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【第四十四話】振動規制の限界突破!結合ボルト(結節点)をハツり落とせ


巨大ゴーレム(現場荒らし)の体内から、金属が激しく擦れ合う不気味な駆動音がドームに響き渡った。


全高tメートルを超える巨躯が、その巨大な右足をゆっくりと、しかし確実に持ち上げる。


床を力任せに踏み抜き、その絶大な伝播振動によって「大霊脈制御コア」の暴発を強制的に加速させる

———最悪の「足踏み」の予備動作だった。


「サトウさん! あと十秒であの足が床を叩きます! 伝播振動の予測値、クリアランスを大幅にオーバーします!」

ストップウォッチの針を睨むリノの悲鳴のような管制ナビが飛ぶ。


「エルミア! 振り下ろされる前にあいつの視界センサーの波長を潰せ! 右斜め上、仰角十五度だ!」


「フン……そのツラにドデカい目潰し(パッチ)を当ててやるよ! ———同調ロック、完了!」


残り三秒。

エルミアは理知的な瞳を鋭く光らせて魔導杖を構えると、宮廷魔導士としての矜持を込めた男前な咆哮とともに、超高出力の指向性ジャミング魔法を放射した。


「バチバチバチィッッ――!!!」


ゴーレムの顔面中央にある幾何学センサーが、青い火花を散らしてショートする。

視界を完全に奪われ、三半規管(平衡感覚)を狂わされた巨躯が、足を上げたまま「グガガッ!!」と激しくよろめき、その場にピタリと動きを止めた。


「よし、足踏みを止めた! 残り時間は、あと二秒———いや、つんのめった分、おねだり(猶予)で追加の三秒は稼げたな。リノ、今のうちにつんのめった右腕のボルト位置を吐け!」


敵のわずかな隙を逃さず、リノは図面とストップウォッチを凝視しながら、サトウの言葉を完全に先回りして数理データを差し出した。


「はい! 右肩の第三装甲の隙間、奥から二十二ミリの位置に魔力結節点ボルトを検知! ———カレンさん、今の前傾姿勢なら、大剣の『突き』で衝撃ゼロのままハツれます!」


寸分の狂いもないピンポイントの座標トス。サトウが即座にそれを指示へと変換する。

「カレン、リノの弾いたコンマへ突っ込め!」

「任せろ! 」すんっ!!


通常運転ながらも、前衛としての信頼感は100パーセントのカレンが地を蹴った。

電光石火の踏み込み。彼女が放った大剣の切っ先は、まるで針の穴を通すような絶対の精度で、ゴーレムの右肩の装甲の隙間へと滑り込んでいく。


 ———キィィンッ!


鼓膜を震わせる鋭い金属音。

しかし、カレンが魔力を一点に集中させた「ハツり(突き)」によって、巨躯を支えていた内部の魔法ボルトが一本、周囲への環境振動を一切生まないまま綺麗に切断された。


駆動力を失ったゴーレムの右腕が、ダラリと脱力して垂れ下がる。


「す、凄い……! あの体積と魔導金属の比重からしたら、数トンはあるはずの巨腕なのに、本当に衝撃ゼロで機能停止していく……!」

総現場監督としてのプロの目利きでその「神業」を見届けたニイナは、驚愕のあまり胃痛を忘れて目を剥いていた。


しかし、サヴァルの遺したクソシステムも執念深かった。

右腕の機能を失いながらも、ゴーレムは残った左腕と胴体の重力制御を強引に狂わせ、サトウの油圧ショベル目掛けて前のめりに倒れ込もうとしてきたのだ。

自重による圧殺、あるいは無理やりの自爆特攻。


「視界が死んでても質量で潰しにくる気なのか! どこまでも根性の座ったシステムだな!」

エルミアが舌打ちするが、操縦席のサトウはフンと鼻を鳴らした。


「慌てるな。自重が乗るってことは、重心のボルトに『最大の負荷(応力)』がかかって、一番ハツりやすい状態になってるってことだ。———リノ、同調周波数の再計算を急げ!」


「はい! 左足の付け根、支持ボルトの固有振動数は四百十五ヘルツに変化! サトウさん、ノミ先をそこへ固定ロックしてください!」


「上等だ。———【万物再利用リユース・エクス・マキナ】!! 現場の安全を脅かすバグの塊を、根元ボルトからハツり落とせぇぇッ!!」

サトウが油圧ショベルのフットペダルを力強く踏み抜いた。


アームの先端の『特製・魔導油圧ブレーカー』が、超高速・超低振動の精密解体モードへと切り替わり、ゴーレムの左足の「ボルトの芯」へとピンポイントで突き刺さる!


 ド、ド、ド、ド、ドッッッ――――!!!!


ドームに響いたのは、空間を揺らす爆音ではない。ボルトの分子結合だけを、ミクロの超高周波振動でサラサラと砂のように分解していく、プロの解体ハツりの音だ。


支持を完全に失ったゴーレムの左足がガガガッと砂のように崩壊し、バランスを完全に失った八メートルの巨躯が、大霊脈コアとは真逆の方向———あらかじめ設定された「安全区域」へと盛大に傾いた。


「バルド! 傾いたデカブツが床にぶつかる衝撃を殺せ! 養生ようじょうだ!」

「へっ、二期工程の段取りも頭に入ってんだよ! 野郎ども、重魔導鉄板を敷けぇい! 衝撃を殺すぞ!!」


待機していたバルド親方の怒号とともに、ドワーフの精鋭たちがクッション魔術を何重にも施した「超巨大な敷き鉄板(養生資材)」を、ゴーレムが倒れ込む床へと息を合わせて滑り込ませた。


 ———ズズゥゥン……!

 重厚な、しかしどこか柔らかい音が響く。

敷き鉄板のクッションがゴーレムの巨体を見事に受け止め、地盤を揺らすはずだった環境振動を100パーセントカットしてみせた。

大霊脈コアのコンソールメーターは「上昇率0パーセント」の安全圏グリーンを完全に維持している。


左足と右腕を失い、完全にダルマ状態となって床に転がったゴーレム。衝撃でその胸の装甲が外れ、内部にある「メイン制御核(心臓ボルト)」が完全に露出した。


サトウは油圧ショベルのアームを静かに操作し、ブレーカーのノミ先を、その剥き出しの核へと寸分の狂いもなく突きつけた。チェックメイトだ。


「施工完了だ、サヴァルのゴミ(バグシステム)。

———おいリノ、トドメの数値を弾け。ニイナ、不発弾コアの解体図面を用意しろ。次で全部終わらせるぞ」


完璧な精密解体によって、ラスボスのセキュリティを完全無災害で無力化したサトウ。


そのバイザーの奥の不敵な横顔は、いよいよ空中都市の運命を握る「爆弾コア」の本体解体フルリフォームへと、その冷徹な手をかけるのだった。

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