【第四十三話】最深部の心臓(コア)と、遺された防衛仕様(ガーディアン)
砕け散った防壁の煙が引いたその向こう側。広がっていたのは、ドーム状の不気味な巨大中央制御室だった。
その中心部を目にした瞬間、全員の息が止まる。
そこには、禍々しい赤黒い魔力を周囲に撒き散らしながら、まるで生き物の心臓のようにドクン、ドクンと不気味に脈打つ巨大な結晶———「大霊脈制御コア」が鎮座していた。
「あれが……空中都市の心臓。サヴァル様が書き換えた、暴発プログラムの本体(バグの根源)……!」
ニイナが図面を抱きしめたまま、そのおぞましい光景に声を震わせる。
「チッ、嫌な魔力ね。周りの空間ごと大霊脈を無理やり引き絞ってやがる。ヘタに触るだけで、あたしたちごとこの区画が消し飛びそうだ」
エルミアが忌々しげに吐き捨てる中、サトウは黄色い油圧ショベルの運転席から、バイザー越しに冷徹な目でその心臓部を一瞥した。レバーを握る手にいささかのブレもない。
「不良物件の心臓部だな。リノ、あのコアに繋がってる配管の系統を弾け」
「はい! コアへ流入する大霊脈の魔力、通常の『二・四倍』まで加圧されています! あのコア自体、すでに破裂寸前の高圧ボイラーと完全に同じ状態です!」
リノがパタパタと耳を弾ませながら、手元のメモ帳を叩いて即座に危険度を出した。まさに一触即発。文字通りの不発弾だ。
二人が解体手順を割り出そうとした、その時だった。
制御室の床一面に、サヴァルの幾何学術式が巨大な血のような魔法陣となって展開した。
———ガガガガガガギィィィッ!!!
周囲の石材や剥き出しの魔導金属が、磁石に吸い寄せられるように凄まじい勢いで集まり、再構築されていく。
異音を立てて組み上がったのは、全高八メートルを超える、無数の異形のアームを持った重装甲の【超大型魔導ゴーレム】だった。
ゴーレムが鼓膜を狂わせる駆動音を響かせ、岩石でできた巨大な拳を容赦なく振り下ろしてくる。
——すんっ!
カレンが電光石火の速度で前へ飛び出し、大剣を抜いて今にもゴーレムをハツり倒そうと地を蹴った。
だが、それをサトウの鋭い怒号が遮った。
「待てカレン、手を出すな! 全員バックだ、引け!!」
カレンは野生的な直感で強引に制動をかけ、電光石火のバックステップを踏んだ。直後、ゴーレムの拳が床を叩きつけ、凄まじい衝撃波と粉塵がドーム全体を揺らす。
「サトウ、なぜ止める!? あんな奴、ハツり倒せば一発だ!」
カレンが不満げに叫ぶが、サトウはコンソールのメーターを見つめたまま動かない。
「リノ、さっきの衝撃(振動)の、コアへの影響(変位)があるな?」
「はい! ゴーレムが外部に衝撃を与えるたび、コアの魔導圧が『一・五パーセント』ずつ上昇しています! このゴーレム、ただの防衛用じゃありません。……『ここで暴れて、その衝撃でコアの暴発を早めるための自爆スイッチ』です!」
「なるほどね……。倒そうとして大技の魔力をぶつければ、そのエネルギーごとコアへ逆流して信管が作動する(暴発する)ってわけか。どこまでも性格の悪い設計だぞ、天才だな」
エルミアが冷徹な瞳を細め、一瞬でサヴァルの術式構成の「狙い」を読み解いてみせた。
戦えば自爆する。
天才設計士サヴァルが遺した、どこまでも現場の人間を殺しにくる最悪のバグ仕様。
「そんな……戦うこともできないなんて……」
ニイナが再び顔を青ざめさせ、絶望に立ち尽くした。
衝撃厳禁のデッドロック。
だが、油圧ショベルの操縦席で、サトウはフッと不敵な笑みを浮かべた。ヘルメットの顎紐をパチリと指で弾き、不敵にニヤリと笑う。
「戦う必要はねえ。言ったろ、これは『解体工事』だ」
サトウの声には、微塵の動揺もなかった。あるのは、厄介な現場をいくつも修羅場としてくぐり抜けてきた職人の、絶対的な段取りの力だけだ。
「リノ、あいつの各駆動部の『結合ボルト(結節点)』の位置を割り出せ。衝撃を与えずに、パーツごとにバラすぞ」
「了解です! 右肩の第三装甲の裏、魔力を固定している『主ボルト(コア)』があります! そこを狙えば、周囲への衝撃をゼロにしたまま、右腕を『ハツり(切断)』落とせます!」
「よし、工程表(段取り)を組むぞ」
サトウのブレない声に、サトウ工務店一同たち、そしてニイナ、ドワーフたちの瞳に再びプロとしての火が灯る。
「エルミア、お前のジャミングでゴーレムの『センサー(目)』を狂わせろ。カレン、リノの言った結節点だけをピンポイントで突け(ハツれ)。俺が重機のブレーカーで動きを抑える」
「ふっ、……単にぶっ壊すだけの脳筋作業より、こういう精密制御の方が、あたしの性に合ってるじゃないな。任せろ」
エルミアが不敵な笑みを浮かべ、精密な魔導パルスを指先に集中させる。
すんっ!「任せろ! ピンポイントハツり、やってやるぞ!」
カレンが大剣の切っ先を鋭く構え、狙いを定める。
サトウは新調した『特製・魔導油圧ブレーカー』のコントロールレバーをガチリと引き絞り、アクセルペダルを力強く踏み込んだ。キィィィン……と超高周波のノミが怪しく明滅し、いつでも削岩可能な咆哮を上げる。
「これより、第二期工程———【危険害獣】の精密解体を開始する」
サトウはバイザーをパチンと下げ、操縦レバーを前に押し出した。
「全員、色気出してんじゃねえぞ。」
突っ込んでくる超大型ゴーレムに対し、
サトウ工務店の「衝撃厳禁・超精密解体戦」の火蓋が、今、切って落とされた。
第43話、楽しんでいただけましたでしょうか?
ついに到達した「大霊脈制御コア」の前に立ちはだかる、最悪の防衛システム【超大型魔導ゴーレム(現場荒らし)】
ニイナの図面解析と、サトウ・リノちゃんの積算によって「攻撃自体が爆発を加速させる」という最悪の仕様を見抜き、重機での「破壊を伴わない精密解体戦」へと挑む、一瞬のミスも許されない緊迫の展開でした。カレンやエルミアさんと共に、あの厄介な現場荒らしをじわじわと解体していくヒリヒリとした空気感が、皆様に少しでも上手くお届けできていましたでしょうか……?
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明日はキララ




