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【第六話】現場事務所の設営と過剰な「余り物」

巨大なゴーレムの心臓部――それは、かつての魔導文明の結晶というよりは、俺にとっては「手入れを怠った巨大な鉄の塊」に過ぎなかった。

 

「……ひどいな。設計思想は悪くないが、メンテナンス性が最悪だ。ボルトの配置を考えた奴の顔が見てみたいぜ」

俺は、リユースした重鉈を隙間に叩き込み、テコの原理で外装を剥ぎ取った。

 

「ひっ……あ、あの、サトウさん! そんな乱暴に!中の魔力回路が暴走して、大爆発でもしたらどうするんですか!?」

少し離れたところで、リノが顔を覆いながら叫んでいる。

 

「回路? ああ、この配線のことか。被膜が劣化して漏電リークしかかってたから、さっき『絶縁』しておいた。爆発なんてしねえよ。それより、この主軸を見てみろ。……金属疲労の限界だ。目に見えないクラック(亀裂)が全体に走ってやがる」


俺は素手で、まだ熱を持っているコアを掴み出した。

 ボウ……と鈍く青白い光を放つそれが、周囲の霧を照らす。

「あわわわ……神話の心臓を、あんなに雑に……」

「……この素材、引張強度はあるが横からの衝撃に弱いな。脆性ぜいせい破壊を起こしやすいタイプだ。当時の連中は、熱膨張率の計算を間違えたんじゃないか? これじゃあ、連続稼働させれば熱で歪んで詰まるのは当たり前だ」


俺は独り言を漏らしながら、その場でコアの周囲に付着した「余り物」を分解し始めた。

ミスリルとオリハルコンの合金パーツが、俺のスキルの前では粘土細工のように形を変えていく。


「……リノ。お前の荷車をこっちへ出せ」

「えっ、はいっ! ……あ、あの、また何か怪しい改造をするんじゃ……」

「改造じゃない、保守点検だ」


俺はゴーレムの主軸から切り出した「超高密度ベアリング」を、彼女の荷車の車輪に強引に組み込んだ。さらに、コアから溢れる余剰魔力を動力源としてバイパスし、車輪に簡易的な『反重力場』を発生させる回路を、廃材の導線で構築する。


「よし。これで『自動追従オートフォローモード』だ」

「オート……なんですか?」

「お前の歩幅と速度に合わせて、勝手に着いてくるようにした。もう引かなくていい。……ついでに、荷台の積載量も三倍に拡張しておいたぞ。空間が少し歪んでるが、荷物を置く分には問題ねえ」

 おずおずと一歩踏み出したリノの背後を、荷車がスゥー……と静かに、生き物のように追尾していく。


 リノは「ひゃあああ!」と叫びながら、指一本触れていないのに自分を追ってくる荷車を見て、その場に膝を突いた。

「もう……もう無理です、サトウさん……。これ、国宝レベルのアーティファクトですよ……。それを、運搬用のリアカーに使うなんて……」

「素材を腐らせるのが一番の罪なんだよ。……さて」

 俺は、ゴーレムの巨大な外装パネルを数枚、地面に突き立てた。

 

「いちいち戻るのも非効率だ。この『深部』は素材の宝庫だし、しばらくここに腰を据えるぞ。……現場事務所プレハブを作る」


俺は周囲の残骸から、高い魔力抵抗を持つ防壁用のプレートと、自動で温度調節を行う熱交換器代わりの魔導具を集め、ものの数分で「一軒家」のような空間を作り上げた。


廃材で組んだとは思えないほど隙間風ひとつない。中に入れば、深部のあの不快な魔素の霧も、完全にろ過された清浄な空気に変わっている。

「……とりあえず、今日はここで野営だ。リノ、そこにある廃材のラジエーターで湯を沸かせ。……お前、疲れすぎて顔色が悪いぞ」

「……サトウさんの異常さに、心が疲れただけです……」


快適すぎるソファ(高級騎士団の寝具の端切れで作った)に沈み込みながら、リノが遠い目をしている。


俺はそんな彼女を無視して、現場事務所の窓の外

――深部のさらに奥を見つめた。

「……しかし、あの奥にある『デカい残骸』」

 霧の向こう、山のようにそびえ立つ、沈黙したままの巨大な影。

 

「……あれ、ただの鉄屑じゃないな。わずかだが、動力が『生きている』音がする」

 俺の職人としての勘が、警鐘と、そして抑えきれない好奇心を同時に鳴らしていた。

 

 伝説の戦場、その深淵。

そこに、かつての世界を終わらせたはずの『災厄』が、一人の職人の「リユース対象」として、静かに目覚めの時を待っていた。

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