【四十二話】狭隘(きょうあい)工区の強行突破
ゴゴゴゴゴ……と重い音を立てて魔導隔壁が開いたその瞬間、サトウたちの眼前に現れたのは、不気味な赤黒い光に満ちた未知の通路だった。
壁面には無数の魔導回路がさながら生物の血管のようにのたうち回り、脈動している。
サトウが黄色い油圧ショベルのキャタピラを一歩進めた、その刹那だった。
通路全体が侵入者を感知して烈しく深紅に明滅し、壁の随所に埋め込まれた砲門から、高出力の魔導レーザー(トラップ)が目も眩むようなチャージを開始する。
「うわ、ちょっとこれ出力が高すぎる! 完全に殺しにきてるぞ!」
エルミアが鋭い声を上げるが、サトウは操縦席のレバーを握ったまま、バイザー越しに鋭い視線を向けた。
「リノ、出番だ! この出力の計・・・」
「はい! 出力数値の計算(積算)ですよね? こちらです! 三・二秒間隔で逆位幾何学のパルスが反転しています!」
リノはサトウの言葉を完全に先回りし、手元のストップウォッチと図面を凝視しながら、パパパッと弾き出した数理データを差し出した。
本人はただ「事務員としての義務」を果たしているつもりだが、その速度と正確さは超一流の管制官そのものだ。
「よし、秒読み(カウント)を入れろ! ――エルミア、リノの合図に合わせて周波数を四百四十ヘルツに固定しろ!」
「ふっ、そのくらいの速度、ついてってやるよ! 任せろッ!!」
エルミアが指先に高密度のジャミング術式を紡ぎ出す。
リノがストップウォッチの針を見つめ、凛とした声を響かせた。
「いきます! ———3、2、1、今っ!」
「しゃあ、オラァァッ!!」
エルミアが不敵な笑みを浮かべ、全力の妨害魔法を通路へ放射する。リノの完璧なタイミング指示により、サヴァルのトラップ回路は一瞬だけ青いパルスへと色を変え、完全に機能停止した。
「カレン、リノが作った安全通路を駆け抜けろ! 奥の防壁に道を開け(ハツれ)!」
「任せろ! 」すんっ!
トラップが再起動するまでのわずかな空白。
カレンは大剣を肩に担ぎ、電光石火の速度で通路を駆け抜けた。
一陣の風となった彼女は、通路の最奥にそびえ立つ、幾何学の結界で閉ざされた巨大な岩石防壁へと一瞬で肉薄する。
「ふんぬぅぅぅーーーっ!!」
カレンは凄まじい魔力をパッチワークの大剣に纏わせ、強固な防壁の『中央の継ぎ目』へと渾身の一撃を叩き込んだ!
———ズガァァァン――ッ!!!
鼓膜を激しく震わせる衝撃波が通路に吹き荒れる。しかし、サヴァルが仕掛けた防壁は絶望的なまでに硬かった。カレンの一撃をもってしても、表面に細いヒビが入るに留まる。
「くっ、やっぱり硬いのいだ! 刃が通らない!」
「カレンさん、そのまま下がって!」
すかさずリノの声が飛ぶ。リノはメモ帳の数字から目を離さずに叫んだ。
「サトウさん、ヒビの入った座標の応力集中点、計算位置へアプローチをお願いします!」
「応よ。下がってろカレン。こっから先は重機の領域だ」
通路の幅ギリギリ、左右の壁を削らんばかりの威容で、車体を激しく揺らしながらサトウの油圧ショベルが前進してくる。
アームの先端にビルドされた『特製・魔導油圧ブレーカー』が、キィィィンと空間を切り裂くような高周期振動音を立てて怪しく輝いていた。
ショベルの運転席で、サトウが足元のペダルとレバーをガチリと引き絞る。
「リノ、ノミ先の魔導振動パルスを、防壁の固有振動数と同調させろ」
「了解です! 同調率80……95……100パーセント! いつでもいけます、削岩ってください!」
「おう!」
サトウがブレーカーのペダルを力強く踏み込んだ。
アームが爆発的な速度で突き出され、カレンが付けたヒビの『芯(応力集中点)』へと、超高周波で震えるノミの先端が正確無比に突き刺さる!
「——【万物再利用】!! サヴァルが置いてったゴミ(魔導振動器)の出力を全部ここに回せ! 現場の邪魔になる防壁(障害物)は、跡形もなくハツり落とせぇぇッ!!」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!
通路全体がバラバラに崩壊するかと思えるほどの、凄まじい打撃音と超高周波の振動が炸裂した。
狂った天才が施した最強の魔導防壁。
それが、サトウの叫びと重機の最大トルク、そして『固有振動数の同調』という物理の正論によって、まるで乾いたクッキーのように脆く、粉々に砕け散っていく!
猛烈な勢いで飛び散る岩盤の破片。それを見届けたエルミアは、顎が外れんばかりに目を丸くした。
「嘘でしょ、あの防壁、まともにいったら最上級の爆破魔法でも傷一つ付かない代物よ!?」
すんっ! 「サトウの黄色いのはやっぱり最強なのだ!」
カレンだけは通常運転で、誇らしげに胸を張って鼻を鳴らした。
だが、防壁をブチ破った瞬間、通路全体の天井が激しい振動に耐えかねて、パラパラと不穏な音を立てて崩落し始めた。
「あ、危ない! 上から岩盤が……!」
ニイナが悲鳴を上げるが、サトウの目はすでに次の工程を捉えていた。
「バルド! 段取り通り退路(安全)を確保しろ!」
「へっ、待ってましたぁ!! 野郎ども、旦那がブチ開けたハザードを固定するぞ! 突っ込めぇい!!」
後方で待機していたバルド親方率いるドワーフの精鋭たちが、金属製の頑丈な突っ張り棒――『支保工』の建材を担いで猛ダッシュで突入してきた。
彼らは職人の目で瞬時に崩落の基点を見抜くと、落ちてくる天井岩盤の隙間へと次々に金属支柱を叩き込み、巨大なハンマーでガチガチに固定していく。
カン! カン! カァァン!! と響く小気味よい金属音。
一瞬にして、崩落しかけた危険な通路が、ドワーフたちの熟練の技によって「完璧に安全な通路」へとリフォームされていく。
これぞ、地道だが最も現場の命を支える、トンネル工事の要———支保工だ。
「旦那! 支保工完了だ! 退路は俺たちがガッチリ支えててやる、安心して奥の信管(クソ設計)を抜いてきな!」
「助かる。施工ヨシだ」
サトウは親方に短く応じると、油圧ショベルのキャタピラを再び鳴らした。
「おいニイナ、図面を睨んどけ。次に行くぞ」
「は、はい……っ!」
ニイナは最新の修正図面を胸に抱きしめながら、必死についていく。工務店とドワーフたちの神がかった連携スピードと段取りの良さに、もはや胃を痛める暇すら与えられない。
砕け散った防壁の向こう側。
そこには、不気味な巨大の心臓のようにドクン、ドクンと脈打つ、この空中都市の爆弾本体———『大霊脈制御コア』が鎮座する最深部が、ついにその姿を現したのだった。
第42話、楽しんでいただけましたでしょうか?
不穏な赤光が満ちる最下層「隠蔽工区」へと突入し、サヴァルの防衛トラップや強固な魔導防壁に挑んだ一同。
リノちゃんのコンマ単位のカウント、エルミアさんのジャミング、カレンの突破力、そしてサトウの黄色い重機(魔導ブレーカー)による圧倒的な解体力が、事前の工程表通りにバチッと噛み合う戦闘(工事)回でした。
現場のワンチーム感とあの爽快な粉砕の瞬間が、皆様に少しでも上手くお届けできていましたでしょうか……?
サトウ工務店の次なる現場が気になる方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります。四天王の皆様(ブクマ4名様)もいつも本当にありがとうございます。次回もお楽しみに!次の現場(更新)まで、ご安全に!
明日はキララ




