込めていた。

観客たちは興奮で頬を紅潮させ、隣の席の赤の他人と酒瓶をぶつけ合いながら、今見た1分間のドラマを語り合っている。


だが、息をつかせる暇など与えない。エンタメの鉄則は「波状攻撃」だ。


「さぁ、歴史的敗北に酔いしれるのは後にしてくれ!狂乱の宴はまだ始まったばかりだ!」


俺がリングの中央で声を張り上げると、数千人の視線が再び俺に釘付けになる。

リリが操る記録石の照明が、せわしなく闘技場内を飛び交った。


「次のカードは……これぞ異種格闘技戦!圧倒的な体格差だ!」


赤のコーナーをスポットライトが照らす。


「身長二メートルの人間山脈!怒れる重戦車!傭兵・ガストン!!」


「オラァッ!!」


咆哮と共に現れたのは、酒場でジジと揉めていた大柄な傭兵だ。岩のように隆起した筋肉、丸太のような太い腕。武器の持ち込みは禁止だが、その拳自体が凶器のような男だ。

対する青のコーナーに、ピンスポットが当たる。


「迎え撃つは……スラムの路地裏からやってきた、緑色の毒舌マシン!ゴブリンのジジ!!」


「ヒャ、ヒャハハ!みんな、オイラの勇姿をしっかり目に焼き付けなよぉ!」


虚勢を張りながらリングに上がってきたジジの姿を見て、観客席からドッと嘲笑が湧き起こった。


「おいおい、冗談だろ!?」


「ただのゴブリンじゃねぇか!ガストンの一発で首が飛ぶぞ!」


「残酷ショーが見たいわけじゃねぇんだぞ!」


無理もない。ファンタジー世界において、ゴブリンは「最弱の魔物」の代名詞だ。ガストンのような屈強な戦士からすれば、路傍の石ころと変わらない。


「静粛に!」


俺は声を張り上げ、ニヤリと笑った。


「俺のリングでは、種族も腕力も関係ない!1分間、足を使って逃げ切るのも立派な戦術だ!……両者、構えろ!」


リングの中央で向き合う二人。

ガストンは「一秒でミンチにしてやる」と残忍な笑みを浮かべている。ジジは小刻みに震えながらも、その口角を歪めていた。


「ルールは同じく1分間!ゴングを鳴らせ!!」



カーーーーーンッ!!



開始の合図と同時に、ガストンが巨体を揺らして突進した。


「死ねぇッ、虫ケラ!!」


大気を切り裂くような右の豪腕が、ジジの頭部を薙ぎ払う。まともに当たれば、本当に首が吹き飛ぶ一撃だ。


「ヒャハ!おっそいねぇ!!」


だが、ジジはガストンの腕が振り下ろされる直前、ゴキブリのような瞬発力で股下へとスライディングし、その攻撃を躱したのだ。


「なっ!?」


「図体ばっかデカくて、目は節穴かよ!お前の母ちゃん、ドワーフのヒゲでも食って育ったのかぁ!?」


背後に回り込んだジジが、ガストンの尻に蹴りを入れながら下劣なヤジを飛ばす。

闘技場に一瞬の静寂が落ち、直後、ドカンと爆笑の渦が巻き起こった。


「ぶははははっ!ゴブリンに遊ばれてるぞ、ガストン!」


「いいぞ緑のチビ!もっと言ってやれ!」


「て、てめぇ……ぶっ殺してやるッ!!」


顔を真っ赤にしたガストンが振り返り、怒りに任せて両腕を振り回す。

だが、魔力制限結界の中では「広範囲の攻撃魔法」は使えない。己の肉体だけで、すばしっこく逃げ回る小柄なゴブリンを捕まえるのは、想像以上に困難だ。


シュッ!ブンッ!

ガストンの拳が空を切るたびに、ジジの挑発が飛ぶ。


「ほらほら!右、左、上!ぜーんぶハズレだぜぇ!」


「あたるかよ!お前の拳、止まって見えるぜ!」


残り三十秒。

完全に頭に血が上ったガストンは、ペース配分など無視して全力の素振りを繰り返させられ、肩で激しく息をし始めていた。身体強化魔法を維持するのにも魔力と体力を消費する。空振りの連続は、巨漢にとって致命的なスタミナロスだ。


「ハァッ……ハァッ……!ちょこまかと……ッ!」


「おやぁ?もう息切れかい?傭兵辞めて、畑の案山子にでもなったらどうだい?」


残り二十秒。

客席の空気が、少しずつ変わり始めていた。

最初は残酷な公開処刑を予期していた観客たちが、圧倒的な強者であるはずのガストンが、最弱のゴブリンに翻弄され、疲労困憊になっている姿に引き込まれているのだ。


「おい……もしかして、あのチビ、逃げ切るんじゃないか?」


「いけっ!ジジ!そのまま逃げ切れ!!」


いつの間にか、会場のコールは完全に「弱者」の背中を押していた。

だが、ただ逃げ回るだけでは、エンタメとしては二流だ。俺がジジに求めた役割は、ただのピエロではない。


(……いけ、ジジ。お前の「見せ場」だ)


残り十秒……

ガストンが酸欠で大きくよろけ、リングのロープに背中をもたれかかった、その瞬間。


「ヒャアァァァァッ!!」


逃げ回っていたジジが、突如として反転し、ガストンの懐へと弾丸のように飛び込んだ。


「なっ……!?」


「逃げてばっかじゃ、客が退屈するからなぁッ!!」


ジジはガストンの胸ぐらを掴み、その巨体にぶら下がるようにして飛び上がると、顔面に向けて狂ったような怒涛のラッシュを叩き込み始めた。

一つ一つのパンチは軽い。ゴブリンの貧弱な拳だ。

だが、疲労の極致にあったガストンにとって、鼻柱、目尻、顎先へと雨霰と降り注ぐ三十発近い打撃は、確実に脳を揺らし、視界を奪った。


「がっ……ぐぁッ……!離れろ、この……ッ!」


「オラオラオラオラァッ!!」


防戦一方になる巨漢の傭兵と、顔面を殴り続ける最弱のゴブリン。

誰も予想しなかった、あまりにも異常な光景。


「うおおおおおおおおっ!!」


「やっちまえぇぇぇぇっ!!」


闘技場が、狂乱の坩堝と化した。

貴族も、平民も、スラムの住人も関係ない。すべての観客が立ち上がり、地響きのような歓声を張り上げている。



カン、カン、カーーーーーンッ!!



終了のゴングが鳴り響いた。


「そこまで!!1分経過!!」


俺が二人の間に割って入る。ジジは素早くバックステップで距離を取り、ガストンはフラフラとよろめきながら、その場にドスンと膝をついた。


闘技場が、固唾を飲んで俺の「判定」を見守る。


「ルールは『1分間』!この密室で、より相手を圧倒し、より多くの有効打を当てた者が勝者となる!!」


俺はジジの細い腕を掴み、高々と天井へ向かって突き上げた。


「大振りの空振りを繰り返した傭兵に対し、終盤、三十発以上のクリーンヒットを顔面に叩き込んだ猛攻を評価する!」


「勝者は……ジジーーッ!!」



ワァァァーーーーーーッ!!!



天井が崩れ落ちるのではないかというほどの、爆発的な大歓声。


「嘘だろ!?あの最弱のゴブリンが勝ったぞ!!」


「最高だ!最高にイカれてるぜ、この闘技場!!」


「ジジーーーッ!!お前すげぇよ!!」


勝敗の予想も、種族の常識も、すべてが覆された。

弱者が強者を食う瞬間のカタルシス。大衆が最も愛する「下克上の物語」が、今、1分間という魔法の箱の中で完全に証明されたのだ。


「ヒャ、ヒャハハハ!見たか、お前ら!オイラが最強だぁっ!」


リングの上で跳ね回りながら観客の歓声を全身に浴びるジジの姿を、リリの記録石が余すところなく巨大スクリーンに映し出している。


だが、俺の仕掛けたエンタメはこれで終わりじゃない。


続く第3試合。スラムの借金取りと、それに追われる借金まみれのギャンブラーの対決。俺が書いた「土壇場からの大逆転劇」通りに、ギャンブラーが残り数秒で放った起死回生の一撃が借金取りのアゴを打ち抜き、観客は狂喜乱舞した。


さらに第4試合。事前の「煽りV」で『かつて同じ傭兵団にいた裏切り者同士』という架空の因縁を植え付けていた二人の対決。互いに憎しみを爆発させた血みどろの殴り合いの末、両者ダウンの引き分け。その壮絶な散り様に、闘技場は割れんばかりの拍手と涙に包まれた。


俺の描いた台本が、次々と現実の熱狂に変換されていく。


(……これで、会場のボルテージは完全に沸点に達した)


俺は暗い熱を帯びた目で、控室へと続くゲートを見つめた。

前座の熱狂は完璧に終わった。

さあ、いよいよだ。因縁と憎悪が交差する、極上のメインイベントの幕が開く。

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